ジンガイ被害撲滅部(非公認)1
「詠様、どうぞこちらへ。」
そう言うと紫乃は朱乃に支えられながらもしっかりと歩いていく。いや、しっかりという表現は少し異なるかも知れない。
今見る紫乃には奇妙そして、年不相応な雰囲気を醸し出していた。これがオーラというものか。
詠は2人に続いて隠し部屋に入っていった。室内を見回す。
(いかにも秘密基地だな。)
隠し部屋の中はモニターで埋め尽くされていた。
周辺の映像だろうか。街角、商店街、住宅地の他、個人宅か映し出されているものもあった。
しかもデスク上のモニター数台には来栖真子が局長を務める『防衛省ルーム対策局』で管理しているデータが映し出されている。
(あれは非公開だった筈だが。)
中央に置かれたテーブルには地図が広げられ、数値や記号等書き込みがされていた。
朱乃に付き添われた紫乃は突き当りのデスクの椅子に腰掛けた。
デスクは大きめだが椅子はサイズが合っていた。
「どう?ジンガイ被害撲滅部(非公認)は。」
誇らしげにそう言った朱乃の言葉に紫乃が続く。
「ここのメンバーは有志で構成されている。現在は副部長の京極院美奈月と情報整理の佐野希美と庶務の絢辻朱乃、そして私、部長の絢辻紫乃の4名がメンバーだ。」
「さっきの彼女は?」
この部屋に入る前紫乃の傍、朱乃の反対側に立っていた上級生のことである。
「ああ、彼女は生徒会長だよ。生徒会は我が部の隠れ蓑になってもらっている。この建物も名目上生徒会分室となっている。だから、生徒会の面々には時折先程の部屋で滞在してもらっている。まあ、良い息抜きと喜んでくれているしな。」
「パイプライン?」
「やはり詠様は察しが良い。我が部はドアの発生より被害規模は小さいが身近で件数の多いホコロビの予測開示をメインに活動している。生徒の安全、地域の安全を目的に。しかし、それを一般に広めるに少々問題がな。そこで生徒会で情報ロンダリングして開示しているわけだ。」
ホコロビとはルームとの往来可能場所の一つであるが、ドアを形成しないで亀裂程度に留まる現象を言う。イータウェイの発生は無く数分〜数十分程で消滅する。なお、その発生頻度はかなり多く誤って迷い込んだり、ジンガイにより引き込まれる被害も少なくない。
(確かに活動目的とデータ解析は中々だな。)
(問題点と言えば非合法でのデータの入手か。一応自覚しているようだが。しかし、アドが見逃すか?)
「何か浮かない顔だが言いたいことが?」
紫乃の問いかけに、とりあえず今は目をつぶっておこうと
「何も。」
と答える詠。
それに呼応するかのごとく、別の所から声がする。
「大丈夫。誰が作ったのか判らんけど、侵入にはバックドア使って痕跡残してないから。このキミちゃんに抜かりはないさね。」
その発言を聞いた詠は
(アドが一枚噛んでいるかもな。)
と思った。
「彼女が佐野希美。呼ぶ時はキミちゃんでね。で、私は絢辻朱乃。紫乃ちゃんとは双子で私がお姉ちゃん。呼ぶ時は朱乃ちゃんでね。おにいちゃん。」
朱乃は希美の紹介に託けて自分のアピールも忘れない。
「私は庶務。この部と紫乃ちゃんの面倒みてるの。」
「お邪魔虫の間違いではないのか。」
「そんな事ないもん。ねえ、月ちゃん。」
と美奈月に同意を求めるも、返ってきたのは
「まあまあ、部長も朱乃ちゃんも。詠様が戸惑っておられますよ。」
というつれない言葉だった。
「申し遅れましたが、わたくしは副部長を務めさせていただいております。それより詠様。何かお尋ねになりたい事があるのではありませんか?」
「ありがとう。」
(この部を実際に切盛りしているのは彼女なのではないだろうか?)
「君達に聞きたい事はたくさんあるが、まず何故俺をここに連れてきた?」
詠の問いに紫乃は答える。シンプルに。
「君が必要だったからだ。」
「必要?」
「そうだ。ずっと注目してたからな。詠様。」
そう言って紫乃はデスク上の液晶モニターを回転させ、画面を見せた。
『今日の詠様』
目に入った文字はそう読み取れた。
耳にしたことはあるが、見たことはなかった。
しかし、紫乃のクリックで表示が変わるとアドにしか出来ないサイトだと理解した。
自分が映し出されている。
最初のページは一覧だろうか?
多くの詠が写っている。
更に紫乃がクリックする。
その度に写真が切り替わる。
日付とタイトル、時々短いコメント。
最初は室内での日常生活の写真が多い。さすがに撮影場所がWORセンタービル内であるのは判らないよう加工してある。
(えーっ!水泳やトレーニング、組手まであるのかよ。)
初めて見たサイトの衝撃。
これが万人に晒されているのかという衝撃。
その後は外食や野外散策の写真が続く。
(俺ってこんな表情してるのか。しかし、)
詠は掲載されている写真がアド厳選と言えども、様々な憶測を呼びそうな情報の大盤振舞いではないかと思った。
(アドの奴、俺の存在隠す気無いだろ。)
案の定、紫乃の言葉は正にそれを突いてきた。




