第11話 魔術師、払う
「話があるの…」
セシリアがそういうので、レオンは喫茶店で彼女と向き合っていた。
あのあと、セシリアにはレオンのパーティのメンバーとして、何度かいっしょに仕事をしてもらっていた。
彼女はひどくマジメな様子だ。
「あの…アズモナのことなんだけど…」
「うん…」
レオンもマジメな面持ちで聞いた。
「あの子…魔族じゃない?」
「え? え?」
「だから、アズモナは、魔族なんじゃないかって、いってるのよ!」
「いや…どうなんだろ…ちがうんじゃないか…」
レオンはしどろもどろで答えた。
「…だって、魔族ってほら、もっと魔族魔族したカッコしてるし…」
「そんなの、いくらでも化けられるでしょ」
「魔族って、言葉とかも上からだし」
「あの子、完全に上からでしょ」
「そもそも、アイツ、仕事で魔族をバンバン殺してるし…」
「あの子の性格でしょ」
「なにより、その性格が、やさしいだろ…」
「あの子に、やさしさなんてカケラもないじゃない」
「いや、ほら…、だって、その…、でも、あれが…」
あせるレオン。
なんとか、取り繕おうとする。
そんなレオンを見ていたセシリアがいった。
「ちょっと、レオンッ!! あなた、いつから気付いてたのッ?!」
レオンは白状した。
「わりと早い段階から…」
セシリアが立ち上がった。
「ギルドに…いや、治安所に報告する!」
「ちょっと待ってくれよ、セシリア」
レオンが止める。
セシリアがいった。
「魔族が人間界にいるなんて、大問題よ!」
「それはわかってるさ。でもアイツはオレたちの仲間なんだよ」
「冗談いわないで!」
「パーティに加わったばかりのキミには、わからないかもしれないけど、アイツにはいいところがいっぱいあるんだよ」
「例えば?」
「例えば、魔法がスゴいこととか…」
「他には」
「他に? 他には…、え~と…、え~と…」
「他には?」
「え~と…、え~と…」
「魔法がスゴいのは、魔族だからでしょ!」
それでもレオンは、セシリアを説得した。
「待ってくれよ。アイツは誰にも迷惑かけてないだろ。オレは、アイツがこのパーティで楽しくやってれば、いつか人間を好きになってくれて、いい魔族になると思ってるんだ」
「……」
「魔族と人間の新しい関係を築いていけるキッカケになれる存在だと!」
そんなレオンをじっと見て、セシリアはいった。
「…レオン、あなた、お金が欲しいだけでしょ」
「うっ!」
図星だった。
しかし、レオンは開き直る。
「いいじゃないか! アイツは楽しくやって、オレたちは金を儲けて、なんの問題もない!すばらしいじゃないか! 共存共栄だよ!」
「魔族の本性を出したら、どうするの?」
「オレたちはもう仲間なんだ。仲間だから、オレたちが説得できるんじゃないかと…思いたい…」
「ちょっとッ! 希望なのッ?」
「だって、アイツ、ムチャクチャなんだもん… オレたちのいうことなんか、聞いてくれなさそう…」
「…でしょうね」
「だから、せめて、オレたちが金を十分儲けるまで待ってくれ!」
「なにいってるの! ダメよ! 黙ってるわけにはいかないわ!」
「待てよ、セシリア!」
セシリアは、席を立って、店を出て行ってしまった。
「これは…マズいぞ…」
レオンは、急いで宿屋に帰った。
アズモナの部屋のドアをノックする。
「おい! アズモナ!」
しかし、ノックしても返事がなかった。
「アイツ、いないのか?」
さらに、ドアを叩く。
「アズモナ! アズモナ!」
「……なに~?」
部屋の中から、アズモナの寝ぼけた声が聞こえた。
「おい! マズいことが起こってるんだ。とにかくここを開けろ!」
「なによ、うるさいわね」
「はやくしろ!」
そうこうしているうちに、治安所の役人が、宿屋にやってきた。
「この宿屋だな…」
レオンはそれを見た。
「マズい」
ドアを叩く。
「アズモナ!」
治安所の役人が、レオンを見る。
「あの部屋か… おい! おまえ! なにをやってるッ! どけッ!」
役人はレオンを脇にやった。
レオンはしぶしぶ従う。
役人がドアをノックすると、アズモナがようやくドアを開けた。
「ああ…、アズモナ!」
レオンは思ったが、もう時は遅し。
治安所の役人が、アズモナにいった。
「ここにアズモナ・トフェルという女がいるだろ?」
「はい? アタシですけど…」
「おまえに魔族じゃないかっていう、疑いがかかっているんだ」
アズモナがジロリと役人を見た。
レオンは思った。
「アズモナ、おまえは魔族じゃないだろ? 頼む。 そういってくれ!」
だが、アズモナはこう答えた。
「ついに、この日が来たか…」
レオンは天を仰いだ。
「ああ、アズモナ…」
役人は身構える。
アズモナがいった。
「アタシの存在を知ってるヤツら、皆殺しだ」
レオンは驚いた。
「アズモナ!」
アズモナが役人をなぎ払う。
「うっ!」
そしてアズモナが腕を払うと、手が光り、宿屋の壁が吹き飛んだ。
一面の更地である。
「アズモナ、やめろ!」
しかし、アズモナにレオンの声は届かないようだった。
血に飢えた獣のように、まわりを見渡す。
そして、光る手でまた周りをなぎ払った。
すべての建物が崩壊し、町は騒然としだした。
逃げ惑う人々。
そんななかに、呆然とするレオンがいた。
アズモナはさらに町を破壊する。
町は瓦礫となり、火の手が上がった。
火はすべてを焼き尽くす。
人々が叫んだ。
町は地獄のようになった。
アズモナはまだ町を破壊し続けている。
レオンはアズモナを見ていた。
と、レオンは意を決して、アズモナに向かって、走っていった。
彼女に飛びつき、叫ぶ。
「アズモナ! なんで、こんなことするんだ!」
レオンは涙を流していった。
「オレたち、仲良くやってきたじゃないか。このままじゃ、いっしょにいられなくなっちまう」
必死で訴えた。
「なあ、アズモナ、正気に戻ってくれ! 頼む!」
レオンは涙が止まらなかった。
「オレたち、オマエとずっといっしょにいたいんだ…」
その顔は涙でぐしょぐしょだった。
「それだけなんだ…」
すると、アズモナの動きが止まった。
彼女はレオンを見ると、ニッコリと笑った。
「アンタのその一言が聞きたかったのよ…」
「ハッ!!」
目が覚めると、レオンは宿屋の部屋のベッドの中にいた。
寝汗で体がべっとりとしている。
しかし、部屋はもとのまま。
すべては以前のままだった。
「夢か…」
レオンはため息をついた。
「いやな夢を見たな…」
朝だった。
汗をかいたせいもあって、レオンは洗面所にいった。
顔を洗っていると、ブラムが部屋から出てきた。
「よう、ブラム」
「おはよう、レオン」
ブラムも顔を洗い出した。
顔を洗いながら、彼がいった。
「いやあ、今朝はへんな夢を見たよ。アズモナが暴れまわって、町をぶっ壊すんだ」
「へええ、オレも見たよ、それ」
なにか似たような空気を吸っているせいだろうか。
そういうこともあるのだ。
アズモナはまだ寝ているようだった。
部屋は静かだった。
そして、レオンはギルドに仕事を見に行った。
すると、ギルドの入口で偶然に同僚のホーレンに出会った。
彼がレオンにいう。
「いやあ、今朝、へんな夢を見てさ。おまえのところのアズモナが町をぶっ壊すんだ…」
「へええ…」
「ああ、レオンさん。おはようございます」
ギルドの受付に行くと、そこに立っていた受付の女の子が、レオンにいった。
「おはよう」
彼は答える。
すると、彼女が話しだした。
「私、今朝、へんな夢を見たんですよ。レオンさんのパーティのアズモナさんが…」
レオンは汗がどっと出てきた。
「こんな偶然あるか?」
そして、あの夢を思い出した。
「…ちょっと待て、…あれ、…本当に夢だったのか?」
不安にかられて、レオンはギルドを飛び出した。
あれが現実なら、アズモナはどうなったのか…
宿屋に帰って、アズモナの部屋の前に立つ。
ノックをした。
返事がない。
ノックを続ける。
「アズモナ! アズモナ!」
ノックの音が大きくなる…
ふいに、ドアが開いて、アズモナが顔を出した。
眠そうだ。
「なに? 仕事?」
「いや…その…」
「仕事じゃないの?」
「うん…まあ…」
「だったら、なに?」
「いや…その…」
「アンタ、いいかげんにしなさいよ! アタシをナメてるの?」
「すまん…悪かった…」
レオンはギルドに帰ろうと歩き出した。
そこに、アズモナが彼へ声をかけた。
「いなくなったりしないわよ… だって、アンタ、アタシといっしょにいたいんでしょ」
レオンが振り返ると、部屋のドアはもう閉まっていた。
einde




