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水と拳と雷とイカ焼き

 俺は手の中に銃を召喚する。

 迫り来る触手目掛けて射撃。

 バチバチと空気を焼きながら、飛び出した雷撃がイカの足を迎撃した。


『もがーっ』


 イカの巨大な目がぐりぐり動いて俺を見る。

 ふふふ、痛かろう!

 しかしなんて美味しそうな匂いがするのだ。


『ひるんでるひるんでる!』


『サンダルフォンの雷撃は通用するようだな』


 そのようだ。

 だが、大規模な奇跡は使えまい。

 先ほど、何も考えずにガブリエルが水の奇跡をぶっ放したが、少なからぬ木製のコンテナが沖へ流されていってしまった。

 これで俺が遠慮なく奇跡など使おうものなら、この港一帯が焦土になるかもしれない。

 それはいかん。

 南アビスの経済活動的によろしくない。

 ……というか、流されていったコンテナも後で回収しないとな。


『よーし、それじゃあ私がもっと凄い奇跡でとどめを』


「やめろよ!?」


 俺は思わず突っ走り、ガブリエルの後頭部に突っ込みを入れた。


『いたい! なにすんのー!』


「ガブリエルは大規模な奇跡禁止」


『えーっ!』


『えー、じゃないよな』


 分かってくれるかオリフィエル。

 どうしてバスタードやアビス人の俺たちが常識的で、生粋の天使であるガブリエルが周囲の被害を考えないのか。


「よし、ともかく、被害を最小限でイカを抑え込もう」


『賛成だ』


 俺が左回り、オリフィエルが右回りにイカを囲んでいく。

 ガブリエルがふてくされた風に、イカの真正面に突っ立っている。

 ああ、もう、そんな風に棒立ちでいると。


『あいたたた!? 何あんた触手でぶってるのよ!』


 イカとガブリエルがポカポカ殴り合いを始めた。

 あいつは遠距離での戦闘が得意なタイプだと思っていたが、なんだ意外と殴りあいもいけるのではないだろうか。

 巨大なイカの攻撃相手に、ガンガン食らいながらも水を纏った拳や足をガシガシ叩き付けている。

 あれは……武術の心得は無いな。


「いいぞガブリエル。よし、撃て撃て」


 俺はイカが足止めされている間に、その巨体目掛けて雷の銃弾を連続で打ち込む。

 その反対側から、オリフィエルが拳で殴ってイカを牽制するのである。

 雷を嫌がってイカが逃げようにも、嵐のようなオリフィエルのコンビネーションがその場を動く事を許さない。打撃によるダメージは少なくても、拳で物理的な壁が築き上げられ、結果的にイカが雷の矢面に立つ状況を作り出す。

 いいコンビネーションじゃないか。


『そっちに送るぞ』


 オリフィエルから合図が来た。

 送るってなんだよ。

 俺が疑問を抱くよりも早く、一瞬、向こう側からイカを押していた拳圧が止んだ。イカがそちら側に逃げようと身じろぎした瞬間だ。


『オォォッ!!』


 咆哮にも似た声と共に、凄まじい打撃音が響いた。

 打撃に強そうだったイカが、仰け反りながら宙に向かって跳ね上がる。

 うおっ!? その構え、アッパーカットでイカを打ち上げたのか!

 イカは俺目掛けて落下する軌道である。


『きゃーっ!』


 ガブリエルもいるがまあ何とかなるだろう。


「ファミリオン、何か寄越せ!」


 俺の指示に応えて、ファミリオンが海上に稲妻を放つ。

 そこから出現するのは、いつものトラックだ。

 コンテナの一部が展開し、そこから出現したのはグレートサンダルフォンの腕。これが、ファミリオン目掛けて射出された。

 カーナビ画面に、接近する腕とファミリオンの座標が表示される。

 俺はハンドルを切りながら、位置を微調整。

 直後、飛来した腕とファミリオンがエンゲージした。

 腕が展開し、巨大な手持ち砲台になっている。

 キャッチした後、俺は落下してくるイカ目掛けて砲を構えた。

 揃えられたグレートサンダルフォンの指先が砲口だ。


「”五連昇雷砲フィンガーライトニング”!!」


 放たれた五本の稲妻が、絡み合い、弾け、まるで蛇のようにイカに食らい付く。


『もがーっ!!』


『あきゃーっ!』


 イカの断末魔が響いた。

 ガブリエルの悲鳴はこの際無視しておく。

 港全体を覆いつくすほどの、香ばしいイカ焼きの匂いを撒き散らしつつ、どうと巨大イカは地面に落ちたのだった。




「なるほど……大した技だ。君と戦うときには用心しなくてはならんな」


 ふん縛った天使やイエローたちを転がしつつも、ダライアスは不敵に笑ってこちらを見る。

 俺の手の内を見たと思っているのだろう。

 正直、俺としてはサンダルフォンの芸がどれほどの数存在しているのか見当も付かないので、フーン、という心持ちである。

 むしろ、拳一つであらゆる状況を制覇しようとするオリフィエルのスタイルの方が凄いと思える。


「その時はお手柔らかに頼むよ」


「一度味方になったよしみか? 悪いが聞く事はできないな。例えマリアの頼みだったとしてもだ。それに、君相手に手加減など出来るわけがないだろう? むしろ、俺がオリフィエルから、今以上のスペックを引き出さない限り勝ち目は無い」


 グレートサンダルフォンの事は黙っておこう。

 というか、一見するとオリフィエルはファミリオンと同じ変形システムを持った偉大なる分体に見える。

 ってことは、こいつにもグレートな姿に合体する為のオプションが存在するんじゃないだろうか。

 ちなみにジブリールはというと。


「ガブリエルの合体? そういえばお婆様はしていたと言う話だけど」


「ぷっ、ぷくく」


「あーっ! 何笑ってんのよ! そもそも悪いのはオドマでしょー!? オドマが私ごとビリビリーッとやったから、こんなになってるのよ!」


 ファミリオンの強烈な雷撃を食らってなお、ガブリエルはピンピンしていた。

 こいつのスペックは計り知れないな。遠距離攻撃メインなのは、まだジブリールが能力を使いこなしていないせいかもしれない。

 だが、完全に雷を防ぎ切れはしなかったようで、今、ジブリールは見事な銀髪を……見事なアフロヘアにしていた。


「むきー!」


「あいたた! いや、ごめんってば。笑って悪かったよ!」


「随分ファンキーだな……」


 真面目くさったダライアスの言葉で、俺は堪えきれずにまた吹き出した。

 いや、こんなの笑うなって言うほうが無理だろう。

 俺は腹がよじれるほど笑い、その後ジブリールにめちゃめちゃに蹴られた。

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