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昼休み


気づけば時計は12時を回っていた。


画面に表示された時刻を見て、小さく息を吐く。


午前中はあっという間だ。


パソコンを閉じ、椅子から立ち上がる。


「昼メシ行くか」


後ろの席に声を掛けた。


後輩が顔を上げる。


「え、いいんですか?」


「なんでだよ」


「なんとなくです」


「なんかそれ、俺と飯食いに行きたくないみたいじゃん」


そう言うと、後輩は慌てて首を振った。


「違いますって」


その反応が少し面白くて、思わず笑う。


二人して席を立った。


昼休みのエレベーターは朝と同じくらい混んでいた。


各階で止まるたびに人が乗り込み、なかなか1階に着かない。


「階段使った方が早かったですかね」


「どうだろうな。階段も階段で混んでるから」


「あー、ありそうです」


「ああ。それに今さら階段で十何階も降りたくない」


後輩が苦笑する。


エレベーター待ちの行列も、この会社では見慣れた光景だった。


ようやく1階へ着き、ビルを出る。


「先輩、今日どこ行きます?」


「んー、魚食いたいな。焼き魚。」


「魚ですか……」


露骨にテンションが下がった声だった。


「嫌そうだな、おい」


「だって先輩に何食べたいか聞くと、八割くらい魚じゃないですか」


「そんな毎回言ってないだろ」


「本人に自覚ないの、本当に困ります」


「困られてたのか」


「俺は肉がいいです。肉」


真顔で言われて思わず笑った。


「次は肉にしよう。今日は焼き魚の気分だ。メシ奢ってやるから付き合え」


「それなら全然行きます」


現金なやつだ。


昼時になると近隣の会社員で賑わう焼き魚専門店。


店の前には数人の列ができていた。


数分待って店内へ入る。


焼き魚の香ばしい匂いが鼻をくすぐった。


注文を済ませ、お茶を一口飲む。


しばらくして運ばれてきたのは、ほっけの塩焼き定食だった。


「先輩、本当に魚好きですよね」


後輩は半分呆れたように言う。


「次は絶対肉行きましょう。なんなら呑みで焼肉でも連れてってくださいよ」


言われてみればそうかもしれない。


昔は俺も肉派だった気がする。


焼肉、すき焼き、生姜焼き、

ハンバーグや唐揚げも好きだった。


今でも嫌いじゃない。


ただ、気づけば魚を選ぶことが増えていた。


「年ですかね」


後輩が言う。


「やめてくれ。まだ20代だぞ」


「もう30目前じゃないですか」


「いや、まだあと3年ある」


「それ言うなら、あと3年しかないんですよ」


そんなくだらないやり取りをしながら箸を動かす。


悪くない時間だった。


ふと、後輩が口を開く。


「先輩って休日何してるんですか?」


少し考える。


何をしているだろう。


昼まで寝ている日もある。


洗濯をして、掃除をして。


買い物に行って。


気づけば夕方になっている。


そんな休日が多かった。


「特に何もしてないな」


答えると、後輩は少し驚いた顔をした。


「もったいなくないですか?」


「そうか?」


「そうですよ。俺だったら休みの日に外で遊ばないと無理です」


若いな、と思った。


数年前の自分も、同じようなことを言っていた気がする。


休みの日に家にいる方が落ち着かなかった。


ライブに行ったり、イベントに行ったり。


時間も金も今よりなかったはずなのに、不思議と今より動いていた。


「まあ、そのうち分かるよ」


そう言うと、後輩は納得していない顔をした。


その表情が少し可笑しくて、思わず笑ってしまった。


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