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ユーノー様が眷属様を遣わし、この地にオンセンを開いて少し経った頃、一人の青年が村を訪れました。
厳密にいうと、訪れたと言うよりも、たくさんの傷を負って、店の前に倒れていたのです。
そんな青年を見つけたメルジーナ様は、急いでその青年をオンセンに浸からせ、良くなりますようにと心からお祈りしたのでした。
青年はすぐに目を覚まし、何度もオンセンに浸かると、みるみるうちに元気になっていきました。
メルジーナ様はとてもお優しいお方で、誰に対しても分け隔てなく、心を尽くしておられたそうです。
そんな心優しいメルジーナ様は、青年が元気になる姿を見て、とても喜んでおられたのです。
そして青年は、近くの民家に間借りさせてもらいながら、何度もオンセンに通いました。
村の人たちも知らなかったのですが、青年はなんと、人魔戦争で魔族軍を魔族領まで追いやった立役者で、人々から「勇者」と祭り上げられていた人物だったのです。
もちろん、メルジーナ様は知る由もありません。そしてまた、メルジーナ様自身も、青年に自分の素性を話すことはありませんでした。
毎日のように顔を合わせ、話をするようになった2人は、いつしか次第に惹かれ合うようになっていったのです。
それが当たり前とでも言うように、自然とお互いを意識し始め、想いあっていったのでした。
しかし、メルジーナ様は元々、人魔戦争で傷ついた人々を癒すというお役目の元、この世界にユーノー様から遣わされました。
だから、人々の傷が癒えれば、メルジーナ様はユーノー様のもとに帰ることになっていたのです。
それがわかっているからこそ、メルジーナ様は自身の思いを伝えることはせず、ひっそりと想うことにしたのです。
しかし、それも長くは続きませんでした。
青年からの猛アタックもあり、青年を愛する気持ちが大きくなり、ユーノー様のもとへ戻らなければと思いつつ、彼の思いに応えたいと思っていったのです。
さらに、青年から、自分が「勇者」と呼ばれる存在であることを教えてもらいました。
「あなたのおかげで人々に幸せが戻ったのか」
「あのたくさんの傷は人々を助けたために負った名誉の負傷だったのか」
そう思うと、より一層その青年のことが愛おしくなり、とうとう彼の想いを受け入れ、自分自身の想いも彼に伝えることにしたのでした。




