ジンガイ2
「出ろと言っている。大丈夫。今は従った方が良い。」
詠は早坂に歩み寄り、手を差し出す。
その手には会長のスマホが握られていた。
(?)
早坂は詠の意図が分からず見上げる。
「借り物なんだ。大切な物だから、預かっていて欲しい。」
早坂の両手にスマホを握らせ、その手を優しく包み込む詠。
体を引っ張り上げられ立ち上った時には早坂の手の震えは止まっていた。
「ありがとう。」
「ああ。」
詠が早坂に頼み事をした事。ほんの小さなやり取りだが、
(無力な自分でも出来る事がある。)
との思いが、早坂に余裕を与えたようである。
これからの詠の行動を心配する程度には。
「スマホ預かるね。でも、預かるだけだからね。」
詠の方はそのような事はお構いなしで、ただ一刻も早く所長と会い、話がしたかった。グズグズして機会を逃したくなかった。
目の前に2体のジンガイが居る。
1体は大きく豪奢な椅子に体を預け、もう1体は傍に立っている。
立っているジンガイの装いは今まで目にしたジンガイとは雲泥の差があった。
実在する物とは異なる雰囲気を醸し出している濃緑色の詰め襟の軍服。その胸には勲章が付いている。
腰掛けているジンガイの装いは更に輪を掛けて派手である。不必要に高い詰め襟の白い軍服に黒と金色の肩章及び金色のモール紐。そして、勲章は左右の胸に2個ずつ付けられていた。
「寛大なる所長が囚われのお前達とお話をして下さるそうだ。謹んで受けるよう。」
腰掛けているジンガイが横並びに立たされている詠と恵子をジロリと見る。
他のジンガイと体格に差はない。
但し、顔の造形に一部違いが見られた。どういった役割をしているのか分からないが、通常の目の下に一対の白眼がある。
「あなた方の世界にはレディーファーストという習慣があるようですね。」
一旦言葉を切り、少し顔を動かす。恐らく早坂に視線を送っているのだろう。
「それならば女性の方からお尋ねするのが礼儀でしょう。あなたは何かお話ししたいことがありますか。」
斜め下に顔を向けたままビクッと反応した。
当然恐怖が先立つ。しかし、早坂は頑張った。
「私達、ここにいる人間皆んな、いつ帰れるの。」
「貴様、所長に向かって何て口のきき方を。」
「まあ、良い。」
身を乗り出した部下を手を挙げて制すると
「物事をハッキリ言うのは嫌いではない。」
と局長は言った。
「その答えは期日は正確に言えないが、近いうちとでも言っておこう。」
早坂は複雑な表情をした。
「よろしいかな。」
所長は早坂から詠へ視線を移す。
「あなたは質問したいことがおありのようですね。」
「お前達、何故日本話を使う?」
所長の大きな口がニヤリと動いたように見えた。
「あなたは面白そうだ。いいでしょう。ゆっくり別の部屋で話しましょう。」
「彼女には牢に戻って頂きましょう。」
お付のジンガイが衛兵をよぼうとする。
しかし、またも所長は制する。
「あなたが見たがっているものをお見せしよう。」
そう言って横に伸ばした右腕の人差し指で空間にクルリと円を描いた。
すると、この場所の景色我円形に消え、そこに違う景色が円形に貼り付けられたような奇妙な空間となった。貼り付けられた景色は先程の牢のだった。
「さあ、どうぞ。あちらで暫くお待ち下さい。」
所長は促すが早坂は物おじして動けない。
詠が先に通る。くぐるというより隣の部屋に移動する感じだった。
牢で詠は驚く牢内の他の人を横目に早坂に向かって手を伸ばす。
早坂も恐る恐るながら詠の手をしっかと握って、そのまま牢に移動した。
牢に移動すれば、姉もいる。
おかしな話だけど、安心出来るようだった。
その姿を見て詠は所長の待つ部屋に戻った。
「さて、君は他の者と違うようだ。興味深い質問をする。」
戻った詠は隣の部屋へと連れてこられた。
側近はジロリと詠の顔を睨みつけると、そのまま退出した。
「掛けてくれ。」
所長は自分の席とテーブルを挟んで対面する位置に詠を誘った。
「ええっと、私達が日本語で話す理由だったな。」
「偶然だよ。」
「偶然?」
「そう、偶然だ。私が有する固有のチカラ、君達がタイヨと呼ぶチカラは空間に穴を開け別の空間に繋げるものだ。」
「但し、これは神から与えられたチカラで私もまだ完全に使いこなせている訳ではない。」
(神から与えられた?)
「神から直接貰ったのか?」
興が乗ってきた所長は話の腰を折られて多少ムッとしながらも、
「そうだ。」
と答え、更に話を続けた。
「先ずは繋がる場所だ。この空間に於いては自由に決定できるが、他の空間となると未だ制御が難しい。」
「何か繋がりやすい要因が存在すると思われるが、初めて繋がった異空間がお前達が居る近辺だった。」
「サークル。お前達、私の美しい真円のサークルを美しさの欠片もないホコロビと一緒にしないで頂きたいものだ。」
「サークルの大きさ、開口時間は熟練するに連れ進歩が見られるが、場所に関しては未だ冷畑区辺りに留まっている。」
連射された言葉が一旦収まろうとしている。
「だから、情報収集もその地で行っている為だ。」
「情報収集。情報だけではないが。」
「今はな。当初はサークルが小さく覗き穴程度だったので、本当に情報収集のみだったのだよ。」
「覗き穴。その白眼か?」
所長は笑みを堪えるように口元を歪める。
「ホント君は面白い。覗き穴というのは比喩のつもりだったのだがね。」
そう言って自分の目の下にある白眼を指差す。
「この目はサークルから遠隔で向こう側の景色を見ることが出来る。何故か音声も分かる。」
「そうか。」
突然詠の声色が変わった。




