最終話 魔術師、潜る
ギルドに、近隣の農家から、野良ゴブリンの退治の依頼があったので、レオンたちは現場に来ていた。
農家によれば、夜中に畑を荒らされて、作物を奪われるという。
レオンたちは、夜に畑の張り込みをすることにした。
アズモナは、レオンたちの目に魔法を掛けて、夜目が効くようにする。
「いつごろ来るんだろうな…」
レオンが誰ともなしに尋ねると、セシリアが答えた。
「やっぱり、周りが寝静まったころじゃない?」
ブラムが訊く。
「今日も来るのかな?」
「とりあえず、見張りを立てて、仮眠をとろう。長丁場になるかもしれないしな…」
レオンは、ブラムに見張りを頼んで、他のメンバーは寝ることにした。
「レオン…レオン…」
ブラムが寝ているレオンを揺すぶる。
「ん…なんだ…」
「…ゴブリンが来たぞ」
「わかった」
レオンは目を覚ます。
アズモナ、セシリアも起きた。
ゴブリンたちは、周りを警戒しながら、畑に近づいている。
「よし、行くぞ…」
音を忍ばせて、レオンはゴブリンたちに近づく。
ゴブリンは全部で5匹だった。
ゴブリンたちに至近距離まで迫ると、レオンはメンバーに目で合図をした。
レオン、ブラム、セシリアが剣を構えて、ゴブリンに襲い掛かった。
治癒役のアズモナは、後方に待機である。
不意を突かれた、ゴブリンたちは剣に倒れる。
1人につき、1匹。
3匹を始末し、残りは2匹だ。
ゴブリンたちは走って逃げ出した。
それを追おうとするブラムとセシリア。
そこにレオンが声をかけた。
「待て!」
セシリアがいう。
「どうしたの? ゴブリンが逃げるわ」
レオンがいった。
「そのまま逃がして、後を追おう。ゴブリンの巣穴が見つかるかもしれない」
4人は身を隠しながら、2匹のゴブリンの後を追う。
ゴブリンは身長が低いこともあって、人間より足が遅い。
十分に後を追うことができる。
すると、しばらくするうちに、ゴブリンたちは足を止めた。
周りを見まわしている。
追手がないかを、確認しているらしい。
見つからないように、レオンたちは草むらにかくれた。
助かったと考えたらしいゴブリンたちは2匹で言い争いをしていた。
そして、その後、あきらめたようにトボトボと歩き出す。
レオンたちは、それを追った。
やがて、ゴブリンたちは、人里離れた場所にある地下穴に入っていく。
「よし、ここがゴブリンたちの巣穴だな」
レオンがいうと、ブラムがきく。
「どうする?」
「ギルドに報告して大きなパーティを組んで退治、という方法もあるけど、オレはこの4人だけで退治したい」
セシリアがいう。
「大丈夫?」
「アズモナが協力してくれれば、できると思うんだ。ギルドに報告しても分け前で報酬が減るだけだし、なあアズモナ、助けてくれないか?」
「わかったわ」
4人は緊張の表情だ。
大きな賭けだが、当たれば受け取るものも大きい。
「やつらは夜行性だから、外に出ている連中が帰ってくるかもしれない。明るくなるまで待とう」
アズモナはこれからの退治のための英気を養うために休息してもらい、彼女以外の3人は交代で見張りを立てて、仮眠をとった。
運命の朝である。
4人は右手を全員でかざして、円陣を組んだ。
「何時間かあとには大金持ちだぞ。頑張ろう!」
「おう!」
ゴブリンに聞こえない様に、気を付けながらも気合を入れる。
岩場に隠れながら、入口に近づく。
アズモナがしぼった光の塊で、見張りのゴブリンを殺した。
そしてゴブリンたちに気づかれずに、巣穴の中に入ることができた。
罠に気を付けながら、奥に進む。
と、そのときだった。
先頭のレオンが足元の石を踏んだ瞬間、ゴブリンの仕掛けの剣がレオンの首を切り落とした。
「レオンッ!」
レオンの首から大量の血が流れる。
レオンの頭が穴の奥に転がっていく。
アズモナが魔法でレオンの血を止めながら、ブラムが首を探した。
「はやくしろよッ!!」
アズモナが叫んだが、ブラムは気が動転してオロオロするばかり。
セシリアが、ようやくレオンの首を見つけた。
頭を首に付けて、アズモナが呪文を唱える。
レオンの首が光に包まれて、煙が出る。
治癒は成功しているように見えた。
しかし、レオンは目を覚まさない。
「レオン! レオン!」
アズモナが呼びかけるが、レオンは目を閉じたままだ。
「おいッ! レオンッ!! 目ぇ覚ませよッ!!」
「?#$%」
ゴブリンたちが、その騒ぎで奥から出てきた。
「うるせえッ!!」
アズモナは穴の天井を崩して、そのゴブリンたちを全滅させる。
「レオン! レオン!」
アズモナがレオンを揺さぶった。
反応はない。
「おい! オマエはアタシのいちばんのオモチャなんだ! 勝手に死ぬなんて許さないぞ!」
ブラムがいった。
「アズモナ、オマエでも無理なのか?」
アズモナは、レオンの胸に耳を当てた。
心臓の鼓動は聞こえる。
「まだ手はあるわ。ここはアンタらに任せるから、守っててよ」
そういうと、レオンの額に自分の額を押し付けて、呪文を唱えた。
すると、アズモナは気を失ってしまった。
残されたブラムとセシリアは不安そうに顔を見合わせるばかりだった…
アズモナは霧のかかった薄暗い場所にいた。
「レオン! レオン!」
声は霧の中に溶け込んでいく。
それでもアズモナは叫んだ。
「レオン! どこ?!」
霧の向こうにほんのりと明るいところがあった。
アズモナはそこに歩いていく。
「レオン? そこなの?」
だんだんと歩を早めていく。
「レオン! 答えて!」
なにかが聞こえる。
「アズモナ…」
明るい場所に、黒い影が集まって、それが人の形になってきた。
「レオン!」
アズモナが影に触れる。
すると、影はレオンの姿になっていった。
「アズモナ…おまえか…」
アズモナは、ようやくホッとしたような様子だ。
レオンがいう。
「アズモナ…もう会えないかと思った…」
「どうして?」
「なぜだかわからないけれど、そんな気がしたんだ…」
「やっぱりギルドに報告したほうがよかったのかな」
思いつめた表情のレオンがいった。
「まあ、そうだったかもね…」
レオンの手をアズモナは取っていった。
「まあ、いいじゃない。失敗することもあるよ…」
そして、やさしく微笑んだ。
「…アズモナ…前におまえのこと…妙にテレて、カワイイっていえないときがあっただろ…」
レオンはアズモナをじっと見つめるといった。
「それでも、いわせたけどね…」
アズモナは苦笑いをした。
レオンは真面目な顔をしていった。
「でもな、今ならいえる。おまえはカワイイよ」
「なんだよ…いまさら…」
こんどはアズモナが照れた。
「おまえはカワイイ。おまえはオレのつまらない人生の中のいちばんの宝物だった…」
「……」
「いままでありがとうな。このまま伝えられないままかと思ってたけど、最期に会えてよかった…」
アズモナはレオンの顔を見ていった。
「おい。なんだよ、それ…」
レオンもアズモナのことをじっと見ていた。
「このまま逝くみたいなこといって…」
レオンはその目を落としていった。
「でも…オレ…もう…」
アズモナが励ますようにいう。
「バカやろう。おまえ、めんどくさくなって、あんまり考えてないだけだろ」
アズモナは続けた。
「つまらない人生なんていうなよ。これから面白くしていけばいいだろ。アタシだって、ブラムだって、あの女だっているんだし… それにアタシといつまでも一緒にいたいんだろ… もういっしょにいたくなくなったのかよ…」
「いや…そんなことは…」
「それに死んじまったら、オマエの大好きなセックスももうできないんだぞ!」
「それは困る」
即答だった。
レオンにとって、とても重要なことだったからだ。
アズモナはそこにたたみかけるようにいった。
「だろ! 帰ろうぜ、こんなとこ、つまんねえよ」
「でも…できるのか?」
「なにいってんだ! おまえさえその気なんだったら、手はいくらでもあるんだよ」
レオンの顔に光が差した。
「なら、帰ろう!」
アズモナが胸を叩いていう。
「よし! 任せとけよ! アタシにできないことなんて、ないんだから!」
そして、アズモナは呪文を唱えた…
einde
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