表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖血のロゼル  作者: チョコレートスターフィッシュ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/36

才能の原石

裏手の広場を後にし、ランドは一人、ギルドへ戻る。

扉を押し開けた瞬間、熱気が流れ込んできた。

インクと羊皮紙の匂い。

床を鳴らす足音。

荒い笑い声。

――いつもの光景だ。

だが、先ほどまでの静寂を知っている身には、やけに騒がしく感じる。

ランドは無言のまま中へ入る。

何人かが気づき、ちらりと視線を向ける。

すぐに逸らす者、軽く会釈する者――反応は様々だ。

それでも、声をかけてくる者はいない。

それでいい。

ランドはそのまま奥へと歩く。

――と。

「ご苦労様、ランド」

低く落ち着いた声がかかった。


振り向くと、そこに立っていたのはギルド長のハンスだった。

積み重ねてきた年月を感じさせる男だが、その眼は鋭い。

場の空気を読むことにも、人を見ることにも長けている。

「今回のルーキー達はどうだ?」

軽く顎を上げる。

いつもの確認。

いつものやり取り――のはずだった。

ランドは、わずかに沈黙する。

そして、短く息を吐いた。

「……今日いた新人に、二人……稀有な者がいた」

ハンスの眉がぴくりと動く。

「ほう?」

ランドは視線を少しだけ落とす。

思い出すのは、あの小さな背中。

「特に一人は――」

言葉が、一瞬だけ止まる。

「……私が本気だったとしても、勝てなかったと思われる」

空気が、わずかに変わる。

ハンスの目が見開かれた。

「……なに?」

ランドは静かに続ける。

「全盛期だったとしても……怪しい程だ」

「――っ!?」

思わず一歩、踏み出すハンス。

驚愕が、そのまま表に出る。

「それ程の原石が現れたのか……!」

声が低くなる。

驚きの奥に、抑えきれない興味が滲む。

ランドは小さく笑った。

「……ああ」

ひげに触れる指が、わずかに止まる。

「この老体が、年甲斐もなく嫉妬してしまう程の才能だ」

静かに、しかし確信を込めて。

「あれは必ず上にいく」

ギルドの喧騒が、遠くに感じる。

「Aランク……いや――」

ほんの一瞬、間を置く。

「Sの領域にすら届く才かもしれん」

ハンスの喉が、ごくりと鳴る。

「……そこまで、か」

信じがたい。

だが、目の前の男は誇張を言う人間ではない。

だからこそ、重い。

ハンスはゆっくりと息を吐いた。

「名は?」

ランドは、ほんのわずかに口元を緩める。

「ロゼルにアゼリア……そんな名だった」

その名が、静かに落ちる。

数秒の沈黙。

やがてハンスは視線を細め、低く呟いた。

「……探りをかけるか…」

独り言のような声。

だが――

「やめておけ」

ランドが即座に遮る。

ハンスが目を向ける。

ランドはゆっくりと首を振った。

「手を出すな。囲うな。試すな。」

その声音は、静かだが強い。

「……ああいう手合いはな」

わずかに目を細める。

「勝手に伸びる」

短く、断言する。

ハンスはしばらく黙り――やがて小さく笑った。

「……なるほどな」

肩の力を抜く。

「お前がそこまで言うなら、今はよそう。だがそれほどの才。ギルド長としては放っておけないな」

そして、再び視線を巡らせる。

いつも通りのギルド。

いつも通りの光景。

だがその中に――

“規格外”が紛れ込んでいる。

「面白くなりそうだな」

ぽつり、と呟く。

ランドは何も答えない。

ただ静かに、奥へと歩き出した。

部屋を出てていくランドをハンスは黙って見送る。

――静寂。

ハンスはしばらく、その場に立ち尽くしていた。

先ほどの言葉を反芻する。

(手を出すな……か)

小さく息を吐く。

視線を巡らせる。

いつも通りのギルド。

いつも通りの光景。

その目は、わずかに細められていた。

「……様子を見る」

短く、そう結論づける。

だが――

完全に目を離したわけではない。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ