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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第七章 【スローライフゲーム】その1

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069 問題児は忘れたころにやらかす

 慌てて飛び込んだ洞窟内には、暗く湿った岩の空間が奥深くまで広がっていた。

 電灯などの光源はないにもかかわらず、壁のあちこちでぼんやりと発光する鉱石が、まるで天然の街灯のように周囲を照らしている。

 あれも掘り出せばレアな鉱石なのだろうが、今は迷い込んだソフィーさんと、逃げ込んだ雷狐(ライコ)の捜索が最優先だ。

 残念だが諦めるしかない。


「よし、それじゃこのまま奥へと進むぞ。さっさとソフィーさんと雷狐を保護して脱出しよう――」


 蟹が消えたであろう通路から背後へ視線を戻すと――そこには、光る鉱石に張り付いて興奮する問題児Bの姿と、彼女を慌てて引き離そうとするツバメさんの姿があった。


「うわぁぁ、何これ何これ! こんな幻想的に光る鉱石なんて初めて見たよ! どうにかこれ持って帰れないかな!?」


「…………………」【ティオちゃん、今それどころじゃないって!? まずはソフィーリア様たちを見つけないと!? (;゜Д゜)】


「……おい、何やってんだ、ティオ」


 俺の呆れ混じりの低い声に、ハッとした表情でこちらを向くティオ。

 だがその顔からは、さっきまでの焦りがすっかり薄れているのが分かる。


「ツバメさんの言う通り、まずはソフィーさんたちの安否確認だろ? 横道に逸れるのが早すぎるぞ」


「……いや、冷静に考えてみたらさ? ちょっかいを出さなきゃ無害な蟹を追いかけてたってことは、ソフィーが何かやらかしたってことでしょ? それに、危険のないサバイバル環境ならソフィーの独壇場だし、放っておいても自力で帰って来るだろうな、って」


「…………………」【ソフィーリア様に対する信頼がすごいね!? 確かに未開の地の原住民レベルだけど、護衛騎士としては納得するわけにはいかないからね!? (;゜Д゜)】


「ツバメさんも言ってることは相当だからな?」


 長年の信頼故か、普段から巻き込まれている経験からか。二人揃って言いたいことは『どうせ自業自得だし、この程度でどうこうなるタマじゃない』ということらしい。

 少なくとも、自国の王女に対する発言ではない。

 ……正直、俺もそんな気はしているが。


「とにかく、さっさと連れ戻すぞ。ソフィーさんもだが、それ以上にマリアさんが心配だ」


「「……あー」」【(;´・ω・)】


 俺の言葉に遠い目をしながら納得の声を上げた二人を引き連れ、洞窟の奥へ、奥へと進んでいく。

 道中、壁面に様々な鉱床を見つける度にティオが足を止めるため、ツバメさんに首根っこを掴んで引きずってもらいながら、なんとか洞窟の中腹、二股に別れた分岐点までやってきた。


「分岐点か。章介さん、これどっちが正解のルート?」


「いや、このボーナス洞窟は毎回ランダム生成だから、実際に進んでみないと造りは分からないな」


 ティオの質問に、俺は首を振って答える。

 この洞窟は中の構造も手に入る素材も毎回変わるため、正確な攻略地図が存在しない。

 本来であればただのボーナスステージのため、構造がどうであれ全く問題ないのだが、これが救出作戦となると難易度が一気に跳ね上がる。

 この先がさらに分岐していた場合、正解のルートを外せば大きなタイムロスになってしまう。


 どうしたものかと頭を悩ませているとツバメさんが屈み込み、何やら地面の状態を調べ始めた。

 しばらく凝視したのち、おもむろに立ち上がるとこちらへ振り返り、左側の通路を指し示した。


「…………………」【子ぎつねちゃんも、蟹の大群も左の通路へ入っていったみたいだね。壁面に体をこすった時に抜け落ちた毛があるし、何かが通って小石が弾かれた痕跡があるから(`・ω・´)】


「え、ホント?」


「……マジで? ツバメさんすごいな」


 あっさりと正解のルートを割り出した手腕に、素直に感心してしまう。

 騎士団に所属していると、追跡技術も必須技能として教え込まれるのだろうか。

 俺も地面の状態を確認してみるが、言われてみても全く分からない。雷狐の毛だって、この薄暗さではどこにあるか見えなかった。

 ツバメさんはよほど夜目がきくらしい。


 ……ただ何と言うか、騎士の技術とはややズレているような感覚を覚える。

 【英雄天国(パラダイス)】での壁抜けバグで、道具屋の宝箱を開けた時もそうだったが、どちらかというと騎士ではなく、ゲームのジョブで例えるなら狩人やシーフ、暗殺者、もしくは――。


「章介さん、どうかした? 先に進まないの?」


 ティオの声で、ハッと思考の底から引き戻された。

 完全に考えこんでしまっていたようだ。今はソフィーさんたちの捜索が優先だ。余計な推察は後に回そう。


「いや、ティオはここで待機していてもらえるか? 万が一、この通路が先で繋がっていて、ソフィーさん達が別の通路から出てきたときに行き違いになったらマズいからな。……だいたい今、15分経過しているから、あと30分探索しても見つからなかったら一度戻ってくる」


「確かに行き違いの可能性はあるか。分かった、私はここで待機しておくよ。二人共気を付けてね?」


「…………………」【任せておいて。無事にソフィーリア様たちを連れて帰ってくるよ(`・ω・´)】


「よし、それじゃあ行こうか。ツバメさん、道中頼むよ」


 ティオを最初の分岐点に残し、俺はツバメさんを伴ってさらに洞窟の奥へと進んでいった。



 * * * * *


 それから15分が経過した。

 途中、二度ほど分岐点があったが、ツバメさんが迷いのない足取りで正解を導き出してくれたおかげで、追跡は順調そのものだった。

 彼女がいてくれて助かった。俺だけだったら手詰まりだった可能性が高い。

 今も先導するように、薄暗い洞窟内をスイスイと歩いていく背中に声をかける。


「それにしても見事な追跡技術だね。ツバメさんがいなかったら、お手上げだったところだよ。助かった」


「…………………」【お互い様だよ。私たちだって、章介君がいなかったら【英雄天国(パラダイス)】で詰んでいただろうし、こっちも助かっているからね(´ω`)】


 チラリと振り返りながら、視線だけで笑うように答えるツバメさんに、俺も笑い返す。


「はは、適材適所ってやつかな」


「…………………」【そうそう、『()()()()()()()()()()』って言うからね( ̄▽ ̄)】


「ずいぶん古い言い回しするね? 咄嗟に意味が出てこなかった…………よ?」


 俺はその言葉に、ツバメさんの背中を凝視した。


(……今、なんて言った?)


 それをきっかけに、今まで彼女が口にしたことのある、違和感のある言葉の数々が頭をよぎる。

 思えば、彼女からは度々おかしな言葉がこぼれていた。

 似たような意味のことわざは異世界にもあるだろうが、全く同じ言葉が存在するわけがない。

 ティオが好んで使う『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ということわざも、以前俺が日本文化を教えたときに彼女が覚えたものだ。


 それに何より、いま彼女は『武士』という単語を口にした。

 それは異世界では、絶対に知りえない言葉のはずだ。

 ティオに教えてもらった可能性はある。

 しかし『弓矢の道は武士が知る』ということわざは、俺ですら今聞くまで記憶から消えていたほどのものだ。当然ティオにも教えていない。


 ということは、だ。


 ――ツバメさんは、日本のことを知っている……?


 思い返せば出会った当初、俺は彼女のことを日本の幽霊と勘違いしてしまった。

 それは顔立ちが、日本人に近いからだ。

 一度疑問に思うと、次から次へとその可能性が浮かび上がってくる。


 幸いにも今この場には、俺とツバメさんの二人しかいない。

 聞くならば、このタイミングしかない。


 俺はごくりと唾を飲み込むと、彼女の背中に向かって声をかけた。


「……なあ、ちょっといいか? ツバメさん、君はもしかして――」


「…………………」【っ!? しぃっ! (`・Д・´)】


 声をかけたその瞬間。ツバメさんが手で俺を制し、ピタリと立ち止まって前方を注視した。

 その行為に一瞬思考が止まるが、奥から聞こえてきた異音に俺の注意もそちらへと向く。


 洞窟内に反響する音は次第に大きくなり、何やら大量の生き物がこちらへ向かって猛然と移動してくるような響きに、背中を嫌な汗が伝う。

 ツバメさんもこれから起こる状況に想像がついたのか、ダラダラと冷や汗を流していた。

 俺たちは警戒しながら、じりじりと後退する。


 すると、様子の見えなかった10メートルほど前方のカーブの先から、頭に雷狐を乗せたソフィーさんが釣り竿片手に全力で駆けてくるのが見えた。


 ――その背後に、巨大蟹の大軍を引き連れながら。



「えええええええ!!!?」

「…………………」【えええええええ!!!? Σ(゜Д゜;)】



「っ!? ツバメと章介さん!? 何故こんなところに……って、逃げてください! 蟹に追われてます!!」


 俺たちに気付き驚きの声を上げたソフィーさんだったが、すぐに切り替えて逃走を促してくる。

 俺とツバメさんもすぐさま反転し、彼女に並走するように駆けだした。

 ちらりと背後を確認するが、推定30匹以上はいるであろう巨大蟹の群れが猛追してくる様は、ある種のパニック映画のような光景だった。


 俺は水晶を並走させながら彼女に質問を投げる。


「おい、ソフィーさん! 一体この状況はなんだよ!? 何をしたら蟹の大軍に追われるんだ!?」


「わかりません! 雷狐を探して砂浜沿いに西へ向かっていたら、蟹がいきなり襲い掛かってきてグレートソフィー4号を奪って逃走していったんです!」


「グレートソフィー……なんて!? もしかして、爆釣杯優勝景品のロッドのこと!? なにそのクソダサなネーミング! しかもそのロッド、一応マリアさんのものだろ!?」


「クソダサ!? クソダサってなんですか! ティオみたいなことを言わないでください! それにマリアがロッドを持っていても、宝の持ち腐れですって! 私が有効利用しているだけです!」


「…………………」【言い争いは後にしてくれます!? (゜Д゜;)】


 ツバメさんの的確なツッコミを受けながら、元来た通路を駆け戻る。

 しばらく走ると、最初の分岐点が近付いてきた。あそこにはティオが待機しているはずだ。

 あとは彼女を連れて脱出すれば、目的は達成したことになる。蟹の対処は、この洞窟を出てからすればいい。


 あと少し、もう数メートルで分岐点に到達する。

 そう思った矢先、さらに場を混沌へと叩き落とす事態が発生した。



 ――ズドォオオオオオオオオン……ッ!!!



 前方から、鼓膜を破るような爆発音と凄まじい衝撃が襲いかかってきた。

 さらに連動するように、何かが崩れ落ちる轟音が肌を震わせる。


「うわあああああ!? なんだ!? 何事だ!?」


「爆発!? こんな洞窟の中で!?」


「…………………」【っ! ティオちゃんは!? (゜Д゜;)】


 洞窟全体を揺るがす衝撃に足を止めるが、爆発の震源は間違いなくティオが待機している近辺だ。俺たちは慌てて分岐点へと飛び出した。

 パラパラと粉塵が舞い上がる通路の先は、今の爆発で崩落したのか完全に岩で塞がれていた。

 そしてその手前には、ティオがうつ伏せに倒れこんでいる。

 最悪の想像が頭を過り、俺は彼女に近寄り名前を呼んだ。


「おいティオッ! 大丈夫か!? 返事をしてくれ!?」


「…………………」【ティオちゃん無事!? 何があったの!? (゜Д゜;)】


 俺とツバメさんの必死の呼びかけに、ティオは『……ううっ』とくぐもったうめき声をあげた。

 よかった、意識はあるようだ。

 深い安堵の息が漏れるが、このままのんびりしているわけにもいかない。

 今の衝撃で一時的に蟹の追跡が止まったようだが、いつまた群れが押し寄せてくるか分からない。

 しかも最悪なことに、入り口へ続く道が完全に崩落し塞がれていた。すぐに別の脱出方法を探す必要がある。

 ツバメさんがティオに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がらせた。


 一体ここで何があったというのか?


 俺とツバメさんが混乱と心配する中、さっきから一言も口を開いていない人物がいた。

 ティオと最も付き合いの長いソフィーさんだ。

 彼女は、倒れていた親友を心配する言葉を一切発することなく、極寒のジト目でティオを見つめていた。


「……ねえ、ティオ。貴方――何をやらかしました?」



「……は?」

「…………………」【……は? (゜Д゜;)】



 俺とツバメさんの声がハモり、ソフィーさんを見つめる。

 心配するでもなく、ある種の確信をもって問い詰めるソフィーさんの言葉に、俺は再びティオへと視線を戻した。

 よくよく地面に目をやると、衝撃で散らばったと思っていた鉱石の欠片たちの配置に違和感がある。

 どう見ても、不自然なほどレア鉱石が一か所に集まりすぎていた。


「……まさか……」


 俺は油の切れたロボットのような動きで、ティオへと首を回す。

 すると、ツバメさんに肩を借りていたティオが、おもむろに『テヘペロ』と首を傾げた。


「……章介さんたちを待っている間暇だったから、レア鉱石の採掘をしてたんだけどさ。温度の変わる不思議な鉱石が出てきたから試しに魔力を込めたんだよ。そしたら爆発しちゃった。――ごめんね」


 そのあまりにも軽い反応に、俺とツバメさんは絶句する。

 ソフィーさんだけは『やっぱり』と言わんばかりに、深い深い溜息をついた。


 ――ってことはコレ、ティオのやらかしか。


 俺はティオの、罪悪感の極めて薄い顔をまじまじと見つめ、大きく息を吸い込むと――洞窟内に響き渡る大声で叫んだ。


「お前の仕業かぁあああ!!? ティオォオオオオオ!!?」


 やはりコイツは、ソフィーさんの幼馴染であり、親友である――正真正銘の悪友だ。


 これでも今までは、転移失敗の責任を感じてやらかしを抑えていたのだろう。

 ……それでも、かなり胃が痛くなるような仕出かしを起こしていたが。


 禊が済み、完全にストッパーが外れた彼女は間違いなく、問題児の名に恥じないトラブルメーカーだった。

 最悪のタイミングで、最悪のトリガーを引いてくれた。


 タイムリミットは残り24分。

 さらにクエストが追加発生した。



【緊急追加クエスト:時間内に崩落した洞窟から脱出せよ!】

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は来週、8月29日(土)夕方以降になります。

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