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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第六章 【ロールプレイングゲーム】

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049 【英雄天国】その2 ~開幕!コスプレRPG~

 ――殴る、殴る、殴る。


 俺たちは、その光景をどこか達観したような目で見つめていた。


 視線の先ではスライム、大蝙蝠、ゴブリンといった初期モンスターたちが、まるで無双ゲーのモブのごとくワンパンで駆逐されていく。

 この暴風雨のような光景を生み出しているのは、パーティーの物理担当・マリアさんだ。

 彼女は基本コマンド【たたかう】――すなわち素手の一撃のみで、魔物を次々とゴールドへ変えていく。

 足元には回収を後回しにされた金貨が散らばり、陽光を浴びてキラキラと輝いていた。


「マリアー! 次の方々、連れてきましたよー!」


「分かりましたぁ。そのままこちらへお願いしますぅ」


 声の主はソフィーさんだ。ゴブリン三匹を引き連れ、その俊足を生かしてこちらへ駆けてくる。

 地面に座り込み、その様子をチラリと見たティオが、手元の水晶に映る【英雄天国(パラダイス)】の攻略情報を頭に叩き込みながら言った。


「ソフィーは活き活きしてるね。二時間以上走り回ってるのに、まだ余裕そう」


「そうだな。お前なんて十分持たなかったもんな」


「……人には向き不向きがあるの。私の担当は頭脳だから」


 作戦は至ってシンプル。いわゆる『釣り』と言われる方法だ。

 俊敏なソフィーさんがフィールドを駆け回って敵を引っ掛け、殲滅担当のマリアさんの元へ誘導する。経験値と資金を稼ぐには極めて効率がいい。

 序盤こそティオも『釣り』に参加していたが、スタミナ不足で早々に戦線離脱。今は俺から共有されるゲームデータの暗記に専念してもらっている。


 記憶力のティオ、敏捷性のソフィーさん、そして破壊力のマリアさん。

 適材適所の布陣だが、そろそろ潮時だろう。


「おーい! そのゴブリンを倒したら一旦休憩にしよう!」


 俺の呼びかけに、三人の返事が重なる。

 マリアさんが最後の一匹を殴り飛ばすと、ゴブリンは縦回転しながら地面に叩きつけられた。漫画でしか見ないような吹き飛び方に、少し背筋が寒くなる。


 周囲の安全を確認し、俺たちはマリアさんの元へ集まった。


「お疲れ、ソフィー、マリア姉」


「ふー……。これほど長時間走ったのは久しぶりでした」


「私もぉ、近接戦闘は十年ぶりでしょうかぁ。だいぶ勘が衰えていましたねぇ」


 ソフィーさんは頬を伝う汗を拭い、マリアさんは手首を解しながら微笑む。

 俺たちは散らばったゴールドを回収すると、見晴らしの良い丘へと移動して昼食にした。


 ティオに預けたカバンから、拠点で用意した食料を取り出す。

 今回の【英雄天国(パラダイス)】は長期戦を見越し、【固いパン】【パン】【サンドイッチ】【水】を各99個、上限いっぱいまで詰め込んできた。飢える心配はないだろう……多分。

 唯一の懸念はソフィーさんの燃費だが、カバンには『爆釣杯(ばくちょうはい)』の優勝景品のロッドも入っている。最悪、自給自足してもらうしかない。


 食後、一息ついたティオが手に入れたゴールドを数え始めた。


「……手持ちと合わせて1080G。どう? これだけあれば全員の衣装一式、揃えられるかな?」


「十分だ。よし、さっそく服屋へ向かおう。一式新調するぞ」



「はーい」

「はい」

「はいぃ」



 三者三様の返事を受け、俺たちは遠くに見える町を目指して歩き出した。




 * * * * *




「へえ、これがこのゲームの服か」


「王都の店より品揃えは絞られますが、品質はこちらが上ですね」


「……あの、すみません。この衣装ぉ、少し恥ずかしいのですがぁ……」


 試着室のカーテン越しに三人の声が漏れる。

 今回は初めての装備新調ということで、各々の特性と衣装能力バランスを考え、俺がコーディネートさせてもらった。

 ボケーっと待っていると、一番左のカーテンが勢いよく開いた。



 * * * * *



【ティオ=ブルーベルベット】


装備:

【見習いの白衣】

【Yシャツ】

【タイトスカート】

【ドクターシューズ】


衣装能力:

【お薬の時間】一人の体力を回復(小)。

【知力補正衣装:+2】



 * * * * *



「どう? 章介さん。似合ってる?」


 胸を張って現れたティオは白衣姿だった。

 彼女の潜在能力・知力補正を優先し、体力が少ないため後方支援のヒーラーを任せるためのチョイスだ。

 初めて見る彼女の白衣姿は……うん、よく似合っている。ただ、本人の性質のせいか、医者というよりは『怪しい研究者』に見えなくもない。


「ああ、良く似合ってるよ。お前のマッドな気質にぴったりだ」


「ありがとう。ちなみに今、褒めてた?」


 質問をスルーして、カーテンの開いた真ん中の試着室へと視線を向ける。



 * * * * *



【ソフィーリア=シルク=ブラウンロード】


装備:

【サッカーボール】

【サッカーユニフォーム】

【サッカーショーツ】

【スパイク】


衣装能力:

【ドライブシュート】遠距離の敵にダメージ(小)。

【敏捷性補正衣装:+5】



 * * * * *



「いかがですか、章介さん。私のこの着こなしは?」



 腕を組み、満面の笑みで現れたソフィーさんは、サッカー女子だった。

 敏捷特化。後衛からの長距離攻撃を担当してもらう。

 出会った頃とは違い、ゲームの攻略を始めてからの彼女のイメージは、お淑やかな王女から活発なお転婆王女へと変わってきている。ポニーテールにユニフォーム姿は、驚くほどしっくりきている。


「全く違和感がないぐらい似合ってて、王女と言われても絶対信じないレベルだ」


「ありがとうございます。今のはいい意味ですか? 悪い意味ですか?」


 俺は再びスルーを決め込み、最後のカーテンを待つ。

 やがて、ゆっくりと布が引かれた。



 * * * * *



【マリアメア=シルヴァランス】


装備:

【大木槌】

【タンクトップ】

【ニッカポッカ】

【足袋】


衣装能力:

【木槌の一撃】近距離の敵にダメージ(中)。

【筋力補正衣装:+5】



 * * * * *



「……少々肌が見えすぎて恥ずかしいのですがぁ、いかがでしょうかぁ?」



 普段のメイド服とは正反対。両肩と首元を気にしながら、恥ずかしそうに出てきたマリアさん。

 筋力補正を優先した結果、この町では『ガテン系』一択だったのだが……。【爆釣王(ばくちょうおう)】の攻略あたりから、以前よりも表情が豊かになった彼女がこれを着ると、破壊力が凄まじい。


「……すごいな。いや、マジで」


 語彙力が死んだ。隣の二人も同様らしい。


「……破壊力が物凄いね。何かのバグじゃないかな?」


「……チートですか? システムにBANされませんか、それ」


「? まだ能力の試し打ちはしていませんがぁ?」


 小首をかしげるマリアさん。

 いや、俺たちが言っているのは大木槌の話じゃない。その胸部の最終兵器についてだ。

 おそらく彼女はこれまでの人生、魔眼のせいで『そういう』視線を向けられた経験がなかったんだろう。だから、自分のスタイルがどれほど暴力的な反応を引き起こすか、全く無自覚なのだ。


 一度咳払いをして、意識を無理やり切り替える。


「……よし、装備はそれで決まりだ。あとは色を選んでくれ。説明した通り、属性に関わるからな」


「確か、赤が『火』、緑が『風』、黄色が『雷』、青が『水』、白が『光』、黒が『闇』でしょ?」


「相性は『火→風→雷→水→火』の四すくみで、『光』と『闇』が対立……でしたよね」


 俺は頷いた。


「この付近の敵は『無属性』か『風属性』がメインだ」


「ということはぁ、黄色を避けて赤を選べば有利、ということですねぇ?」


 どうやら三人とも、昨日の夜に行った予習が生きているようだ。その認識で間違いない。

 ただ、まだここは序盤の町だ。そこまでキッチリと考えなくても問題ない。少しは彼女達たちの好きにさせてもいいだろう。


「その通り。まあ、すぐ買い替えることになるし、最初くらいは好きな色でいいぞ」


 そう言うと、彼女たちの表情が少し明るくなった。やはり、自分たちで選んでみたいという気持ちもあるようだ。


「じゃあ私は、髪の色に合わせてYシャツを『青』にする。で、タイトスカートは『黒』。やっぱ黒タイトは外せないよね」


 俺は無言でティオと頷き合う。やはりティオ(こいつ)とは気が合う。


「なら私は上下ともに『赤』にします。やはり勝負服は、気合の『赤』ですよね」


 相変わらず王女感ゼロの感性だが、序盤の火属性は確かに有利だ。


「……では私はぁ、上を『黒』にしてぇ、下はメイド服に近い『青』でお願いしますぅ」


 ……十中八九、透け対策で黒を選んだな。

 俺としても目のやり場に困らずに済む。助かった。


 取り敢えずこれで、全員の衣装が完全に決まった。

 会計時、店員が浮遊する水晶()を二度見していたが、気にせず支払いを済ませて町を出る。


「……よし。次の目的地へ向かいながら、さっそく衣装の能力を試してみよう」


 ゲーム開始から三時間と少し。

 ようやくこの世界の醍醐味、『コスプレRPG』らしくなってきた。

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は来週、4月19日(日)20時50分になります。

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