WOR学園神宮西2
詠は本当の妹だったら、嬉しいのだろうかと考えた。妹という存在自体どういったものなのかわからなかった。
麗蘭さんからは兄弟についていろいろ教えてもらったが。うるさくて鬱陶しく思う事もあるけれど、可愛くて大切に思う存在だとすると、今目の前にいる先輩も当てはまるのだろうか?
などと考えている最中にも
「おにいちゃん、見ない顔だよね。転入生?私が校内案内してあ・げ・る。」
と勝手に話を進めようとしてくる。
初対面で優しくしてくる。こういった時は何かあるから気をつけなさいと麗蘭さんから幾度となく聞かされた。
(ともかく関わらない方が無難だな。)
と考え、詠は「では、これで。」と片手で挨拶すると、脱兎のごとくこの場を走り去った。
逃げる詠を少女は必死で追いかけてくる。その足は意外と早い。
最初は(この私から逃げようなんて甘いわよ。)などと息巻いて追いかけっこを少し楽しんでいた少女も、暫くすると息も絶え絶えになっていた。
それでも追いかけるのをやめようとしなかった。
そんな姿を見るに耐えなくなってきた詠は校舎の角を曲がるといきなり上空に向かってジャンプした。
そして、着地したのは4階建の校舎の屋上。
(誰も見ていないよな。)
と辺りを見回すと、うてなが立っていた。
「何だ。うてなさんか。ここで何してるの?」
「君。もっと驚きなさいよ。」
「だって、うてなさんでしょ。あれっ?そう言えば何でこの学園にいるの?」
詠君と話していると何か調子が狂わされる。いつも鋭いのか鈍いのか掴みかねる話し方だった。
「あてはこの学園でシステムエンジニアとしてセキュリティメンテナンスを行い、情報処理の講師として教鞭もとる職員と教員の二足のわらじの文字通り教職員なの。だから、あてのことは永冨先生と呼ぶように。」
「へぇ、うてなさん永冨が苗字なんだ。」
詠は今までうてなさんと名前読みしかしていなかったのでも初めて苗字を知って新鮮に感じた。
「永富先生はここで何してる?」
「素直でよろしい。あては休憩中。それよりさっきは何やってたの?」
「そうそう、それだけど。」
そう言って詠は二重フェンスの手前の段差に腰掛けているうてなの隣に腰掛けると話を続けた。
「永富先生に経緯を話すから風原、じゃなくて風原先生に伝えといてくれませんか?」
「詠君、苦手みたいだものね。風原の事。いいわ。今度、飲みに行った時にでも伝えとく。」
「ありがとうございます。永富先生。」
(詠君に敬ってもらえるなんて、役得ね。)
「いいの。いいの。で聞かせてもらえる?」
「はい。」
と話し始めた詠の話は要約すると、以下のような内容だった。
今夜、編入祝いをすると真子から話を受けたこと。
娘の理子は部活で遅くなるだろうから、家の鍵を渡されたこと。
理子は詠が一人で帰ることを了承せず、部活を取りやめて詠と帰ろうとしたこと。
理子の帰宅を引き止めた男子剣道部の先輩に体験入部と称して練習試合を持ち掛けられたこと。
軽く手合せしたつもりが騒ぎになってしまったこと。
「そうかあ。元凶は真子の考え無しの行動ね。」
「今日から寮でお世話になろうかと思うのだけど、ダメかな。」
「それは大丈夫だと思うけど、編入祝いのパーティは参加しなさい。真子がヘソを曲げても困るから。」
質問に対するうてなの答えに少々うんざり気味の声で詠が言う。
「行かないとダメかな。」
「我慢しなさい。あても呼ばれているから、一緒に行ってあげる。午後7時には仕事終わるから、正門で待ってて。真子、羨ましがるだろうね。」
「ふふふっ。」と笑ううてなを見て詠は少し安堵の表情を浮かべた。
「分かった。助かります。永富先生。」
(真子。あまりしつこいと嫌われるよ。)
うてなはまた「ふふふっ。」と笑った。
詠は念の為別の棟へ移動してから外へ出た。
どうやらあの少女は諦めたのか姿はなかった。
ホッとして詠は気ままな学園探索を再開した。いつの間にか学園の端の閑散とした所を歩いていた。周囲には林や小川等都市部にある学園の敷地内とは思えない程自然が溢れていた。
心地よい風が吹くなか散策を続けていると進行方向正面に女生徒が踞っていた。
(また女の子。新手か?)
と警戒しつつも、何かあってはと思い、見過ごす事が出来ずに少女に近づき、声を掛けた。




