女戦士登場は次なるてんぷれか?
「して、ぱるみ殿ーーー」
藤三郎は街道を走りながら振り返ると、パルミは少し離れた所から叫んでいた。
「何ですかァーー、藤三郎様ァーーー」
(な、なんなんですか、この方!?走るの速すぎますゥ!私、天使なんですよォーーー)
「こ、これは失礼つかまつった。拙者、ぱるみ殿が女人であることを失念しておったゆえ……」
「い、いいんですよォ、藤三郎様ァ。私の事は気になさらないで下さいィ。でも藤三郎様、どこに魔物がいるか分かってますゥ?」
「そ、そうでござった。ぱるみ殿は知っておられるのか?」
「うーん、街道に出現したみたいですから、多分防壁沿いの方だと思いますゥ」
と二人が立ち止まり話していると、更に後ろから息を切らした何者かが現れた。
「ハアハアハア、ヒイヒイヒイ……あ、あなた達、ホントに一体何者なの!?は、走るの速すぎじゃない?」
膝に手を当て、息も切れ切れにそう言ったのは、ギルド所属の冒険者のようだった。
首から下げたプレートは銅色でランクはおそらくCかDあたりであろう。
「あなたもなかなかおかしいですゥ!その装備で私達に追い付くなんて、どういう脚力してるんですかァ?」
彼女は切らした息を整えながらも自分の姿を確認する。どうやらファイターのようだが、装備自体は軽くスピード重視タイプのようだ。
それでも装備すべての総重量は7、8キロはあるに違いない。
「そりゃあ、あたしはスキルを使ったさ!当たり前だろ!?」
「なるほどですぅ、それで何のスキルを使ったのですかァ?」
「ちっ!間の抜けた喋り方しやがって、『軽量化』と『俊足』だよ!これで追い付けないなんて、あんたらまさか獣人かよ!?」
獣人ではなく、天使ですゥと言いかけてパルミはギリギリのところで踏みとどまった。都合良くウサギの耳も生えているし、そのまま誤解させておく方が今後もやりやすい。
「私はもちろんウサギの獣人ですからァ、速くて当然なのですよォ?」
「じゃあそっちのオッサンはどうなってんの?確かスキルもなければ、レベルも1だったはずだよな?」
「それは正直……私にも分かりませんですゥ」
女戦士はそれを聞くと肩を竦めて首を振った。
「ハッ!なんだそりゃ?素の状態であの速さってことか?ありえないだろ!」
彼女はそう言うと呆れ果てその場で座り込んでしまった。
「これこれ、女人がそのような汚ならしい言葉を使うものではござらんよ」
「だからぁ……あたしは戦士なんだよ!戦場に男も女もない!」
「こ、これは失礼つかまつった……」
「……で? 結局あんたらは何なんだい? 拙者だの何だの、妙な喋り方して」
アリアは座り込んだまま膝を擦り、不機嫌そうに藤三郎を睨み上げた。
「これまた重ねて失礼つかまつった。拙者は左藤三郎と申す」
「左藤三郎……聞いたことない名だな。まあいいや、あたしはアリア。ギルドマスターから『手付金を持ってトンズラしないよう案内兼見張りに付け』って言われて追ってきたのさ」
「なるほどですゥ〜。アリアさん、案内のご指導よろしくお願いしますゥ!」
「よろしくされてたまるか! ……ってか、あんたらさっき防壁沿いに行くって言ってたね。場所分かってんの?」
「う~ん、街道から見える防壁の端っこあたりかなーって思ってますゥ」
アリアは呆れ顔で立ち上がると、街道から少し離れた防壁の途切れる境界線を指差した。
「大外れ。防壁沿いに現れるってのは、その先にある『黒樹の森』から魔物が溢れ出してきてるからなのさ。ほら、言わんこっちゃない――さっそくお出ましだよ!」
防壁の影と森の境界から、地響きのような咆哮とともに、全身を鋼鉄のような黒漆の外骨格で覆った体長3メートルを超える巨熊【アーマーベア】が姿を現した。
「なあオッサン! 冗談抜きで死ぬよ! あたしが1頭食い止めるから、あんたたちはその隙に逃げ――」
「アリア殿、下がるでござる」
静かな声だった。
藤三郎は一歩前へ出ると、右手をゆるやかに腰の柄へと伸ばす。
「鉄並みの硬度……ふむ、されど血の通う生き物であることに変わりはあるまい」
「え!? 何言って――」
瞬間ーーー藤三郎の姿が消えた、とアリアの目には映った。
―――シュンッ!
空気を切り裂く音すら遅れて届く一閃。すれ違いざまに放たれた神速の居合いは、アーマーベアの鋼鉄の甲皮どころか、その巨体を骨ごと一刀両断していた。
ズザザーーッ……ズルリ。
両断された2頭の巨熊が、爆音を立てて崩れ落ちる。刀を血振りし、カチリと鞘に納める藤三郎。
「……ふぅ。天下無双を謳う幕末の修羅に比べれば、素直な動きでござった」
「………………は?」
アリアは開いた口が塞がらない。Cランク冒険者が命がけで挑む魔物を、スキルも魔法もなく、ただの一閃で切り捨てたのだ。
「す、すごすぎますゥ! 藤三郎様ぁ!」
パルミがパチパチと拍手をした――まさにその瞬間。
ビーーー! ビーーー! ビーーー!
周囲全体に例の頭を割るような甲高い警告音が響き渡った!
「な、なんなのよ!この不快な音はぁぁぁっ!?」
耳を押さえてうずくまるアリア。
しかし、藤三郎は顔色一つ変えず、静かに刀の鍔を確かめた。
「む……パルミ殿。またあの奇ッ怪な鐘の音でござるな。どうやら二千文字の刻限が訪れたようでござる」
「……あ、あれ? 藤三郎様、もうその音に驚かないんですかァ?」
「うむ。何事も三度目となれば慣れるもの。そろそろ引き上げる刻を知らせる時報のようなものでござろう?」
「時報じゃないですゥ! あのクソ女神が文字数超過を怒ってる音なんですゥ!」
「まあ良いではないか。アリア殿、手付金の分は働いたゆえ、拙者らはこれにて仕切り直しでござる」
「あ、あんたたち……本当に一体何者なわけ!?」
困惑するアリアを残し、藤三郎は「では、引き揚げるでござる」とマイペースに歩き出すのだった。




