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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第六章 【ロールプレイングゲーム】

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050 【英雄天国】その3 ~異世界倫理と性癖破壊者~

「なあ、そっちはどうだった?」


「駄目だね。全く目撃情報はなかったよ」


「こちらもです。ツバメの特徴なら、少しでも掠れば印象に残るはずなのですが」


「同じくですぅ。一体どこに居られるのかぁ」


 やっとのことで衣装を揃えた俺たちは、すぐさま第二の町へと移動し、最優先事項である『ツバメさんの捜索』を開始した。

 しかし、手分けして住人に聞き込みを行ったものの、一向に手がかりは掴めない。

 

 ……嫌な予感がする。今までのゲーム経験からくる、拭いきれない胸騒ぎだ。

 そんな俺の心中を見透かすように、ティオが難しい表情で口を開く。


「……ねえ、章介さん。この状況、どう思う?」


「……多分、お前の考えている通りだと思うぞ。また何かしらのバグが起こってる」


「? どういうことでしょうかぁ?」


 眉を顰める俺とティオに、マリアさんが疑問を投げ返す。

 彼女はゲームそのものに疎い上、合流したのも前作からだ。最低限の説明はしたが、ゲームシステムを完璧に把握できているわけではない。

 俺たちは改めて、今直面している不自然な点を説明した。


「このゲームは四人の主人公が敵を倒していくタイプだけど、今、水晶()を除くと三人で攻略が進んでいる状態でしょ? で、ソフィーさんと合流した『呪いの館』の開始条件なんだけど――」


 それを聞いてピンときたのか、ソフィーさんが言葉を引き継ぐ。


「あ! そういえばあの時は、私とティオの二人が揃うまで、館の扉は開きませんでしたね」


「そう。だから本来なら、ツバメさんは最初の町に居なきゃおかしいんだ」

 

 俺は深く頷いた。

 

「なのに、三人が神殿へ行ったのと同時に女神のイベントが起きて、ゲームが開始された。初期配布の100Gだって、しっかり俺たちが受け取っている。つまり――」


「……ツバメ様はぁ、開始地点の神殿に立ち寄ることなくぅ、一人で攻略を進めることが出来ている、ということですかぁ?」


「ああ。そういうことだと思う」


 説明が終わると、全員が苦い顔を浮かべた。

 今までは、はぐれた彼女たちも開始地点付近にいたのだ。

 しかし今回は何のバグが起こっているのか、ツバメさんはどの町から攻略を開始したのか分からない。そのうえ動き回られると、合流の難易度は跳ね上がる。


「ともかく、やることはシンプルだ。イベントを攻略して先の町へ進みつつ、情報を集めよう」


「……それしかないか。章介さんが調べてくれた『更新日時』から察するに、ツバメさんは少なくとも無事で、何かしら行動はしてる、ってことだもんね?」


「そうですねぇ。今は彼女を信じてぇ、私たちは今できることをこなしていくしかありませんねぇ」


「ツバメは私の護衛に選ばれるほどの実力者です。余程おかしなことをしていなければ大丈夫ですよ。むしろこの世界を、楽しんでいるかもしれませんし」


 不安を和らげるようにソフィーさんがおどけて見せると、俺たちの顔にようやく笑みがこぼれた。

 普段はやらかしてばかりだが、いざという時の立ち振る舞いは流石王女というべきか。


「じゃあ、イベントを進めよう。この町のクエストは『北の森に迷い込んだ子供の救出』だ」


「……それってぇ、両親や町の大人たちは探しに行かないのですかぁ?」


 マリアさんの至極全うな疑問。だが、それはこの世界における『常識』だ。

 ゲームに詳しいティオが、諭すように笑いかける。


「あのね、マリア姉。ゲームの世界の多数の住人は『困った』『誰か助けて』って言うのが仕事なの。それに100Gで『世界を救って』なんて宣う女神様よりはマシでしょ?」


「……ゲームの世界というのはぁ、倫理観が壊れているのですねぇ」


 マリアさんが何とも言えない表情で真理を突いた。

 そりゃ主人公が見ず知らずの他人が家に上がり込み、タンスを物色する世界だ。倫理など、最初から期待する方が間違っている。

 

「どのみち、イベントをクリアしない限り次の町へは移動できないんだ。新衣装の能力確認がてら、さっさと子供を助けに行こう」


 三人の『はーい』という返事と共に、俺たちは北の森へと向かった。



 しかし、この時の俺たちは失念していた。

 ソフィーさんが、一級の『フラグ建築士』であることを。


 ――ツバメさんと合流したのは二日後。

 彼女はソフィーさんの言葉通り、存分に楽しみながら、しっかりとおかしなことを仕出かしていたのであった。



 * * * * *



 町から歩いて十分。目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。

 木々の隙間から僅かに差し込む光の奥から、野生動物の鳴き声が聞こえる。

 このゲーム最初のダンジョンということもあり、森自体はそこまで広くなく造りは至ってシンプルだ。


「よし、行こうか。マリアさんが先頭、ソフィーさんが中衛、ティオは後衛だ」


 俺の指示に従い、三人は森へと踏み入った。


「なんだか、王城近くの森を思い出すようなところだね」


「そうですね。何となく既視感があります」


「お二人が秘密基地にしていた場所ですねぇ。子供時代のお二人ならぁ、モンスターに襲われても自力で何とかしそうですけどねぇ」


 周囲を警戒しつつも、三人は懐かしそうに言葉を交わす。

 彼女達の暮らす王都の傍にも、ここと同じような光景があるようだった


 やがて、談笑をしながらも警戒を怠ることなく進む俺たちの耳に、子供の叫び声が届いた。

 一瞬顔を見合わせた後、一気に駆け出す。そして辿り着いた広場で見えたのは――。


「うわあぁ! こっちに来るな! あっちに行け!」


 大きな木を背にした少年を、五匹の狼が囲み、上空では三羽の鷹が旋回している。

 十歳ほどの男の子が、必死に木の棒を振り回して抵抗していた。

 

「いましたぁ! すぐに助けに入りますぅ! お二人はサポートをぉ!」



「「了解!」」



 マリアさんが弾丸のように飛び出した。その後を二人が追従するように続く。

 その声に反応し、モンスターたちが一斉にこちらを向く。剥き出しの牙、殺意の籠もった唸り声。

 どうやらマリアさんのデバフ『動物に嫌われる』が牙を剥いたらしい。パッシブで発生する挑発効果に引き寄せられ、すべてのモンスターが彼女へと殺到する。


 その様子を視界にとらえた彼女は、大木槌を握る手に力を込めると、一気に横へと振り抜いた。

 

 ――ゴウッ!

 

 大気を消し飛ばす鋭い音。

 大木槌の軌道上にいた狼三匹が、断末魔を上げる暇もなく吹き飛んだ。

 まさに一瞬。

 しかし、残った二匹は怯むことなく、攻撃直後の隙を突いて彼女の肩と腕に牙を立てる。

 マリアさんはギリギリで体を捻るが、完全に躱しきれず、肩と腕に浅い傷を負う。

 さらに頭上からは追撃を仕掛ける如く、鷹たちが鋭い爪を立てて急降下してきた。


「させませんっ! 食らいなさいっ! ドライブゥ、シュゥゥゥッ!!!」


 ソフィーさんのしなやかな脚が、空気を切り裂く一蹴を放ち、ボールは上空へと流星の如く突き進む。

 鷹は咄嗟に回避した……かに見えたが、強烈なドライブ回転がかかったボールは急激に弧を描き、回避先へと吸い込まれた。

 側面から叩き伏せられた一羽が、もう一羽を巻き込みながら墜落していく。

 それを見た最後の一羽は急降下を止め、再び上空を旋回し始めた。


「マリア姉、回復するよ!」


 ティオが手をかざすと、注射器のシルエットが浮かび上がり、マリアさんへと吸い込まれた。

 すると負ったばかりの傷が、時間を巻き戻すように綺麗に消えていく。


「ありがとうございますぅっ!」


 微笑んだマリアさんが、再び襲いかかる狼たちを切り返すような一撃で粉砕。

 残るは、上空で旋回する最後の一羽。

 ボールが遠くへ飛んでいる隙を狙い、鷹が必殺の勢いで急降下する。

 しかし、目論見は外れ、不敵に口角を上げたソフィーさんがシュート態勢で待ち構えていた。


「甘いですよ。モンスターなのに、ゲームのシステムをご存じないのですか? 遠くに飛ばしたボールは、いつの間にか足元に戻ってくるものなんですよ。不思議なことに! もう、いっぱぁぁぁつっ!!!」


 ズドン、と重低音が響く。

 急降下中、ボールを正面からまともに食らった鷹が吹き飛び、モンスターは全滅した。

 ――『145G』を手に入れた。



 辺りに他のモンスターの気配がないことを確認し、俺たちはマリアさんの下へと集まった。


「お疲れ様。みんな、上手く連携できてたな」


「そうだね。役割分担のおかげでスムーズだったかな」


「やはりぃ、遠距離攻撃が増えたのは大きいですねぇ」


「章介さんが仰った通り、衣装のあるなしで、大分難易度が変わってきますね」


 勝利の余韻に浸りつつも、まずは子供の安全が優先だ。

 広場の隅で腰を抜かしていた少年に、マリアさんが視線を合わせて膝をつく。


「大丈夫でしたかぁ? 怪我はありませんかぁ?」


「あ、うん。大丈夫……。あの、お姉さんたちは……?」


「君が帰ってこないと聞いてぇ、探しに来たんですよぉ。お母さんも心配していましたぁ。あまり心配をかけてはいけませんよぅ?」


「……ごめんなさい」


 シュンと俯く男の子の頭を、マリアさんが優しく撫でる。

 その温もりに驚き、顔を上げた少年とマリアさんの目が合った。

 彼女は慈愛に満ちた笑みを浮かべ、


「じゃあ、帰りましょうねぇ」


 と、立ち上がった。


 その背中を、少年は顔を真っ赤にしながら、ただボーッと見つめていた。

 

 俺はその様子を眺め、そっと首を振る。

 隣を見れば、ティオとソフィーさんも静かに首を振っていた。

 

 絶体絶命の危機に現れた救世主。

 おっとり爆乳、聖母のような優しさのお姉さん系……そして、服装はニッカポッカ。


 ――ああ。これ、この子の性癖、壊れたな。


 俺たちの思考は、完璧にシンクロしていた。

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は来週、4月25日(土)20時50分になります。

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