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帰り道
仕事が終わったのは、日付が変わる頃だった。
後輩の面倒を見ていたら、あっという間に1日が終わってしまった。
オフィスを出ると、夜のはずなのに街は明るかった。
ビルの光が空を押し上げているようで、星は見えない。
冷たい春風がネクタイの緩んだ首元に当たった。
こんな時間でも、駅へ向かう人の流れは途切れない。
駅のホームで到着した電車に乗り込む。
ドアが閉まり、街の音が少し遠くなる。
窓に映る自分の顔は、少し疲れて見えた。
今の仕事が嫌なわけじゃない。
これと言って日常生活にも不満は無い。
それでも時々、「これでいいのか」と、ふと考えてしまう。
最寄りまでは、あと10分ほど。
俺はポケットからイヤホンを取り出し、耳に入れた。
音は流さない。
外の音が少し遠くなる。
携帯を手に取り動画アプリを開く、画面に自動で表示される、いつものおすすめ欄。
なにか目的がある訳でもなく、ただのルーティンとして、画面をスクロールする。
そこで一つの動画が目に止まった。
派手じゃない。
再生数も多くない。
説明できない“引っかかり”があった。
『プシュー』と間の抜けた音を立てて、電車が駅に到着し、ドアが開き、周りの人が足早に降りていく。
その雑踏の中で、俺だけが、一歩も動けずにいた。
画面の再生ボタンに、指が触れる。
そして——再生した。




