073 物欲センサーとレア度『星4』の花瓶
二週間ほど更新が止まってしまい、すみませんでした。
リアルの方での用事が立て込んでいましたが、今週からまた毎週土曜投稿へ戻れそうです。
引き続き、よろしくお願いします。
あれから一週間と少し――十日が過ぎた。
俺が出社している間も、四人はせっせと無人島の開拓を進め、すでに開拓レベルは『12』まで上がっている。
正直に言って、破格のペースである。
本来ならば、やり込んだとしてもここまで上げるのに少なくとも一か月以上はかかるところだ。
しかし、通常は一人プレイなのに対し、彼女たちは四人で分担しながら開拓を進めている。
単純に考えて進行速度は四倍。レベルが上がるペースも非常に早い。
今日は土曜日。会社は休みだ。
俺は朝からPCの前に座り、【わくわく☆無人島ライフ】の画面を覗き込んだ。
いつものように、主人公として登録されている『水晶』を操作すると、無人島にある小屋の内部が映し出される。
そこには先週よりも物が増えた光景が広がっていた。
島の開拓を進めながら、ちまちまと工作をしていた成果が見て取れる。
物がなく寂しかった小屋内に、確かな生活感が現れていた。
現在の時刻は朝の9時。
以前ならばとっくに起床してゲームの攻略に向かっている時間だったが、四人全員の無事が確認できて合流した今、何人かはまだ寝ているようだった。
起きているメンバーも何かの作業をしているようで、リビングには誰の姿もない。
『タイミングが悪かったかな?』などと考えていると、小屋の外から叫び声が聞こえてきた。
「ちくしょおおおおおおおおお!!!?」
不意打ち気味に響いてきた声に、思わずビクッと肩が跳ねた。
「……今の声は、ツバメさんか?」
出会ってから長い間、全く聞くことのなかった彼女の肉声だったが、ある一件を境に何度か耳にする機会が増えた。
確実に、彼女の天敵である『英雄天国の女神』の仕業だろう。今日も何かがあったらしい。
窓の外へと視線を向け遠い目をしていると、今の声で目が覚めたのか、寝室のドアがガチャリと開いた。
「……うう、ん。今の叫び声、何? またツバメさんがあの女神に発狂した?」
そこには、【爆釣王】攻略時のTシャツとハーフパンツを寝巻代わりに着用しているティオが、寝ぐせのついた頭をかきながら寝ぼけ眼で現れた。
「おはよう、ティオ。お前の想像通り、多分ツバメさんが女神と何かあったんだろ」
「……んー? ……あ、章介さんおはよう。ずいぶん早いね」
「いや、早くはないだろ。もう他のみんなは起きてるんじゃないのか?」
少なくともマリアさんと、絶叫していたツバメさんが起きているのは間違いない。
俺の言葉に、ティオは背後を親指で指し示した。
「いや、ソフィーはまだ寝てるよ。今の声に反応しないぐらいぐっすりと。……昨日遅くまで研究していた私と違って、あの子は普通に寝たはずなんだけど」
扉の隙間からチラリと見えた寝室の中は、左右の壁に二段ベッドが並んでいた。
『雷狐の脱走』『王女の捜索』『洞窟からの脱出』といった数々の緊急クエストをクリアしたあの日、無事に寝室の増改築も済ませることができたのだ。
そして現在、その増改築時に製作した二段ベッドの、奥側上段の布団がこんもりと膨らんでいるのが見える。
まるで野生の動物が冬眠をするかの如く、呼吸音すら聞こえないほど静かにソフィーさんが寝ていた。 さっきのツバメさんの叫びにも全く反応しなかったようだ。
冬眠としては合格だが、野生の動物としては失格だろう。
……いや、野生の王女ではなく、本物の王女だったっけ?
そんなことをぼんやりと考えていると、近付いてくる足音とともに玄関のドアが勢いよく開いた。
「…………………」【くっそぉ! あンの女神崩れめぇ! 私をおちょくってるとしか思えないんだけど!? (#゜Д゜)】
「まあまあ、そんなに怒らないでもぉ。手に入ったデイリーアイテムは良いものではないですかぁ」
プンスコと怒りの顔文字とともに現れたのは、今さっき叫び声をあげていたツバメさんと、それを宥めるように洗濯籠を小脇に抱えたマリアさんの二人だった。
「おはよう、二人とも。いろんな意味で、朝からご苦労様」
「マリア姉、ツバメさん。おはよう」
「あらぁ。おはようございますぅ、章介様にティオ様」
「…………………」【あれ、章介君? おはよう。ティオちゃんも――って、今日土曜日か。ここにいると曜日の感覚がなくなってくるね(;´∀`)】
朝の挨拶を交わした後、俺の視線がツバメさんの手元で止まった。
その手には、見慣れない一輪挿しの花瓶が握られていた。
「なあ、ツバメさん。その花瓶ってもしかして――」
俺の言葉に、ツバメさんが勢いよく水晶へと詰め寄ってきた。妙な迫力がある。
「…………………」【そうだ、聞いてよ章介君! これ、あの女神崩れからの、今日のデイリーアイテムなんだけどさ!? (#゜Д゜)】
「近い近い近い」
そう言うと、彼女はモニターいっぱいに映るように、花瓶を水晶へと押し付けるように見せてきた。
模様一つ一つがはっきりとわかるぐらいに、ドアップに映し出されたそのアイテムは『有名陶芸家の花瓶』。【レア度:☆☆☆☆】という、アイテム自体に何も効果はないが、コレクションアイテムとしてはかなりのレアアイテムだった。
「すごいじゃん、当たりの部類だよ。あの女神もいいところあるな」
「…………………」【いや、よくないんだってば! ヽ(`Д´)ノ】
「……なんで? ――って、ああ」
ある事実に思い当たった俺が呟くと同時に、ツバメさんは割れない絶妙な力加減で花瓶をテーブルへと叩きつけると、叫ぶように目で語りかけてきた。
「…………………」【これがレア度『星4』の当たりだからだよ! 本来なら最低レアが一番出るはずでしょ!? (;゜Д゜)】
「そりゃそうだ」
俺は彼女の言葉に頷く。
通常ならば、出現率50%の『星1』か、良くて25%の『星2』辺りが出るはずだ。
今日デイリーで手に入れた『星4』は、出現率7%のレアアイテム。
女神がくれるデイリーアイテムとしては、大当たりと言ってもいい部類だ。
憐れみを帯びた俺の視線を受けながら、ツバメさんは一歩近付き、水晶へと顔を寄せた。
「…………………」【だから章介君! そのせいで『星1』と『星2』の基本アイテム――野菜や果物の種や苗が全く手に入らないんだよ! 私の畑、未だに初期から手に入るジャガイモとサツマイモ、あとリンゴしか収穫できないんだけど!? (;´Д`)】
「……だよな」
俺は納得の声を漏らした。
このゲームには、本来であれば行商人イベントというものがある。
発生条件は、『開拓レベル10以上』『ゲーム開始から14日が経過』、そして『作物を5種類以上栽培している』ことだ。
これらをすべて満たすことにより、無人島の桟橋へ行商人がやってくる。
そして、島で獲れた作物やクラフトしたアイテムを売ることによりお金を手に入れ、行商人からアイテムなどを購入することが出来るようになる。
販売している商品はランダムの日替わりだが、珍しいアイテムや島では手に入らない野菜や果物が手に入るため、島の充実には欠かせないイベントとなっている。
ティオと二人で、この【わくわく☆無人島ライフ】に拠点を移したのは11月10日。今日が25日なので、経過日数はクリアしている。
そして開拓レベルは『12』だ。これも問題ない。
だが、最後の『作物5種類以上』。これが未達成のため、行商人が未だに現れないのである。
本来、『星1』や『星2』のアイテムならば、女神のデイリーアイテムでとっくに条件を満たせそうなものだ。
俺は小屋の中をグルリと見渡した。
先週までの殺風景な室内と異なり、いくつかの装飾品などでおしゃれに飾られている。
お気に入りであるツバメさんに対し、あの女神が気を利かせたのか、あるいは単純に運が良いのか悪いのか。『星3』以上のアイテムしかドロップしていなかった。
しかもご丁寧に野菜や果物を見事に避けて、観賞用アイテムオンリーのドロップだ。
家庭菜園が趣味で、ウキウキしながら畑作りに精をだすツバメさんからすると、嫌がらせをされているように感じるだろう。
行商人イベントも止められているため、さらに敵対心がプラスされているようだ。
さながら、七並べで特定の数字を全て止められているかのような所業である。
おそらく、女神は一切の悪気なくこれをやっているのだろう。あの微妙にズレた能天気な笑顔が目に浮かぶようだ。
「…………………」【……やっぱり、あの女神崩れに一発かましてやるしか……(#゜Д゜)】
「待て待て落ち着け」
「そうだよ。スローライフゲームなのに殺伐としすぎだって」
「そもそも、闇属性以外完全無効なのはよくご存じではないですかぁ」
「…………………」【それでも女には、やらなきゃならない時があるんだ! (#゜Д゜)】
「それは、少なくとも今じゃないだろ」
鍬を片手にユラリと小屋を出ていこうとするツバメさんを、ティオとマリアさんが押さえ込む。
ここ最近、数日ごとの見慣れた光景になりつつあった。
そして、その騒ぎでようやく起きたのか、ティオと同じくTシャツにハーフパンツ姿のソフィーさんが、頭を押さえながらやってきた。
「……おはようございます。今日もいつもの出来事ですか」
「ああ、おはよう――」
ソフィーさんへと挨拶を返し、彼女を視界に入れた俺は、思わず言葉を途切れさせた。
眉間に皺をよせ、その表情をあきらかに不機嫌そうに歪めていたからだ。顔色も若干悪いように見える。
「ソフィーさん、大丈夫か? 顔色が悪いけど」
「え? ……ああ、心配ありませんよ。少々、夢見が悪かっただけですから」
俺の心配をよそに、彼女は『何でもない』と首を振る。
その様子を、羽交い絞めにされているツバメさんと、しているマリアさんは少し心配そうに、ティオは眉根を顰めて見ていた。
「ソフィー。久しぶりだね、その状態」
「本当ですよ。朝からイヤな顔を思い出しました」
ティオが声をかけると、ソフィーさんはため息気味に言葉をこぼした。
どうやら、ソフィーさんと付き合いの長いティオには、その様子に心当たりがあるようだった。
そしておそらく、それ以外の二人にも。
「イヤな顔って……。ソフィーさんが他人をそんな風に言うのは初めて聞いたな。あ、ティオ相手以外でって意味で」
「いや、章介さん。確かにそうだけどさ」
俺とティオのやり取りを聞いていたソフィーさんが、『ぷっ』と小さく噴き出した。
そして、大きく息を吐きだすと、その表情はいつも通りの笑顔に戻っていた。
「申し訳ありません、ご心配をおかけしまして。少し昔の夢を見ただけですから、心配なさらないでください」
「……まあ、ソフィーさんがそう言うならいいけどさ。もし、俺に出来る事があるなら、遠慮なく言っていいから」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いいたしますね。――で、ツバメ達は一体何をしていたのですか? おそらく、ここ最近の朝の風物詩だと思いますけど」
いつも通りの様子に戻ったソフィーさんが、未だ羽交い絞めにされているツバメさんと、それを行っているティオとマリアさんへと視線を向けた。
「ま、ソフィーさんが思っている通りだよ。実は――」
俺は今朝の出来事と、それによってイベントが止まっていることを説明する。
聞き終わったソフィーさんは、再びため息を吐いた。
「……本当に、あの女神とツバメは相性が悪いですね。……しかし、どうしましょうか。行商人がやってこないから、島の開拓が停滞気味になってますし。どうにかして、種か苗を手に入れなければですよね」
「……とは言っても、どうするかな。一応、毎日【小麦】と【塩】と【ミルク】だけはシステムが自動的に補充してくれるから飢えはしないだろうけど。ただ、他の食材はツバメさんがさっき言っていた三種類以外だと、魚かキノコだけだもんな。さすがにそれだけで10日以上は飽きるよな……」
それらの限られた食材を、マリアさんが頑張って調理してくれているが、それでもレパートリーには限界があるだろう。
しかし結局のところ、女神のデイリーアイテムから作物を増やさない限り詰みの状態だ。
ホント、あの女神が関わると何かしら碌なことが起きない気がする。
何か裏技的な方法はないかと頭を悩ませていると、ティオが思い出したとばかりに声を上げた。
「あ、そうだ。朝からの騒ぎで言い忘れていたけど、その方法に心当たりあるよ」
「は? マジでか?」
俺はティオの発言に思わず声を上げた。
「マジだよ、マジ。簡単な方法だよ。まあ正規の方法じゃないし、バグ技寄りだけど。章介さんの協力も必要だしね」
「俺の協力? 俺にできる事ならもちろん手は貸すけど、どんな方法なんだ?」
その言葉にティオがにやりと笑った。
相変わらず少しマッドが入った笑い方だが、いざというときには頼もしく見えてくるから不思議だ。
この現状を変えるというティオの言葉を待ち、この場の全員の視線が彼女へと向く。
「女神様から手に入らないなら、別のところから手に入れればいいわけだ。具体的には、日本で章介さんに野菜か果物の種か苗を買ってきてもらって、それをこのゲームの中へと取り込めばいい」
「……は? いや、そんなことが出来るんならいいけど、どうやってって――っ! もしかして!?」
「ご明察だよ。もともとパーツはほとんど揃っていたんだ。ようやく昨夜、組み立てと調整が終わったよ」
そこまでの説明で、この場の全員がティオの話した内容に思い当たったようで、目を見開くように彼女を見つめた。
その視線を受けたティオは、浮かべていた笑みをさらに濃くした。
「――次元間転移装置。それが元通りの状態になった。これで転移の実験が進められるよ」
彼女たちが転移に失敗し、ゲームに入り込んで16日目。
物語は折り返し、後半のステージへと進むこととなる。
読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は来週、10月10日(土)夕方以降になります。




