068 無人島サバイバルはトラブルだらけ! カニと戯れる王女様
「は、離して下さい。雷狐ちゃん……雷狐ちゃんがぁ! ……雷狐ちゃ――――んっ!」
「ま、マリア姉、落ち着いて……!」
「そうですマリア! ……って、想像以上に力強っ!?」
「…………………」【うおおお……力むと邪神戦の怪我が……肋骨が軋む(TДT)】
現在、俺たちはある意味で修羅場を迎えていた。
雷狐が小屋から脱走し、野生へと戻っていった一連の出来事に、マリアさんが絶賛パニック中なのだ。
それをツバメさんが羽交い絞めにし、さらに左右からティオとソフィーさんが腰にしがみついて抑え込もうとするが、その状態でもマリアさんは一歩ずつ前へ、前へと進んでいく。
いくら怪我の影響で万全ではないとはいえ、現役の騎士であるツバメさん+二名を引き摺ったまま歩を進める彼女からは、恐ろしいほどの執念とフィジカルを感じる。
しかし、このまま黙って見ているわけにもいかない。
俺は行く手を遮るように、彼女の眼前に水晶を移動させた。
「マリアさん冷静になれ! 雷狐は魔眼の影響で逃げ出したんだから、マリアさんが追いかけたらイタチごっこになるだけだって! 俺たちで連れ戻しに行くから、ここで待機していてくれ!」
「っ!? そ、そんなぁ……?」
俺の言葉に、彼女は今までの馬鹿力が嘘だったかのようにへたり込んだ。
よく聞くと、小さく嗚咽まで漏らしている。
「う、ううう……。ら、雷狐ちゃん……。私の魔眼のせいでぇ、こんなことになるなんてぇ。……章介さん、雷狐ちゃんをお願いしますぅ! あの子を保護してください! 今頃、自然の中に迷い込んで心細く鳴いているに違いありません……!」
縋り付くように水晶を見上げるマリアさんは、迷子の子供の安否を心配する母親のようだった。
……ただ、何て言ったらいいのか。
「……ねえ章介さん。この島って何か危険な生き物とかいるの?」
「……いや、一応野生の生き物たちは生息しているけど、ちょっかいをかけなければ危険はないぞ。このゲーム、スローライフゲームだしな」
「……と言うか、そもそも雷狐は『アニマルモンスター』のキャラですよね? 元々野生の生き物では?」
「……そうだな。むしろ解放されてノビノビしているかもな」
「…………………」【……何か心配することあるの? (;゜Д゜)】
「……マリアさんの精神状態が心配かな」
悲壮感漂うマリアさんに聞こえないよう、ヒソヒソと内緒話をする俺たちとの温度差が酷い。
今まで頼りになる姉代わりだったマリアさんのポンコツ極まる醜態を、ティオとソフィーさんが居たたまれない表情で見つめていた。
「と、とにかく! マリアさんはこのまま、ここで待機していてくれ。そうすれば雷狐は魔眼の影響で、逃げた方角と逆方向へ行く可能性は低くなるから」
「……ううう、分かりましたぁ。よろしくお願いしますぅ……ぐすっ」
(((……ガチ泣きしてる)))【(;´・ω・)】
俺たちは何とかマリアさんを落ち着かせると、雷狐を捕獲すべく小屋から足を踏み出した。
ぶっちゃけ、『お腹が空いたら帰ってこないかな』などと考えながら。
(……いや、マリアさんの魔眼の影響がある限り無理か。でも、そろそろ本格的に何とかしてやらないとな。……約束したしな)
俺はそう考えながら、カバンにこっそり仕舞いこんだあのアイテムを強く思い浮かべた。
「よし、それじゃ雷狐を連れ戻しに行くぞ。アイツが逃げたのは島の西側、草原の方角だ。東の森側じゃなかったのは運が良かった」
「ねえ章介さん。私たち、まだこの島の詳細な地形を把握してないんだけど、草原の先ってどうなってるの?」
「ああ、この先は砂浜になっている。見通しがいい場所が続くから、雷狐を見つけやすいはずだ」
「なるほど」
この無人島は拠点となる小屋から見て、西から南側にかけて草原があり、その先に砂浜が広がっている。北から東側は森と山だ。
仮に森側に逃げられていたら、山狩りをする必要が出てきたところだ。そうなれば、子ぎつね一匹を見つけ出すのははっきり言って厳しい。不幸中の幸いだった。
俺はさっそく、捕獲作戦を説明していく。
「まずは三手に別れよう。俺とティオはこのまま真っ直ぐ西へ進む。ソフィーさんは一旦南方向、ツバメさんは北方向へ移動してくれ。その後、三手同時に西側へ進んで雷狐を砂浜まで追い込む。そこまで上手く追い込めれば砂浜の先に逃げ場はないから、あとは捕まえるだけだ。……その作戦でいいか?」
「分かった、それで行こう」
「分かりました。お任せください」
「…………………」【了解、任せといて(`・ω・´)】
一通り説明し、俺はぐるりと三人を見回す。皆、力強く頷いてくれた。
「よし、それじゃ三分後。二人が移動してから作戦開始だ。行くぞ!」
「「おおー!!」」【(^o^)/】
こうして、【緊急クエスト:脱走した雷狐を捕まえろ!】が開始した。
……まあ、トラブルメーカーが揃っている以上、すんなり進むことなどあるはずがなく、さらに緊急クエストが追加されることになるなど、このときは思いもよらなかった。
* * * * *
きっかり三分後。俺とティオは連れ立って西側へと歩き出した。
海風が吹き抜ける草原は、そよそよと緑色の波を揺らし、ティオの足元を優しく撫でていた。
視界一面に広がる景色に雷狐の姿は見えず、――というか、生き物の気配は虫の一匹に至るまで皆無だった。
完全にマリアさんの『威圧の魔眼』の影響だ。
彼女を中心に、半径100メートル以内の生き物が姿を消している。
そんな中、俺たちは注意深く辺りを見渡しながら進んでいく。
「……それにしても相変わらず、マリア姉の魔眼はすごいね。見渡す限り生き物の気配がないよ。王城じゃ、虫やネズミが出なくて助かるって言われてたけど」
「あー、なるほどな。マイナス面だけじゃなく、そういうプラス面もあるっちゃあるのか」
「とは言っても、マリア姉自身が忌み嫌ってるから、本人からすればマイナス以外の何物でもないんだけどね」
「……まあ、そうだよなぁ」
雑談をしつつも辺りの警戒だけは怠らず、草原の端まで辿り着いた。
残念ながらここまで雷狐の姿は一切見えず、ここから先は砂浜ゾーンへと繋がっている。
見れば、砂浜には生き物の姿がちらほらと確認でき、マリアさんの魔眼の有効圏内から出たことが分かった。
つまり、ソフィーさんとツバメさんが取り逃がしていなければ、雷狐はこの先にいることになる。
そして待つこと数分。ぐるっと北回りでやってきたツバメさんが合流した。
どうやら彼女も雷狐とは遭遇しなかったらしい。
「…………………」【ごめん、こっち側には姿はなかったよ(;´・ω・)】
「いや、俺たち側も雷狐の姿は見えなかったから。あとはソフィーさん側か、この先の砂浜に――」
「っ!? 章介さん、あれ!」
現状の確認のため情報交換をしていると、何かに気付いたティオが声を上げた。
彼女が示す方向へと視線を向けると、そこには砂浜をトットコ歩いている雷狐の姿があった。
「「いた――!?」」【(;゜Д゜)】
思わず叫んだ声に反応し、雷狐がこちらへと顔を向けた。
どこかで拾ったのか、口には深い青色の球を咥えており、その顔には、いきなり大声で呼ばれた驚きと警戒が浮かんでいた。
俺たちは雷狐を刺激しないよう、なるべく優しい声で呼びかける。
「おーい雷狐、一緒に帰るぞー」
「雷狐ー、マリア姉が泣いてるよー。戻っておいでー」
「…………………」【子ぎつねちゃーん、おやつあげるからこっち来ーい(∩´∀`)∩】
そんな俺たちの様子に、雷狐はその場で固まりこちらの様子を警戒していた。
しかし、俺たちの姿を思い出したのか警戒心を弱め、少しずつこちらへと歩いてくる。
「よーしよーし、そのままこっちにおいでー」
そしてあと数メートル。
もう少しで手が届くというとき、未だ合流しない最大のトラブルメーカーがここで登場した。
「よし、あともうちょい――って、あれ? 章介さん、何か聞こえない?」
「…………………」【なんだか聞き覚えのある声が……(´・ω・`)】
「……これ、ソフィーさんの声か? それに混じってカシャカシャ騒がしい音も?」
雷狐も聞こえてくる音と声に足を止め、耳を立てて辺りを見回す。
俺たちも同じように辺りに視線を飛ばすと、砂浜の向こうから大量の何かがわらわらとやってくるのが見えた。
方向で言えば、ソフィーさんが向かった南側の砂浜からだ。
嫌な予感が止まらない。
それは他の二人も同じようで、表情を硬くしてその光景を見つめていた。
そしてそれが近付いてくると、その正体がはっきりと見えた。
――蟹だ。
1メートル程もある巨大な蟹が、大量に群れを成してこちらへと押し寄せてきた。
さらにその群れの後方から、よく見覚えのある人物が爆走してくる。
「待ちなさい! 私の釣り竿をどこまで持っていく気ですか!? グレートソフィー4号を返しなさい!」
よく見ると、先頭を駆ける蟹の爪に、これまた見覚えのあるロッドが挟まれている。
それを取り返そうと追走するソフィーさんは、足場の悪い砂浜だというのにそれを微塵も感じさせず、まるで平地を駆けるかの如き速度で迫ってくる。
その訳が全く分からない光景に、俺たちは呆然と口を開いたまま固まってしまった。
巨大な蟹を追いかける王女様。
ファミコン全盛期のクソゲーですら見かけないシチュエーションだ。
しかし、その呆けた僅かな時間がマズかった。
異様な光景に驚いた雷狐が、再び逃走したのだ。
「っ! しまった!?」
『あ』と思ったときにはすでに遅かった。
雷狐は蟹から逃げるように駆け出すと、砂浜にポツンと現れた洞窟の中へと逃げ込んでいった。
そして更にその後を追うかのように、大量の蟹とそれを追いかけるソフィーさんも、その中へと姿を消した。
「待てぇえええ――――――っ!!!」
ドップラー効果のような絶叫と共に。
現実に頭が追い付かず、しばらくその光景を眺めていたが、再起動したティオが俺に問いかけてきた。
「……ねえ、章介さん。今のソフィーじゃなかった?」
「……俺の目がおかしくなければ、そう見えたな」
「……っていうか、さっきまであんな洞窟あったっけ?」
「……いや、無かった。あれって、引き潮の時間に256分の1の確率で現れる洞窟だな。中でレア素材が手に入るから、ボーナスステージって呼ばれてるやつだ。出現から60分で消えるんだけど」
「…………………」【……今、その中にソフィーリア様と子ぎつねちゃんが入っていかなかった? (;゜Д゜)】
「……そうかもな」
「「…………」」【(;゜Д゜)】
「ソフィーさ――――――んっ!!!? 何やってんだ――――――っ!!!?」
「ソフィ――――――っ!!!? 何やってんの――――――っ!!!?」
「…………………」【ソフィーリア様――――――っ!!!? 何やってるんですか――――――っ!!!? Σ(゜Д゜)】
タイムリミットは60分。
それまでに救出しないと、次はいつこの洞窟が現れるか分からない。
(なんでこんなピンポイントで、256分の1なんて引き当てるんだよ!)
本来ならば、この洞窟が出現すると超ラッキーとなるはずが、一転して時間制限ありの救出ゲームに早変わりしてしまった。
……本当に、あのトラブル体質は一度お祓いに行った方がいいレベルだ。
俺たちは慌てて洞窟へと駆け出し、洞窟内へと突入した。
【追加クエスト:60分以内に王女様を連れ戻せ!】
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次回投稿は来週、8月22日(土)夕方以降になります。




