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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第一章 モニター越しの異世界交流記

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002 自称・異世界の魔導師(本物)

 最初の出会いから、なんだかんだで半年近く。

 時には二人で笑い、また時には喧嘩をし、俺とティオの奇妙な交流は今もなお続いていた。



 * * * * *



「――で、重要文化財になったわけだ」


『成程。ちなみに素人質問なんだけどさ。さっきの神社の建築様式は、同じころに建てられたものと随分と違うようだけど、理由ってなんなの?』


「……ちょっとWikipedia(相棒)に教えてもらってくる」



 * *



『……えーと、こうして、こう! だったよね? うん、やっぱ特撮の変身シーンは心に響くものがあるね。こうやって――』


「鏡に向かって変身ポーズか。ものすごく様になってるけど、どれだけ練習したんだ?」


『……いつから見てた?』



 * *



「ほら、これがパズルゲームの名作【ブロート3】だ。……こうやってブロックを四つくっ付けると消えるから、積み上げて連鎖を狙うんだ。……こうして、こう」


『へ~成程、面白そうだね! ……でも、章介さん。何でそこにブロックを? そこじゃなくない? うわ、下っ手くそ……』


「なんだとこの野郎」



 * *



『……でね、今度の発明はすごいよ? このランプ、何と七色に光が変化するんだ』


「いや、ランプに七色は必要ないだろ。それにどうせ欠陥品で、爆発でもするんじゃないのか? どうせ」


『ねえ、なんて言った?』



 * *



「……くはぁ! やっぱり仕事終わりのビールはたまらん! 疲れが吹っ飛ぶな!」


『いやー、分かるよ! 私もたまには飲まないとやってられないしね! という訳で、私も秘蔵のお酒を持ってきたよ! 今日は一緒に飲み明かそう!』


「おう! 最近はリモート飲み会ってのもあるしな! よし、じゃあ乾杯!」


『かんぱ~い!』



 ――翌朝。



「……うう、まさかモニター付けっぱで寝落ちするとは。しかも盛り上がって飲みすぎた……。頭痛い上に、記憶が朧気だ……」


『……私も昨日の記憶が曖昧だよ。……なんかお互いの癖について力説してたような気がするけど、章介さんが、脚フェチだったことぐらいしか覚えてない……』


「……なんでその記憶は覚えてるんだ……」



 * * * * *



『やっぱり私は『改人サイダー』なら『狼牙(ろうが)』が一番の名作だと思うんだよね! 主人公とライバルの双方の深い闇と葛藤、そして夕日に向かってサイダーを飲む最終回……あれは全人類が泣くべきだよ!』


「いや、『改人サイダーブルドッグ』だろ、一番は。最近の作品は味方も敵も変身しすぎて渋滞してんだよ。その点、ブルドッグは原点に戻って唯一のヒーローだ。あの不気味なデザインの怪人をたった一人で倒していくストイックさがいいんだよ」


『章介さんは分かってないなぁ。原点を忘れないのも大事だけど、何よりストーリーの深さだよ。ブルドッグは改人サイダーなのにサイダーを飲まないじゃん! 『俺は犬だから炭酸は無理だ』って、それもうタイトル詐欺でしょ!』


「二号だって飲めなかっただろ! そこは伝統へのリスペクトなんだよ!」


『はい、にわか確定。二号は劇場版でサイダー飲んでるから!』


 深夜のモニター越しに、特撮番組の最高傑作について熱く語り合う。

 出会った頃のぎこちなさはどこへやら。今ではお互いタメ口で、俺のフルネームも教え済みだ。

 俺も『ティオ』呼びだし、彼女も『章介』と俺のことを呼ぶ。

 

 あの初対面以来、彼女は俺の個人チャットに居座り続けている。

 俺が出勤している間もアニメや特撮を流しっぱなしにしているせいか、彼女の知識の吸収速度はバケモノじみていた。半年で立派なオタクの完成である。


 さらに、彼女は日本の文化や歴史にも異常な興味を見せた。

 しばらくの間はウィキペディアが俺の相棒のようになっていたものだ。

 しかもティオは非常に記憶力が良く、一度教えたことはほとんど忘れない。今や知識量だけなら、俺より彼女の方がよっぽど『日本』に詳しいだろう。

 今まさに、『にわか』呼ばわりされたしな。


 そして何よりも、初対面時の俺の勘は当たっていた。

 彼女とはとても気が合い、会話が弾む。最近のチャットは、彼女との会話でしか使っていないほどだ。ゲームやアニメ鑑賞も、一緒に観るのが当たり前になっている。


 ……ただ、彼女は『アニメ』という概念そのものを、最初は知らなかった。


 そのせいか、彼女の『私、異世界人です』というロールプレイには、恐ろしいほどのリアリティがある。

 設定に一切の矛盾がなく、半年間、一度もキャラがブレたことがない。

 チャットルームにいる『異世界ロールプレイ中』の中二病共でも、ここまで徹底している奴はいないだろう。彼女の地頭の良さには感心する。

 が、当然、俺は彼女を本物の異世界人だとは信じていなかった。


(まあ、これだけ楽しませてくれるんだ。最後まで付き合うよ、その設定に)




 ――そう、今日までは本気で考えていたのだ。




『ところで話は変わるんだけどさ。今日は私の研究成果を見てほしいんだよね。章介さんにも少し手伝ってほしいんだけど、いいかな?』


「えーと……研究って、確かあれだっけ? 異世界間での通信がどうとかいう……」


 初対面の時に一度聞いたきりだったが、インパクトが強かったおかげで、普段は物覚えの悪い俺の脳にも記憶が残っていた。

 俺の答えに満足そうに頷きながら、ティオは微笑んだ。


『そうそう。よく覚えてたね』


「そりゃ、最初の自己紹介が『私は異世界人です』なんて奴、後にも先にもお前くらいだからな」


『まあ、そう言われればそうだね。私もあの時のことはよく覚えているよ』


(それに、異世界ロールプレイに半年も付き合っているのも初めてだよ)

 

 と、心の中でだけツッコんでおく。


 そんな俺の心情を知る由もなく、ティオは笑って席を立った。

 フレームアウトした彼女の背後に広がるのは、相変わらず『作り込みの凄すぎる』魔法の研究室だ。乱雑に積まれた分厚い古書。ビーカーやフラスコ。使い込まれた羊皮紙。まさに『ザ・研究室』だ。

 

 ぼーっと部屋を眺めていると、彼女は一枚の円盤を抱えて戻ってきた。


『お待たせ! じゃーん、これが私の研究成果……刮目して見よ!』


 画面に押し付けられたのは、直径30センチほどの銀色の円盤。

 光の加減で金にも見える不思議な金属の表面には、赤黒い文様が複雑に刻まれている。


「へぇ……かっこいい魔法陣だな。中二病心がくすぐられるわ」


『ふっ、かっこいいだけじゃないよ。これは前人未到の一品。次元間通信よりもさらに先……『次元間物質転送装置』なんだよ!』


「おおー……!?」


 背中にババーンと雷を背負っているかのように、彼女は円盤を掲げながら叫んだ。


 とりあえず俺もノリで驚いておく。

 この円盤を使ってどんなロールプレイを見せてくれるのか、少し楽しみだった。

 そのままティオは嬉々として説明を始める。


『簡単に言うと、この装置は通信で繋がっている次元間の極めて細い『道』を、拡張して安定させるものだね。 計算上では、まだコイン一枚が精一杯だけどね!』


「いやいや、それが実際に成功すれば凄いことだろ。距離や障害物に関係なく転送できるってことだし。革命じゃん」


『とは言っても、高価な素材も魔力もバカみたいに使うんだけどね。多分、王国内でもまともに起動できる魔力持ちは私と親友の二人ぐらいだよ。物理的な干渉が不可能な異次元間の転送だから、まずは『試してみよう』っていうレベルだね』


「そうなんだ……って、じゃあ俺のところと通信を繋ぎっぱなしにするのは平気なのか?」


『それは大丈夫。初期コストは確かにアレだけど、声や映像程度なら一度繋がれば後はほぼノーコストだから。大変なのは、物質が通過できる広さで『安定』させることなんだよ』


 疑問点を突いてみても、ノータイムで返答が来る。

 相変わらず細部まで設定が練り込まれていると感心してしまう。


『じゃあ早速、実験! 実験! 今から章介さんのところにコインを送るから。ちょっと、目の前を空けておいて?』


 彼女は嬉々として装置のセッティングに取り掛かる。

 とりあえず俺も言われた通り、椅子ごと少し机から離れた。


 モニター越しに、机に置いた先ほどの円盤を通信機器と接続する様子が見える。

 そして最後に、彼女はローブの内ポケットから取り出したコインを魔法陣の中心に置いた。



『よし。いくよ――』


『よし、準備はいいかな? ……じゃあ、いくよっ!』


 こちらに確認を求めた刹那、ティオの雰囲気が変わった。

 彼女が両手を装置にかざし、聴いたこともない『呪文』を紡ぎ出す。おそらく、これが異世界の言語という設定なのだろう。


『■■■□□■■■〇■■■■■■■■■■□■■■■■〇●〇――』


 すると、どうだ。

 円盤の文様が鮮血のような赤に発光し始め、中央に小さな球体が浮かび上がった。

 最初は透明だったそれは、膨張しながらコインを飲み込み、不気味な漆黒の闇へと染まるとコインを完全に覆い隠した。


 凄まじいCG技術……いや、特撮か?

 幻想的な光景に、見入っていた俺だったが、ふと、『モニターの手前』に強烈な違和感を覚えた。


「……は?」


 声が漏れた。

 あり得ない。

 

 画面の中にあったはずの『漆黒の球体』が、俺の目の前、何もない空間に忽然と現れ膨張していく。

 

 それは10センチほどの大きさまで膨らむと――中心から、金色に輝く『ナニか』がこぼれ落ちた。

 

 ――チャリン。

 

 机の上で、鈍い金属音が響く。

 黒い球体はまるで幻だったかのように、透明に透けると霧散して消えていった。


 静寂。

 自分の心臓の音だけがうるさい。

 

 俺は微動だにできず、ただ一点を凝視していた。

 

 そこにあるのは、蛍光灯の光を反射して輝く、本物の、見たこともない刻印が刻まれた『金貨』だった。


 半年間、壮大なロールプレイだと思い込んでいた画面の向こうの彼女は。

 

 ――本当に、異世界の住人だったのかもしれない。

読んでいただきありがとうございます。

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