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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第七章 【スローライフゲーム】その1~問題児が問題児たる所以~

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070 バグと爆発と海底神殿

 通路は完全に崩落し、制限時間内での入り口からの脱出は不可能になった。

 すぐに別の脱出口を見つけなければと思考を回すが、本来こんな状況はゲームで想定されていない。

 そもそもスローライフゲームで、命の危機に晒されること自体がおかしい。


 爆発の影響で一時的に足を止めていた巨大蟹の大軍も、再び押し寄せてきた。

 ツバメさんが皆を庇うように剣を抜き、一歩前へ踏み出すが、あの数を相手取るには骨が折れるだろう。

 後方は崩落、前方は蟹の群れ。八方塞がり、絶体絶命だ。


(……どうする? どうやってやり過ごす?)


 打開策を考えていると、ソフィーさんの頭の上に鎮座していた雷狐(ライコ)が、テシテシと彼女の頭を前足で叩く。そして、壁面の一か所を鼻先で指し示した。


「どうしました、雷狐? 今、貴方にかまっている余裕は――って、あれは!?」


 ソフィーさんが何かに気付き声を上げた。

 つられて俺もそちらへと目を向ける。


 一見、何の変哲もない壁面に見えたが、よくよく目を凝らすと岩の一部が崩れ落ち、その先に空洞が見えた。


「もしかして!?」


 駆け寄ったティオが穴の中を覗き込み、振り返って叫んだ。


「章介さん! この先、通路になってる!」


「本当か!?」


 水晶を操作し、俺も同じように中を覗き込んだ。

 薄暗く、はっきりと見通すことはできなかったが、間違いなくどこかへと繋がっていることだけは確認できた。


 さっきティオが引き起こした爆発は、入り口の崩落だけではなく、壁面の一部も崩していたようだ。

 洞窟内での発破などというありえない行動を起こしたため、本来繋がるはずのないルートが開通してしまったのは間違いない。

 息をするようにバグを引き起こす、こいつらのトラブルメーカーっぷりに頭痛と胃痛が止まらない。


 しかし、今は悩んでいる時間がもったいない。

 どうにかこの穴を広げて中に逃げ込めば――。


「ティオ! 雷狐を!」


 思考を中断させるソフィーさんの声とともに、黄色い何かが『ポーン』と飛んできた。

 反射的に、ティオが胸元でそれをキャッチする。

 その正体は、今まで定位置とばかりにソフィーさんの頭上に乗っていた雷狐だった。


「はああああああ! ――とりゃぁああああ!!!」


 ソフィーさんは雷狐がキャッチされると同時に弾かれたように駆けだし、全身のバネと速度を乗せた渾身の飛び蹴りを壁面に向けて叩き込んだ。

 かつて話に聞いた、【恐怖の彷徨う館】で巨躯の化け物を沈めたという飛び蹴りだ。


 もともと爆発の影響で崩れやすくなっていた岩壁は、激しい破壊音とともに崩れ落ち、人ひとりが通れるほどの穴をあけた。

 相変わらず王女らしさの欠片も感じられない挙動だが、おかげで避難経路は確保できた。


 その穴の中にソフィーさんとティオが駆け込み、俺は蟹と対峙していたツバメさんへと声をかけた。


「ツバメさん、こっちだ! 退却してくれ!」


「…………………」【了解! (`・ω・´)】


 声に反応したツバメさんは手前の蟹を切り捨てると、身を翻して穴の中へと飛び込んだ。

 これで退路は確保できたが、背後からは大量の蟹が押し寄せ、空いた穴へと殺到しているのが目に入る。

 なにか対策を考えなければ、蟹との追いかけっこはいつまでも終わらない。


 どうするかと考えを巡らせていると、ティオが立ち止まり背後の蟹へと振り返った。


「この状況なら私に任せて。こいつの出番だ」


 ティオは肩掛けのバッグから何やら取り出すと、右手で握りしめ魔力を込め始めた。

 その手に握られているオレンジ色の鉱石が、徐々に赤みを増していくのが見えた。

 ……もしかして、あれは。


「おいティオ! まさかそいつは――!?」


「ご明察! くらえ! もういっぱ――――つっ!!」


 鉱石が赤く発光し始めたタイミングで、ティオはそれを通路に集まる蟹に向けて投げつけた。

 その鉱石は蟹の目前まで到達した瞬間、目の眩む光とともに轟音を響かせ、凄まじい爆発を起こした。



「「うわぁあああ!!!?」」【(◎_◎;)】



 いきなりの爆発に、皆の悲鳴が響き渡る。

 やがて巻き上がった粉塵が収まると、目に入ってきたのは、再び崩れ落ちて完全に塞がれた壁面だった。


 最初に通路を崩落させた鉱石を、こいつはちゃっかりバッグの中に確保していたらしい。それを再び爆発させて通路を塞いだのだ。

 その結果、俺たちと蟹はうまく分断されたようで、無事に追跡から逃れることができた。


 上手くいったのは良かったが、ノータイムで再び洞窟内で爆発を引き起こすこいつの心臓は、一体どうなっているのだろうか。

 当の本人は、呑気にソフィーさんとハイタッチをしている。


「…………………」【(゜д゜;)】


 ツバメさんはドン引きしている。俺もだ。

 どうやらこの場にまともな神経の持ち主は、俺とツバメさんの二人だけらしい。


 俺は一度頭を振って気持ちを切り替えると、周りを見回した。


 白い大理石で作りこまれた通路と、明かりを発する謎の照明。

 そこは今までの自然な岩肌の洞窟とは異なり、明らかに人の手で造られた空間だった。


「……ここはもしかして」


 水晶(俺)は辺りを興味深そうに見回す三人を引き連れ、通路の先へと進んでいく。

 少し歩くと、やがて広い空間に出た。


 ところどころ崩れたような箇所はあるが、シンプルながらも丁寧に作りこまれた壁や柱。その部屋の中央には、白い大理石で彫られた女神の像が立っている。

 それを見た俺は、ここがどこかはっきりと分かった。ここは――。


「間違いない。ここは海底神殿だ」


「海底神殿?」


「それは、どういうところなのですか?」


 俺のつぶやきに、ティオとソフィーさんが反応する。


「ここはダイビング装備――簡単に言えば、水中を移動できるアイテムを作れるようになった後に訪れることができる場所だよ。開拓レベルでいえば10~12前後かな。その時にイベントアイテムを所持していればクエストが発生して、特殊なレアアイテムをもらえるんだ」


「レアアイテム? それってどんなやつ?」


「釣り竿だよ。それを使えばリミッターが解除されて、このゲームの全ての魚が釣れるようになるやつ。確か『海神の釣り竿』って名前の、海の宝具って扱いだったはず――って、あれ? 釣り竿?」


「……? あ」


 俺とティオの視線がソフィーさんへと向く。正確には彼女の持つ釣り竿にだ。

 ソフィーさんは、再びよじ登った雷狐を頭上に乗せながら眉を寄せた。


「……えーと。もしかして……?」


「……多分、想像通りだと思う。その『爆釣杯優勝ロッド』の性能が『海神の釣り竿』と同等だったから、システムにアイテムが混同されたんだろ」


「……つまりなんですか? イベントをクリアしていないのに特殊な釣り竿を所持していたから、『釣り竿を返せ』と蟹たちが奪いに来た、ということですか?」


 俺は頷いた。

 それを聞いたソフィーさんが、わなわなと体を震わせる。

 ティオは笑って体を震わせていた。


「ってことは、今回こそ私は全く悪くないではないですか!? 何故、次から次へと災難が私に寄ってくるのです!?」


「ぶはははは! やっぱ、あなたのトラブル体質、一度お祓いに行ったほうがいいって!」


「笑うのをやめなさい、ティオ!」


 ギャーギャーと喧嘩を始めた二人を宥めながら、今後のことを考える。

 残り20分を切った脱出の制限時間もそうだが、このイベントもクリアしておかないと、また蟹やら何やらの生き物に追いかけまわされ続けることになる。


「そういえば、イベントアイテムってどんななの? イベントが起きるんでしょ?」


「……ん? ああ、『海神の宝玉』っていうアイテムだよ。この神殿から紛失したっていう設定の青い球で、砂浜に低確率で流れ着くんだ。それをそこの女神像の手に納めるとイベントが発生して、女神から『海神の釣り竿』をもらえるんだ――――あ?」


「「え?」」


 何かに気付いた俺たち三人の視線が、ソフィーさんの頭上でくつろぐ雷狐へと集まる。

 砂浜の時点から、今まで離すことなく咥えっぱなしだった物体をよくよく見つめる。


 ――青い宝玉だ。


「……もしかして、これ?」


 ティオがそっと手を伸ばすが、雷狐に『ペシッ』と手で叩かれてしまう。

 どうやらお気に入りらしく、手放す気はないようだ。

 ただ、マリアさん相手に比べるとずいぶんと優しい抵抗だったが。


「ほら、雷狐。いい子だからそれを渡してね?」


「雷狐、それを離しなさい。あと私の頭から降りなさい」


 ティオとソフィーさんが雷狐から宝玉を取り上げようと頑張るが、手を伸ばすたびに『ペシペシ』と前足で叩き落とされる。

 どうやら遊んでくれていると思っているようだ。ちなみに、ソフィーさんの頭からは降りる気配がない。マリアさんが見たら血涙を流しそうだ。


 だが、何時までもそうしているわけにもいかない。

 そこで俺は切り札を切ることにした。


「ほら雷狐、おいしいミルクだぞ。降りてこい」


 ティオの持つバッグから、携帯しているアイテムの『ミルク』を取り出し、雷狐に見せつけるように地面に置いた。

 それを見た雷狐は鼻をひくひくと動かすと、ピョコンとソフィーさんの頭から飛び降りた。

 島中を駆け回っていたため喉が渇いていたのだろう。咥えていた宝玉を離すと、尻尾を振りながら美味しそうにミルクを飲み始めた。


「今だ!」


 その隙を突いてティオがサッと宝玉を回収。流れるような動作で女神像の手に宝玉をはめ込んだ。

 すると、どこからともなくファンファーレが鳴り響き、女神像が輝き始めた。


「「「おお!」」」


 その光景に俺たち三人が感嘆の声をあげる。しかし、さっきからただ一人だけ黙り込んでいたツバメさんが、そっと腰の剣に手を伸ばすのが見えた。


「ツバメさん、どうした? さっきから黙り込んでるし、なんで剣を抜こうとしているんだ? ……何か不審な気配でも感じたのか?」


 何やら只ならぬ雰囲気を発するツバメさんに、もしや何かのバグが発生して警戒しているのかと声をかける。


「…………………」【……え? ああ、ごめん。そういうわけじゃないんだけど……。なんていうか、女神というのが私の警戒心を煽ってきて、つい(゜д゜;)】


「……ああ、なるほど」


 どうやら何かあったわけではなく、単純に【英雄天国(パラダイス)】の女神に対して苦手意識を持っているだけのようだった。

 ……あの女神、ツバメさんの逆鱗を的確についてきたからな。


 遠い目でそんなことを考えていると、輝く女神像から、美しい青髪の女性が浮き上がるように現れた。

 この神殿の女神、海神様だ。


 女神様は美しい微笑を浮かべながら、俺たちに優しく語りかけた。


「貴方達ですね、遺失した宝玉を返還してくれたのは。ありがとうございます。お礼と言っては何ですが、海の宝具である『海神の釣り竿』を差し上げ――――あれ? すでに釣り竿を持って? ……いえ、それは『海神の釣り竿』とは別物ですか? 同じような神気を感じますが。……となると、どうしましょう? 釣り竿の代わりとなるとなにが良いのか。……貴方達、欲しいものや希望は何かありますか?」


 最初、レアアイテムである『海神の釣り竿』を取り出そうとしていた女神様だったが、ソフィーさんの持つ釣り竿を二度見し、すでに似たようなアイテムを所持していることに気付くと、困ったように頬に手を当てて首を傾げてしまった。


 ……なんていうか、すみません。

 本来ならば釣り竿を渡してイベント終了のはずが、俺たちがゲームを行き来して余計なアイテムを持ち込んだばかりに、女神様を困らせる結果になってしまった。

 報酬は何がいいかと、こちらへと確認してくる始末だ。


「…………………」【……おお、章介君。この女神様、いい人だ。あの邪神崩れとは全然違う。ちゃんと人の話を聞いてくれる女神様だよ(゜д゜;)】


 しかし、その女神様の対応に感動している人物がいた。ツバメさんだ。

 『人の話を聞く』という至極当然の反応に、ただそれだけで好感度が爆上がりしているのがわかる。

 とはいえ、欲しいアイテムも色々あるが、この場ですぐに答えるとなると――。


「……なら、俺たちを無人島まで帰してもらうことはできますか? 色々あって自力で戻れない状況なんですけど」


 試しにと、現状一番困っていることを告げる。

 すると何でもないように返事が返ってきた。


「え? それでいいのですか? その程度ならば簡単ですが」


「本当に!? 助かります、是非それでお願いします!」


 助かった。どうやって帰ろうか悩んでいたが、問題が一気に解決できた。


 これで『雷狐の捕獲』、『王女の救出』、『洞窟からの脱出』。全てが無事に完了したことになる。

 宝玉クエストもクリアしたことで、今後釣り竿を所持していても襲われることもないだろう。

 全てが丸く収まった形だ。


 では早速、女神様に無人島へとワープさせてもらおうと皆で一か所に集まる。そのとき、ティオが『そう言えば』と思い出したように質問してきた。


「それはそうと、マリア姉の魔眼はどうするの? このまま島に戻っても、魔眼をどうにかしない限り結局また雷狐は逃げ出しちゃうでしょ?」


「それに関しては俺に考えがある」


 その当然の質問に、俺はバッグから一つのアイテムを取り出し、ティオへと渡した。彼女はアイテムを色々な角度に傾けながら観察を始めた。


「……これはガラスの欠片? ……いや、この輝きと硬度は――これってもしかして!?」


 その正体に気付いたティオが、驚きの表情で俺を見つめる。

 それに対し、俺はにやりと不敵な笑みを返した。


「想像の通りだ。これでマリアさんの魔眼を封じる」


 俺は力強く宣言した。

 彼女との約束を守るため。


 そのとき、きらりと輝く何かが舞い落ちた。

 一見、何かの糸くずにも見えるそれは、誰にも気付かれることなく神殿の床へと落ちていく。


 ――それは後日、ツバメさんを発狂させる出来事へと繋がることを、この時は誰も想像していなかった。

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は来週、9月5日(土)夕方以降になります。

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