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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第六章 【ロールプレイングゲーム】

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056 【英雄天国】その8 ~悲しき胸囲の格差社会~

 目の前には低い草に覆われた草原が広がり、海から吹く潮風の匂いが鼻をくすぐる。

 今俺たちがいるのは、港のある第八の町の街道を逸れ、歩いて五分ほどの場所だ。


 時刻は朝の六時を少し過ぎた頃。

 昨日は色々と衝撃の事実を知ることとなったが、気を取り直して、まずは現在の戦力を把握しようとここまでやってきたわけだ。

 少し離れた場所には、この近辺のモンスターである『グレートボア』の姿が二体見えている。


 俺は後ろをついてきた四人に声をかけた。


「……じゃあ皆。早朝から悪いけど、懸念事項である現在の戦闘能力の確認をしたいと思う」


 俺はあと一時間ちょいもすれば出社しなければならない。

 その前に、不安しかないが彼女たちがどれだけ弱体化しているかを知っておきたいと考えたのだ。


 俺の言葉に四人は頷くと、まずツバメさんが腰から剣を抜きながら一歩前へと歩み出る。続いてティオ、ソフィーさん、マリアさんの順番だ。

 弱体化著しいこのパーティだが、一つだけ良くなった点を挙げるとすれば、ツバメさんが合流したことでタンク役が増えたことだろう。


「準備はいいか、皆? ……じゃあ、マリアさんよろしく」


「わかりましたぁ。――こっちです!」


 息を一つ吸い、彼女は大声でグレートボアの注意をこちらへと引き付ける。

 その声に反応し、マリアさんと視線が合ったグレートボアは、パッシブの挑発効果により興奮状態になると、こちらへ向けて駆け出してきた。

 ……すぐそばにいた雷狐(ライコ)も同時に、彼女に対して威嚇を始めたが。


「…………………」【よし、それじゃあ行くよ! ヽ(`Д´)ノ】


 同時にツバメさんも駆け出し、先頭を走るグレートボアの頭部へ向けて剣を振り下ろした。

 鉄板を叩いたような鈍い音が響き渡る。だが、相手は一切ダメージを受けた様子もなく、そのまま彼女を押し込もうとし、その場で膠着状態に陥った。


「…………………」【うお、本当に全然効いてない!? 昨日はこの一撃で仕留められたのに!? Σ(・□・;)】


 グレートボアの体当たりを剣で受け止めながら、彼女は声の代わりに驚きの顔文字を掲げた。

 昨夜説明した通りの結果とはいえ、やはり実際に自分で体験すると驚きが勝るようだ。


「次っ! ティオ、ソフィーさん!」


「了解っ! ――変っ身っ  狼ォォォ牙ッ!! ――とおっ!!」


「行きます! ――はぷにんぐ♡!」


 変身を決めたティオがそのまま助走をつけて高くジャンプする。

 それと同時にソフィーさんのスカートが風に煽られ、際どいラインを攻めた。

 そのスカートの動きを視界に入れたグレートボアにハートのエフェクトがかかると、硬直したようにその動きをピタリと止める。


 ツバメさんはそれを確認すると、すぐさまマリアさんへと向かって突進する二匹目のグレートボアの正面へと割り込み、剣で体当たりを受け止めた。

 そして、硬直して完全に無防備を晒す一匹目のグレートボアに対し、ティオが空中から渾身の蹴りを放つ。


「サイダァアアアッ、キィィィックゥウウウッ!!!!!」


 右足に紫のオーラを纏わせた一撃は、グレートボアの横っ腹へと吸い込まれ、鈍い衝突音を響かせた。

 巨体を数メートル後方へと吹き飛ばすと、モンスターは霞のように消え、金貨へと姿を変える。


「よし次だ! ティオ、ソフィーさんもう一回!」


 一体目の討伐を確認した俺は、すぐさま次の指示を飛ばす。


「分かってる! ――もういっちょ!」


「任せて下さい! ――はぷにんぐ♡!」


 再びジャンプし、サイダーキックの態勢に入ったティオ。

 だが、ここで想定外の事態が起こった。


 一度目と違い、やや横側から能力を発動したソフィーさんだったが、その位置取りのせいで、ツバメさんの視界にもスカートの動きが入ってしまったのだ。

 その結果――。


「…………………」【あ、あれ!? 体が動かないんだけど!? Σ(・□・;)】


「おおい!? 味方に【魅了】がかかってるじゃねーか!?」


「あれぇっ!?」


 衣装との親和性が高すぎるソフィーさんが、まさかのシステムを越えて味方にまで状態異常を発生させてしまった。しかも――。


『ブオォオオオッ!!』


「…………………」【ぐえっ!? (;д;)】


「しかも九割の成功確率ミスってる!?」


 味方の動きを止めた挙句、敵の足止めには失敗するという最悪のシナリオ。

 さすがのツバメさんも硬直状態では成す術がなく、グレートボアに吹き飛ばされて地面を転がっていく。


「え、ちょっと待って!?」


 さらに最悪なことに、すでにティオは空中で攻撃態勢に入ってしまっていた。デバフのおかげで、彼女の変身は次の攻撃で解除されてしまう。

 そして、地面に倒れるツバメさんに対し、グレートボアが追撃を仕掛けようと足で地面を掻き、駆け出そうとしていた。


「させませんよぉ!」


 それを止めようとマリアさんが側面から駆け寄り、握り込んだ拳を側頭部へと打ち抜いた。

 しかし、無防備な頭部へと吸い込まれた一撃は、今までの彼女の剛腕とは程遠い『ポスン』という情けない音を立てるだけに終わる。


「あ、あらぁ?」


 マリアさんが困惑の表情を浮かべる。マイナス補正『極大』は、彼女の想像以上の弱体化を招いていた。全くダメージを与えられた様子がない。

 しかも、その攻撃のせいでグレートボアのヘイトが再びマリアさんへと移ってしまった。


 今の彼女は全能力にマイナス補正がかかっている。もちろん防御力も例外ではない。

 このまま至近距離から突進を受けでもすれば、かなりマズいことになる。


 ティオは空中で身動きが取れず、ソフィーさんは能力発動直後で行動不可。さらにツバメさんは硬直状態で倒れている。誰も助けに行くことが出来ない。


 ――水晶()が間に入るしかない。


 そう思った瞬間、この場には動けるものがもう一人、いや一匹いた。

 皆が動けない中、地面を一つの影が駆けていく。


 雷狐(ライコ)だ。


 いつもはマリアさんに唸り声をあげて引っ掻いているが、主人の絶体絶命を感じ取ったのか、全力で彼女に向かって駆けていく。


「……雷狐(ライコ)ちゃんっ!」


 その姿に、マリアさんが感動したように声を震わせた。

 やはり、どんなに嫌っているように見えても、いざというときは主人を守ろうとするのか。俺も動物モノの映画を見ているようで、ちょっと感動しそうになった。


 ――が、違った。


「――ぐふっ!!?」


 そのままグレートボアに体当たりをするのかと思いきや、雷狐(ライコ)はまさかの、マリアさんの背中に向かって飛び込んでいったのだ。

 無防備な背後を見て、好機とでも考えたのだろうか。

 俺は別の意味で涙が出てきた。


 結構な勢いで強襲を受けたマリアさんは、そのまま前に倒れこみ、目の前のグレートボアを激しく突き飛ばした。

 すると、まさかの体勢を崩してよろめいたグレートボアが、ティオのサイダーキックの攻撃軌道上へと押し戻されていく。

 それを見たティオが咄嗟に攻撃に移った。


「っ!? チャンスっ! サイダァアアアッ、キィィィックゥウウウッ!!!!!」


 ギリギリで間に合ったティオの渾身の一撃が炸裂し、一匹目と同じように吹き飛ばされたその体は金貨へと変わった。


 戦闘終了だ。


「……あっぶねえ。色々とギリギリだったな……」


 俺は冷や汗で背中を濡らしながら、戦闘を終えた四人の姿を見回した。


 変身が解け、軽く息を切らすティオ。

 ヤバイ、とばかりに冷や汗を流すソフィーさん。

 起き上がり、服についた土を払うツバメさんは、微ダメージ。

 そして、腰を押さえて倒れこむマリアさんと、その頭をペシペシ叩く雷狐(ライコ)。ちなみにマリアさんはHPが半分以上減っている。


 俺は痛感した。

 ――これはマズい、と。


 ティオは攻撃力こそまあまあだが、二回しか攻撃が出来ず、動作で大きくジャンプするため隙が大きい。

 ソフィーさんは能力は規格外だが、そのせいで味方まで巻き込む恐れがある。

 ツバメさんはその高い防御力からタンクとしての能力は優秀だが、攻撃手段が全くないのがキツイ。

 そして今までメインアタッカーだったマリアさんは、もはや何の役にも立たない。


 ――一応、俺にも考えはある。

 だが、そのためには次の町『第九の町』へ行く必要があるが、今のまま海を越えるのはかなり危ない。

 あと一人、アタッカーがいれば何とかなるんだが。


 しかし三人は『呪われた装備』状態で、衣装の変更ができない。

 となると、ツバメさんの衣装を変えるしかないわけだが、服屋は出禁になっている。


(それなら、今までに三人が購入した衣装をツバメさんに着てもらうしかないか)


 そう考えてみるが、ツバメさんは一七〇センチを超える女性にしては長身だ。ティオとソフィーさんの衣装ではサイズがキツイだろう。

 なら、マリアさんの衣装を着てもらうしかないかと考え……俺はそこで最大の問題に思い当たった。


 ツバメさんがマリアさんに肩を貸し、ソフィーさんがマリアさんに追撃を仕掛ける雷狐(ライコ)を抱きかかえて引き離す。

 そしてティオを先頭に、皆が水晶()の元へと移動してきた。

 四人とも表情は暗い。


「……ある意味、想像以上だったな」


「……そうだね。思った以上に危なかったよ」


「……まさかツバメにまで効果を及ぼすとは」


「…………………」【金縛りにあうとは思わなかったよ (;´・ω・)】


「……こ、腰が痛いですぅ……」


 この状態ではとてもではないが、心配で現実の仕事が手につきそうにない。

 俺は四人を改めて見回した。


「……考えたんだが、やっぱりこのままじゃ冒険は危ない。最低でもあと一人アタッカーが必要だと思うんだ。でも服屋は出禁だから、マリアさんの衣装をツバメさんに着てもらおうと考えたんだが――」


 そう言って、チラリとツバメさんを見る。

 俺の視線をなぞるようにティオとソフィーさんも彼女を見たが、あることに思い当たったようで『え、マジで?』という表情を浮かべた。

 当のツバメさんだけは、俺たちの視線に疑問符を浮かべている。


「…………………」【え、どうしたの? 確かに私は背が高いから、着られるとしたらマリアちゃんの衣装ぐらいだろうけど、皆のその表情は何? (´・ω・)】


 俺にはある懸念があった。だが、それを口にするのはセクハラに当たるのではないかと思い、二人へと視線を向ける。

 その意図を受け取ったティオがソフィーさんへと目配せすると、彼女は軽く頷き、代わりに説明を買って出てくれた。


「いえ、その衣装なのですが、上着がマリアの体形に合わせたタンクトップなのです。ほら、マリアのマリアってアレじゃないですか。……で、ツバメのツバメというのが、その、AAカップと言いますか……」


 そこまで言うと、ソフィーさんは視線を彼女の胸元へと下げた。

 ツバメさんもつられて視線を下げ、自分の胸元を見る。足元がストンとよく見えた。

 皆がマリアさんへと視線を向ける。間違いなく、彼女は自分の足元など全く見えないだろう。


 マリアさんの脅威のIカップと比べ、絶望的な戦力差。

 ただ、これが普通の衣装だったならば、問題はそこまで大きくなかったはずだ。

 しかし、よりにもよってタンクトップなのである。


「……ほら、ツバメがそれを着たら胸元がダルンダルンで、見えてはいけないものが丸見えになってしまうと言いますか……」


 その説明を、自分の胸元を見つめながら黙って聞いていたツバメさんは、顔を上げると――。


「…………………」【貧乳で悪いかゴラァ!! (# ゜Д゜)】


 めっちゃキレていた。どうやら結構気にしていたらしい。


 今までは鎧を着ている場面しか見たことがなかったため気付かなかったが、彼女が絶壁だったことがここに発覚した。


 しかし、どうしたものか。

 このままその衣装を着せれば、年齢制限(レーティング)に引っかかってしまうかもしれない。


 俺は再び頭を抱えて悩むのだった。

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は来週、5月30日(土)夕方以降になります。

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