拙者、佐藤三郎にはごさらんよ
「う、うーーーん………」
パルミが目を覚ますとその横には一人のオッサンが横たわっていた。
「だ、誰……って、ああ三郎様ですゥ!ライサ様ーーー、また今回も転生者をそのままの姿で送り込んだのですか?」
パルミの叫びは虚しく宙を響き渡った。すでに異世界に転移しており、ライサの姿はそこにはない。
見渡す限りの広野にパルミは絶望を感じながらも、三郎が心配になり彼にトコトコと近づく。
三郎は転生ではなく、パルミ同様に異世界転移させられていた。この世界の生命として生まれ変わる転生とは違い、これなら赤子からやり直す必要が無い分物語の展開が早いのだ。
「全く、ライサ様は早く結果を求め過ぎなのですゥ。そんな事だからランキング上位十二位以内に入れないのですゥ」
ーーー神作十二選。
それに選ばれし者は十二神将としての地位を授かり、天界最高峰の栄誉と莫大な信仰を手にする。
「む、むぅ……ここは?」
その時、三郎がようやく目を覚ました。それを見てパルミが三郎の姿に感じた違和感をようやく口にした。
「三郎様ーーー貴方はもしかして役者なのですかァ?」
そう、三郎が召還された時からパルミは違和感を感じていた。それは三郎が今の地球の28歳の青年の情報とは、余りにもかけ離れた身なりをしていたからである。
彼は色褪せた袴姿、腰には日本刀を大小二本差しており、その足元は草履を履いている。 これでは役者かエキストラでなければその道理が合わない。
「役者…?何のことやら…」
しかし当の三郎は未だこの状況を全く飲み込めていない様子だった。現代人ならばこの辺りでそろそろ異世界転移だと察してもよい頃だというのに。
「えーーと、三郎様は……」
パルミが三郎に一体何者なのか問おうとしたその時であったーーー
「待たれよ!」
キィン――
三郎の親指が鍔を押し上げると、澄んだ金属音が草原に響いた。
すると三郎の背後の茂みが激しく揺れ、グルルルルゥと獣の唸り声が響く。
「ま、魔物ですゥ!」
パルミの悲鳴をよそに、三郎はゆっくりと立ち上がった。
近づいてきたのは野生のオーガであった。
「オ、オーガが何故こんな序盤にィ?」
慌てふためくパルミを尻目に三郎は至って冷静に相手の動向を見極めていた。
「そこの女人殿ーーー拙者、佐藤三郎にはごさらんよ」
「……え??」
瞬間ーーー
ーーースパンッ。
滑るように鞘から抜かれた剣先が、瞬きをする間もないほどの速さでオーガの胴の向こう側へと到達する。
そして一瞬の静寂の後ーーー
ーーーズルリ
一拍置いてから魔物の胴が音もなく滑り落ちていく。
ブン!と血振りし踵を返すとーーー
「拙者の名は左ーーー左 藤三郎にござる」
カチリーー
男はそう名乗り、静かに鞘へと刀を納めた。
するとパルミの方へ向かう藤三郎の背後で、下半身のみになったオーガが静かに崩れ落ちていく。
「ひ、左 藤三郎ですかァ……?」
(ていうか今この方、オ、オーガをーーー何のスキルも無しに素体のまま両断したんですけどォォォーーー!!)
一瞬の間に起きた信じがたい光景を、パルミはただただ呆然と見つめていた。
「そうでござるーーしてそなたの名は?」
「……は!?すみません、私はパルミですゥ。ライサ様の付き……元付き人でしたが今は藤三郎様の案内役になりましたのですゥ」
「案内役………、ぱるみ殿ーーここは一体どこでござるか?それに先ほどの妖は……?」
パルミはどう答えたものかと考えあぐねたが、やはり先にこちらの疑問を解消するほうが先に思えた。
「それより藤三郎様、あなたはいつのお生まれなんでしょうかァ?」
「うむ、拙者の生まれでござるかーーーそうよな、たしか文政十一年にござったか…」
「ぶ、文政?」
パルミはパチンと指をならし、虚空に光盤を発現させるとページをスライドさせていき、文政十一の欄で指を止める。
「えーーーと、文政十一年は……ッ!1828年!?あのクソ女神……さては28だけしか見てないなァーー!」
おそらくライサはチラッとプロフィールを見ただけで、佐藤三郎28歳と勘違いしたのだろう。実際の彼は左藤三郎であり、その年齢はーーー
「あ、あのォー、ちなみに今のご年齢はァ?」
「うむ、拙者でごさるか?拙者は42歳でござる」
オッサンだーーー!まごうことなきオッサンだったーーー!
パルミは心の底から、しかし心の中で絶叫した。
そう、藤三郎は老けた28歳ではなく、普通に42歳だったのだーーー。
ビーーー!ビーーー!ビーーー!
と、突如当たりに警告音のようなものが鳴り響いた。
「な、なんでござるか!?」
パルミも一瞬何の音か理解できず、サッと身構え辺りを警戒したーーーが、すぐにその音の正体に気がついた。
「あんのクソ女神ィーーー」
パルミは頭を抱えてその場にへたり込んだ。
「どうしたでござるか、ぱるみ殿?」
「……に、二千文字に到達したのですゥ。といっても藤三郎様には何のことか分からないと思いますが、とにかく今は街に向かうのですゥ」
パルミは藤三郎の手を引き、その場を急ぎ離れることにした。
「う、うむ……承知仕った」
そうして二人は草原の彼方に見える街へ歩き始めた。
ーーー物語はようやく始まったばかり。
しかし、クソ女神ライサの思い描いたテンプレとは、その時からすでに大きくズレ始めていたのである。




