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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第四章 【ホラーゲーム】~システム越える底力~

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032 拠点での幕間その2 ~王女、回想す~

「わあ、これが海ですか。私、見るの初めてなんですよね」


「私もだね。王国には海がないから、章介さんに観せてもらった映像でしか知らないよ」


「俺も実物を最後に見たのは数年前だな。ここしばらく遠出をしてなかったし」


 頬を撫でる風が吹き抜ける、丘の上。

 視界一面に広がる蒼を、ティオとソフィーさんは眩しそうに眺めていた。

 エメラルドグリーンに輝く水面は、陽光を反射させながら優しく波を立てている。


 昨日この無人島へ来たときは、すでに日が落ちていた。

 拠点となる小屋から【恐怖が彷徨う館】へ向かう際も、小屋の前から直に移動したため、ソフィーさんだけでなくティオもこの島の景色をじっくり見るのは初めてとなる。


 俺はティオが寝た後、島の開拓で小屋の外に出ているときに見ているが、現実の海水浴場とは比較にならないほど透明度が高い。

 ……とはいえ、いつまでもここで見惚れているわけにもいかない。


「そろそろ小屋へ行かないか? 休むにしても次のゲームの相談にしても、一旦落ち着いて話をしよう」


「そうだね。のんびり海を眺めるのは、皆が揃ってからだね」


「そうですね。まずはそれが最優先ですからね」


 水晶()は空中をスイスイと移動しながら、二人を先導するように進んでいく。

 その後を追うソフィーさんの片手には、ずっしりと重そうな工具箱。

 一方のティオは、10センチほどの銀色に輝くリング状の物を大事そうに抱えつつ、もう片方の手でしきりに頭をさすっていた。


 俺はティオをチラリと見る。


「ティオ、お前……頭は大丈夫か?」


 言葉だけ聞くと煽っているようだが、純粋な心配だ。

 さっきは、それなりにいい音がしたからな。


「……何とかね。血は出てないけど、立派なコブが育ってるよ」


「鈍い音が響いたからな……」


「でも、ぶつかったのがこのリングで良かったよ。もしソフィーの持ってる方だったら、完全にアウトだった」


「私も危ないところでした。本当に間一髪です」




 * * *

 



――話は少し前、ゲーム攻略後のリザルト画面に遡る。


 二人が感動の再会を果たし、抱き合っていた時のことだ。

 最初のゲーム同様、エンディングのスタッフロールとともに、彼女たちの頭上から二つの物体が降ってきた。


 一つは、ティオの持つ銀色のリングで、魔導通信機の魔力波を増幅させるためのパーツ。通信機の土台の一つ。

 そしてもう一つは、ソフィーさんの持つ重厚な工具箱で、ティオが魔道具製作で使用している私物らしい。

 どうやら攻略対象のゲームには、彼女たちがこちら側に転移した際に巻き込まれた『遺失物』が紛れ込んでいるようだ。

 今回ゲームを二本同時にクリアしたため、二つのアイテムがエンディングとともに現れたらしい。


 二人の身長はほぼ同じ。本来なら二人とも直撃コースだった。

 だが、一人で百体もの怪物を切り抜けてきたソフィーさんの集中力は、まだ研ぎ澄まされたままだった。

 彼女は落下物に瞬時に反応し、間一髪、見事にキャッチしてみせた。


 一方のティオは、感動の余韻に浸りきっていたため、無防備な頭頂部でリングをレシーブ。

 その場に悶絶することになった。

 

 もしティオの上に落ちたのが工具箱だったら、今頃彼女は『ゲームクリア直後に物理ダメージでゲームオーバー』という、笑えない冗談のような結末を迎えていただろう。


 ソフィーさんも最後そのままクリアしていたら、反応出来ず危なかったかもしれなかった。

 そう考えるとあの絶体絶命のアクシデントのおかげで、最後の最後に助かったとも言えなくはない。


 次のゲームクリア時には、頭上も注意しておいた方がよさそうだ。




 拠点へと戻った俺たちは、今後の攻略方針を話し合うためにテーブルを囲んだ。

 水晶()は定位置になりつつある卓上へ。

 ティオとソフィーさんは隣り合い、俺と向かい合う形で腰を下ろす。



「「「…………はぁあああああ…………」」」



 三人の口から、肺の空気をすべて出し切るような溜息が漏れた。


 俺もそうだが、二人とも完全に電池が切れたようにダラリとしている。

 ティオは背もたれに身を預けて天井を仰ぎ、ソフィーさんはテーブルに突っ伏して動かない。


 安全圏に戻ったことで、張り詰めていた緊張の糸がぷっつりと切れたのだろう。

 今回の攻略は、俺にとっても二つの意味で心臓に悪かった。

 早く次の話をすべきなのは分かっているが――少しだけ、このまま静寂に浸らせてくれ。


 三分ほどして、ソフィーさんがモゾリと顔を上げた。

 心なしか、その瞳からは生気が失われている。


「……章介さん。ゲームの攻略って、こんなに精神を削られるものなのですか?」


「……いや、本来ゲームってのは楽しむものなんだけどな」


「最初のゲームはまだ楽しいと思える場面もあったけど、今回のはただただ、しんどかったな。……私、これほどメンタルを追い込まれたのは過去に数えるほどしかないよ」


「……私は一人で攻略している時、一瞬だけ楽しいと思える場面もありましたが……最後の最後で、すべて持っていかれましたね」


「え、あのゲームで楽しいなんて感情が湧いたの? ソフィー、あなた正気?」


「ええ、私は常に正気のつもりですが」


 ティオの失礼な問いかけに、ソフィーさんはムッとした表情を浮かべ、俺たちと別れた後のことを語り出した。館の扉が閉じた、その後を。

読んでいただきありがとうございます。

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