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魔界の少女  作者: YossiDragon
第六章:七月~八月 夏休み編
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第六十四話「やってきた、最後の護衛役」・1

今回は四部構成です。あとがきは相変わらずですw

 ここは、俺――神童響史含める人間達が住む人間界だ。この世界には人間界の他に魔界、鏡界、天界、冥界の四つの世界があり、各々の世界を支配する統治者がいる。

 魔界では大魔王、鏡界ではルナー、天界では大女神、冥界では閻魔大王が、それぞれ世界を統治している。

 しかし、人間界では一体誰なのだろうか? その辺りが未だに不明瞭で明らかになっていない。

 そして、現在その五界全てを揺るがせる恐ろしい計画が進んでいた。それは、魔界を治める大魔王が他の世界に侵略を試みるというものだ。

 その影響は、侵略行為を受けている世界だけでなく、その他の世界にも影響を及ぼしていた。主にそれはいろんなものだが、人間界では弱い地震が幾度か起こっている。

 今現在魔界側は、近場の冥界を攻めているそうだが、その矛先がいつ人間界(こちら)に向けられるか分からない以上、油断は出来ない。




――☆★☆――




 決して太陽を見る事など不可能な、絶対の闇が蔓延る世界――魔界。ここでは現在、目を血走らせて興奮状態の魔物や悪魔達が、他の世界を侵略するために侵攻を続けていた。荒っぽい叫び声がたくさん木霊し、彼らの足音が大地を轟かせる。

 その様子を、魔法陣の映像越しにとある人物が眺めていた。

 紅茶の様な髪の毛は、クセっ毛なのかあちこちにハネており、前髪が少々長いためにその真紅の双眸がやや隠れ気味だった。

 その人物が座る玉座には金と銀の装飾が施され、座っている人物の神々しさが伝わってくるようだ。


「……ふぅ、まだ冥界は手に入らんのか?」


 少し苛立たしげにやや太い声をあげる男性。その言葉に対し、まるで縮こまるようにしながら赤縁眼鏡をかけた女性が口を開いた。


「は、はい。魔界軍の士気は十二分に上がってはいるのですが、なにぶん向こう側の力が強く……」


 男性の秘書の様な格好をした彼女は、男性の傍に立ち、震える唇を必死に動かしながら頭を下げる。その顔には、じっとりと汗が浮かんでいる。

 すると、彼女の報告が気に入らなかったのか、顔に一瞬渋面を作った男性が頬杖をついていた腕をどけ、ギロリと鋭い眼光を傍に控える彼女へ向けた。


「ええい、どいつもこいつも……この役立たずがァッ!!」


 裂帛の気合と共に、怒号をエネルギーの糧として男性が手のひらを女性の腹部目掛けて突き出す。すると、衝撃波が物凄い勢いで彼女の腹部に直撃し、眼鏡をかけた女性は、口から体液を吐き、悶絶しながら壇上から転げ落ちた。


「がはっ、うぐっ……うぅ、も、申し訳ありま――がぁっ!?」


 凄まじい鈍痛が腹部から全身へと伝わり、苦しみで蹲るしかない彼女は、必死に許しを請おうと謝罪の言葉を口にした。が、それさえも許さぬが如く、その側頭部に男性の靴底が押し付けられる。

 目を見開いた男性は、真紅の双眸を一層ギラギラと光らせ、女性の頭をグリグリと足で押し付けながら口を開いた。


「誰が喋れと言った……この出来損ないのクズめッ!! 貴様が今だ尚この我の側役を務めている事事態、ありえんッ!! 本来ならば、あの時点でその首をもぎ取り、一族の元へ送り返していたものを……」


「ほ、本当に、もうし――」


「我の言葉が理解出来んのか?」


 再度謝罪の言葉を口にする女性に、男性は更に怒りのバロメーターをあげたのか、今度は彼女の青いストレートロングの髪の毛をグイッと掴みあげた。


「ぐぁあっ!? お、お許しください、大魔王様っ!!」


 女の命ともいえる髪の毛を、まるで千切れるかぐらいの力で無理やり引っ張られ、彼女は泣き叫ぶように叫んだ。その目にはうっすら涙が溜まっている。

 大魔王と呼ばれた男性は、フンッと鼻で笑い彼女の髪の毛を離した。女性はそのまま重力に引っ張られ、顔を地面に軽く打ちつけた。


「ぐぅ!?」


 痛みが再び襲い掛かるが、それでも腹部の痛みには敵わなかった。それほどまでの衝撃が彼女の腹部に喰らわされたのだ。


「フンッ、他愛もない。それでも古の一族の人間か? まぁ、純粋なる純血ではなく、混血だそうだがな……。よもや、ルドラがその血を濁らせようとは。世界も腐ったものだ。まったく、やはり期待出来る一族は、最早カーリーのみとなったか」


 己の一族をコケにされるのは正直歯痒かったが、ここで歯向かえば間違いなく反逆罪で牢獄送りなのは目に見えていたので、大人しくしているしかなかった。


「どんな気分だ? 水連寺澪……いや、メアリー=ヒミレオ=ルドラ」


「――っ!」


 久しぶりに旧名をフルネームで呼ばれ、眼鏡をかけた青髪の女性――澪は、思わず絶句する。


「……たいへん、(おこ)がましくはありますが、その……とても、不愉快な、気分で――がっ!?」


「ハッハッハッハッハ! そうか、そうか! それほどまでに不快かッ!! この高貴なる我――大魔王ビジスター様に踏まれる事は、至高の喜びであろうに!!」


 あんまりだ。どんな気分かと聞かれたため正直に答えたというのに、よもやこのような仕打ちを受けようとは。たった一度の失敗が、ここまでの被害を被るなど、澪は夢にも思わなかった。


「フッハッハッハッハッハ!! なんともおかしな話ではないかッ!! やはり、やはり貴様にはまだ我への忠誠心が足りぬようだな? 初めて会った時、あれ程までに可愛がってやったというのに、その恩さえをも忘れ去ったか? フッ、まぁいい……貴様へ刻み付けたあの()も、どういうわけか消え去っているようだしな。もう一度、その体に……心に、刻み付けてくれよう。せいぜい、いい声で()くんだな……」


「いや、いやぁあああああああああああ!!」


 ジリジリと、不気味な笑い声をあげながらにじり寄る大魔王に、澪は腰が抜けてお腹を押さえながら後退するしかなかった。


「貴様へのあの仕置きは、まだまだ(ぬる)かったのだ。もっと高温の、そう……煮えたぎるマグマにぶち込まれる程度の仕置きをくれて然るべきだった。まだまだ我も甘いな……」


 己の手緩(てぬる)いやり方を反省し、大魔王は澪の怯えた顔にその手をかざした。

刹那――。


ピキピキッ!!


 その手が凍りつき、それ以上澪の方へ伸ばせなくなった。


「――ッ!?」


 突然の出来事に驚く大魔王。だが、すぐにその原因とやった人物の見当がついた。それは、澪も同様だった。

サッと後ろを振り返る大魔王。

そこには、長いマフラーを首や頭に巻いた幼い少年が、凍りついた人形の様な表情で片手を突き出している姿があった。


「みぃちゃんを、いじめるなっ!」


「くゥッ!! ヒライス=デント=ルドラ……貴様、何のつもりだ? この我の手を凍らせるなど、立派な謀反……反逆罪は、即刻死刑だぞッ!?」


「申し訳ありません大魔王様っ!! 弟はまだ幼いので、どうか、どうか寛大な処置をお願いしますっ!!」


 必死の説得だった。藁にもすがるように、澪は大魔王の着ているマントにしがみつき、まるで貧乏な民が高貴な貴族に食べ物を恵んでもらうかのようだった。


「貴様……我の側役とはいえ、護衛役の分際で、この我に口出しをするなッ!!」


 目を真っ赤に光らせた大魔王は、片手で澪の首を掴み、そのまま壁に体を叩き付けた。


「ぐ……が、ぁ!?」


「や、やめろぉぉぉぉ!!」


 姉のピンチに、弟――ヒライスが駆けた。マフラーをなびかせ、その小さな手から何かを形成する。それは彼の武器――特殊魔杖(ステッキ)だった。それを片手で握った彼は、先端部を回転させ、勢いよく横に凪いだ。瞬間、その部位が光り輝き、青白い光を発光させながら冷気を放出した。


「くッ!?」


 咄嗟の判断で大魔王が避けると、先ほどまで彼がいた場所に波紋状に広がった冷気が、鋭利な氷の棘を形成していた。


「貴様……これは間違いなく我に対する反逆とみなすッ!!」


「そ、そんなっ!? ひ、ヒライス! 今すぐ大魔王様に謝って! でないと、死刑にされるわっ!!」


 大魔王が口にした恐ろしい一言を聞いて、澪はすぐさま弟へ向かって叫ぶが、当人は冷静さを失っているのか、幼くも鋭い眼光を大魔王へ向け、姉に耳を貸さなかった。


「ふんッ、愛する姉の忠告すら耳に届かんとは、余程タガが外れていると見える」


「ううぅわぁああああ!!」


 まるで小さな子供が癇癪を起こすかのように、ヒライスは声を荒げて特殊魔杖(ステッキ)を振るった。しかし、大魔王はそれをまたも軽く躱した。


「この力……フッ、さすがは最後の護衛役。貴様の力……上手く使えばいい兵器になる。ルドラの力、その未成熟な体にどれほど秘められているか、この我に……見せてみよッ!!!!」


 何を思いついたか、怪しい笑みを浮かべた大魔王は、ヒライスへ向けて片手を突き出した。

 瞬間、その手のひらから真紅色の何かが射出される。


「くっ!?」


 突然の事に躱す方法が取れなかったヒライスは、受け止める方法を思いついたのか、何重もの氷の盾を形成し、自身の腕をXにして歯を食いしばった。

が、大魔王が放ったそれは思いの他勢いが強く、氷の盾をいとも容易く突破した。その衝撃でヒライスの防御は完全に解け、射出された何かをもろに胸に受けてしまった。


「ぐわぁあああああああああああああああああああああああ!?」


 枯れんばかりに叫び声をあげるヒライス。その体からは大量の冷気と殺気が放たれていた。胸からは赤黒い光が眩く発光し、周囲を赤色に照らし出す。


「な、何が……起こってるの?」


 目の前で起こっている異常事態に、澪は目を丸くして動けなくなっていた。


「ハハ……素晴らしい、さすがは元我の護衛役の一人だった水変の妖魔(トランス・モンスター)の息子なだけはある。フフッ……よもやここまでの潜在能力を秘めていようとは……」


「だ、大魔王様……これは、一体」


 訳が分からず、気づけば澪は大魔王に詳細を求めていた。


「くっく……分からんか? メアリー……貴様の弟はとんでもない怪物を内部に飼っていた……という事だ」


「そ、そんな!? い、今すぐに止めさせてくださ――ぐあっ!?」


ドォンッ!!


 突然の浮遊感と激痛。気づけば澪は壁に激突した挙句、その壁にめり込む形になっていた。


「がはっ!?」


 肋骨を二本ほど持っていかれたのか、先ほどの腹部の痛みよりも鋭い痛みが澪を襲った。口から吐血し、激痛で片方の目しか開けられない。

その目の前には、先ほどまで自分を守ってくれていたはずの弟が、変わり果てた姿で立っていた。


「うっく……ど、うして?」


 信じられないという風に、痛む箇所を押さえながら澪が呻く。


「くっく……まだ分からんか? 貴様の目は余程節穴のようだ。そのガキの胸元を見てみろ」


 大魔王にそう言われ、澪はふと弟の顔から胸元に視線を下げた。すると、その胸元に、すごく見覚えのある物が取り付けられていた。


「な――っ!? ど、どうして……これが!?」


「どうやら思い出したようだな」


 澪が自身の胸元を押さえながら言うのを見て、大魔王が口元に笑みを浮かべた。


「これは貴様への証とは別物でな……通称『アユリング』と呼ばれるものだ。苗床の潜在能力をうんと高める力があってな、植えつけた対象者の自我を喪失させて兵器と化す代物だ。どうだ、素晴らしいだろう?」


 まるで褒め称えろと言わんばかりの口ぶりで、大魔王は高らかに笑った。


「貴様の弟は、今やただの殺戮兵器も同じ……そう、カーリーの末裔と同様に、この我の玩具だッ!! クック……フッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


「なっ!? か、カーリーの末裔!? だ、大魔王様!! ま、まさかあの子に何かを……!? そんなっ!! あの子は、カーリー一族の中でも殺戮を一番拒み、平和をこよなく愛していたのにっ!! 何故そこまでする必要があるのですかっ!!」


 カーリー一族。それは、澪達ルドラ一族同様、かつて大魔王の護衛役につく際、選抜された一族の一つだ。一族は皆、血と殺戮を好んでおり、血の気が多い事で有名だが、澪と同級生でライバルでもあったカーリーの末裔の少女は、一族の人間とは思えぬほどに血と殺戮を嫌い、平和を求めていたのだ。いつか、人間界に訪れたいとも言っていた。そんな彼女が、まさかそんな事になっているとは、知らなかった。


「黙れッ!! どいつもこいつも、この我に従わぬ反逆者共め……ッ!」


 澪の言葉に対し、大魔王は大音量の叫び声で黙らせた。


「――っ!?」


 思わず萎縮してしまう澪だが、先ほどからどうにも感じていた違和感があった。


「……こ、こんなの……大魔王様じゃ、ありません」


 それを口にした途端、大魔王の目の色が変わった。


「……貴様、口にしてはならぬ言葉を口にしおったな?」


「へ?」


「貴様にはそれ相応の罰が必要だな……そうだな、調教部屋へ連れて行け」


 そう何者かに命じると、澪の目の前に何かが滴った。それは、赤黒い血だった。


「な、何!?」


 突然の恐怖に冷や汗がにじむ。

刹那、彼女の目の前に何者かが素早く降り立った。体中傷だらけで、髪の毛の手入れなど皆無。服なんて物は着せてもらえておらず、重々しい枷やら首輪やら拘束器具で、その成熟した柔肌をどうにか包み隠している程度だった。


「そんな……か、カーリーなの?」


 名前を呼ぶことが出来なかった。本人であってほしくない。ただ、血の能力を使い戦う彼女達カーリー一族の特徴が多々あったため、それだけ一致している程度でよかったのだ。

それなのに――。


「メ、ア……リリ、リ……ぃィ?」


「いやああああああああああああああああああああああああ!」


 こんな仕打ち、あんまりだった。大事なライバル、いや親友をこんな変わり果てた姿にしてしまう大魔王が、自分が仕えている主が、怪物にしか見えなかったのだ。しかし、おかしな話である。元々大魔王とは怪物の様な威厳を持つ人物であって然るべきだ。ならば、このくらいよいのではないだろうか?

 だが、これはさすがに限度を超えていた。これでは本当に、彼女はただの兵器でしかない。玩具(ドール)……ただの操り人形(マリオネット)だ。


「クック……フッハッハッハッハッハッハッハ! そんなに喜んでもらえるとは、調教(きょういく)しがいがあったというものだ。なかなか愉悦なものであったぞ? 嬲る度、其奴は良い声で啼いてなぁ? 特に、激痛に泣き叫び咽ぶ声をBGM代わりに、血を求め殺戮を求めるカーリーの肉体を血に染めていくのは、実に気分爽快だった。……安心しろ、貴様もすぐに友達に会えるようになる」


 その大魔王の言葉を皮切りに、澪の意識はぶっつりと強制終了(シャットダウン)した。




――☆★☆――




 ここは至って平和な人間界だ。そのとある場所に、光影都市は存在する。六つの財閥によって作られたこの巨大な都市は三つの区画に分けられ、その一つ……黄昏区で、俺――神童響史は生活していた。

 今日は七月二十四日。梅雨の時期はとうに終わり、蒸し暑い季節がやってきている。今日も空は快晴で、絶好の洗濯日和だ。


「ふぅ……やっぱり、男っていいな」


「響ちゃん、ついにそっちの気に目覚めちゃったの?」


「ちっがぁああああああああああああああああああああう!! 断じて違うッ!! 俺が言いたいのは、この姿でよかったっていう事ッ!!」


 姉ちゃん――神童唯が盛大に勘違いしてくれちゃってるので、さっそく俺は声を荒げて即座の訂正を行う。


「なぁ~んだ、別に響子の姿でも問題ないでしょ?」


 非常に残念そうな顔で姉ちゃんが俺を横目で見つめる。


「問題ありまくりだ!! どれだけトイレの時とか苦戦したと思ってるんだよ!!」


「主にトイレのどの辺り?」


「そりゃもちろん、お――って、何言わせようとしてんだ!!」


「惜しいっ!」


 ダメだ、心底姉ちゃんに呆れてしまう。


「いやぁ、ホントお疲れ様~」


「あ、どうもです~って、だからそうじゃなくて!! 頼むから、もう響子になるような状況は作らないでくれ」


 これは俺の心からの精一杯のお願いだ。特にあの姿での外出は二度としたくない。寿命がどれだけ縮んだ事か。あの時琴音に見られて絶対ひかれたよな……


「はぁ……」


「おっと、ため息ついたら寿命が減っちゃうよ?」


「幸せだろ」


 姉ちゃんの冗談に、俺は半眼の眼差しでツッコんだ。


「あはは、響ちゃんどうしたの? 随分疲れてるみたいだけど」


「昨日の事をもう忘れたのか? あんなの、疲れずにはいられねぇよ。……にしても、今日は随分と晴れてるな」


 部屋の窓から外を眺めた俺は、ふと空を見上げた。雲一つない青空。


「さっきテレビで熱中症に注意しましょうって言ってたよ?」


「そんなに今日は暑いのか?」


 そう俺は言うものの、実際室内でも十分な暑さを感じる。この部屋にはクーラーなんて有難い物は付いていないので、物凄く暑い。ここ何年間の間は、扇風機で凌いできた。今年はまだ出しておらず、俺の部屋の押入れに眠って使われる日を待ち望んでいる事だろう。

 あいつとの付き合いも結構長い。俺が産まれた時には既にあったからな。


「どうしたの響ちゃん? 押入れの方見て」


「あ、ああ……そろそろ扇風機出さないと、いい加減夜も蒸し暑くなってきたからな」


「そうだね。ついこの間まではそうでもなかったのに……。これも温暖化の影響かな~」


 俺の机の椅子に逆方向に座った姉ちゃんは、背もたれに顎を置いたまま俺の言葉に返す。

 女の子にあるまじき両足を大きく開いている姿は、全く持ってはしたなくてだらしない。もう少し羞恥心という物を持った方がいい気がする。


「ところで、あいつらは何してるんだ?」


 この暑さだ。ネボスケなあいつらも、さすがに寝ていられなかったようで、俺が起きた時には既にその姿はなかった。恐らく、二階より涼しいであろう一階にいるのだろうが、なにぶん俺もさっき起きたため、知らなかったのだ。


「う~ん、多分下にいるんじゃない?」


「何でそんなに曖昧なんだよ」


 首を傾げて尋ねると、お姉ちゃんが頬を膨らませ、むくれた様子で口を開いた。


「だって、知らないもん。お姉ちゃん別にあの子達の面倒を見てるつもりないし」


 どうやら、機嫌を損ねてしまったらしい。こう暑いと、イライラするだけで汗をかいてしまいそうになる。


「とりあえず、一階に降りよう」


 いつまでもここにいたら蒸されてしまいそうだ。

俺は額の汗を腕で拭いながら階段を駆け下りた。リビングルームへと繋がる扉を開け中に入る。

刹那――。


「んなッ!?」


 とんでもない物を見つけてしまった。いや、とんでもない人物といった方が相応しいだろう。


「お前、なんて格好してるんだよ!!」


 声を荒げて俺は叫ぶ。暑いのであまり大声はあげたくなかったのだが、こればかりはあげずにはいられない。

というのも、俺の目の前にいたとんでもない人物というのは――。


「あ、響史おはよう♪」


 そう、瑠璃だったのだ。いや、それだけならばそこまで問題はない。問題はもっと別にある。それは、彼女のその服装にあった。

可愛らしいフリルがあしらわれた薄い桃色のそれは、彼女の豊満な胸をしっかりと覆い隠し、同じ装飾を施された逆三角形のそれは、彼女のお尻をこれまたしっかりと包んでいた。にしても、やけに布面積の少ない服装だ。これでは下着姿となんら変わらないではないか。いいや、違う。これは新種の洋服ではなく、本当にただの下着だったのだ。つまり、瑠璃は今現在俺の目の前で下着姿を恥ずかしがりもせずに晒しているのだ。

そりゃ、声を荒げるというものだ。まぁ、亮太郎なら別の意味で声を荒げそうだが……。


「ちょっと瑠璃ちゃん? 私の弟をそんな風に色仕掛けでたぶらかすのはやめてくれる? 悪い影響を受けたらどうするの!」


 いきなり俺の後ろから割り込んできた姉ちゃんが、腰に手を当てて瑠璃に注意する。


「んなもん受けるかッ!!」


「ええっ!? べ、別にわたしは響史のことをたぶらかそうだなんてしてないよ~。ただ暑かったからこの格好でいただけなのに……」


 姉ちゃんに怒られた瑠璃はというと、別段悪気がなかったのに怒られたためか、涙目で項垂れてしまった。


「はぁ、お前な……一応魔界の姫君なんだから、もう少し恥じらいとかそういう面目を気にしないのか?」


 呆れ返った俺は、嘆息混じりに瑠璃を見下ろす。おかしい、初めて会った時には裸を見せる事を恥らって――あれ? そういや、目隠しをしたのは俺自身で、あいつは別に平気とか言ってたよな……。あれ? もしかしてこいつ、はなから羞恥心なんてものがないのか?


「え? 別に……。それに、響史なら問題ないかなぁと思って」


 やはりこの有様である。まさか、この数ヶ月の間に俺へ対する耐性がついたとか? いやいやいや! それはいろんな意味でマズイだろッ!!


「あのな……一応俺も健全な男子高校生なんだ。あまりそういった格好をされると、よろしくないんだよ」


「そうなの? でも、服着たら暑いし……」


 手をうちわ代わりに瑠璃が首元を仰ぐ。


「ふぅ、喉渇いた~」


 上着のシャツの襟元をパタパタと動かして内部に風を送り込みながら、姉ちゃんは台所へと向かった。それを見送ってから、俺は再び瑠璃の方に視線を向け、口を開く。


「うちわ……ないのか?」


「え?」


 まるで、うちわを知らないという風に瑠璃が目を丸くする。うちわ知らないのか。


「ほら、これだよ」


 そう言って俺は、瑠璃に持ってきたうちわを手渡した。

というわけで、どうにか予告どおり七月中にあげられました。バトりますと言っていましたが、まずは主食より前菜からみたいな感じになってます。前菜の前半めちゃグロ?くなってますけど。しかも、第七話の時とは別人みたいなくらい大魔王がゲスです。だって、女の子の腹部に向かってうおりゃ!ですから。また、前菜には相応しくないくらいここでの会話って今後重要だったりします。あくまで予定ですが。また、護衛役に水連寺とルドラと二つ名前があることについても、今後。

まぁ、それはさておき、ようやく(ヒライス)くんの出番です。

カーリーの末裔も登場します。ええ、新キャラです。ホント、自分でもビックリなくらいキャラが多いですね。

そして、ようやく人間界サイドに来ました。ここからはコメディ重視です。季節は夏。そう、ちょうどリアルと同じですね……と、それはさておき、瑠璃の無防備さにはなんとも……。

二部に続きます。



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