ジンガイ1
当の詠はというと、あっさり捕まっていた。
今は2人のジンガイに連れられ洞窟内を歩いている。隣を歩く早坂。
早坂は基本俯いた状態で足元を見ていたが、時折好奇心に駆られチラチラとジンガイの方に視線をやる。
(ジンガイ実物は初めて見るけど、まるで、まるで・・・そう、オオサンショウみたい。)
ルームに生息する生物をジンガイと呼ぶ。更に人類に似たジンガイをヒトガタと分類する様細分化の旨もあるが、基準が明確でない故、現在では総じてジンガイと呼称している。
2人を連行しているジンガイも尻尾を使用した二足歩行であり、少なくとも槍を持つことが可能な程度には手を使う事ができる。
革鎧を着用しているが、露出している個所の皮膚は湿り気を帯びた様な光沢がある。
また、顔貌も平たく横に大きく裂けた口があり、早坂がサンショウウオと称したのは言い得て妙だった。ただ、目が側面ではなく正面を見るように2つ並んでいるのは奇妙だった。
このような容姿のモノを曲りなりにしても『ヒト』の範疇に入れる事は生理的に度し難いというのが多くの人の偽らざる本音であろう。
壁面に時折松明程度の炎が揺らめいているが、洞窟内は結構暗い。
早坂が詠の腕を突付く。
「なんで詠君がいるのよ。」
「へえー。名前覚えてくれてるんだ。」
小声で話す早坂に合わせて詠も小声で話す。
ジンガイに捕まっていながらも、クラスメイトがいる事で恐怖と緊張を何とか会話で紛らわそうとする。そして、自分の行く末の不安を。
クラスメイトとはいえ詠は編入初日で言葉は交わしておらず、現状況での会話が初だったが。
「そりゃ覚えるわよ。あの理子がいろいろ世話焼いてたからね。」
意味深な笑顔を作ろうとするが、引きつってしまった。
「あ、事後承諾だけど詠君呼びで良いかな。常世君は言いづらいから。」
「構わないよ。確かに常世は言いづらいかも。」
「ありがとう。・・・ここから帰れたらよろしくね。」
途中少し声に少し張りが出ていたが、最後再び弱々しくなる。
(こういった時、麗蘭さんが何か言ってたような。うーん、そうか。不安がらせないように元気づけするんだっけ。)
「大丈夫。帰れるよ。」
早坂は顔を上げ詠を見る。
「そうよね。きっと、帰れるよね。ありがと。」
そう言って早坂は少し微笑んだ。
と、その時先を歩いていたジンガイが滑舌が悪くくぐもって聞き取りにくい声で
「さあ入れ!」
と言ったような気がした。
いつの間にか目的地に着いたようだった。
鉄格子の扉を開けて待っているので、先程の言葉はそうだったのだろう。
中に入ると牢と呼ぶには些かお粗末な代物であった。
外から見るより内部の空間が大きく壁に削り跡が残っているので、洞窟内の窪みを削ってある程度拡張させて出入口に格子をはめ込んだのだろう。
そこに幾人もの人間が収容されていた。
横たわる者。
座り込み項垂れている者。
2人が収容された際も特に反応は無かった。
ジンガイは特に何かを告げる事も恫喝することもなく扉に施錠をして立ち去る。
ジンガイがいなくなるやいなや早坂は人々の間を動いて周る。そして、1つの人影の前で立ち止まる。
「お姉ちゃん。」
声に反応して人影がゆっくりと動く。
顔が上がり目の前に立つ人物に目の焦点が合う。顔が歪む。どんな顔をすれば良いのかわからない表情だった。
そして、やっとの思いでひと言絞り出す.
「恵子ちゃん、何故ここに。」
そのひと言で早坂の感情が爆発した。涙が両目から堰を切ったように溢れ流れる。
「お姉ちゃんを助けたくって。」
懸命に膝立ちになった早坂姉の体を早坂は受けとめた。
2人はギュッとお互いを抱き締めた。
(感動の対面ね。でも、ミイラ取りがミイラになったと。)
目の前で繰り広げられた感動の場面も詠には関係なかった。
詠が一番気になっている事は
(奴ら何故、日本語喋っているんだ?)
だった。
ポケットから部長のスマホを取り出す。ログインできるものの当然の事ながら、アンテナは立っていない。
もちろん、アプリを立ち上げるも現在位置は表示されない。
本来なら写真がビデオで撮影しておけば、後で資料として使えるのだろうが、会長のスマホにデータを残しておくのはまずいだろうとやめにした。
更にはこれ以上触れていると、偶然部長のプライバシーに抵触してしまうかもしれないと理由を付けて、電源を切り、ポケットにしまい込んだ。
とその時、先程とは別のジンガイが格子の前に姿を現した。
「新入りの2人。出ろ。所長がお会い下さるそうだ。」
先程のジンガイと比べて多少はマシかなという程度の滑舌でやはり聞き取りにくい。
詠は問題なく聞き取れ、出入り口に近づくが、早坂は何を言われているのか理解出来なかった。
しかも姉の無事を確認し安心した反動でより自分の置かれた状況をハッキリと認識してしまい固まって動けなくなっていた。
「はやくしろ。」
格子の外で荒げた声が響く。




