最初のてんぷれ②
「おいおい、オッサンとガキが迷い込むような甘い場所じゃねえんだよ、ここはよぉ!」
大柄の男が粗暴に藤三郎の肩を突いた、その刹那――。
藤三郎の気配が静かに、だがあきらかに変化した。
腰の刀に手すら掛けない。ただ、すっと男の眉間に向けられた視線と、わずかに沈んだ半身の構え。
幕末の血煙立ち込める修羅場を幾度も潜り抜けてきた本物の「殺気」が、ギルドの一角を瞬時に凍りつかせた。
(……なんだ……このオッサン……ッ!?)
男の脳裏に、己の首筋を冷たい刃で撫で回されているような強烈な錯覚が走る。
動けば切られるーー本能が激しい警鐘を鳴らした。
「ひ、ひぃ……っ!?」
男は言葉すら失い全身から滝のような冷や汗を吹き出しながら、ガタガタと体を震わせ思わずその場にへたり込む。
一言も発せず、刃すら見せずに眼光だけで荒くれ者を屈服させた光景に、周囲の冒険者たちは一斉に息を呑んだ。
「な、なんだあのオッサンは……!?」
「手も出してねえのに、あのCランクの斧使いが一瞬で落ちたぞ……!?」
「レベル1のスキル無しだろ? まさかステータスを偽装してやがるのか……!?」
「待て、さっきの受付での『測定不能』ってのは……魔導具の限界を超えてたってことかよ……!」
手のひらを返したようにザワつくギルド内。 その静寂を割るように、奥の重厚なドアが開き、ド迫力の巨漢が現れた。
顔に大きな傷痕を持ち、腰に巨大な大剣を差した男――この冒険者ギルドを統括するギルドマスターである。
「そこまでにしときな、威勢だけのヒヨッコ共」
マスターは地響きのような声で周囲を黙らせると、ずいと藤三郎の前へ歩み寄った。
その鋭い眼光が藤三郎の足腰の据わり方、無駄のない息遣い、そして静かな佇まいをじっくりと検分する。
「筋力、技量が測定不能……水晶の故障かと思ったがその殺気ーーおまえさん、あきらかにただ者じゃあねえ。相当な修羅場を潜ってきたと見るが?」
「……修羅場、でござるか。まあ、幾度か死線を越えてはまいったが」
藤三郎が静かに答えると、ギルドマスターは満足そうにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ、良い度胸だ。丁度街の近くの街道沿いに手強い魔物が出没してな。仕事を探しているならおまえさん、やってみんかね?」
「どうしますか、藤三郎様ァ?いきなりの魔物退治ですが、受けちゃいますかァ?私たちお金もありませんし、最初はもっと簡単な依頼のほうがいいかもですよ」
「ぱるみ殿、魔物退治というのは先刻の妖のような奴を切ればいいのでござるか?」
「そうですが、マスターが手強いというのですからもっと厄介な魔物かもですゥ」
二人のやりとりを聞いてマスターが口を挟んできた。
「じょ、嬢ちゃん、この御仁もうどっかで魔物とやりあったのかい?」
「そうなんですゥ。この方さっきオーガを一撃で真っ二つにしちゃったんですよォ」
「な、なんだと!?」
パルミのその言葉にマスターだけではなく、ギルド全体がざわめく。
「でも私たちお金もないですしィ、もっと簡単な依頼の方がいいんじゃないかなぁって…」
「な、なんだそんなことかーーー」
ギルドマスターは腰の革袋を外すと、ズシリと重い音を立てて藤三郎へ放り投げた。
藤三郎は片手でそれを正確に受け止める。中を覗くと、鈍い光を放つ金貨が何枚も詰まっていた。
「こ、これは仕事の『手付金』だ!オーガを一撃で仕留めるっていうんなら、ぜひあんたにお願いしたい!」
「うむ、そこまでいわれてこの藤三郎、断るのは漢が廃るというものでござる」
そういって受け取った革袋を静かに懐へ収める藤三郎。
その凛とした佇まいに、ギルドマスターは「気に入ったぜ」と短く鼻を鳴らした。
(完璧な王道テンプレの流れですゥ……!)
パルミは内心で感心していたが――ふと空中を見上げて顔色を変えた。
虚空に浮かぶライサの文字数カウンターが、勢いよく数字を刻み続けている。
【現在の文字数:1780文字…1850文字……】
(や、ヤバいですゥ! もうすぐ2000文字に到達してしまいますゥ! このままだとあの頭を割るような不快な警告音『ビーーー!』がまたギルド中に鳴り響いてしまいますゥ!!)
一度トラウマになったあの爆音を回避するため、パルミの頭脳が超高速回転する。
「藤三郎様! 善は急げですゥ! さっそく手付金で装備を整えて、街の外へ出撃しますよォーーーッ!!」
「う、む……? 急にどうしたでござるか、パルミ殿……」
「というわけで! もう2000文字に達したので第4話は無事終了ですゥー! お疲れ様でしたァァァッ!!」
藤三郎の袖を全力で引っ張りながら、パルミはメタ発言とともにギルドの扉を蹴り開けて飛び出していくのだった。




