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聖血のロゼル  作者: チョコレートスターフィッシュ
第二章

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夜の森の惨劇

深夜の森。

風は止み、湿った空気だけが静かに漂っていた。

月光が枝葉の隙間からまだらに落ちる。その下で――

男が一人、木に縛り付けられている。

「……は……っ……」

荒い呼吸。汗に濡れた顔。目は見開かれ、恐怖だけを映していた。

縄が腕に食い込み、痺れが広がる。逃げ場はない。

「やめ……やめてくれ……俺には……娘が……」

黒衣の男がゆっくり歩み寄る。月光に映るその姿は、冷たく滑らかで、背筋に寒気を走らせるほどの不気味さを放っていた。

指先には緑色の液体が滲む。微かな毒の香りが森に混ざり、夜気に溶ける。

「……ああ、そうか。娘がいるのか」

低く、甘く、ぞくりとする声。

「ふふ……甘美だ……人間の恐怖って、なんて甘美なのだろう……」

トーマスが必死に首を振る。涙と汗が混ざり、光の中で揺れた。

「やめろ!頼む、俺は――俺は……!」

男は微笑む。唇の端がわずかに上がり、森の闇と溶ける。

「もっと、もっと苦しめ……その声を、身をよじる様を……甘美だ……」

注射器を取り出す。中には鮮やかな緑の液体――試験薬。

「さあ、楽しもうか……」

液体が血管を流れ込むと、トーマスは体を激しく痙攣させ、唸り声が掠れて漏れる。

「は、は、は……やめろ……っ……!」

黒衣の男は目を細め、息をつめてその苦悶を味わう。指先から毒の微粒子が空気に舞い、体内の痛みを増幅させる。

「甘美……甘美……ふふ、たまらない……その苦しみ、最高だ……」

森の静けさの中、男の笑みとトーマスの掠れた悲鳴だけが、夜に響き渡った。

その背後で、筋肉隆々の男が腕を組み、無表情で見下ろす。

「楽しみすぎだ、バイツ……。あくまでこれはボスの命令だ。お前の悪趣味は関係ない」

トーマスの体が痙攣する。皮膚の色が不自然に変わり、筋肉がねじれ、骨の軋む音が聞こえる。口からは泡が溢れ、苦悶の声が夜の森に響く。

バイツは吐息を漏らし、まるで甘美な音楽を聴くかのように身捩らせる。そして顔を歪めながら笑い、低く囁いた。

「君も嫌いではないだろう?ザイン……その苦悶、甘美さを味わうのは」

ザインは腕を組んだまま、表情を変えずに頷く。

「とにかく手順通りにやれ、俺は命令を完遂するだけだ」

注射器の液体が血管を這い、トーマスの体はさらに変化していく。

皮膚は不自然に膨れ、筋肉はねじれ、関節が軋む音が森に響く。息もままならず、口からは泡が溢れ、掠れた声が夜の森に響く。

「む……今回も適合せんか。やはり、一般人の肉体では拒絶反応に耐えられんようだな」

バイツが吐き捨てるように囁く。肩で息をし、楽しげに笑った。

「崩れる……それもまた甘美……!人間の限界、苦悶の極み……たまらない……」

森に響くのは、掠れた悲鳴と、バイツの陶酔の声だけ。

夜風は止まり、月光に浮かぶ異形の影だけが、深夜の森に永遠のような恐怖を刻みつけていた。



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