圧倒的力と沈黙
龍鬼「いやーまさか暴走してるとはね。それにしても1人でここまでぐっちゃぐちゃに出来るの見るとやっぱり戦闘の才能あったんだね。」
清和「それにしたってやり過ぎだけどな。蓮斗〜、正気に戻ったら説教だからな。」
蓮斗「.....」
蓮斗「ダンマリかいな...」
龍鬼「君はお喋りが嫌いなのかい?俺は結構おしゃべりするの好きなんだけどなぁ。」
そう言いながら「覇王」龍鬼阿修羅は笑い祇梨清和は肩を落としていた。それを遠くから観察する者が1人、新島杏が居た。新島杏は団長と黒王戦鬼の戦いを観察し勝利の糸口を探っていた所、黒王戦鬼の持つ圧倒的な力を目の当たりにし腰が抜け動けなくなっていたのだ。
龍鬼「ふん、(パチンッ)」
「覇王」が指を鳴らしたと同時にその場に倒れていた団長達と荒山厳十郎が新島杏の目の前に突如として現れた。
龍鬼「新島ちゃん。その子達の事見てて。あ、結界は張っておくから安心してね。」
清和「そっちに行かない様に気を付けるね〜。」
新島「えっ、この距離で私に気づいてたの...?」
「覇王」は戦闘が起きる現場から500m離れた建物の屋上地点に隠れていた新島杏を認識しており、新島杏の場所に7人を瞬間転移させたのだ。
新島「この距離で気づくって、やっぱりあの人って規格外なんだな...あっ、こんな事してる暇は無いだった...!!」
そう、新島杏にただ呆然としている暇は無いのだ。急いで重傷を負い意識を手放した7人を治療しないと行けないのだ。
新島「(全員傷が深い...私程度の回復魔法で全員助けられるかどうか、)」
そんな事を頭の中で考えていると不意に新島杏の居る場所が暗くなった。ふと上を向くとそこには翼の生えた背の高い人が立っていた。
新島「ヒッ」
新島杏はその瞬間そんな声を無意識の内に出してしまった。統括総司令官補佐という役職に就く新島杏ではあるが戦闘能力は皆無。戦えば確実に殺される。無い筈の打開策を見つけ出す為に新島杏は脳をフル回転させる。するとその人物がこちらに手を伸ばしてきた。
新島「ひっ、こ、殺さないで...」
新島杏はもう限界だった。先程の激し過ぎる戦いを見た後、自身の前に現れた謎の存在。泣きそうになりながらそう言うとその手は私の頭に乗せられ私の頭を撫でた。
新島「え、何...?」
???「怖がらせて申し訳ない。私は龍鬼様に使える天使が1人、ラファエルと申します。私共はこの方達の回復をするよう龍鬼様に仰せつかっております。ですのでご安心ください。」
新島「えっと、怖がってしまってすみません...私供.....?」
新島杏はラファエルと名乗った天使の言葉に引っ掛かる。
ラファ「いえいえ、いきなりこんな大きな存在が目の前に現れれば誰だって怖いものです。ですので気にしないでください。それと私供と言うのはこちらの方が居るからです。」
そう言いラファエルは自身の後ろに立つ人物を紹介する。
新島「あ...紗奈さん!?」
紗奈「また会ったね、杏ちゃん。怖がらせちゃってごめんね?」
新島「い、いえ...!そんな事ないです!私が臆病だっただけですし...」
紗奈「臆病だって良いのよ。それに、臆病の方が長生き出来るのよ?」
新島「は、はぁ.....」
ラファエル「それでは治療を始めましょう、お嬢様。貴女は...気になるのでしたら、あちらの戦いでも見てみるといいですよ。」
新島「分かり、ました.....」
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500m先を見ると黒王戦鬼が「覇王」達に襲いかかっていた。しかし、黒王戦鬼の攻撃は「覇王」に届く事は無く、悉くを祇梨清和によって弾かれていた。
清和「遅い遅い!もっと腰入れて攻撃して来い、蓮斗!!」
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新島「あの黒王戦鬼の攻撃を1歩も動かずに...凄い」
ラファエル「そうでしょう。あのお方の強さは冠位に仕える私供天使にとっても規格外な物です。1度刀を抜けば敵は全て斬り伏せられ最終的に立っているのは祇梨清和ただ1人です。」
新島「やっぱり祇梨さんって凄いですね...」
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龍鬼「いいね、いいね。その調子でどんどん攻撃して来てくれ。こんなに楽しくて面白いのは数万年ぶりだから、もっと楽しませてくれ!」
清和「戦ってるの俺なんだから後ろで楽しむのやめてくれる!?」
龍鬼「あっはっは、ごめんごめん。でも清和だって暴走体相手にダメ出ししてるじゃん。」
そう言い「覇王」は笑っている。黒王戦鬼の動きは超高速、残像が残る程のスピードの行動を何故戦闘能力の無い新島杏が観測出来るのかと言えば新島杏の特殊異能〝千里眼〟に含まれる能力「思考加速」のお陰だ。だが、この能力を使っても尚、目で追うのがやっとな程黒王戦鬼は早い。そんな早く鋭い攻撃を祇梨清和は涼しい顔でいなしているのだから末恐ろしい。
龍鬼「じゃぁ次はこっちからね。」
龍鬼「火系統下位魔法・火球」
そう言い「覇王」は祇梨清和の背後から下位魔法を放った。しかしその威力がおかしかった。下位魔法の筈なのに先程団長達が使っていた最上位魔法と遜色ない威力の爆発。
清和「お、離れたな。」
次の瞬間、魔法の威力で飛ばされた黒王戦鬼のガラ空きの胴体に祇梨蓮斗はとてつもない力が籠った蹴りを加える。
蓮斗「.....!?」
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新島「す、凄すぎる...下位の魔法で最上位レベルの威力を出すなんて...それにそんな魔法が目の前で炸裂してるのに顔色一つ変えないなんて.....一体どれだけの肝が据わってるんでしょうか...祇梨さんって。」
紗奈「んー、あの人は多分「冠位神威」の最上位魔法を目の前で炸裂させられても驚かないんじゃない?」
ラファ「そうですね...「覇王」様の魔法も見事な物ですが、やはりあの方の強さも目を見張る物ですね。流石はお嬢様の旦那様。」
新島「(さっきから気になってたけど、お嬢様ってどういう意味なんだろう...)」
ラファ「おっといけない。お嬢様、小鳥遊優里の出血が酷いですので、優先的に治して貰えますか?」
紗奈「分かった。じゃあラファエルはこっちをお願い。」
ラファ「承知致しました。」
祇梨紗奈とラファエルは上手く報連相をしながら団長達の治療をしながら新島杏の質問にも答える。些か気になる部分はあるがそれはそうと、「覇王」と祇梨清和の連携は素晴らしい。相手が先程まで日本最強の集団を蹂躙していた怪物を一方的に追い詰めているのだから。攻守共に劣勢に追いやられた黒王戦鬼はその魔力を荒ぶらせながら二人の強者に襲いかかる。
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蓮斗「obihaugugroa・ihugahitueojj」
清和「おっ、接近戦の次は魔法か!でも俺魔法は苦手だからな!龍鬼にパス。」
龍鬼「任せな〜。最上位魔法の2つ同時使用、いいねいいね、やっぱり君は面白い!やはり「遊ぶ」ならこれくらいじゃないとな!」
蓮斗「ーーーーーー!!!」
黒王戦鬼は雄叫びを上げながら両者に向け魔法を放つ。が、その魔法を前に「覇王」が一言、小さく呟いた。
龍鬼「概念崩壊」
一瞬だった。その一言を言ったその一瞬で黒王戦鬼が発動していた最上位魔法2つが綺麗さっぱり消えてなくなってしまった
蓮斗「....!?」
龍鬼「動揺してるね〜。流石にいきなり魔法を消されるとびっくりするか〜。じゃあ次行くよ〜。」
龍鬼「殲滅之龍」
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ラファ「おっと...お嬢様、新島さん。こちらへ。」
新島「え?急にどうしたんですか?ラファエルさん。」
ラファ「「覇王」様が〝殲滅之龍〟を発動させました。」
紗奈「本当?」
新島「殲滅の、龍...?」
ラファエル「簡単に言ってしまえば龍鬼様の魔力で作られた龍です。ですがそれがとても危険なのです。最悪この国が潰れます。」
新島「えっ!?」
紗奈「最悪ここも巻き込まれる可能性があるね...ラファエル、場所を移動しようか。」
ラファ「承知致しました。」
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龍鬼「行け、殲滅之龍。」
蓮斗「....!!!!!!」
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ラファ「早い!今の一瞬であの龍が危険と判断したか。流石は黒王戦鬼と言った所か。」
紗奈「流石に過去最強の存在だね。」
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「覇王」が魔法を発動させた瞬間、黒王戦鬼が加速した。今までに無い程のスピードで「覇王」の創り出した龍に突っ込んで行った。最早その速度は光の速度に追いつくと思える程早い。だが、殲滅之龍と呼ばれたソレは傷1つ負う事なく黒王戦鬼を吹き飛ばした。そこから龍の猛攻が始まった。踏み付け、薙ぎ払い、噛みつき。様々な攻撃を加えるも黒王戦鬼はそれにギリギリで反応し続けその龍が消える3分間を耐え抜いた。
蓮斗「ハァ、ハァ、ハァ....」
清和「まさか...耐えるか、アレを。」
龍鬼「でも、流石に息が上がってきたね。でも、本当に強いな、お前の息子は。」
そう言う「覇王」は心底楽しそうに笑っている。その目には一切の邪念がなく本当に楽しんでいるのだと分かる。だがどうしても気になる事が新島杏にはあった。
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新島「あの、ラファエルさん、祇梨さん.....どうして「覇王」様はあんなに楽しそうなんですか?戦いが好きなんですか...?」
ラファエル「えぇ。「覇王」様はとても「遊ぶ」事が好きなのです。ですが、その強大すぎる力が故本気で「遊べる」相手が冠位の中でも殺戮神様と滅亡神様のお二方のみなんです。」
新島「殺戮神に、滅亡神...」
紗奈「それに加えて...厄災の対策協会の会長だから激務でストレスが溜まるみたいなの。」
新島「(冠位神威でも、激務に追われるんだ.....)」
飛び出した名前はどちらも冠位の中でも最強と呼ばれる存在。そこに祇梨紗奈によって付け加えられた理由がどうも物悲しい物だった。
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龍鬼「まだまだ行けそうか?黒王戦鬼。」
蓮斗「......!」
笑いながら発せられたその一言を聞き黒王戦鬼は魔力を高めた。黒王戦鬼はまだ戦うつもりだ。
清和「潮時だな。」
龍鬼「...あぁ、どう見てももう魔力も残ってない。」
龍鬼「(もうちょい遊びたかったが、そろそろ抑えるのもキツくなって来たし、今日は終わらせるか...?)」
「覇王」が何かを考えている。凄く悩んでいるのかゆらゆらと頭を揺らしている。するとその様子を見た黒王戦鬼が構えた。
清和「!!」
龍鬼「え、」
蓮斗「............」
依然として黒王戦鬼は詠唱以外で言葉を発さない。だが何故か今の黒王戦鬼からは「来い」と言っている様、声の無い言葉として感じる。
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ラファ「ほぉ...黒王戦鬼め。「覇王」様の活動時間が残り僅かと分かった上で本気で来いと言うのか。」
新島「え、活動時間が残り僅か...?どういう事ですか?」
ラファエル「今の龍鬼様は自身の魔力で保有する権能の殆どを封印しているのです。ですが保有する権能はその全てが規格外。故に封印しなければ下手に動くだけで辺りを消し飛ばしてしまうのです。」
新島「そ、そんな事が....」
そう話していると気を失っていた団長達がゾロゾロと目を覚まし始めた。
新島「皆さん...!良かったー!」
新島杏は思わず清水西夏に抱きついてしまう。意識が戻ったばかりの清水西夏は状況が理解出来ずに混乱している。
清水「お、おぉ...大丈夫か、杏?どうしてそんなに泣いているの...?」
新島「え.....?」
清水西夏の言葉に新島杏は耳を疑う。それを後方で見ていた祇梨紗奈の瞳がほんの少し、細くなった。
荒山「一体何が.....」
紗奈「私から説明しましょう。」
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紗奈「これが事の顛末です。そして何故皆さんからその記憶が抜け落ちているのかと言えば、恐らく黒王戦鬼の能力でしょうね。」
東雲「黒王戦鬼の...」
小鳥遊「能力?」
紗奈「黒王戦鬼の能力は大まかに言えば闇を操る能力です。ですがそれには二種類あって1つが物理的干渉を伴う物、2つ目が、精神的、概念的に作用する闇の干渉です。」
竹内「精神的、概念的に作用する闇...?」
ラファ「簡単に言えば精神的な負の感情、トラウマを指しますが、黒王戦鬼は恐らくその対象を拡大。記憶や意識、自我などを闇で塗り潰す事が可能なのでしょう。」
荒山「成程...通りで儂ら全員から記憶が...説明感謝する、祇梨紗奈、ラファエル殿。皆、祇梨清和の技、「覇王」の魔法をしかと見させて貰おう。」
全員「はい!」
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龍鬼「君って結構優しかったりするのかな?」
蓮斗「.......」
龍鬼「やっぱり喋らないか...でもいいや。君も、君が使える最強でこい。」
清和「俺は手出ししないぞ?」
龍鬼「了解、ありがとな。」
そう言うと祇梨清和は「覇王」の背後に退く。
龍鬼「天界、太陽、神の使い、神聖なる場所、聖なる水、神の歌、消える闇、邪を祓い人々に笑顔を」
蓮斗「vkhsohaywihqjohwohwboha'wjbiao」
龍鬼「聖天魔法・聖天之光剣」
蓮斗「「闇系統最上位魔法・黒消滅閃」」
冠位の魔法との最上位魔法の激突。辺り一面には暴風が巻き起こったが押し合いに勝ったのは
龍鬼「ありがとう。お陰で結構楽しめたよ。」
魔法は拮抗する事無く黒王戦鬼の魔法は瞬時に消滅し、黒王戦鬼を穿った。そこに存在したのは傷一つ無い「覇王」と祇梨清和と対照的に意識を失い暴走が解除された祇梨蓮斗だった。
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新島「や、」
小鳥遊「や、」
全員「やっったーーーー!!!!」
竹内「黒王戦鬼沈黙ーーー!!!」
清水「終わった....」
天内「良かったよー」
東雲「一時はどうなるかと思ったけど、無事に終わった。はぁーー、覚えてないけど疲労感が凄い.....。」
星見「ここ最近で一番疲れてるかもしれない.....」
全員「右に同じく。」
これでようやく終わったと思っていると荒山厳十郎が口を開いた。
荒山「皆、疲れている所悪いがまだ終わってないぞ。」
その一言でその場全体に緊張が走る。
西野「まさか、「覇王」様の魔法を受けても立ち上がってくるのか...!?」
荒山「いや、今は完全に黒王戦鬼は沈黙してる。あれだけ削られたのだ。しばらくは表には出てこないだろう。だが、恐らくあれが出てきたのは祇梨蓮斗の防衛本能だ。」
新島「防衛本能...?」
龍鬼「厳十郎の考え大正解〜。」
小鳥遊「覇王様!」
その瞬間皆が膝をつき「覇王」と祇梨清和に頭を下げた。
小鳥遊「今回の件は私が判断を誤ったばかりに起きた惨劇。何卒、処罰は私だけに...!」
東雲「(小鳥遊...!)」
龍鬼「処分か〜、そうだな〜。じゃあ1俺からはヶ月間街のボランティアに参加する事〜。清和からは〜?」
清和「んー...紗奈はどんな罰が良いと思う?」
紗奈「そうね...反省文10枚なんてどうかしら?」
小鳥遊「ぼ、ボランティア...?反省文...?」
龍鬼「そうボランティア。ゴミ拾いとか草むしりとかね。」
清和「誤字脱字あったら1からやり直し。以上!」
小鳥遊「で、ですがそれでは示しが.....」
龍鬼「考えが硬い硬い。もっと自由に考えな小鳥遊ちゃん。それに処分は厳十郎に任せるし謝罪したいなら祇梨蓮斗本人にしな。俺からは以上!じゃあ帰るか。ラファエル〜!」
ラファエル「はっ!」
龍鬼「清和と紗奈ちゃんもまたな〜。」
清和「おう、今回はありがとな。」
そう言い「覇王」は颯爽と帰ってしまった。何はともあれ黒王戦鬼暴走事件は幕を閉じたのであった。




