036 ようこそ!常夏の楽園へ!
「よし、じゃあ準備はいいか?次のゲームへ移動するぞ」
「い、いいよ……ていうか寒っ!は、早くしてもらっていい?」
「ティオ、少し大げさでは?そんなに騒ぐほどでもないでしょう?」
「騒ぐほどでしょ。十一月の寒空に、半袖ハーフパンツ一枚だよ?なんでソフィーは平気なわけ?」
「……気合と根性……でしょうか?」
「……あなたが王女様っていうの、絶対嘘だって……」
今彼女達は次のゲーム【爆釣王】攻略のための道具一式、水晶と必要そうなアイテムを詰め込んだ鞄を肩に掛け、雲一つない寒空の下、玄関先の広場に並んで立っていた。
ソフィーさんは何事もないようにしているが、ティオは両手で腕をさすり、背中を丸めてガタガタ震えている。
現在の気温は10℃以下。ティオの反応こそが正常で、むしろソフィーさんが異常なのだ。
子供は風の子と言うが、彼女もその類なのかもしれない。
部屋の中からの移動だと小屋の壁がどう作用するか分からないので、二人には外へと出てもらっている。
今着ているのは、ゲーム初期配布の白いTシャツと青いハーフパンツのみ。見た目はほぼ体操服だ。
元々の服は汚れが酷く洗濯中のため仕方ないのだが、十一月の風に晒すのはさすがに不憫すぎる。
「さっさと移動しちまおう。向こうは常夏のリゾート地だ。その格好がちょうどいいはずだからな」
俺は一言断ると、彼女たちをドラッグしてつまみ上げ、次のゲーム――【爆釣王】へと移動させた。
――――――――――――――――――――――
常夏感あふれる軽快なBGM。
青い海、白い砂浜、そして燦々と降り注ぐ太陽。
ゲーム内に、ティオ、ソフィーさんの順で送り込むと二人は危なげなく着地をし、辺りをキョロキョロと見回した。
ジメジメした前作の雰囲気から一転、目の前に広がる南国のパラダイスに、二人のテンションが一気に跳ね上がる。
「見てください、海ですよ、海!やはり海のイメージといったらこうですよね!」
「わかるわー。島も季節が夏なら、もっとこういう感じなんだろうけどね!」
「ねえティオ、波打ち際に行って水のかけ合いをしませんか!?」
「イヤだよ。ソフィー忘れてる?ノーブラ状態でそんなことしたら、エライことになるよ?」
「無論覚えてますよ!ですから私はティオの水を全部躱して、一方的に貴方へかけますので!」
「一発引っ叩いていい?」
砂浜でワイワイと騒ぐ二人。
そんな二人をまずは大会の受付へと案内するため、水晶は空中に浮かびながら彼女らに声をかけた。
「二人とも、まずは大会の受付とマリアさんかツバメさんの捜索だ。海はこれから嫌というほど眺められるからな」
『はーい』という返事とともに、二人は水晶の側へとやってきた。
「島で見た海も綺麗だったけど、夏の太陽の下で見る海は一味違うね」
「章介さんに見せていただいたアニメの映像も、海と言えば夏でしたからね」
「まあ、住んでるところが海の近くじゃない限り、釣りでもしなけりゃ海に行くのは夏だからな」
そんな会話をしながら砂浜から離れ、防波堤の歩行者道路を歩くと、少し離れたところに『爆釣杯参加受付中』の幟が並んでいた。その先の建物が釣具店兼受付会場だ。
会場へと向かい歩いていると、『そういえば』とティオが俺に話しかけてきた。
「それにしても良かったね。島以外の場所でも水晶が自由に操作できるようになって」
「そうですね、私達も両手が空きますし、章介さんも自分の意志で行動がとれますものね」
「本当にな。前のゲームでティオの頭に落ちてきた銀の円盤の力なんだろ?魔力波増幅回路だか何だかで、島と同じように動かせるように魔力を届かせるんだっけ?これがあれば前のゲームも、もっと安全に攻略できたんだけどな」
「元々、次元間でも魔力が届くような代物だからね。パソコン内のゲーム同士ぐらいなら、調整さえすれば問題ないでしょ。でも助かったよ、あのパーツが一番研究費をつぎ込んでたからね」
「研究費は兎も角、呪いの館でこれがあれば、章介さんの偵察で出合い頭でのマリアとの遭遇がなくなりましたよね。一人で攻略していたティオは変わらないとしても、私の心的負担はとても軽くなったのですけどね」
「だからさっきから、あの時あれば良かったって私は一言も言ってないでしょ?あなた一人だけ楽させてたまるか」
「貴方本当にそういうところですよ?」
「あなたも館で『死なば諸共』って言ってたの聞こえてたからね?」
二人が、隣を歩くお互い同士を肘でゲシゲシと突き合いながら歩くこと数分、俺の世界でいうドラッグストア程の大きさの建物に辿り着く。
一歩中へと入ると、そこには所狭しと釣り道具が一面に並んでいる光景が目に映り、フリーモードでの釣竿のカスタムバリエーションの多様さに驚いてしまう。
アウトドア好きが判明したソフィーさんと、珍しい道具に目がない好奇心旺盛なティオの目が輝きを増した。
そんな二人を引き摺るように、奥の大会受付の窓口を目指す。
そして受付の近くまで来ると水晶は一度振り返り、これからの行動の確認をとった。
「じゃあまずは大会の受付をしつつ、マリアさんかツバメさんを見かけてないか聞いて回ろう。ゲーム内のキャラがどれだけ通常設定以外の会話が出来るか分からないけど、【ブロート3】のドラゴン少女の反応を見る限り、バグのせいかは知らないが、ある程度の人間らしい行動をすることは分かっているからな」
「二人のどっちがいるか分からないけど、まず最初に向かうとすればここだろうからね」
「上手くいけば、すぐに手がかりが見つかるかもしれませんね」
俺達は顔を合わせ頷き合うと、受付の奥に向かい声を上げた。
「すいませーん、大会の参加登録をお願いしたいんですけどー!」
奥の部屋から、『はーい』というのんびりとした返事が響き、奥から受付らしき女性の姿が現れる。
「お待たせしましたぁ、大会へのご登録ですねぇ?」
「あ、はい。お願いしま―――――」
「「「え?」」」
俺、ティオ、ソフィーの声が重なった。
奥から現れた受付の女性は―――。
「っ!? ソフィーリア様にティオ様ぁ! 良かったぁ、お二人ともご無事だったのですねぇ!」
―――胸元と背中が大胆に開いた、黒いワンピースの水着にパレオを腰に巻いたマリアさんだった。
転移失敗から約二十四時間、マリアさんとの再会を果たした俺達はお互いの無事を喜 ―――ぼうとしたが、思わず視線が吸い寄せられてしまい、無意識に出た言葉は、
「「「でっっっっっか!!!?」」」
だった。
三人揃って、全力で口を押さえる。
完全なる無意識。条件反射。脊髄反射。
ティオとソフィーも『ヤバイ』という顔をしながら青ざめている。
そんな俺達の様子に、マリアさんは頭にはてなマークを浮かべて固まった。
お互いの無事を確認し再会を喜び合う場面で、相手がいきなり脈絡のないことを叫んだ上に、慌てて口を押えながら顔色を青くしていれば当然だが。
俺も余計なことを口走らないように口を押えたまま黙り込んでいる。
「……?ソフィーリア様にティオ様?どうなさいましたぁ?それに章介様の声もするようですがぁ、なぜ水晶が浮いているのですかぁ?」
「……え?あ、何でもないよ!?マリア姉もおっぱい無事で――じゃなくて!でっけえ――でもなく! よかった無事で!」
「……そ、そうです、何でもありませんよ!私達も心配していたのですよ!?その頼りない布からマリアのマリアが零れ落ちないか――ではなくて!無事でいてくれて良かったです!」
二人とも、動揺のあまり口からアウトな本音がダダ漏れている。
だが、責められない。
マリアさんのそれは、もはや引力の魔法でもかかっているのではないかというレベルで視線を吸い寄せるのだ。
俺は今ほど、自分が水晶越しであることに感謝したことはない。
俺は彼女達がやらかしたおかげで若干落ち着くことが出来、二人と同様に思わず零れそうになった言葉を飲み込むと、マリアさんへと声をかけた。
「よ、よかったです、マリアさんも無事で。詳しい話をしたいので、どこか場所を変えられませんか?」
「やはり章介様でしたかぁ。では少々お待ちいただけますかぁ?ご心配をお掛けしまして申し訳ありません。では少々お待ちいただけますかぁ?受付を離れる許可をいただいてきますのでぇ」
マリアさんが奥へ戻るなり、二人は水晶を囲んで小声で叫び始めた。
「ねえ見たでしょ!?マリア姉のアレ何!?服の上からでも大きいと思ってたけど、まさかマリア姉って着やせするタイプ!?普段はあれでも手加減してたってわけ!?」
「見ましたよ、何ですかアレは!?何をどうしたらあんなに成長するんです!?視線が吸い寄せられて全く動かせませんでしたけど!?引力の魔術式でもかかってるんじゃないですか!?」
「いや二人とも落ち着け!さっきからポロポロとマズい本音が零れてたぞ!?さすがにマリアさんに失礼だろうが!怒られてもしらないからな!?」
「章介さんだって絶対ガン見してたでしょ!?水晶越しだからってバレバレだからね!?」
「そうですよ!無意識に余計なことを口走らないよう、黙っていたのは気付いてますからね!?」
「いや、勝手に口走ってやらかしたのは、二人の自業自得だろうよ!?」
「お待たせしましたぁ」
顔を突き合わせギャアギャア騒いでいると、再びマリアさんが奥から現れた。
思わず電気が走った様に、揃って肩を跳ねさせる。
「お、おかえりマリアさん。早かったですね」
「はい、予め話は通してありましたからぁ。では奥に休憩スペースがありますのでぇ、そちらで説明をお願いできますかぁ?」
俺達は頷きマリアさんの後ろを付いていくが、ティオとソフィーさんは後ろからでも上下に揺れるのが分かるマリアさんの胸にチラチラと視線が吸い寄せられていた。
「…マリアさん、一つだけ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「はい?何でしょうかぁ?」
歩きながら顔を振り向かせたマリアさんの動きに反応して、彼女の胸部がひときわ大きく揺れた。
『おおっ』と小声で歓声をあげるティオとソフィーさん。ダメだこいつら。
「…いえ、さっきから気になっていたんですけど、その恰好はどうしたんですか?」
普段見慣れた肌の露出が少ないメイド服とは違う、肌色だらけの水着姿に質問をする。二人もコクコクと頷く。
「ああ、これですかぁ?着ていたメイド服が洗濯中でぇ、その間こちらを貸していただいたんですよぉ。その代わりに受付のお手伝いをしていましたぁ」
「なるほど……」
確かに、このゲームの交換アイテムには水着しかなかったはずだ。
「普段の仕事着と違ってぇ、こんなに露出が多いのは初めてで……少々恥ずかしいのですけれどぉ……」
マリアさんが頬を赤らめ、上目遣いでこちらを見る。
大人の女性が照れるその姿は、破壊的な色気を放っていた。
「……どうです?おかしくはありませんかぁ?」
問いかけられた俺たちの答えは、一つだった。
三人で視線を交わし合い頷く。
「「「大丈夫、滅茶苦茶エロいです」」」
この瞬間、俺たちの心は完全に一つになった。
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次回投稿は2月28日(土)20時50分になります。




