第六十一話「それ以前の話」・4
俺は仕方なしに、とりあえずめーちゃんの名前よりも彼女との出来事をいくらか聞いた。なかなか彼女との出会いも壮絶だったっぽいが、確かに言われてみればそんな気もしてきた。それ以前の記憶の鍵が外れたからこそ感じる事なのだろう。
「どう? 大丈夫そう?」
「ああ、めーちゃんの事についても大分回復してきたっぽいし、たぶん大丈夫だと思う」
「本当に名前は思い出せなくて大丈夫なの?」
少し心配性な面があるのか、雛下が眉尻を下げて尋ねる。
「ルナーはそう言ってた。一応あいつの頭は信用出来るから大丈夫だと思う」
失敗ばかりではあるが、今回俺をいろいろと救ってくれた恩があるしな。
「お話は終わったかしら?」
母さんだ。エプロン姿で両手にお皿を持っている。どうやら用意していたのは、母さん手作りのとろ~りチーズハンバーグらしい。料理の完成した絵を見て思い出した。
そうだ、思い出した。確か、昔雛下やめーちゃんが俺の家に来た時に母さんが試作だとかで振る舞ったんだ。ソースの酸味なんかがよく効いてて美味しかったのを覚えている。いや、正確には覚えていたのを思い出した。
なんだか、変な日本語だが事実だから仕方ない。
「少し大きめに作っちゃったんだけど、大丈夫?」
「はい、喋りすぎてお腹ぺこぺこなので、へっちゃらです。いただきます♪」
母さんから料理の乗ったお皿を受け取った雛下が、満面の笑みで食事の開始を告げる。
俺もすぐさま母さんから料理を受け取って食べ始めた。
「どう、響史。記憶は戻ってる?」
母さんの質問だ。やはり、愛する息子の状態が気になるのだろう。
俺は口内に入っている物を咀嚼して嚥下すると、口を開いた。
「ああ、殆ど戻ってきてる。後は、細かい部分の補足だけだ。多分そこらへんはアルバムの写真とかを睨めっこしながら説明をくれれば、思い出せると思う」
「そう、初期化される寸前の一週間に記憶領域に隙間が出来る。この七日間を無駄にするわけにはいかないものね」
母さんが朗らかな笑みを浮かべてそう言う。その通りだ、この一週間の皆の頑張りを無に帰さないためにも、俺はここで諦める訳にはいかない。何としてでも、俺は記憶を取り戻さなければならないのだ。
「お母さん、ちょっとお父さんを呼んでくわね」
そう言って立ち上がる母さん。居間にいる父さんに昼御飯が出来た事を知らせに行くのだろう。
「あぁ、そうそう。あの子たちも食べるんでしょう?」
踵を返して俺にそう問うてくる母さん。
「あ、いいよ。大変だろ? 霖がいるから、やらせるよ」
「あら、でもずっと迷惑かけてたんでしょう? それに、母さん二十一日には隣町に帰るから、最後にお礼くらいさせてよ」
「でも、昨日も晩御飯を……」
「いいからいいから」
俺が申し訳ないという表情を浮かべると、母さんが気にしないでという風に手を振って笑みを浮かべた。
「あいつらは、和室の方で食べさせてくれ」
「ええ、分かったわ」
母さんは俺が何のためにあいつらを和室の方へ行かせたのか分かっているのだろう。
何故あいつら――魔界の少女達をリビングルームに来させないのかには理由がある。
理由は至って単純、これから従姉妹や家族も交えて記憶の補足を行うからだ。
無論、雛下にも手伝ってもらう。少し迷惑かもしれないが、頑張ってもらわなければ仕方ない。
「響史、どうだ調子は?」
そう言ってやってきたのは、姉ちゃんだった。
と、俺は姉ちゃんの方を見て思わず吹き出しそうになった。
なぜなら――。
「ね、姉ちゃん。ほっぺ、ソース付いてる」
「んなっ!? もう、早く言いなさいよね!!」
不意打ちをくらったのか、恥ずかしさのあまりか、姉ちゃんの口調が声のトーンと共に一瞬昔に戻った。
が――。
「ったく、俺とした事が油断したぜ」
残念ながら戻ってしまった。
「あら、琴音さんも来ていたのですね」
「お久しぶりですわ、琴音さん」
「めちゃくちゃ、久しぶりじゃん。こうしてちゃんと会うのはいつ以来だっけ?」
「あっ、琴音お姉たん♪」
姉ちゃんに次いで、リビングへ入室を果たす茜従姉ちゃん、姫歌従姉ちゃん、燈、奈緒。
後は居間から父さんと母さんが戻ってきたら役者は揃う。じいちゃんは忙しいから従姉妹四人に代弁してもらい、亮祐の事は父さん母さんの二人から聞く。
雛下にはめーちゃんの事だ。
と、扉が開いて今から父さんが戻ってきた。
「すまない、待たせてしまったな」
「いえ、叔父様。私達は先にお昼を頂きましたので、どうぞ。その間に、私達で話を進めておきますわ」
「そうか、助かる」
茜従姉ちゃんの仕切りっぷりは相変わらずすごい。
「うふふ、響ちゃん。ちゃんと記憶は取り戻しつつあるのかしら?」
「あ、ああ……一応」
「一応? 確実ではないの? あら、期待外れね。響ちゃん、私達の頑張りを無駄にする気?」
「いやいや、ホントちゃんと思い出してるから! ただ、ちょっと不安なだけで……」
いかん、茜従姉ちゃんの迫力が凄すぎて目が合わせられない。
「記憶の補足……だったかしら?」
「ああ、後もう少しで思い出せそうなんだ。だから、細かい部分の説明をしてもらえれば、思い出せると思う」
俺は、アルバムを広げながらそう説明した。 今日を含めて後五日。補足にどれほど時間がかかるかは分からない。ただ、二十一日までには記憶を取り戻さなければ! それに、二十一日には両親が隣町に戻ってしまう。
何でも残った仕事が多いそうで、まだ本格的にこちらに戻ってくる事が出来ないらしい。
ちなみに父さんが勤めているのは、じいちゃんの会社の系列の課長。普通ならば社長クラスではないのかと思うかもしれないが、父さんは親のコネというのがあまり好きではないらしい。なので、図々しく社員に当たり散らす事もない。そのお蔭か、社員からもなかなかの人望を得ているそうだ。
と、少し話が逸れてしまった。
「それじゃあ、このアルバムから補足していきましょうか」
俺が広げたアルバムを自分の見やすい方へ向けた茜従姉ちゃんが口を開く。
こうして俺のそれ以前の記憶と空白の四年間の記憶の補足が始まった。
あれから四日が経過した。みんな結構体力精神ともに疲弊しており、限界を迎えていた。
しかし、これで最後のアルバムの最終ページだ。
「ふぅ……これが最後のページね」
母さんがそれ以上ページがない事を確認して安堵の溜息を吐く。そりゃそうだ。四日もアルバムの写真について語っていき、足りない部分を補っていったのだから、疲れるのも無理はない。話す方は勿論の事、聴いている俺の方もなかなか大変だった。
なにせ、昔話をされる度に頭痛の度合いが増していき、最悪の時には痛みと気持ちの悪さのあまり、嘔吐してしまったのだから。
「ほんと、皆……迷惑かけて、ごめん」
こうして俺が謝るのも何度目になるだろう?
「何言ってるんだ、響史。これは俺達にとっては償い、いや……お礼といってもいいんだ。お前は身を挺して唯を守った。その栄誉に比べれば、これくらい何ということはない。だから、謝るな」
そういう父さんの顔は真剣ではあるものの、やや疲れ切っている様子だった。
やはり、ここ数日間の疲労が祟っているのだろう。
「大丈夫なのか? 隣町に戻って倒れたりしないでくれよ?」
「父さんを甘くみるな。こう見えても体力には自信がある。それに、響史の記憶が戻るのも時間の問題だ。このページが終わればすべて終わる」
そうだ、このページで俺の記憶は完全に復旧する。一日の猶予を持って完了するんだ!
そう思うと、途端に達成感が俺の心を満たした。
今までの苦労が、全ての頑張りが実を結ぶんだ!
「よし、後もうひと頑張りだ!」
姉ちゃんがテーブルに突っ伏していた顔を起こし、気合を入れようと頬を叩く。
「この写真は……」
そこに写っていたのは、俺ととある一人の女性。二十歳前後に見えるその女性は、少し不健康にも見えるくらい色白で、母さんに似たようなというより、殆ど同じの赤毛に近い茶髪をしていた。フワフワとした髪の毛を腰辺りまで伸ばし、赤ん坊の俺を優しく抱いて穏やかな表情を浮かべている。ただ少し気になるのは、頭に包帯を巻いて病室のベッドの様な場所にいる事だった。
「か、母さんこれは?」
俺は思わず母さんに質問してしまっていた。何となく、写真の人物が母さんに見えたからだろうか?
だが、答えは返ってこなかった。一体どうしたのだろうと顔を上げると、母さんはまるで思い出したくない事を思い出したかのように絶望に似た顔をしていた。何か、とてつもない悲劇にでも見舞われたかのような表情に、俺はそれ以上声をかけられなくなっていた。
「ご、ごめんなさい……ちょっと席を外させてちょうだい」
「唯奏、付き合わなくて大丈夫か?」
父さんが心配そうに声をかける。母さんは、俺達に背中を見せながら「問題ない」とそのままリビングルームから退室した。
「お、俺……何かいけない事言ったかな?」
「この写真に写っている方に心当たりでもあったんですの?」
「さぁな」
俺が申し訳なく頬をかいていると、姫歌従姉ちゃんや燈も意味が分からないという風な顔をしてそう口にしていた。
やはり、皆知らないんだ。でも、一方で父さんは全て理解しているような顔をしている。
何かあるんだ。でも、本当にこれを知らないといけないのか? 聞いてはいけない、踏み込んではいけない領域というものが、人には必ずとは言わないまでも存在するというのを聞いた事がある。これがそうなんじゃないか?
ふとそう思い、俺は尋ねようかしないべきか逡巡した。
だが、父さんが先に言葉を発した。
「響史、さすがにこれにお前を関わらせる訳にはいかない。まさかこんな所にまだ残っていたとは、俺も失念していた。皆、すまない。これに関しては忘れてくれ……」
「そんな! それじゃあ響ちゃんの記憶はどうなるのよ!!」
父さんの言葉に慌てて姉ちゃんが声を荒げる。
「唯……そうだな。これが原因で響史の記憶が蘇らなかったら元も子もない……くッ、どこまでもあいつらは俺達の邪魔をする」
あいつら? 誰の事だ?
「……この女性は、『樂調 枝吹』と言ってな、響史は覚えていないと思うが、この人はとある事件に巻き込まれて数年もの間意識不明だったんだ。だが、響史が産まれた日、奇跡的に意識を取り戻した。その記念として、この写真が撮られたんだ」
それを耳にした途端、再び頭痛が俺の頭に襲いかかってきた。しかも、今までよりもまた激しい痛み。頭蓋をトンカチのようなもので殴られる感覚。そんなもの体感した覚えはないが、もっと近しい物なら覚えている。いや、忘れていたのを思い出した。
そう、運命の日――なつい事件、七月二十一日。あの男――今は亡き殴頭凶哉に金属バッドで殴られたあの鈍痛だ。
瞬間、俺は今まで欠けていた記憶の欠片が完成し、今までに築き上げてきた思い出になるのを感じた。
「……ぅ、ぁ」
「大丈夫か、響史!?」
「響ちゃん!?」
「響史くん!」
「響ちゃん!」
「響史っ!」
「兄ちゃん!」
「お兄たん!」
父さん、姉ちゃん、雛下、茜従姉ちゃん、姫歌従姉ちゃん、燈、奈緒が声をあげて俺の心配をする。いや、心配というよりは記憶が復活したかの有無確認だろう。
「……思い出した、全部。何もかも……そうだ、俺はなつい事件で記憶障害を負って、それからの四年間と障害を受けるより以前の記憶を失っていたんだ。でも、すべて思い出した。めーちゃんの事も、雛下の事も……」
「思い出したのか、全部?」
父さんが少し信じられないという風に問う。
「ああ、父さん達が四年間の間いなくなっていた時も、俺は意味も分からず一人暮らししていた。てっきり捨てられたんだと思ってた。けど、違ったんだ。あれは、俺が一時的記憶欠落障害を負って、それを見兼ねたからこその行動だったんだ」
「ああ、そうだ。どうやら、本当に思い出しているようだな。少々タイムラグもあるようだが、問題なさそうだ。よし、いくつか質問をしてみよう。響史、小学六年生の時のクラスを覚えているか?」
確かにこの質問ならば、今までの昔話で話されていないから問題ない。もしもここで俺がクラスを当てれば本当に思い出した事になる。無論俺は覚えている。そうとも、覚えているんだ!
「六年二組だ」
「担任の名前は?」
これも話されていない。が、思い出せる。
「柳橋敬一先生」
「正解だ」
今のところ二問中二問とも正解している。みんな驚愕の表情を浮かべていた。答えられた俺が凄いんじゃない、思い出した事に感動しているんだ……と、思う。
「本当に思い出したんだ……響ちゃん」
「ああ、今まで辛い思いさせてゴメン、唯姉ちゃん」
「ううん、いいの。響ちゃん……やっと、やっとお礼が言える。私を守ってくれて、ありがとう」
そう言って姉ちゃんの浮かべる満面の笑みは、あの時一番印象に残った姉ちゃんの笑顔よりも、とてて輝いていて印象に残るものだった。
「響史くん……本当に、記憶が戻ったんだね?」
「ああ、今までいっぱい迷惑かけたな。ほんと、お前には感謝してもしきれないな」
目尻に浮かぶ涙の滴を人差し指で拭う雛下に、俺は頭をかきながら言った。
「ううん、いいんだよ。頼まれてやった事じゃないし。私が自分でやった事だから。すんごく、嬉しいよ。思い出してくれたんなら……もう、言ってくれてもいいんじゃないかな?」
何の事だ? そんな無粋な事はもうしなくてもいいだろう。だって、俺は思い出したのだから。こう呼びかけたら同時に彼女に辛い出来事を思い出させるからこそ遠慮していた。でも、もう必要ないんだ。
だから、彼女が待ち侘びていた言葉を言ってあげよう。
「……琴音ちゃん、いやもう高校生だし、これからは琴音って呼んでもいいか?」
「~~~~~~っ!!」
俺は恥ずかしくなって思わず目をそらしてしまったが、それは同時に呼ばれた雛下――もとい、琴音の方も同様だったようだ。
ぼんっと一気に顔を紅潮させて両頬に手を添える。それからぶんぶんと首を振って俺の方を見た。
「も、もう一回……言って」
「こ、琴音」
「きゃ~~~~~~~~っ!!! うん、うん、嬉しいよ、響史くんっ!! やっと、やっと下の名前で呼んでくれたね!」
余程嬉しいのだろう。雛下は屈託のない天使のような明るい笑顔でそう言った。
「き、響史……」
そう俺に恐る恐る呼びかける方に顔を向ければ、そこには燈が立っていた。何を言わんとしているかは、何となく分かっている。小さい頃からよく一緒にうちで遊んでいたんだ。
「悲しいなー、小さい時みたいにお兄ちゃんって呼んでくれないのか?」
「も、もうそんな年じゃないし! そ、それに……同い年なんだから別にそんな呼び方じゃなくてもいいじゃん」
腕組みをしてそっぽを向いてしまう燈。だが、すかさず俺は一言。
「でも、燈の誕生日はまだ先だろ?」
「うっ、うっさいなー!」
図星を言われて顔を赤くする燈に、思わず俺はもっとからかいたくなってしまう衝動に駆られる。
しかし、それより先に燈が小さく口を開いた。
「……兄ちゃんの、バカ」
「ん? よく聞こえないなー、もう少し大きな声で言わないと聞こえないぞ?」
「うっさい、兄ちゃんのアホ!」
「それくらい大きかった聞こえるな、えらいぞ」
俺は昔みたいに燈の頭に手を置いて撫でてあげていた。
「うっ、な、撫でんなよ」
「遠慮すんなよ。小さい頃は喜んでただろ?」
「そ、そんなの思い出さなくていいんだよ!!」
「ひどいなー、せっかく思い出したのに」
もちろん内心で燈が喜んでいるのは理解している。それに、ちゃんと彼女なりの優しさは伝わっている。いつもなら暴力を振るう燈が、珍しく手をあげないのが何よりの証拠だ。
こいつもちゃんと成長しているんだ。
「お、お兄たん……」
指をもじもじさせながら奈緒が俺を呼ぶ。
「待たせたな、奈緒。今までごめんな、寂しい思いさせて。その分これからはたっぷり遊ぼうな?」
その場にしゃがんで奈緒と同じくらいの目線に合わせそう言うと、嬉しそうに口を開いた。
「うん、お兄たん大好き♪」
奈緒は、今まで曇らせていた表情を一気に吹き飛ばすかのように、晴れやかで純真無垢な表情を浮かべた。
「あら、響史……記憶が戻ったの!?」
「ああ、母さん心配かけて悪い」
「ううん、良かったわ。これで安心して隣町に戻れるもの。本当に、良かった」
これですべてが解決した。いや、大きな膿が一つ取り除かれたというべきか。まだ解決していない事はあるのかもしれない。ただ、それを掘り返さずにそのままにしておいた方がいいから、触れないだけで。
兎にも角にも当面の事件は解決した。後遺症の枷は全て解除されて、俺は晴れて自由の身だ。
次の日、両親が隣町へ戻る前に、病院に赴いて係りつけの医師に一連の話をした。
医師曰く、後遺症は一部を除いてなくなったそうだ。ただ、人物名が覚えにくいのは変わらないそうだ。これが一部。
本当にどこまでもはた迷惑な話だ。でも、覚えにくいだけで覚えられない訳じゃない。それに、記憶が戻っただけマシと考えよう。
人生前向きに考えなければいいことない。それに、すっかり忘れていたが既に夏休みに入っているのだから、夏休みを満喫しようじゃないか。ここしばらく構ってやれなかったし、魔界の少女の連中と遊んでやるのもいいかもな。
そう考えると、少々遅れた俺の夏休みのこれからが楽しみでしょうがない。学校の連中も心配してるかもしれない。特に星空先輩達には迷惑かかったしな。ホント、昔の姉ちゃんと雰囲気が似てたからって恥ずかしいにもほどがある。まぁ、星空先輩のアレと比べればどっこいどっこいかな?
「それじゃあ、響史。家の事は頼んだぞ? いいか? 絶対に過ちは犯すなよ?」
「わ、分かってるって! 秋には学園祭があるし、ちゃんと来てくれよ?」
「ああ、仕事を無視してでも来てやるから心配するな」
いや、無視はダメだろ。ちゃんと許可を得ないと。
「響史、栄養面には気を付けて料理を作るのよ? 偏った栄養ばっかりだと健康にも悪いんだから。それに、カッコいい男になれないわよ?」
いや、料理とカッコいい男は関係なくないか?
「母さんこそ、体に気をつけてくれよ?」
「ええ、ありがとう」
「お二方、出発しますよ!」
ヘリコプターの操縦士が声を張り上げる。
「はいっ!!」
「またな!」
「じゃあね!」
「ああ!」
「唯、響史の事頼んだわよ?」
「任せといて!」
母さんの言葉に、姉ちゃんが風で靡く前髪を手で押さえながら答える。
そして、ついにヘリコプターが飛び立った。
バララララッ! とプロペラ音が響き渡り、強風が俺たちを襲う。
ヘリコプターは、高く飛び上がると隣町――黎明区方面へと行ってしまった。
「行っちゃったね」
「あ、ああ行っちゃったな。ていうか、姉ちゃんその口調でいいのか? あの男口調は?」
「うん、もういいよ。響ちゃんが記憶を取り戻してくれたし、それに……」
と、そこで一旦言葉を区切る唯姉ちゃん。
「ん? どうかした?」
「今、誰もいないよね?」
「ああ、病院の屋上のヘリポートだし、誰もいないな」
なんでそんな事を?
「あのね、お礼が言葉だけなんて悪いじゃん? 響ちゃんは体を張って守ってくれたんだから。だから、私も何か体を張らないといけないかなーって」
「え、でも」
「あ、それとも……体で払ってほしい?」
と、いやらしい笑みを浮かべて姉ちゃんが言う。
「んなッ!?」
「ふふっ、冗談だよ冗談」
そういって小さく笑う姉ちゃんに、俺はからかわれたと少し腹をかいた。
「そんな冗談ばっかり言ってると、本気にするだろ? 本当にしてもらうからな!?」
「え?」
「あ……」
いかん、からかった姉ちゃんに腹かいて思わず口が滑っちまった。どうしよう。
「……」
顔を俯かせてしまう姉ちゃん。いかん、怒ったか? それとも、ひいた?
どちらにせよ俺の印象は最悪だろう。と思っていると。
「……いいよ?」
「えッ?」
「そうだなー。じゃあ、キスしてあげる」
「で、でも……そんな。姉ちゃん、彼氏とかいるんじゃ……」
「やだなー、そんなのいないよ。それに、響ちゃんのせいでずっと男口調だったんだよ? 第一、私ガサツだからいないいない」
そういう姉ちゃんに、俺は何かを感じた。でも、それが明確にわからない。だから、何とかして理解しようと考えた。
と、その時――。
ちゅっ。
「――ッ!?」
不意打ちをくらった。俺は、姉ちゃんからほっぺにキスをされた。
「これで、いいかな? もう少し大胆な事してあげてもいいけど、今回ばかりはこれで勘弁ね? 唇は遠慮した……たぶん、そこにしたい子が別にいるから」
「え? それってどういう」
「あっ、ほらもうこんな時間……早く帰ろう?」
「あ、待ってくれよ!」
姉ちゃんの言葉の意味がよく理解出来ず、俺はあたふたしていた。姉ちゃんの考えている事はたまに分からなくなるな。
「暗くなってきたね……怖くない? 手、繋いであげよっか?」
俺の顔を覗き込んで姉ちゃんが問う。
「いいって、子供じゃないんだから」
「遠慮するなよー、若造! 女の子の手を握れるなんてそうそうないよ? 今の内に訓練しとけば? いざという時、役立つかもよ?」
「姉ちゃんが繋ぎたいだけだろ?」
「失敬な! ま、それでもいいや。ね、繋ごう?」
なんで今日の姉ちゃんはこんなにも甘えてくるんだ? それとも、今まで俺に冷たく当たっていたからかな? いかん、今までのをツン、今のをデレだと考えたら俺、完全に姉ちゃんに邪な感情持っちまいそうだ。
などと考えてる間に俺は家に到着した。
結局その日の夜は、少し悶々して眠れなかった事は言うまでもない。
明日は七月二十二日。これからたくさん夏休みの思い出を作ろう!!
というわけで、祝!過去編終了でございまーす! いやはや、シリアス回とはこれでしばらくおさらばです! これからはコメディ攻めで!! あと、今回でちょっとキャラが変わった人物が二名ほどいますね。唯と燈。これからこの二人がどうなっていくのか。そして、ここでまたもや新キャラ。枝吹さん。苗字に見覚え、もしくは聞き覚えのある人はちょっと考えてみてください。この人も、後々絡んできます。あ、敬一先生はモブです。
というわけで、両親も帰ってしまい再び響史は魔界の少女達と同棲することに。
てなわけで次回予告。みなさんお待ちかね?夏休み編に突入! 次回の予定は、魔界の少女達との絡み、家の中でいろいろ命令する遊びをします。
更新予定は五月中を頑張って目指す! お楽しみにー! 感想も待ってまーす!




