朝
目覚ましの音で目を覚ました。
時刻は7時3分。
決して気持ちの良い目覚めとは言えなかった。
眠い。
昨夜寝たのは一時近かったはずだ。
あと五分だけ。
そう思いながら布団に潜りかけて、諦めたように体を起こす。
ベッドから降り、洗面所へ向かった。
冷たい水で顔を洗うと、少しだけ頭がすっきりして、眠気が飛んだ気がした。
鏡に映る自分は相変わらず冴えない顔をしている。
昨日脱ぎっぱなしにしたスーツの上着を拾い上げ、軽くシワを伸ばす。
学生の頃はもっと立派な大人になっていると思っていた。
現実は、そう甘くない。
キッチンへ向かい、電気ケトルのスイッチを入れる。
朝食を食べる習慣はない。
いつからそうなったのかも覚えていない。
インスタントコーヒーをマグカップに入れ、お湯を注ぐ。
湯気の立つカップを持ってベッドへ腰を下ろした。
そこでようやく、スマホの画面が点いたままになっていることに気づく。
昨夜見ていた動画アプリだった。
どうやら寝落ちしたらしい。
そんなことは滅多にない。
思わず苦笑する。
何をやっているんだろうな。
コーヒーを一口飲む。
少しぬるい。
スマホを手に取り、天気予報でも見ようと思った。
それなのに、気づけば昨夜の動画を開いて再生ボタンを押していた。
静かな朝の部屋に、その歌声が小さく流れ始める。
名前も知らなければ、顔も知らない。
どんな人間なのかも分からない。
それでも不思議と、もう一度聴きたくなった。
窓の外では、駅に向かう人たちの姿が見える。
俺もそろそろ準備をしなければならない。
今日の予定は取引先への訪問、夕方の会議の資料作成。
考えることはいくらでもある。
それなのに、俺は仕事よりも、スマホの向こうから流れてくる歌声に耳を傾けていた。




