ワンルームにて
ネクタイを緩める気力もなくベッドに倒れ込む。
東京で暮らしていると言うと聞こえはいいが、実際のところは駅から徒歩20分の古いマンション。
スマホに目をやると時刻は23:49。
今日も残業だった。
日付が変わる前に帰れたのはラッキーだったのかもしれない。
社会人7年目。
名刺交換も商談も報告書も問題なくこなせて、上司から怒鳴られる回数も減って、春からは後輩に仕事を教える立場にもなった。
気づけば27歳。
学生の頃の俺は、未来の自分をもっと違う場所にいると思っていた。
学生の頃に思い描いていた未来とは、少し違った。
いや、少しなんてものじゃない。
あの頃の俺は、スーツを着て、お客様に頭を下げる毎日を送っているなんて想像もしていなかった。
腹が減った。
冷蔵庫を開ける。
ペットボトルの水、缶ビール、エナジードリンクが数本。
考えるまでもなくコンビニへ向かう。
エレベーターは丁度、上に上がったところだった。
待つのも面倒で階段を下りる。
マンションの外へ出ると、夜の空気が頬に当たった。
見上げた夜空には星なんて見えない。
東京の夜は明るすぎる。
高速道路を通る車の音が聞こえてくる。
東京の夜は静かにはならない。
コンビニで弁当を買う。
来た道をただ歩いて帰る。
コンビニで弁当を温め忘れた。
部屋に戻り、レンジで先程買ってきた弁当を温める。
待っている間に冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出す。
プルタブに指をかけ缶を開けるとプシュッといい音がする。
弁当が温まったので、スマホを片手に食べながらSNSを眺める。
幼なじみの結婚報告。
友達に子供が産まれた話。
配信アプリの広告に配信者になった先輩が流れてきた。
アイドルになった先輩の次のテレビ出演の報告。
次々と流れてくる誰かの成功。
別に妬んでいるわけじゃない。
おめでとうと思う。
本当に思う。
それなのに胸の奥が少しだけ苦しくなる。
スマホを伏せた。
さっきまでは賑やかだった画面とは対照的に、部屋は驚くほど静かだった。
昔は俺にも夢があった。
エンタメの世界で働きたいと思っていた。
ステージの上じゃない。
スポットライトを浴びる側でもない。
それでも、あの世界の近くで生きていきたかった。
ライブが好きだった。
音楽が好きだった。
誰かの人生を変える瞬間に立ち会える仕事がしたかった。
だけど現実はそんなに甘くない。
気づけばスーツを着て、数字を追いかける毎日を送っていた。
後悔しているのかと聞かれたら分からない。
今の仕事が嫌いなわけじゃない。
生活だってできている。
それでも時々思う。
もしあの時、違う選択をしていたら。
もし諦めなかったら。
そんなことを考える夜がある。
弁当を食べ終え、空になった容器をゴミ箱へ投げ捨てる。
もう一度スマホを手に取り、動画アプリを開く。
いつもの癖で開いた。
いつもと変わらない夜。
いつもと変わらないはずだった。
少なくとも、この時の俺はそう思っていた。
それが始まりだった。




