表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第六章 【ロールプレイングゲーム】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/68

057 【英雄天国】その9 ~悪の魔法少女、爆誕!~

「まずは状況を打開する方法だ」


 そう言って、水晶()の周りに集まる四人を見回す。四人とも真剣な表情でこちらを見つめていた。さすがに『このままではマズイ』という共通認識はあるようだ。


「服屋を出禁になっている現状、新たな衣装を手に入れる方法は二つ。一つはモンスターからのドロップだけど、そもそもモンスターを倒すのがキツイからこの方法は保留。なので二つ目の方法――宝箱からの入手になる」


 そこまで説明を聞き、ティオがスッと手を上げた。


「ちなみにどこから? 今の戦力じゃダンジョンアタックは厳しいよ?」


 その質問にニヤリと笑い、ティオに『ゲームのお約束』を思い出してもらう。

 ゲームの世界に入り込んでいる彼女は無意識に除外しているようだが、プレイヤー視点から見ればごく一般的な手法だ。――倫理観さえ無視すれば、だが。


「アイテムを手に入れられる場所が、もう一か所あるだろ?」


「……あ、もしかして?」


「……そういうことですか」


 俺の言葉に、RPGの知識があるティオとソフィーさんが悪い笑みを浮かべた。

 さすが問題児たち。これからやることにノリノリである。

 一方、ゲーム自体に詳しくないマリアさんとツバメさんが『何のこと?』と首を傾げているのが対照的だった。


「ああ。町に戻って、家の中を物色させてもらう」



 * * * * *



 今、俺たちの目の前にあるのは道具屋の裏手の壁だ。

 一見ただの壁にしか見えないが、実は一部の当たり判定がなく、すり抜けてカウンターの内側へ入ることが出来る。

 狙うは、道具屋の店主の背後にある宝箱の中身。客観的に見れば、ただのコソ泥である。


 ノリノリな二人とは対照的に、常識人である残りの二人はどうしたものかと困り顔をしていた。


「…………………」【ねえ、本当にやるの? 騎士的に見過ごせない状況なんだけど。私が退治してきた盗賊や海賊たちとやってることが変わらなくない? (;・ω・)】


「そうですよぉ。いくらゲームの中とはいえ、第一王女がこのようなことを行ったと知れたら、国王様が驚きで倒れてしまいますよぉ?」


「だから妥協案として、代わりに2000Gを置いてくるって話になったでしょ? このままじゃ攻略は詰みだし、世界を救うための必要経費だって」


「そうですよ。それにお父様はこの程度で倒れたりしません。倒れるくらいなら、とっくにお兄様と世代交代しています」


「……国王様が不憫になってきたよ」


 道具屋の裏手で言い合いをしているが、いつまでもこうしているわけにはいかない。

 どう引き延ばしても、あと30分もすれば俺は出社しなければならないからだ。

 さっさと目的を済ませることにする。


「二人の懸念も分かるけど、時間も他の方法もないからこのまま進めさせてもらう。これもゲームのお約束ってやつだからな」


「……相変わらずゲームの世界というのはぁ、倫理観が壊れているのですねぇ」


 マリアさんが遠い目をしているが、ここは割り切ってもらうしかない。


「じゃあ、ティオとソフィーさん、それにマリアさんは正面から店に入って、店主の注意を引いてくれ。その間にツバメさんがそこの壁をすり抜けて宝箱の中身を回収。かわりに2000Gを入れて脱出だ」


 そう言って全員に準備をさせる。

 本来なら、何故か身分とかけ離れた隠密性能を誇るソフィーさんが回収に向かうのが望ましかったのだが。


「仕方がありません。万が一それで、衣装が私のサイズで固定されでもしたら本末転倒ですからね」



「…………………」【……父上、これも先祖の因果でしょうか(;д;)】



 正面入り口へと移動する俺たちと別れ際、ツバメさんが何やら呟いていた気がしたが、はっきりとは読み取れなかった。


 そのまま店内へと入った俺たちは、店主の気を引くべく商品について矢継ぎ早に質問を投げかける。

 1分後にツバメさんが侵入する手はずだ。


「すみません、こちらの傷薬は夜の体力の回復にも効果があるのでしょうか?」


「え? い、いや。これはモンスターとの戦いで負った怪我を治すためのものだから、そういう効果はちょっと……」


「すみません、この傷薬の成分なんですけど、このキズナオールαとβ3の成分比率が上級と異なるのは、生育過程の違いか何かですか?」


「え? い、いや。悪いけどそこまで専門的なことはちょっと……」


「すみません、こちらの傷薬はぁ、ペットにも有効なのでしょうかぁ? ……痛っ!?」


「……その前にお嬢さんが使った方がいいんじゃないかな?」


 営業妨害一歩手前のやり取りをしていると、店主の背後から、ツバメさんが壁を透過するように侵入してきた。改めて見るとものすごくシュールな光景だ。

 しかしそれ以上に驚いたのは、彼女の気配が一切感じ取れないことだった。


 作戦通り、店主の背後で宝箱の中身とゴールドを入れ替えているのだが、実際に目の前で行われている行動を思わずスルーしそうになってしまうレベルの気配の殺し方だ。

 ソフィーさんも大概だったが、彼女のソレは同等かそれ以上の練度を誇っている。

 騎士というよりは、もはや暗殺者と呼んだ方がしっくりくる。


 僅か10秒という早業で、ツバメさんは再び壁をすり抜け店外へと脱出していった。

 それを確認した俺たちも、質問を早々に切り上げて店を後にした。



 * * * * *



 再び店の裏側、表通りからの死角で合流する。


「ツバメ、すごかったですよ! あんな特技があるなんて知りませんでした!」


「そうだよ。盗賊が天職じゃないかって思うぐらいの手際だったしね」


「そうですねぇ。あれなら騎士をクビになっても生きていけますねぇ。その場合、今度は騎士に追われる身になりますけどぉ」


「…………………」【……やめてもらえるかな? 涙が出てきたから(;д;)】


「お前らはツバメさんを褒めてるのか? それとも追い詰めてるのか?」


 無表情なままうっすらと涙を滲ませるツバメさんを見ると、彼女のメンタルが常人と変わらないことに少し安心する。

 他の三人、特に問題児二人のバグったメンタルを見た後だと余計にそう思えた。


「それよりも、まずは衣装の確認だ」


 俺は彼女の手元へ視線を向ける。

 今、何よりも大事なのはその衣装なのだ。


「じゃあ早速で悪いけど、ツバメさんはそれに着替えてもらえるかな? 外で申し訳ないが、そこの物陰なら誰にも見られないはずだ。三人は見張りを頼む。俺は少し離れてるから」


 四人の返事を聞きながら、俺は表通りの近くまで移動する。

 よくよく考えずとも屋外で女性に着替えさせるのはどうかと思ったが、ツバメさんは騎士の訓練で野外での着替えも経験済みらしく、異性の目さえなければ場所は問わないらしい。

 そう考えると、大通りだろうが人前だろうが、場所を選ばず一瞬で装備を着替えるRPGのキャラたちは、実はかなりヤバい存在なのではないだろうか?


 などとくだらないことを考えていると、着替えが終わったようで裏手から声がかかった。


 意識を現実へと戻し、すぐに店の裏手へと向かう。

 そこには、さっき手に入れた衣装に着替えたツバメさんが立っていて――。


「…………………」【……ねえ、私本当にこれ着るの? (;´Д`)】


 フリフリのレースがあしらわれたミニスカートに、胸元のハートのブローチとリボン。可愛らしい全身黒ずくめの衣装に身を包み、ハートの魔法ステッキを持った、黒髪・無表情・長身の女性。

 紛れもない、魔法少女の姿がそこにあった。


(……やべえ。魔法少女としては恐ろしく似合ってないが、闇落ちした悪の女幹部としてはハマりすぎてる)


 衣装の闇属性()と、ツバメさんの黒髪、そして無表情さが相まって、余計にダークな雰囲気を醸し出していた。

 何て言えばいいのか分からず、思わず固まってしまう。

 だが、そこはメンタル強者な二人組。彼女たちは迷わず口を開いた。


「すごいよツバメさん、悪に堕ちた魔法少女がバッチリ決まってるよ!」


「すごいですツバメ! 正義の欠片も見えない純粋悪の魔法少女です!」


「…………………」【……ブワッ(;ω;)】


「おいやめろ。ツバメさんが泣いてるぞ」


 自分も同じようなことを考えていた事実は棚に上げ、彼女たちを注意した俺は、実戦テストのため再び町の外へと移動した。



 * * * * *



 狙うはもう一度、『グレートボア』だ。

 町の外へ出てすぐ、30メートルほど離れた場所に一匹の姿があった。


 未だどんよりとした空気を纏っているツバメさんだったが、視界にモンスターを捉えると、歴戦の騎士らしくスッと気配が変わった。

 先程と同じくマリアさんの掛け声でモンスターを引き寄せ、戦闘が始まる。


 一度目の焼き直しのように、マリアさんに向かって突進していくグレートボア。その正面に割り込んだツバメさんが、手に構えた得物でその巨体を受け止めた。

 ――ハートの魔法ステッキで。絵面が非常にシュールである。


「ツバメさん! ステッキで攻撃してみてくれ! 今度は攻撃が通るはずだ!」


「…………………」【了解! はあっ! ヽ(`Д´)ノ】


 俺の指示に素早く反応したツバメさんは、重心を僅かに横にずらして突進を受け流す。バランスを崩して無防備になったグレートボアの側面に、強烈な横なぎの一閃を叩き込んだ。――ハートのステッキで。



『ブオオオオオオオッ』



 グレートボアは数メートル弾き飛ばされ、地面を転がった。

 初戦とは違い、明らかにダメージが入っている。ふらつきながら起き上がり、怒りの籠った目でこちらを睨みつけていた。

 チャンスだ。


「よしツバメさん! とどめを刺すぞ! 叫ぶんだ、『ラブリィ・マジック・ボンバー』って!」


「…………………」【了解! ラブリィ・マジッk……。え!? なんて!!?  Σ(゜□゜;)】


 途中まで素直に復唱しそうになったツバメさんだったが、正気に戻ったようで、驚きの顔文字を浮かべてこちらを振り返った。さすがに素面で叫ぶには、真面目な24歳にはキツいものがあったかもしれない。


 しかし、背後で観戦する彼女たちはあえて空気を読まない。無慈悲な声援が飛ぶ。


「ツバメさん! 『ラブリィ・マジック・ボンバー』だよ! ほら、語尾にハートマークが見えるぐらい大きな声で叫んで!」


「大声でフィニッシュを決めるのです! 貴方、それでも少女達たちの夢を背負った魔法少女ですか!」


「お二人はぁ、ツバメ様に何か恨みでもあるのですかぁ?」


 両手を振って、『ラ・ブ・リィ! ラ・ブ・リィ!』と囃し立てる二人に、『本当にやるの? 私が?』と困惑の色を浮かべるツバメさん。周りを見渡してみるものの、皆の期待に満ちた表情を前に、元々ハイライトの無い彼女の瞳はさらに死んだように曇っていった。


 覚悟を決めたのか、あるいはヤケクソになったのか。

 彼女はステッキをグレートボアへと向けると、半ば自暴自棄気味に叫んだ。


「…………………」【やってやらぁああ! ラブリィイイ・マジックゥウウ・ボンバァアアアアア!!!  ヽ(゜Д゜ )ノ】


 悲痛な叫び声と共に、ステッキの先端にはめ込まれたハート型の宝石へ黒い魔力が収束する。次の瞬間、グレートボアに向けて黒いハートの魔弾が高速で撃ち出された。


 ダメージを負っていたグレートボアに回避する術はなく、頭部にハートの文様を深く刻み込まれながら、光の粒子となってゴールドへと姿を変えていった。


 そのまま辺りを警戒するが、討伐したモンスター以外の姿は見えず、俺たちはホッと緊張を解いた。


「すごいじゃんツバメさん。やっぱ衣装のあるなしで能力は大きく変わるね。最後の叫びは心に響くものがあったよ」


「ええ、見事な一撃でしたぁ。……声に驚いた雷狐(ライコ)ちゃんが、私に体当たりしてきましたけど」


「本当です。さすがツバメですね。名付けて『悪の魔法少女ラブリィ・ツバメ(スワロゥ)』といったところでしょうか?」


「…………………」【……ブワッ(;ω;)】


「おい、だからやめろ。ツバメさんがまた泣いてるぞ」


 さっきからソフィーさんの無自覚な言葉の刃が、地味にツバメさんの心を削り続けている。

 だが、今の戦闘を見て、ようやく最低限の戦力が確保できたことを実感した。

 これなら次の町までたどり着けるだろう。

 そして俺も、そろそろ会社へと向かわなければ本気でヤバい時間になっていた。


「よし、これなら何とか船の旅も可能だろう。取り敢えず次の『第九の町』までたどり着ければ、借金返済の目途も立つ。悪いが、俺はもう会社に行かなきゃならん。何とか次の町まで頑張ってくれ。……ただし、絶対に無茶だけはするなよ? 定時で帰って来るからな」


「うん、任せといて」


 念を押す俺に、ティオはグッと親指を立てて笑って見せた。


 ――なんか昨日と全く同じデジャヴを感じる。

 その笑顔に嫌な予感を覚えつつも、時間に追われる俺は走って家を飛び出した。



 * * * * *



 時間は飛んで17:00。

 一向に進む気配のない時計の針に貧乏ゆすりをしつつ、俺は定時のチャイムと同時に席を立った。だが、背中から昨日と同様に声がかかる。


「おーい武田。今日こそ飯でも食いに行かないか?」


 振り向くと、同僚の上杉が笑顔で手を上げていた。

 しかし悪いが今日も無理だ。彼女たちのことが心配で、とてもそんな気にはなれない。


「悪いが今日も無理だ。急いで帰らなきゃならないんだ、悪いな」


「おいおい、まさかまたゲームの女の子ってか? そんなに心配なのかよ?」


 上杉が冗談交じりに笑いかけてくる。


「ああ。あいつら、俺が様子を見ていないと心配だからな」


「お、おお? そ、そうか……?」


 真顔で肯定すると、上杉は少し引いたような声を上げた。


「そうなんだ。じゃあな」


 俺はあまり深く考えず、ただ不安な気持ちを口にして速足で会社を出た。

 背後で上杉が固まっている気配がしたが、今は自宅へ帰るのが最優先だ。


 ――あとになって自分の発言を思い返すと、『ゲームの女の子たちは俺が居ないとダメだから』と真顔で宣う、かなりヤバい25歳という図式が完成していたことに気づく。

 明日からの社内での評判がさらに恐ろしい。



 * * * * *



 昨日と同様、急いで家に帰り、着替えもそこそこにモニターの電源をつける。


 画面に映し出されたのは、海沿いで野営の準備をしている四人の姿だった。


 皆の無事を確認し、ホッと息を吐こうとして――よくよく考えて、固まった。

 ちょっと待て、ここはどこだ?


 背中に嫌な汗をかきながら、恐る恐る声をかける。


「……おい、お前たち。……ここはどこだ? なんで野営の準備をしてるんだ?」


 第八の町の港から出航し、第九の町の港へ到着したのなら、野営などする必要もなく街中にいるはずだ。

 それに、気のせいでなければ、彼女たちの奥に見える船の様子が少々おかしい。


 水晶からの俺の声に気付いた彼女たちが、こちらへと目を向けた。


「……あー、章介さん。お帰り」


「……お疲れ様です」


「……お帰り、なさい、ませぇ……」


「グルルルルル……」


「…………………」【お帰り、章介君(;´Д`)】


「ああ、ただいま。……それより、俺の質問に答えてもらっていいか?」


 ものすごく言い辛そうな空気が漂っている。

 それに伴い、俺の背中にも冷や汗が流れていく。


(……まさか。まさか、二日連続ということはないよな?)


 しかし、俺のささやかな願いは儚く散ることとなる。

 さすがにいつまでも黙っているわけにはいかないと悟ったのか、ティオが気まずそうに口を開いた。


「……座礁した」


「……は?」


 一瞬、何を言われたのか理解できず、おかしな声が漏れた。

 今、彼女は何て言った?


「いや、途中までは順調だったんだけど、途中で座礁しちゃって。ゲームだと主人公が自在に操船してるけど、現実はそう甘くなかったよ。船自体の損傷は、無人島から持ってきたアイテムを使って私がなんとか応急処置で修理したんだけど、今日はこのままこの島で野営だね」


 その報告を聞き、俺は深く椅子の背もたれに倒れこんだ。


 なんでこいつらは、目を離すと次から次へと問題を引き起こすのだろうか。


 慣れた手つきで手際よく野営の準備を進める彼女たちを、俺は死んだような目で眺める。

 ただ一人、無駄に元気で生き生きとしているソフィーさんの姿だけが、やけに印象的だった。

読んでいただきありがとうございます。


よろしければ、ブックマーク・評価をしていただけるとモチベーションの維持になります。


次回投稿は来週、6月6日(土)夕方以降になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ