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ジンガイ被害撲滅部(非公認)3


建物から出ると蝉が鳴いていた。学園内とは思えない程鬱蒼と木々が繁っていた。(後で知った事だが、生徒会分室は学園の敷地外に建っているとの事だった。敷地の持ち主は絢辻家だそうである。)

陽は大分傾いているが、まだ暑い。

ホコロビ発生の時刻まで10分程である。もう早坂は目的地に着いているかも知れない。

が、詠の足なら十分間に合う。が、敷地から出た詠は風原のあの言葉を思い出した。

(くれぐれも目立つ行動はしないように。)

「しかたない。道路を走るか。」

詠は川があっても跳び越えたりせずに橋で渡った。

詠は赤信号に引っ掛かっても道路を跳び越えたりしなかった。

ただ目的地に向かって走った。

これは別の意味でも良かった。

街中至る所にカメラが配置されていた。もし、詠が目立つ事をしていれば(本人に自覚の無いのが一番の問題点。)、全て収録されていたであろう。まあ、これに関してはアドが情報統制してくれるので問題ないだろう。

後は目撃者だが、この暑さが幸いして人通りはそれほど多くなく、詠自身、ショッピングモールやWORセンタービル近郊を外出したことで学んだ常識にて自制ができたのか、さほど問題なる事もなかった。

まあ、常人が走るスピードからすると多少逸脱していたのだが。

と、スマホが振動した。

やっと慣れてきた程度の操作で新たな情報を確認する。

目的地に着いた。

とはいえピンポイントというわけではない。

「どこだ。」

息を切らすことなく到着した詠は辺りを見渡すとホコロビを発見した。

それは空間を円形に切り抜いていた。

ここから数十メートル離れた場所だった。

ホコロビの発生の時刻と場所をこの程度の誤差で予想するとは驚きだった。ルーム対策局でもこれ程の精度は難しい。もっともルーム対策局は日本全土、ジンガイ被害撲滅部(非公認)は涼畑区近隣と、大局と限局という差がある事をルーム対策局の名誉の為に明言しておく。

ホコロビから必死に外へ手を延ばす肘から先だけが見えていた。もう誰か内に引きずり込まれたようだった。

すぐ様走り出した詠は先程より更にスピードアップしていた。

もし、監視されていたならば、正常範囲逸脱必至の行動であった。が、詠はそんな危惧などお構い無しにただひたすら走り続けた。

見えた。内の様子が見える位置に回り込む。

空間の裂け目から内側ではシンガイが早坂を引っ張っている。木刀を持った右手首をしっかりと掴まれ、木刀が振れないまま引き摺り込まれようとしている。左手は外界へと必死で延ばす。

左手首に加わる強力な把握力と引っ張りカの痛みに耐えかねたのか木刀がカランと乾いた音を立てて地面に落ちた。

必死の抵抗も虚しく早坂の体は奥へ奥へと引きずり込まれる。

そして、延ばしていた左手が消えた。

ルームの奥にジンガイによりグッタリとした早坂が運ばれていく。

空間に開いた円形のホコロビが次第に塞がって元の空間へと戻っていく。

早坂が連れて行かれるのをじっと見ていた詠は

「連れて行かれたなあ。これは追わなくてはならないよな。見て見ぬふりなんて人道に反しているよな。ということで追いますか。」

等と少し棒読みみたいなセリフを言う。

そして、微笑みながら

「つまり、追っても問題ないよな。」

と言いつつ躊躇なくその穴に目に跳び込んだ。


「会長のスマホ、ロスト。」

美奈月の声が響く。

「その辺りにはカメラが無いので状況の把握不可能です。」

続いた希美の声が途中で止まる。

重苦しい空気が流れる。

やや長い沈黙の後、最初に口を開いたのは紫乃だった。

「拉致されたか、か。2人とも。」

その口振りは意外に冷静だった。

(あのバカ。やはり、自ら飛び込んだか。)

「そんな・・・。ねえ、助けに行こうよ、紫乃。」

朱乃の悲痛な声を挙げる。

「我らが行ってどうなるというのだ。」

紫乃は椅子に深々と座り直した。

紫乃のあくまでも冷静沈着な言動に反発した朱乃が軽く拳でデスクを叩いて紫乃に詰め寄る。

「じゃ、どうするの?2人はどうなったの?紫乃なら解るでしょ。」

言葉の端々がうるうるとしている。

半泣き状態で詰め寄る朱乃を優しく押し戻す紫乃。

「捜索を依頼するしかあるまい。これ以上、我々が手を出せば色々不都合が生じる。」

紫乃は一人一人ゆっくりと皆を見渡す。

「先ずは正規の手段で救出を乞う。その後なら独自で行動するのも自由だ。早急に手を打った方が良いだろう。」

最後に美奈月の顔を見て

「それで良いか?」

と、問う。

「会長のお考えに異を唱える者などおりませんわ。全て会長の意のままに。」

全員の答えを代表して、美奈月が恭しく頭を下げる。

「では、早速『環境庁ルーム対策局』に連絡を取りたいのだか。朱乃、スマホを貸してくれんか。我のは詠と共に行方不明だからの。」

「うん。」

朱乃は一筋頬を伝わった涙を拭い、ポケットからキラキラコーデのスマホを紫乃に手渡した。

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