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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第六章 【ロールプレイングゲーム】

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058 【英雄天国】その10 ~野営と消える石像~

 眼前に広がる水平線の彼方に日が沈みかけ、辺りは赤く染まりつつあった。

 ティオとツバメさんは、無人島から持ち込んだバッグから折り畳み式のテントを取り出すと、スルスルと器用に組み立てていく。かまどの前では、マリアさんが火をおこしながら料理の準備を進めていた。

 そしてソフィーさんは、【爆釣王(ばくちょうおう)】の優勝景品であるロッドを巧みに扱い、すでに何匹もの魚を釣り上げていた。確かにこの腕前ならば、正攻法でも【爆釣王(ばくちょうおう)】で優勝できたのかもしれない。


 野営に向け、着々と準備を進める彼女たちを眺めていると、テントの設営を終えたティオがソフィーさんの元へと歩いていく。それと同時に、水晶()の側へツバメさんが近づいてくるのが見えた。


「…………………」【章介君お疲れ様。……ごめんね、こんな状況になっちゃってて(;´Д`)】


 水晶()のすぐ傍で立ち止まった彼女は、バツが悪そうに現状を謝罪してきた。

 と言っても、表情は一ミリも変わらないし、一言も声は出ていないんだけど。


「いや、よくよく考えてみれば仕方ないよ。俺もゲームでの操船しか頭になかったから……。こうなったのも、なるべくしてなったんじゃないかな」


 そう言って苦笑いを返すが、なぜか余計にバツの悪そうな雰囲気になってしまった。

 その様子に疑問符を浮かべると同時に、俺の第六感が『もしや』という嫌な警報を鳴らした。


「…………………」【いや、本当なら第九の町まで、問題なく辿り着いてるはずだったんだよ。マリアちゃんが操船の技術も修めていたらしいから(;・ω・)】


「え、マジで!?」


 素直に驚いた。

 何でも出来るとは思っていたが、まさか操船技術まで持っていたとは。本当に彼女は、出来ないことを探す方が難しい完璧超人だ。……最近は結構ポンコツな部分も見え隠れしているけど。


「……じゃあ、なんでこんな事態になってるわけ?」


「…………………」【いやさ、今朝の戦闘でマリアちゃん結構なダメージを受けてたでしょ? 実はあの後、回復薬を使ってなかったらしいんだ。私もちょっとメンタルやられて、気にかけてる余裕がなかったし。……で、操舵をしている最中も、眼を離すと子狐ちゃんがマリアちゃんのことを攻撃していてさ(;・ω・)】


「……まさか」


 そこまで聞いて、この話のオチが見えてきた。


「…………………」【この海域に入ったあたりで彼女が気絶させられてね? ソフィーリア様が慌てて操舵輪を掴んで、『私に任せてください!』って言ったんだよ。ただ、そのタイミングで突風に帆をもっていかれて、この有様って感じかな……(;´Д`)】


 その後、座礁した船を修理し、時刻も夕暮れ時になったため、この島に上陸して野営の準備をしているらしい。


 俺は椅子に深く腰をかけ、天井を仰いだ。

 ……何やってんだよマリアさん。本当に何やってんだ。あとソフィーさんも、何で毎回フラグを回収するんだよ。


 彼女たちのやらかしに頭を抱えていると、ツバメさんが無表情ながらも、どこか嬉しそうな雰囲気で水晶()を見つめてきた。


「…………………」【ま、完璧超人だったマリアちゃんに隙が増えたのは、章介君のおかげと言うか、せいだと思うよ(*‘∀‘)】


「……は? 何で?」


 彼女からの唐突な言葉に、思わず呆けた声が漏れる。


 このゲームに入ってから、以前のマリアさんらしからぬポンコツな言動の数々に頭を痛めていたが、それが俺のせいと言われても納得がいかない。困惑の混じった表情でツバメさんを見つめ返した。

 すると彼女は、さらにおかしそうな顔文字で答えてくる。


「…………………」【マリアちゃんはさ、昔は色々あったし、ソフィーリア様に仕えるようになっても二人の姉代わりみたいなものだったから、常に完璧であろうとしてたんだよ(´∀`)】


 それを聞き、数日前にマリアさんから語られた昔話の内容に、納得の感情が浮かんでくる。

 確かに彼女は幼少期から今に至るまで、自分を高めるため、または誰かを支えるために自身を厳しく鍛え上げてきたのだろう。

 だからこそ、誰よりも完璧であろうとしたに違いない。


「…………………」【だけど章介君に出会って、支えるだけじゃなく、支えられることも知ったんだと思うよ。聞いたよ? 前のゲームでマリアちゃんと何があったか。おかげで『完璧な仮面』が少し緩んでるんだろうね。まあ、あんなに面白いことになってるのは想定外だけど、案外あれが生来の気質なのかもね(*´∀`*)】


「……そうかなぁ? それだとボケが三人になるから勘弁してほしいんだけど」


 俺の渋面に、ツバメさんは顔文字で大笑いしていた。

 そうは言っても、なんだかんだマリアさんは最終的にはしっかり者な気がするんだけどな。

 寧ろそうあってくれないと、問題児二人に対するストッパーがいなくなるから、心の底から勘弁してほしい。

 子狐に何度も失神させられるのが生来の気質だなんて、悪い冗談だ。本人がそれでも幸せそうなのが余計につらいが。


「…………………」【ま、幸い回復アイテムは沢山あったから、マリアちゃんもすぐに意識が戻ったけどね。章介君が持たせてくれた薬草も99個のままだし、この世界で手に入れた薬草もまだ10個以上あるからね(´ω`)】


「何事も備えておけば安心だからな。何があるか分からないし、何をやらかすかも分からないし」


 俺はモニターに映る彼女たち――特にその中で釣りをしている二人を眺めながら笑う。


「…………………」【ああ、『()()()()()()()()()』ってことだね(´ω`)】


「ああ、まさにその通り――」


 彼女の言葉に頷きかけたその時、ふと奇妙な違和感が俺を襲った。

 今、彼女は何て――。




「よしっ! また来ました、今回はすごい引きです!」


「さすがソフィー。慎重にね。夕飯を豪華にしてよ」


「任せてください! 誰も見たことのない夕餉にしてあげますよ!」




 ツバメさんに視線を戻そうとした瞬間、釣りをしていた二人から歓声が上がり、そちらへと意識が持っていかれてしまった。


「…………………」【お、さすがソフィーリア様。アウトドアに関しては右に出る者がいないね(´∀`)】


 ツバメさんも俺との会話を切り上げ、竿をしならせる二人の元へと歩いていく。

 あ、と思ったときには彼女はすでに水晶()から離れており、俺は今感じた疑問を口にするタイミングを逃してしまった。


(まあ別にいいか。そこまで大したことでもないし)


 そう考え、思考をリセットした俺はツバメさんの後に続き、二人の元へと移動することにした。


 彼女たちに近づくと、余程かかった獲物が重いのか、二人がかりでロッドを巻き上げているところだった。

 俺の視点が彼女たちのすぐそばに寄ったとき、ちょうど二人が渾身の力で獲物を海面上へと釣り上げた瞬間だった。



「「せ――のっ、よいしょぉおお!!!」」



 ティオとソフィーさんが呼吸を合わせ、ロッドを持ち上げる。

 海面を割り、勢いよく空中へと舞い上がった釣り針の先にあったのは――残念ながら魚ではなく、どこか古びた石像のようなものだった。

 そしてその石像は、皆の視線が注がれる中、空気に溶けるように黒い霞となって消えてしまった。

 釣り上げてから、僅か数秒の出来事だった。


「え? 消えた?」


 皆がその不可解な現象に目を丸くしていると、気のせいかと思うほどの僅か一瞬、視界の端を何らかの違和感が掠めていった。

 とっさにそちらへ目を向けるが、そこには赤く染まる空が広がるのみで、おかしなところは何一つ見当たらない。


(……気のせいか?)


 ほんの一瞬だったし、視界の端ギリギリの出来事だった。本当に何事もなかったのかもしれない。

 俺はもう一度注意深く辺りを見渡すが、違和感の正体はどこにも見当たらなかった。


 息を一つ吐き出す。

 どうやら、ここまでトラブル続きだったせいで、少し神経が過敏になっているようだ。


「え、今の何でした? おそらく石像のようなものが、釣り上げた瞬間に消えてしまいましたけど?」


「少なくとも夕飯の材料にはならないことは確かだね。……章介さん。今の石像に見覚えある?」


 ティオがこちらへ顔を向け、俺に問いかけてくる。

 しかし、あんなものは俺が知る限り、このゲームのアイテムには存在しなかったはずだ。

 PC移植版からの追加アイテムかとも考えたが、少なくともあんな風に海の中から釣り上げられるモノなどないだろう。

 記憶を探るが、該当するような情報はヒットしなかった。


「……いや、知らないな。調べてみるけど、少なくとも俺の記憶の中にはない」


 首を振って答える。


「……そっか」


 俺の反応を見たティオは、顎に手を当てて何かを考える仕草をした後、すぐに頭を振った。


「分からないことをいつまでも考えていてもしょうがない。もしかしたら私たちにとって良いことかもしれないしね。……注意だけはしておくことにするよ」


「……そうだな。俺の方でもさっきの石像のことは急いで調べておく」


「そうしてもらえると助かるよ。……それにしてもソフィー。あなたあれだけ『絶対にこれは大物です! 夕餉の一品に加えてあげます!』なんて言ってたくせに、魚ですらなかったじゃん。無機物だったよ? あなたからアウトドアの技術を取り上げたら、ポンコツ王女しか残らないんだから、分かってる?」


「はあ? 今、私のことを『王女の搾りかす』って言いましたか?」


「そこまでは言ってないよ。言っていいなら次からそう言うけど」


 毎度の恒例行事のごとく、言い合いを始める二人。

 そしてかまどの前では、マリアさんがこちらも恒例のように雷狐(ライコ)に引っ掻かれている。

 ツバメさんは、どちらの仲裁をするべきかとキョロキョロと迷っていた。


 俺は深い溜息をつくと、マリアさんをツバメさんに任せ、ティオたちの仲裁に入ろうと意識を向けた。


 二人の言い合いを、すっかりと慣れが出始めた俺は宥めつつ、頭の片隅にはさっきの石像のことが引っかかっていた。

 しかし、やはり何度考えてもあんなアイテムは俺の記憶には存在しない。

 あれは一体なんだったのか?


 その時、誰も気づいていなかった。

 誰の視界にも入らない頭上高く、日が沈みかけた夕闇の空の一部に――ノイズが走っていたことに。

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は来週、6月13日(土)夕方以降になります。

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