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午前10時


1Fのエントランスでエレベーターを待つ。


このビルは、前からエレベーターの台数が足りていないと思う。


出社時間になれば毎朝のように行列ができる。


今日も例外ではなかった。


ようやく乗り込んだエレベーターは各階で止まり、そのたびに人が降りていく。


自分のフロアに着く頃には少しだけうんざりしていた。


エレベーターを降りて、社員証をかざし、自席に座る。


パソコンを立ち上げると、メールが次々と表示された。


取引先からの問い合わせ。


日程変更の連絡。


社内からの確認依頼。


一つ返信しては、次を開く。


気づけばキーボードを打つ音だけが頭の中に残っていた。


「おはようございます」


後ろから声がする。


振り返ると後輩だった。


「おはよう」


「昨日の資料、修正終わりました」


「ああ、ありがとう。あとで確認しておく」


短いやり取りを済ませる。


午後の打ち合わせの準備。


取引先への返信。


営業報告の入力。


次から次へと片付けていく。


仕事が嫌いなわけじゃない。


気づけばこういう毎日にも慣れていた。


考えるより先に手が動く。


そんな感覚だった。


気づけば時計は十時を回っていた。


ようやく一息つく。


背もたれに体を預け、軽く肩を回した。


朝からパソコンと向き合っていたせいか、首の奥が少し重い。


デスクの上に置いたスマホへ目を向ける。


通知は特に来ていなかった。


それなのに、なぜか視線が止まる。


意識のどこかに、あの歌声が残っていた。


不思議だった。


顔も知らない。


どんな人間なのかも分からない。


それでも、もう一度聴きたいと思っている自分がいる。


「先輩」


突然声を掛けられ、現実に引き戻された。


顔を上げると、後輩が立っていた。


「部長が呼んでます」


「ああ、今行く」


席を立ちながらスマホを見る。


画面は真っ暗なままだ。


ほんの数日前まで存在すら知らなかった歌声。


それなのに今では、仕事の合間にふと思い出してしまう。


自分でも少しだけ可笑しかった。


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