034 拠点での幕間その3 ~王女、枠を外す~
「と、普通の化け物百体を相手にしている時は、楽しかったんですよ。……途中まで、マリアの姿もありませんでしたし」
「……あー。それなら、少しだけ分かるかも」
「分からねえよ」
なんで化け物百体相手が楽しいんだよ。
話を思い返しても、楽しいと思えるような場面が一欠片も見当たらなかった。
疲れている俺にツッコミを強要しないでほしい。
ただ、今の会話の間に少し回復したのか、二人はようやく椅子に座り直した。
短い休息は終わりだ。
俺も思考を切り替える。
「それじゃあ、次のゲームの説明をしよう。ティオには軽く伝えたが、今度は【爆釣王~伝説を釣り上げろ~】。名前通りの釣りゲーだ」
「えっ、釣りですか? それは楽しそうですね!」
釣りと聞いた瞬間、ソフィーさんの瞳に光が戻った。
ティオが言っていた通りソフィーさんはアウトドア系が得意らしい。
これまでの彼女のイメージとは少しズレがあるが、さっきのゲームの攻略時の動きを見るに、アウトドア全般に高い適性がありそうというのは分かった。
彼女をメインに据えれば、案外すんなりクリアできるかもしれない。
「このゲームは【フリーモード】と【大会モード】の二つに分かれている。フリーモードっていうのは、好きな場所で自由に釣りを楽しむモード。釣った魚の種類や大きさでポイントが貰えて、そのポイントを使い、新しい釣り場に行けたり釣り竿のカスタマイズが出来る」
「最高じゃないですか! 私が迷い込んでいたあの館とは大違いです! 章介さん、全員合流したあとでいいので、私だけでもそのゲームに入ることは出来ませんか!?」
ソフィーさんがテーブルに身を乗り出し、食い気味に迫ってくる。
キラキラと輝く瞳が、水晶のレンズ越しにどアップで映し出された。
俺は思わず、少し体を引いた。
何と言うか…元々元気な人だったけど、ゲーム開始前のあの一件から、さらに元気になっている気がする。
例えるなら、まるで型に嵌めていた枠を外したみたいに。
「ソフィー、落ち着きなって。まずは攻略が先でしょ。あと、あなた……少し外れかけてるよ」
横からティオに肩を抑えられ、ソフィーさんは『あ……』と漏らして、浮き上がっていた腰をゆっくりと下ろした。
そして『コホン』と可愛らしく咳払いをする。
「失礼しました。お話を遮ってしまって……続きをお願いできますか?」
「いや、構わないよ。もし釣りがしたいなら、この島でも色々な魚が釣れるから皆と合流した後にでもしてみたら? 釣り竿も、開拓を進めれば手に入るし」
「本当ですか? それは是非にでも」
ニコリと笑い、俺の知る普段通りの笑顔が返ってくる。
「……で、続きだが、おそらくクリア条件になるのはもう一つの【大会モード】だ。海釣り大会【爆釣杯】に参加して優勝を目指す。支給されるノーマル仕様の道具を使い条件は平等に、制限時間内のポイントで競う腕一本勝負になるはずだ」
説明を終え、二人の反応をうかがう。
二人は少しの間考え込んでいたが、やがてティオがソフィーさんに視線を投げた。
「やっぱり、このゲームはソフィーがメインだよね」
「そうですね。私が最も勝算が高いでしょう。もし私で無理だった場合、あとはビギナーズラックに賭けるしかありませんね。その場合、私たちの中で運が一番いいティオに任せます」
「私の運でソフィーの腕に敵うとは思えないけど……。ただ、ソフィー。あなたも分かってるよね? 次のゲームの、最大の懸念点」
「……ええ。次に囚われているのが、マリアかツバメか。……ツバメなら問題ありません。むしろ優勝は確実でしょう。……でも、もしマリアだった場合、最悪……」
「ゲームの攻略自体が不可能になる」
「ゲームの攻略自体が不可能になります」
二人の声が綺麗に重なった。
しかも、聞き捨てならない内容だ。
ゲームの攻略が『難しい』なら分かるが『不可能』というのはどういうことだ。
「ちょっと待ってくれ。少し前にもティオが『マリア姉が』、って言ってたけどどういうことだよ?釣りなんて腕と運の世界だろ。マリアさんは、そんなに運が悪いのか?」
思わず聞き返したが、二人は揃って首を振る。
「いや、マリア姉の運は別に悪くないよ。ただ致命的な原因があって…」
「そうなんです。説明をしたいところなのですが、マリア本人が物凄くそのことを気にしていまして。……一種のトラウマのようになっているので、私達の口から勝手に説明するわけにもいかなくて……」
二人の顔に、申し訳なさそうな色が浮かぶ。
そこまで言われると追及しづらいが、攻略の可否に関わる以上、作戦を考える上で聞かなくてはとの思いもある。
「……章介さんが何を考えてるかは何となく分かるけど、一旦聞かないでもらえると助かるよ。次のゲームにいるのがマリア姉とは限らないしね。あくまで条件が揃ってたら、って話だから」
「それに、もしその『条件』が揃ってしまったら、章介さんがどんなに策を練っても、物理的に攻略が不可能になりますし……」
「……物理的に?」
俺は眉を顰めた。
釣りゲーで物理的に不可能?
わけがわからない、という視線を送ると――。
「もし全てが最悪に転んだら……その時は、マリア姉から昔話がてら話を聞いてみてよ」
ティオとソフィーさんは、どこか遠い目をして苦笑いを浮かべた。
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