第六十二話「王様ゲーム」・2
下ネタに注意してください。
「いいか? 番号を引いても何番か言うなよ?」
もう一度忠告すると、皆頷いて答えた。
「じゃあ、せーので引くんだぞ? せーの」
スッ。
皆が一斉に箸を引く。
「いいか? まだ言うなよ? ……王様だーれだ」
この言葉で本来なら王様が声をあげなければならない。
しかし――。
『……』
誰も答えない。
「おい、誰が王様なのか答えないと先に進まないだろうが」
「雪だよ」
そう言って割り箸の先の印を見せる雪。なるほど、確かに印の赤いマークがついてる。
てことは、雪が王様か。
「王様が命令していいんだぞ?」
「あ、うん。ええと……うーん、じゃあ一番と二番……ハグ」
え、それって……。
「えと、一番と二番は誰なんだ?」
「あっ、私いっちば~ん!」
あれ、何かデジャヴ。
「二番は?」
俺がぐるっと見渡すと、小さく手を挙げている人物を見つけた。麗魅だ。
「こりゃすごい偶然だな。一番二番がお前らなんて」
しかも、瑠璃に至っては連続で一番を引いてるからな。
「え~と、ハグすればいいんだよね? いい、麗魅?」
「え、ええ。いいわよ?」
確認を取る瑠璃に、少しぎこちなく麗魅が答える。
「えへへ、ハグ~♪」
「……」
嬉しそうな瑠璃に反し、麗魅はどことなく不満そうだ。いや、不満というか照れてるというか……これは、不機嫌? でも何で……。
そう思って二人をじ~っと眺めていると、ようやく理解できた。
ハグということは互いに抱きつく事だ。つまり、否が応でも密着しなければならない。そして、密着すれば必然的に当たる物がある。そう、胸だ。しかも、麗魅は胸がコンプレックスのようなもの。そこに瑠璃がくっつけばそりゃ不機嫌にもなるだろう。
結局一分が経過してからも、しばらく麗魅は不機嫌そうに眉尻を上げていた。
「じゃ、じゃあ次な」
再び割り箸をかき混ぜて引く。
えーと、俺の番号は……八番か。てことは、王様はこいつらの中の誰か……。
「私が王様よ」
そちらに顔を向ければ、そこにはニヒルのような笑みを浮かべた麗魅がいた。顔の陰を濃くし、口を三日月のようにしている。
ゴクリ……。
まさに、悪魔のようなその表情に俺は戦慄を覚えた。
「め、命令は?」
「そうね……八番は七番をおんぶしたまま、王様の肩揉み!!」
おい、俺に何か恨みでもあるのか。何でおんぶしたまま肩揉みしないといけないんだよ! 何かの訓練かよ!!
「? ……どうしたの? さっさと八番と七番、名乗り出なさい!」
ホントに王様みたいだ。はぁ、仕方ない。これも王様ゲームの醍醐味みたいなもんだしな。
「俺が八番だ」
「私、七番」
ふと七番と名乗る方へ視線をやると、ルナーが手を挙げていた。よりにもよってルナーをおんぶするのか……って、それってマズくないか?
「はぁ!? なんであんたが八番引いてるのよ!」
想定外と言わんばかりの顔で文句を言う麗魅。ちょ、それは酷くないか?
「いや、そんな事言われても……これが王様ゲームだからな」
仕方ないという表情を浮かべ麗魅に言うが、彼女はいまいち納得がいってないらしい。
「くっ、あんたなんかに揉まれるだなんて……最悪」
「おい、言い方に気をつけろ。誰かに間違った解釈されたらどうすんだ!」
某ある人に勘違いされそうな気がした俺は、即座に麗魅にそう告げた。
「はぁ? どう勘違いされるって言うの?」
「そりゃもちろん――」
「揉むって言ったらおっぱいよね!!」
『……』
手遅れだった。この人の口には一旦ガムテープでも貼っておく必要があるかもしれない。
「な、なななな……!? あ、あんた、まさか……肩揉む名目で、本当はそっちが――」
「違うわッ!! 露さん、誤解を招くので下ネタの発言は控えてくださいッ!!」
「ぶぅー! そんなコトしたら、私のアイデンティティが失われるじゃない」
いっそ、新しく新規に変えてくれればいいのに。
そんな事を思いつつ、俺は一向に先に進まないという雪からのお叱りを受け、諦念してルナーをおんぶした。
「あんたにおんぶされるだなんて、思ってもみなかったわ」
「俺だって思わなかったよ」
「いい? お尻触るんじゃないわよ!?」
「いや、どちらにせよこれから肩揉みしなきゃいけないんだから無理だろ」
でも、おんぶしてる状態で肩揉みなんかした事ないから、コツが分からないな。しかも、おぶさってる方も大変じゃないか? 本来おんぶする人に腕で支えてもらうのに、その支えがないんだから。唯一支えられるのは俺の首に回した腕くらい……あ、そうか。足を俺の腰に回せば問題ないな。
「ルナー、足を俺の腰に巻きつけろ。そうすれば大丈夫だ」
「な、あんたは王様じゃないでしょ? 命令しないでよね!」
王様でもない俺に命令されたのが癪に障ったらしく、ルナーが憤慨する。
だが、ここで引き下がるわけにもいかない。
「いいから! でないと、絶対にお前自分の体重支えられないぞ?」
「し、失礼ね! 私が重たいとでも言いたいの!?」
「いや、そうじゃなく……」
「……分かったわよ」
実際おんぶしてみて腕がきついと感じたのだろう。俺の言うことを聞いて腰に足を回してくれた。これで大丈夫だ。
「ちょっと、王様をいつまで待たせる気? 早く肩揉みしてよ!」
「あ、ああ……ちょっと髪の毛どけてくれるか?」
「お、王様に命令しないでよね!」
言葉ではそう言いつつも、麗魅は言われた通り背中より下まで伸ばした髪の毛を、前に流してくれた。これで肩を揉む事が出来る。
俺はルナーをおんぶした状態で麗魅の両肩に手を置いた。
「……ちなみに聞くけど、何分だ?」
「え?」
「いや、制限時間」
「……」
こりゃ、決めてなかったな。
尋ねても返事が返ってこなかったので、俺はそう判断した。
「そ、そうね。それじゃあ……じ、十分くらい?」
「わかった」
麗魅なりの気配りなのだろう。もしも三十分なんて時間を取りでもしたら、その間の他のメンバーの時間がもったいないからな。
まぁ、俺的にもその方が助かるからありがたい。
「んじゃあ、始めるな」
一応合図を送ってからタイマーで時間を計る。少々撫で肩の麗魅の肩を揉むが、そこまで凝っている訳ではないので揉むのが大変という事はなかった。親指と他四本の指で挟むようにして揉みほぐし、時折親指で円を描くように押す。すると、それが少し心地よいのか、くすぐったいのか、麗魅が声を漏らした。
「んんっ……はぁ」
どこか艶かしくはあるが、気持ちよさそうな声。そんな声をあげられると、何だか俺がイケナイ事をしている気がしてならない。現に、俺のすぐ背後から嫌な気配を感じるのだ。
「あ、あのすみませんルナーさん。後ろからビシビシ殺気を放つのはやめてくれませんかね?」
「あら、あんたが私の可愛い姪に手を出そうとしているからじゃない」
「いや、めちゃくちゃ誤解だろ! 俺は肩揉みしてるだけだぞ!?」
そう言って俺はルナーに濡れ衣だと主張した。しかし、未だルナーは怪しんだままだ。
だが、ここで肩揉みをやめたら麗魅に文句言われるだろうし、ここは殺気に耐えて肩揉みを続けよう。タイマーが示す残り時間は五分を切った。後五分頑張れば次のゲームに進める。にしても、やっぱ女の子って華奢な体してるんだな……肩幅もぜんぜん違うし、ここに来る前に修行とかしてたらしいけど、その割に筋肉質な体って訳でもないし。ほんと、女体の神秘とはまさにこの事だな、うん。
「……あんた、結構肩揉み上手いのね」
「え、ああ……」
少し考え事していたせいで、応答が適当になってしまった。
「ん、何かやってたの?」
「いや、よく両親に頼まれてマッサージしてたから……かな?」
ちょっと片手を放して頬をかきながら答える。すると、俺の言葉に興味を持ったのか、瑠璃が四つんばいで麗魅に近づいて口を開いた。
「そんなに気持ちいいの?」
「え? うん、まぁ……そこそこ」
少々ぎこちない返答だが、褒めてくれているのだと受け取っておく。
「いいなー、私もやってもらいたい」
「じゃあ、お姉さまも命令すればいいじゃない」
「そだねー♪」
麗魅の提案に、名案だと言わんばかりに嬉しそうな表情を浮かべる瑠璃。
普通に頼むという考えには至らないのか。
「十分って、結構長いのね」
ルナーの声がすぐ傍から聞こえてくる。まぁ、おんぶしているんだし無理ないか。
「……なんだ、キツいのか?」
「だって、ずっと手と足で体を支えてないといけないのよ? 密着してないと、結構つらいのよ」
そう言ってさらに首に回した手に力を込めてくる。いかん、背中に密着する物体に思わず意識が……。肩揉みに集中するんだ!
てか、夏場で薄着のせいかモロに感触が……くそぅ、異性をおんぶするって、こんなにも難易度高くて大変な物だったのか!
ピピッ、ピピッ♪
タイマーが十分経過した事を告げる。
「ふぅ、終わったっぽいな」
タイマーの残り時間がゼロである事を視認し、俺はルナーを下ろした。
「さて、じゃあ次始めるか」
軽く腕を回し、再戦の準備を整える。それを終えてから筒をテーブルの中心に置いた。これで準備完了。
「せーの!」
俺の合図で三回戦目が始まる。
「王様だーれだ?」
「……私、ですね」
物静かに声をあげるのは零だ。その手には、確かに王様の印がついた箸が握られている。
「ええと、命令……でしたね。では、こほん」
一つ小さく咳払いし、零が人差し指を立てる。
「四番は十二番にツッコんでください」
「つ、突っ込むだなんて、零ちゃん、そ……そんな大胆な!?」
「露さん、零に限ってそれだけは絶対ないんでやめてください」
愛も変わらず露さんが下ネタをぶっこんでくるので、俺は半眼でそう言った。
「ぶぅー。ちなみに私はいつでも突っ込みOKだからね?」
「え、十二番って……露さんなんですか?」
まさかよりにもよって十二番が露さんなのかと思い、俺は少し変な声が出た。
「もしかして、響史くん四番なの?」
「え、ええ……まぁ」
なんとも不吉な数字だよな。いや、この場合は不幸な数字というべきか。なんせ、四……し→死だからな。
しかし、露さんに突っ込みかー。まぁ、突っ込み所ありまくりな人ではあるが。
「そうなんだ」
「じゃあ、露さんが十二番?」
「ううん、私じゃないよ?」
「えっ?」
あれ? 違うの? てっきり俺はそうなんだと思ってたんだが……となると、誰が?
「……私だ」
声のする方に顔を向ければ、そこには鋭い眼差しをこちらに向ける霄の姿が。
「霄……何番って?」
「む? 何度も言わせるな、十二番だ」
ほぅ、霄は十二番かー。ん? 零が命令した番号って、四番と十二番……。俺と、霄……おっふ。何たる事だ、ホント四番はツイてないな。まぁ、本来ツイてない番号は十三なんだけど。てか、霄にツッコむのはまだいいとしよう。問題はどうやってツッコむ?
「なぁ、零――」
「今は王様ですよ?」
半眼の眼差しでジロッと睨まれる。うっ、結構厳しいな。
「お、王様……ツッコミって、物理的? それとも、言葉でオーケー?」
「う~ん、そうですね、そこまで考えてはいませんでした……命令する側もなかなか大変です。では、言葉――あっ、やっぱり物理的でお願いします」
何故、何故言い直した!? 言葉のほうでよかったじゃないか! 物理的って事は……「なんでやねん」って感じで手を使うって事だよな? それを……霄に? 死ねと?
もしそんな粗相しでかしてみろ、俺は――。
〈響史、貴様……ただの人間の分際でこの私に手をあげようとは、身の程知らずも大概にせねばどうなるか……その体で教えてやろう。そこに直れ、ぶった切ってくれる!〉
〈いやいやいや、ツッコめって言われたからやっただけなんだって!?〉
〈そのような事知った事か!! 三枚に卸してくれよう!!〉
〈さっきよりも物騒になってるって!!〉
〈覚悟っ!!〉
〈ぎぃやぁあああああああああああああああああ!!〉
てな事に……。おおぅ、それだけは何としてでも回避しないと!
「何してるんですか? 早くしてください」
「いや、いきなりツッコめって言われても……なぁ?」
俺は同意を求めようと霄の方を見た。が、彼女はそれをどう受け取ったのか、こう返してきた。
「うむ、普段ツッコミなどされた事がないからな。いい経験になるやもしれん、響史頼むぞ?」
「え、うん」
いかん、ついうんって言っちまった!!
というわけで二部。初めてやる王様ゲームに魔界の少女勢も興味津々。にしても、響史以外女の子で、命令内容によってはあんなことやこんなことになるわけで……なんとも、遺憾ですね。
しかも、王様になればどんなことでも命令できる。まぁ、初戦後は一回も王様引けてませんけど。そして、ほんとブレない露の下ネタ。妹達からもめちゃくちゃ引かれてますからねこの人。
てなわけで、三部に続きます。




