第六十二話「王様ゲーム」・1
今日は七月二十二日。俺の記憶が戻って一日が経つ頃だ。
今の所予定はそれと言って入ってはいない。では何をしようか。それを現在絶賛迷っているところだ。
う~ん、現在魔界の少女の連中が何をしているかというと、瑠璃と麗魅の双子姫は子供向けアニメを視聴し、護衛役は各々自分の事をしている。霞さんは爪楊枝を歯で挟んで上に向けたり下に向けたりして、露さんは何やら漫画を読んでニヤニヤしている。どんな内容なのかは聞くまい。霄は庭で相変わらず零と稽古試合みたいな事をしている。よく飽きないものだ。まるで、二人の周囲だけ毎度時間がループしてるかのように同じ光景を目にする。霊はぐた~っとして丸テーブルに顎を乗せている。霰はそんな霊の姿を微笑ましそうに眺め続け、霙はハンマーの大きさを調節して肩叩きしてる。痛くないのか? 霖は楽しそうに料理中。かといって昼前なのかというと、そうではない。確か、新しいメニューの開発がどうとか言ってたな。少し心配ではあるが、あの腕だから恐らく大丈夫だろう。雪は俺と遊んでいる。何をしているのかというと、携帯ゲーム機での通信対戦だ。少し手加減しているとはいえ、なかなか雪は強い。そろそろ本気を出してもいいかもしれない。
また、ルナーは相変わらず天井裏で何かをせっせと作っている。この家を崩壊させる事だけはしないでほしい。そういえば、響子になってもらうとか言ってたが、まだその催促はないな。もしかすると、忘れてるのか? いや、ルナーに限ってそれはないな。うん、ないない。
ちなみに姉ちゃんは一人暮らししていた家から出て実家――つまり、ここに戻ってきた。無論、俺の向かいの部屋にいる。今はちょっと出かけていていない。
魔界の少女の連中とは何人かとしか面識がなく、まだ全員分と挨拶は交わしていない。恐らく、今日辺りには交流するとは思うが。問題は、露さんだ。初対面の時はそこまでなかったが、男口調をやめて元の姉ちゃんに戻った今、どうなるかが分からない。下手したら――いや、その可能性は少ない。なにせ、姉ちゃんは武道を嗜んでいるのだ。いざとなったらそれで回避するだろう。もしくは、露さんが返り討ちに遭うかもしれない。
と、そんな事を考えて対戦の集中力を欠いていると。
『ぐわぁああああ!?』
ゲーム機のスピーカーから野太い悲鳴が聞こえた。どうやら、雪の扱うプレイヤーにトドメをさされたらしい。
「ああッ!?」
「やった、ボクの勝ちだね」
言葉は嬉しそうだが、感情があまり籠っていない。この辺り、やはり零に少し似ているな。雪だけに冷たい感じがする。
「あー、負けちまったか」
頭をかきながら参ったと降参のポーズを取る。
「これで十勝。対しておにいちゃんは零勝。やる気あるの?」
うッ、そんな不満そうな顔をしないでくれ。俺だってやる気はあるんだ。ただ、集中しきれないだけで。考え事ももちろんしている。だが、それ以外にも理由があるのだ。
「いっけー、そこだ! いいぞ、やれやれー!」
「何やってるのよ! そこはナーノ博士が作った発明品を使うトコでしょ!?」
などと、テレビに夢中になっている瑠璃と麗魅がうるさい事も原因なのだ。ほんと、テレビくらい静かに見れないのかと思ってしまう。確かに興奮してついつい声をあげてしまうのは分かるが、もう少し落ち着いて。でないと、せっかくの娯楽で体を休めているのに、余計に疲れちゃうじゃないか。
「おにいちゃん、他にゲームないの?」
「ゲームか……テレビゲームばっかりだと目を悪くしそうだしな」
と、雪の言葉にしばし俺が思案してると――。
「きゃっ!?」
突然ダイニングルームから悲鳴が聞こえてきた。ダイニングということは、霖か!?
「どうしたん――」
「大丈夫、霖ちゅわぁ~ん♪」
「きゃああああああああ!?」
俺のセリフを遮って露さんが霖の元へ馳せ参じる。同時、霖がさっきよりも大きな悲鳴をあげた。露さん完全に引かれちゃってるじゃないですか……。
それなのに、露さんはというと。
「やだ、霖ちゃんに嫌がられちゃった。でも、嫌がる霖ちゃんを無理やりっていうのも……ぐふふ」
いかん、ホントこの人危なすぎる。
「大丈夫か、霖?」
「うぅ……お兄ちゃん」
「何かあったのか?」
と、俺がふと足元に視線を向けると、そこには幾つもの割り箸が散乱していた。
「実は、調味料を取ろうとしてわりばしの入った筒に当たっちゃって……それで」
「そりゃ災難だったな、怪我はないか?」
一応頭を押さえていたのでたんこぶなんかが出来ていないかと確認する。だが、その心配はなさそうだ。
「うん、なんともないな」
そう言って俺は涙目の霖の頭を優しく撫でてやった。すると、霖は一瞬ビックリしたような顔をした後、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あー、響史くんズルいっ! 私の霖ちゃんなのにー!」
「物じゃないんですから……」
とりあえず、俺は下に散らばった割り箸をかき集めて元の筒に入れた。でも、一回落ちたし、使えないかな……いや、洗えば使えるか……ん?
と、その時、ふと円柱型の筒に入った数本の割り箸を見て、俺はある名案を思い付いた。
「そうだ、あるじゃないか! 面白いゲーム!!」
そう言って大声をあげた俺に、霖や露さん含めて皆がこちらを見やった。
「ど、どうしたのお兄ちゃん?」
不思議そうな顔をして霖が俺に尋ねる。
「ああ、こんだけ人数がいるんだ。どうせなら、皆で遊べるゲームをしようじゃないか! こいつを使ってな」
「これって、わりばし?」
俺が突き出した割り箸入りの筒を見て、霖が首を傾げる。
「なになに! これで何するの? 本来の割り箸の用途って言ったら、かきまぜたり、突っ込んだり、ほじくったりするのに使うわよね?」
嬉々として言う露さんに、思わず俺は半眼を浮かべてしまう。
「……」
「な、何で黙るの!?」
俺が無言なのが納得いかないようで、露さんが異議を唱える。
「いえ、何ででしょう。露さんが言うと、割り箸がいやらしい道具にしか聞こえないんですよね」
「ひどいっ! まるで私が常時変態みたいじゃないっ!!
「いや、事実でしょ!?」
「……」
そこは反論しろよ! 肯定しちゃったよ!! 認めちゃったよ!! ホントこの人大丈夫か?
「やん、そんな見つめないでよ」
もう手遅れだ。
「……とりあえず、皆集まってくれ」
俺の一言に、皆が今やっている事を終えて集まってきた。丸テーブルをぐるっと取り囲み、俺が何を言うのか楽しみ半分、不安が半分という感じだ。
「ここに割り箸がある。これで今からみんなで遊ぼうと思う」
丸テーブルの中心に割り箸入りの筒をポンと置く。
「割り箸を使って遊ぶだと? 繋ぎ合わせてチャンバラでもするのか? それならば木刀を用意した方が早いだろう」
訝しんだ霄が片眉を吊り上げて言った。
「人の話は最後まで聞くように! これで今から行うのは『王様ゲーム』だ!」
「王様ゲーム?」
「ちょっと待てよ、姫様なら二人いるけど王様なんていねぇぞ?」
霙が腕組みをして言う。瑠璃と麗魅も意味不明という様子だ。
やはり王様ゲームは知らないみたいだな。
「王様ゲームってのはな、この割り箸に番号を書いて、その内の一本に王様の印をつけておくんだ。そして、それらを筒の中から一斉に引いて王様の印のついた割り箸を引いた人物が王様になるんだ」
「王様になると、どうなるの?」
瑠璃の質問だ。きょとんとしてはいるものの、どこか楽しみという感じ。やりたいという意思がなんとなく伝わってくる。
「ああ、王様は番号を持った人になんでも一つ、命令する事が出来るんだ」
「な、何でもっ!?」
若干一名が異様な反応を示す。無論露さんだ。
「言っておきますが、危ない発言はしないでくださいね?」
「ええー。それじゃあ何でもじゃないじゃない!」
ぶーぶーとブーイングする露さん。この人、一体何を命令するつもりだ?
「とにかく、ルールは分かったか? まぁ、例としてはこんな感じだ。一番の人と五番の人が握手をする……みたいな」
「ふむ、なるほど……至って簡単なゲームのようだな」
俺の挙げた例に、霄が顎に手をやってふぅむと頷く。
「ああ、簡単だろ?」
「確かに、面白そうね」
麗魅も珍しく参加する方向らしい。
と、その時。
「へぇ、面白そうな事じゃってるじゃない」
そう言って俺の背後から声をかけてくる何者か。
そちらに目を向ければ、そこには腰に手を添えたルナーが仁王立ちで俺を見下ろす姿があった。
「ルナー、ラボで何か作ってたんじゃなかったのか?」
「ええ、けどちょっと煮詰まっちゃってね。気分転換に降りてきたら、何だか楽しそうなことしてるから。いいわね、私も参加させて?」
やけに今日はノリがいいな。煮詰まってるって言うから少し不機嫌なのかと思ったんだが、そうでもないらしい。
「いいけど、珍しいな。こういうのやらないと思ってた」
「失礼ね、こういうの結構好きよ? 一度やってみたいと思ってたのよね」
座布団に座り、位置を調整しながら言う。
「じゃあ、準備するか。ええと、結局何人やるんだ?」
人差し指を出して一人ずつ人数を数えていく。……十三人か。割り箸は……うん、足りるな。
俺はセロハンテープに油性マジックで数字を書き、再び筒に戻していく。
「この赤い色が王様の印だからな?」
「なるほど、王位継承の争いの中で流れた血で塗り染められし色か。うむ、相応しいな」
「ちょっと待て、この赤にそこまで深い意味はないから!!」
霄が何やら軽く中二っぽい発言をし出すので、慌てて俺は訂正した。
「むっ、何だ、そうなのか。面白くないな」
「ここにさえも面白さを求めるか!?」
まさか、王様の印如きで面白さを要求されるとは思ってもみなかったので、俺は少し驚愕した。
「とりあえず準備できたな」
一応数を確認し、それから筒を軽く揺する。これでバラけたはずだ。
「それじゃあいっせーので引くぞ?」
「うん」
「いつでもいいわよ?」
それぞれ目配せし、タイミングを見計らって割り箸を引く。
と、その時。
「これかなー」
「ちょ、ちょっと待った!」
俺は慌ててストップをかけた。
「な、なになに!? どーしたの?」
急に待ったを言われて瑠璃が目を丸くする。
「おい、筒の中覗いたら王様がどの箸かバレるだろ!」
「あっ、そっか。えへへ、ごめん」
言われて気付いたのか、瑠璃が頭をかく。
ホントこいつは天然というか、抜けてるというか。
「じゃあ、もう一回混ぜるぞ?」
瑠璃から箸を受け取ってもう一度かき混ぜる。
これくらいかな……よし。
十分混ざったと思ったところで筒をテーブルの真ん中に置く。
「いいか? 最初に忠告しとく。身を乗り出したりして箸を引くのは禁止。ちゃんと腕だけ伸ばして取るように。いいな?」
あらかじめ忠告しておけばたぶん大丈夫だと思った俺は、そう皆に告げる。
が――。
「お兄ちゃん、それだと私と雪ちゃんが届かないよ」
「おにいちゃんはボク達を仲間外れにするの?」
「あっ、ごめんごめん。そうだったな……それじゃあ、二人は覗き込まないように取ってくれ」
多分この二人なら不正はしないだろうと信じて、俺は許可を出した。
「うん、それなら届くよ」
「これで安心」
二人は互いに頷いて位置についた。片手を丸テーブルについて少し身を乗り出す態だ。
「じゃあ改めて……せーの!!」
俺の合図をタイミング代わりに、皆が一斉に箸を引いた。
「いいか? 引いた番号は――」
「あ、私一番だ! いぇーい、いっちば~ん!」
「くっ、十二番だったか。十番内でないとランキングに載らないではないか!」
「十番か。これで、どうなるの?」
「お、六番だ。あたし六女だし、偶然にしては結構ラッキーだな!」
「お、お姉さまは何番でしたの?」
「え? えーと、七だけど」
「きゃーっ、わたくしも七ですのよ!?」
「え? 同じ番号はないはずじゃ……」
「わたくし、七女ですもの!」
「……」
「なんや、三かいなー」
「あ、私九だ!」
「えぇと、十一」
「ボク、四……不吉」
「二……くっ、何だか所詮B級はA級に勝てないみたいに、バカにされてる気分だわ」
「五でした。あれ、でもこれって……」
俺の言葉を遮って、瑠璃が声をあげ、次いで霄、麗魅、霙、霰、霊、霞さん、露さん、霖、雪、ルナー、零が番号を各々口にしてしまう。
てか、こいつら本当にルール理解する気あるのか? 番号自分で言ってどうすんだよ!!
まぁ、零はなんとなく気付いたみたいだけど。
「お前ら、番号言ったら意味ないだろ」
『あ』
俺の呆れた声に、ようやく気付いたらしい魔界の少女たち。
「あはははー。ごめんね、一番だったからつい」
瑠璃が申し訳なさそうにしながら頭をかく。
「ちなみに、今引いた人の中で王様って誰だったの?」
麗魅の質問だ。一応誰が王様だったのか気になるのだろう。
「俺だよ」
半眼の眼差しで俺は答えてやった。
「ごめんね。もう一回やろ?」
再度瑠璃が謝って再戦を求める。
「いいか? 今度は気をつけろよ?」
「うん」
瑠璃だけしか答えてないけど皆理解してんだろうな?
そう思いつつ、俺は箸を筒に入れてかき混ぜた。これで準備完了だ。
というわけで、五月中にもう一話投稿できました。そして、ようやく待ちに待った(?)夏休み編です。ほぼコメディー路線で行きます。
今回ちょっと長くなったので六部構成です。投稿が遅くなったのもそれが理由……。
とりあえず、今回はサブタイ通り王様ゲームをお送りします。引き続き二部をお楽しみに。




