学園パーティ余興バトル
「えっ、君がスリエルなの」
「そうだよ。なんだと思ってたんだよ」
ついに学園でのパーティが始まった。
マンサと共にやって来た俺は、彼女にドレスの感想を散々尋ねられた。その度に同じ感想だと文句を言われるため、頭を捻って乏しいボキャブラリから褒め言葉を引き出すのだ。
何と面倒な。
だが円滑な人間関係のためである。
そんな最中、グスタフが俺に挨拶にやってきて、その隣に可愛らしいドレスの少女を連れているではないか。
で……そのドレスの少女がスリエルだったというわけだ。
ばかな。
あの声色は明らかに男だっただろう。
「ボイスチェンジャーさ。無線仲間ってのは女に餓えている男も多くてね。こうやって性別を分からないようにしてやらないと、がっついてくるんだ。こちらは恋愛に餓えているわけじゃないんだから」
「そ、そうだよね。僕たちは、純粋に無線という趣味で仲良くなった仲間なんだから」
そう言いながらグスタフ、彼女の胸元に目線がチラチラ行っているぞ。
スリエルは、男っぽい口調で話す、巻き毛の少女だった。ドレスは可愛いが、掛けているメガネがなんとも無骨である。ミスマッチ過ぎる。
「母さんが勝手に僕のドレスを作ったんだよ。着てけってうるさくてさ。正直、こんなの恥ずかしいんだけど」
「よ、よく似合ってるよ!」
聞けば、本名はミランダというらしい彼女。
グスタフに褒められて、ちょっと赤くなっている。
おっ、グスタフ、お前はただのギークかナード君だと思っていたが、実はラノベの主人公みたいな奴なのではないか。
「もう、何を羨ましそうに見てるのよ。オドマには私がいるでしょっ!」
マンサが俺の腕を取った。
俺も俺で、それなりにめかしこんだスーツ姿だ。
硬いものではなく、あくまでカジュアルなスーツだが、値段は張っている。
その生地越しに分かる、肘を包む柔らかい感触。
……マンサ、お前育ったなあ……。
「なーにをっ!! しているっ!! のっ!!」
ぐわーっと咆哮をあげながら突っ走ってくるのは、周囲の視線を集める美麗な白銀のドレス姿。
枝毛一つ無い髪をアップにまとめて、美しいうなじを衆目に晒すのは、言わずと知れたジブリールである。
黙っていれば間違いなく、天使側でもトップの美少女だろうに……。
「マンサ、抜け駆けっ!」
「ちっ」
あっ、マンサ今、ちっとか舌打ちしたな。
マンサも彼女の黒い肌が映える、真っ赤なドレス。バスタードではない純血のアビス人の中でも、マンサは特別だ。黒く艶やかな肌質をしている。
対するジブリールは、抜けるように白い肌。だが、奥底から輝くような艶が、むき出しになって二の腕や首筋、鎖骨の辺りから伺える。
二人とも、会場の注目を集めるに足る、パーティの華だった。
なので、ちょっと俺が注目していたスリエルはすっかり目立たなくなる。
「なんだかこの二人がいると落ち着くねえ。僕としてはあまり人前で目立ちたいタイプじゃないから」
分かる。
スリエルは絶対インドア派だもんな。
何やら牽制しあう、マンサとジブリールの間から抜け出した俺。
グスタフやスリエル……いやミランダとちょっと談笑なぞする。
おっ、ジョナサンのクラスの連中、グスタフが可愛らしい女子と一緒なのをみて目を剥いてやがる。
ははは、壁の花はお前たちだったようだな、ジョックの取り巻き諸君。
とかやっていたらだ。
「せーんぱいっ!」
早足で駆け寄る音と共に、俺の背中に飛びつくものがいる。
うわあ、めんどくさいのが増えたぞ。
「やあ、みんなお揃いのようだな」
びしっとスーツで決めたダライアスが横に並んだから、後ろにくっついているのはマリアだろう。
「むきー! マリアちゃーん!」
「うきゃー! マリアそこどきなさいよー!」
「ひえー!? な、なんですかー!」
おうおう、始まった。
何やらダライアスが、俺に「止めないのか?」って視線を向けてくる。
うへえ、勘弁して欲しい。
だが、こいつらが言う事を聞くのは俺くらいのものだろう。
「まあまあ三人とも」
どうどう、と中に入っていく俺。
「それじゃあオドマ、選んでよ!」
「そうそう! 誰が一番きれい?」
「私ですよね先輩!」
ヒエッ。
「オドマくん、これは男としての責任だぞ」
プレッシャーかけるのやめろダライアス。
あと、グスタフとミランダも物珍しそうに眺めてるんじゃない。
俺は背中に、いやな汗をじっとりとかきながら唸った。
これは何だ。
一体どうすればよいのだ。
何を答えても地雷ではないのか。
「あら、みんな盛り上がっていますね」
そ、その声はーっ!
俺が振り返ると、そこにはおめでたい紅白のドレスに身を包んだ大人の女性、シャクティー先生である。
さすがは大人。出るとこ出て引っ込むところが引っ込んでいる。
うんうん、こうだよな。やっぱりこうあるべきだよ。
俺が満足げな顔でうんうん頷いていると、三人娘が寄って集って俺をぽかぽか叩き始める。
「もーっ! もーっ!! 分かってたけど! オドマの年上好き!!」
「マザコン男! 何よ何よ! 私の方がぴちぴちしてるでしょ!」
「先輩不潔です! もっと穢れない少女である私を見てください!」
ハハハ、子供が何を言っても俺には通じんぞお。
いやあ、こうしてみるとシャクティー先生は綺麗なんだなあ。ママンに匹敵するぜ。
「むきー!! もう許さないわ! オドマ!」
「え、なに、どうしたのジブリール」
「私と勝負なさい!」
「ええーっ!?」
いきなり手袋を脱いで俺にたたきつけてきたぞ。
なんだなんだ。
まだ、決定戦はジブリールと対戦する予定ではないぞ。
……と思っていたらだ。
俺の腕にはまった決闘装置が、自動的に竜頭を展開し始める。
え、マジか。
目線をジブリールにやる。
だが、彼女の腕に決闘装置が嵌まっている気配はない。
「えへへ、家に置いて来ちゃった」
おぉいっ!?
だが、決闘装置は誰か他の決闘装置と共鳴してる。
ダライアスを見る。奴は首を横に振る。
では、そうすると、だ。
ミランダが不敵に笑いながら、ドレスのポケットらしいところから決闘装置を取り出した。
見事に俺の装置と共鳴している。
「どうやら、僕たちがこの会場で戦うことになったみたいだね」
「そうかあ……。その可能性はあると思ってたけど、スリエルとかあ」
俺たちの周囲から、人が引いていく。
俺とミランダは、共に会場の中心へと歩みを進めた。
まあ、七大天使決定戦ではあるが、ちょっとした余興でもあるな。
天使もバスタードも、グラスや料理を手にして、これから始まるど派手なアトラクションへの期待へ、目を輝かせている。
スリエルは、どこに隠し持っていたのか、でかいトランクを手にしている。
そこから登場するのは、案の定の無骨な無線機だ。
彼女はこいつを起動しながら、告げた。
「”こちらSS2SLAL、SS4SDFNどうぞ”」
キィン、と聴覚に甲高い音が響く。
ニヤリとスリエルは笑い、彼女の背後へ黒いもやが湧き上がってくる。
出現するのは、俺が地球で見た事のあるトランシーバーのような機械。サイズだけが桁違いだ。
こいつが、偉大なる分体スリエルへと変わるのか。
「ファミリオン、”イグニッション”!」
急速に戦場が形成される。
敵は、あらゆるものを侵食する黒いもやの使い手、スリエル。
相手にとって不足は無い。




