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WOR学園神宮西3


「どうかしましたか?先輩。」

「あっ。」

突然、声を掛けられて驚いた様に声をあげ、振り向いた瞬間淡い赤色に警戒心が跳ね上がった。更に姿形も先程絡まれた先輩に似たような気がした。

しかし、よく見ると髪の色が異なっていた。

先程の先輩が赤味がかったブラウンだったのに対し、目の前の先輩は限りなく黒に近い濃い紫色だった。

「すみません。ちょっと足を捻ってしまったみたいで。」

その答えに全くの別人だと認定してしまった。

声質はどことなく似ている感はあるものの、言葉使い、仕草、雰囲気が全然違っていた。

「本来なら『保健室まで送りましょう』と言うところですが、まだ学園の施設の場所を把握していなくて、教えて頂けますか?」

害を成さない相手であれば、女性には優しく丁寧に接しなさい。と麗蘭さんから言われていた。

女生徒から申し訳なさそうに小さな声で

「いえ、申し訳ないのですが、生徒会室に急ぎの用がありまして。少し行った所、建物の一部が見えていると思いますが、そこまで連れて行っては頂けないでしょうか。」

と言われた。

指指す方を見ると確かに青い屋根の建物が木々の隙間から見てとれた。さほど遠くなさそうだった。

「いいですよ。」

そう言うと、詠は女生徒を軽々と抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこである。これも麗蘭さんからの人付き合いの教えの一つであった。

「キャッ!」

小さな驚きの声がする。

連れて行って欲しいと頼みはしたが、まさかお姫様抱っこをされるとは思っていなかった。

しかし、戸惑いを見せたのは最初だけで、あとは身を預けていた。

「詠様ったらいきなりなんですもの。」

詠には聞こえないように、音になるかならないかの音量で呟いた。

「何か?」

「いえ、何でもありませんわ。よろしくお願いします。」

抱え方等何かしら不都合があったのかと尋ねた詠に対して少女は柔らかく否定してお願いした。

数分後には目的地に到着した。

そこは可愛い感じの家だった。ここの風景だけ童話から切り出したかのような景観だった。

少女は名残惜しそうな様子だったが、少しくすんだ青色の扉を小さな拳でコンコンと叩いた。

「紫乃です。どなたか扉を開けて下さいませんか。」

扉の向こうから小さく「はーい。」とやや間伸びした声が聞こえた。

しばらくしてからゆっくりと扉が開かれる。

「紫乃ちゃん、どうかしたの?」

柔らかでゆったりした口調の女生徒が立っていた。そして、目の前の二人を見て

「あらあら、お熱いこと。紫乃ちゃん、こちらの方は?」

と一言。

そこへ背後からパタパタと駆けて来る音が近づき聞き覚えのある声がした。

「あれっ!おにいちゃんだ!」

玄関先で立ったままの詠の横を擦り抜け、正面に立つ。そこで詠にお姫様抱っこされている紫乃ジトっと眺めた。

「詠様ありがとうございました。下ろしていただけますか。」

詠は紫乃をそっと下ろした。紫乃が右足を着けた時、少し顔をしかめた。足を傷めているのは本当のようだった。

「朱乃のバカ。」

紫乃は近づいてきた朱乃に小声でそう言った。朱乃はそれを聞くとペロッと舌を出して両腕を頭の後ろで組んで

「あーあ、負け負け。」

と言って遠ざかる。

「えーっと。」

予想外の展開に戸惑いを隠せない詠の言葉に

「詠様。非礼をお詫び致します。私、京極院美奈月と申します。以後お見知りおきを。」

ゆったり口調の女生徒がすかさず詫びで答える。

自分をアピールする事も忘れないところはおっとりしているようでいてちゃっかりしている。

紫乃の姿は今はない。

「足は大丈夫か?」

「紫乃ちゃんですか?大丈夫ですよ。今、奥で治療しています。あの子のやり過ぎはいつもの事なので。」

「そうか。」

「でも、あれくらいしないと貴方様の目を誤魔化す事は出来ないと判断したのでしょう。」

そう言って二コリとした美奈月は更に言葉を重ねる。

「現に貴方様はお帰りになさろうとしませんでしょ。さあ、こちらへ。」

美奈月は部屋の奥のドアへ案内する。

(確かに俺を誘う為に自分を傷付ける事も厭わない。興味がわかないこともないか。)

美奈月はドアをノックする。

「会長、宜しいでしょうか。」

「入れ。」

美奈月の手によりドアが開けられ、詠は中に入った。

その部屋は窓が無くドアのある壁以外書棚と書類棚になっていた。

正面を見ると、先程の少女、紫乃が体の大きさにそぐわない机とやはりそぐわない椅子に収まっていた。紫乃を真ん中に向って右手に立っているのは先刻、朱乃と呼ばれた女生徒。顔立ちがよく似ている。縁戚関係だろうか?左手に立っている女生徒は知らなかった。

「詠様。姑息な手段で来所させたこと謝る。まともに呼んだのでは来てもらえないだろうし、正直に話して来てもらう訳にはいかなかったのでな。」

目の前にいる紫乃は外で会った紫乃と口調も雰囲気も違っていた。

紫乃は両腕で身体を支えながら立ち上がった。すかさず朱乃は駆け寄り紫乃を支える。

次の瞬間部屋の中に低いくぐもった音が響く。

(機械音!?)

右側の壁が書棚ごと折れ戸になっており、ゆっくりと左右に開いていく。奥に大きな部屋が出現した。

紫乃はその部屋を指し示すように大きく左ウデを伸ばし凛とした声で話し掛ける。

「ようこそ!ジンガイ被害撲滅部(非公認)へ!」

と。


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