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テンプレだけじゃダメですか?


『あー、もうイライラしますわ!』


 執務室で怒りの表情を浮かべた女神ライサは、そう言って机を蹴り上げた。その激しさにビクッと肩を震わせたのは、ウサ耳の少女執事パルミである。


『なんで私のところには逸材が現れないのです?パルミ!あなた、サボっているんじゃありませんの!?』


「ライサ様ァーー、決してそんなことはアリマセンですゥ」


 目は鋭く尖り、鼻は天を突くように上向く美女ーーーだが、絵に描いたようなクソ女神、それがライサだった。


『じゃあなんで私のところにはあんなクズばかりが送られて来ますの?』


 そりゃあんたがクソ女神だからだろ、と喉まで出かかったが、パルミは全力でその言葉を飲み込みこう返した。


「皆さんライサ様に嫉妬しているに違いないですゥ。ライサ様に逸材を渡してしまうとあっという間にトップになってしまうから…」


『確かにその通りだわ、パルミ!あなたも少しは私のことを分かってきたようですわね?』


 その言葉にパルミはホッと胸を撫で下ろし、ライサの好物であるミントアイスをテクテクと運んだ。


 ライサはパルミからアイスを奪うように取り上げ、蓋を開けるとそれを平らげながら指をパチンと鳴らした。


『そうだわ!?良いことを思いつきましてよ、パルミ』


「い、良いこと……ですかァ?」


 このクソ女神が考えることなどどうせロクでもないことに決まっているが、天界では天使は神に逆らうことは許されない。


『私は今まで転生者が逸材でなければ、良い物語は出来ないと思い込んでいましたわ。事実ランキングトップの神作はいずれも逸材が活躍しているのだもの』


 それは違うーーー、実際は他の神が作った異世界が、それは素晴らしい世界観を有していたからに他ならない。


 実はライサの所にも逸材といえる人間が、幾人も来ていたのである。しかしこのクソ女神はその性格どおりのクソ異世界にその逸材を送り込み、ただ台無しにしてきただけなのだ。


「そ、それで?良いことというのは何でしょうかァ?」 


『テンプレよ、テ・ン・プ・レ!』


「は?」


『だから、テンプレだって言ってるのですわ』


 そう言ってライサは再び指を鳴らす。


 すると目の前にプロフィールが記載されたパネルが幾重にも重なって現れる。


「ラ、ライサ様ァーー、今から召還するのですかァ?」


『当たり前ですわ、思いついたら即実行!早く異世界を紡がないと忘れてしまいますわ』


 ライサはプロフィールをスライドすると、ぶつぶつ言いながらお目当ての人間を探す。


『これだわ!ほら見なさいパルミ、佐藤三郎ですって!こんな平凡な名前なら今回の作品にピッタリですわ!』


 どんな作品なんだか…パルミは呆れたが、要望には逆らえない。


「ではこの佐藤三郎様で宜しいですかァ」


『早くなさって!』


 ライサはすでに佐藤三郎のプロフィールを全く見ていなかった。しかし、パルミは不安に駆られながらも彼女の言う通りに召還を始めた。


 ーーーパルミにはそうするより他に選択肢はなかったのである。


 神は絶対、それが天界の掟だからである。


 「では……召喚を開始いたしますゥ」


 いつもの間延びした声とは違う、澄み渡るような声が天界に響いた。


 パルミが両手を胸の前で組む。


「天より見守りし魂よ。時の流れを越え、今ここに導かれんことを……」


 その瞬間、執務室の空気が一変した。


 幾重にも描かれた魔法陣が床に浮かび上がり、淡い光が部屋中を満たしていく。


「汝の運命を紡ぐ者として、我らはその扉を開く――」


 パルミは静かに手を掲げる。


「異世界転生召喚……開始ですゥーーー!」


『さあ、来なさいな。佐藤……何だったかしら……?まあ何でもいいから早く来るのです!』


 すると青白く光り輝く床一面に広がる魔方陣の中心から、ぼんやりと人影が現れ始める。


「う、うーーーん…。こ、ここは?」


『はーーーい、ご機嫌麗しゅう。えー……』


「さ、佐藤三郎様ですよ、ライサ様」


『ああ、そうでしたわ。三郎!あなたは………って何かずいぶんオッサンじゃないかしら?』


 それはパルミも感じていた。佐藤三郎のプロフィールには確か28歳と書かれていたはずだが、見る限りは40後半か50前半くらいの貫禄がある。


『ちょっと三郎、貴方本当に28歳ですの?』


「三郎?いや、拙者は……」


『まあ、いいですわ。凡庸な人間なら誰だって構いませんのよ』


「ぼ、凡庸……?それよりここはーーー」


『あーーー、もういいのですわ!三郎、あなたは今から異世界に行って私の物語の主人公になって頂きますわ!』


「物語…?」


 三郎は訳も分からずに、その場で硬直していた。それもそのはず、ライサは毎回ろくに説明もせずに転生者を異世界に送り込むのだ。

 

 彼女は自分が紡ぎ出す物語に、何故か絶対的な自信をもっているのである。


『あら……?』


 ライサが突然、何かに気付いたように虚空を見上げた。


『もう2000文字ですわ。ごめんなさいね、三郎。今のトレンドは文字数2000文字までですのよ?後の説明は向こうでステータスを開いてご覧になって下さいまし』


「ラ、ライサ様ァ?女神ともあろうお方がそのようなメタな発言はお控えくださいィ」


『うるさいですわ、パルミ!貴方が余計な事を言ったせいで2000文字を超えてしまったじゃないの!』


 ライサの目に怒りの火が灯る。


 あ、終わったーーー。


『そうですわ』

 

 ライサは何かを思いついたように微笑んだ。


『貴方も三郎と一緒に異世界へ行きなさいな』


 執務室から音が消えた。


「…………へ?」


 パルミは自分を指差した。


「わ、私……ですかァ?」


『ええ。主人公一人では会話が回りませんもの』


「そ、そんな理由でェ!?」


『それに、案内役も必要でしょう?』


「それは現地の人を出せば済む話じゃありませんかァ!」


『却下ですわ』


「即答ですかァァァァ!?」

 ライサは食べかけのミントアイスを口へ運びながら、小さくため息をつく。


『だって、始まりから二人旅の方がPVが伸びそうなんですもの』


「そ、その理由だけで私の人生を決めないでくださいィィィィィッ!!」


 パチン。

 軽い指鳴らしとは裏腹に、魔法陣が轟音を立てて輝きを増す。


『では、お二人とも。良いテンプレライフを』


「いやですゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


 パルミの悲鳴は光に呑まれ、執務室には静寂だけが残った。


 ライサは空になったアイスの容器を机へ放り

投げると、満足そうに微笑む。


『さて、これで第2話も安心ですわね』





 


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