第10話 勇者、逃げる
ここは宿屋のブラムの部屋。
アズモナがふだんは来ないこの部屋で、レオンとブラムはコソコソとしゃべっていた。
「アイツは心の闇が深すぎる。このままじゃ殺されちまうぞ」
レオンがいった。
アイツとはもちろんアズモナのことである。
「逃げよう!」
「それはかまわないが、でもオレたち、魔術師はどうするんだ?」
たしかに、そのとおりである。
2人だけでは、貧乏生活に逆戻りだ。
「オレたちもだいぶ勇者として力もつけてきた。いまのオレたちなら、パーティを組んでもいいっていう魔術師もいるだろう」
「そうだといいけどなあ…」
ブラムがいった。
「あの女剣士のセシリアのツテで、魔術師を紹介してもらえないかな?」
「とりあえず、訊いてみよう。ひょっとしたら、この恐怖生活から抜け出せるかもしれない」
「そうだな」
2人はセシリアの宿屋へと向かった。
部屋のドアをノックする。
「はい…」
ノックにこたえて、ドアを開けようとしたセシリアは、ノックの主がレオンたちと知ると、すぐにドアを閉めた。
部屋の中から、セシリアの声が聞こえる。
「帰って!」
「どうしてなんだ?」
「話を聞いてくれ!」
レオンたちは頼み込んだ。
すると、セシリアはドアだけは開けてくれた。
「あの女にあんたたちとしゃべったら殺すっていわれてるのよ」
レオンたちは、背筋が寒くなるのを感じた。
そのときだった。
レオンたちの影から、人の形が浮き上がってきた。
「うわッ!!」
ブラムも驚いて、レオンに抱きつく。
「うわわッ!!」
影から出てきたのは、アズモナだった。
暗い顔をしている。
「おい、もう会うなっていったよな…」
「え? ちょっと!」
アズモナはまっすぐに、セシリアに詰め寄った。
「待て! アズモナ! これにはワケが!」
「もう誰も信用できない…」
アズモナが呪文を唱えながら、指を天に上げると、指の先に光のかたまりが現れた。
「おい! アズモナ!」
「まさか!」
その指で、アズモナはセシリアを指さす。
「やめろッ!」
レオンはアズモナを止めようと、彼女に掴みかかったが、光のかたまりはセシリアに向かって放たれた。
「ああっ!!」
光りのかたまりは、セシリアを覆い、彼女は真っ黒こげの死体となってしまった。
「おい…アズモナ…おまえ…」
レオンたちは、ぶるぶると震えだした。
アズモナは呆けた顔をしている。
「マズいぞ、殺人犯だ」
レオンが、セシリアに近づくと、黒こげの彼女は、ただの炭のかたまりだった。
「こうなったら、アズモナでも、どうしようもないな…」
レオンはアズモナにいう。
「おい! アズモナ! どうするんだよ!」
「アタシはもうこれでいい」
「これでいいって、なんだよ。オレたち、最高のパーティになるんじゃないのか?」
「……」
「なんかいい手はないのか」
「治安所に…」
「おまえを治安所に連れていけるわけないだろ」
レオンは考えるといった。
「逃げよう」
「逃げる?」
ブラムがいった。
「しかたないだろ。アズモナには恩がある。幸いオレたちには、それなりの貯金もあるし、ほとぼりが冷めるまで、どこかの町に逃げて、そこでまたギルドにでも入って、クエストすればいいだろう」
「正当防衛でもないかぎり人殺しは死刑だからな。アズモナを死なせるわけにはいかないし。そうだな。逃げよう」
「そうと決まれば、宿屋で荷物をまとめよう」
アズモナの手を取る。
「いくぞ」
2人は、ギルドから貯金を下ろして、宿屋の支払いも済ませた。
「この町とも、おさらばか…」
思えばいろいろなことがあった。
貧乏でツラかったころ。
そしてアズモナが来て。
セシリアが来て。
セシリアが死んだ…
馬車に乗らねばならない。
宿屋から道に降りて、馬車の停留所まで、歩いていたときである。
レオンが、道でふとある人影を見つけた。
「ん?」
見覚えのある後ろ姿だ。
追っていって、後ろから声をかけた。
「セシリア?」
「ああ、レオン!」
こともなげに、彼女はレオンに微笑んだ。
「あれ? キミは? さっき、死んだんじゃないのか?」
「はあ? なにいってるの? 私はべつになんともないわよ」
「さっき、部屋で会ったよな?」
「え? あなたとはあの日以来会ってないでしょ」
「あの日って?」
「ほら、あの魔術師の仲間と会わせてくれたとき」
レオンはいった。
「アズモナァッ!!」
アズモナは逃げようとしていたところを、レオンに捕まった。
「どういうことだ?」
「じつは…例の…」
「幻想魔法か?」
「そう! ご名答!」
「なんだよ、おまえ…」
レオンは道にへたり込んだ。
今までの緊張が一気に解けたのだ。
「だって…、だってさ…アンタら…アタシと別れようとするからさ…」
アズモナが涙ぐむ。
「まあ、オレらもたしかに悪かったよ」
アズモナはレオンに抱きついた。
「おまえらと離れたくなかったんだよ~」
アズモナは泣きじゃくっている。
「逃げないてくれよ~」
レオンがいった。
「わかった。わかった」
泣きぐずるアズモナを見つめて、レオンはいった。
「じゃあ、これからは、オレたちの意見もちゃんと聞いてくれるか」
鼻水をすすりながら、アズモナがいう。
「わかったよ。きくよ」
「本当だな」
「ホントだよ」
レオンはため息をつくと、しっかりとアズモナを抱きしめた。
それから、レオンは、アズモナと向き合った。
アズモナに手を差し出す。
アズモナはレオンの手を握った。
仲なおりの握手である。
レオンがいった。
「それじゃあ、また、オレたち、いっしょにやろう」
2人は笑顔で向き合った。
einde




