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鼻歌交じりに麻薬組織を襲撃

 ……ということで。

 その日の夜、俺、ダライアス、ジブリールという面子が集まり、南アビスのターバンという港町にやって来ていた。

 いやあ、街中を踏破するなら俺やダライアスの車より、ジブリールのヘリの方が便利なのな。

 空を飛べるって強いぜ。


「まさか便利屋みたいに使われるとは思わなかったわ!」


 当のご本人はちょっとご立腹である。

 まあ、そりゃそうだろう。何せ彼女のヘリは、ただのヘリコプターではない。偉大なる分体(グレートアバター)であり、強力な奇跡を行使する七大天使候補、ガブリエルそのものなのだ。

 それを足代わりに使う俺たち。


「いや、しかし快適な空の旅だったよ。俺はさすがに空を飛んだ事はないからな。上から見下ろすと、町はこんな風に見えるんだなあ……」


 ダライアスはちょっと感激している。

 妹のマリアも連れて来れば良かった、なんて言っている。

 俺も、マンサを連れて来なくて良かった、などと思った。絶対あいつははしゃいでうるさいに決まっている。


 港は、天使とバスタード、どちらの地区にも属さない中立地帯だ。

 何せ、港湾労働者はバスタードやアビス人が多い。彼らを締め出してしまったら、天使が肉体労働で荷卸しなどをしなくてはならない。

 逆に天使を締め出したら、荷物の管理や船側との金銭授受を、このちょっとモラルが怪しいバスタード諸氏に任せねばならない。

 世の中適材適所なのだ。

 そんな港も、今は静まり返っている。

 日本であれば、草木も眠る丑三つ時というやつだ。


「うーん、明かりはついてるねえ」


「随分大きな船でやってきてるのね? 堂々としたもんだわ」


「いや、違う違う。あっちはルーサーの船。その横のだよ」


「うっわ、ボロいわねえあれ。あんなのでよく来てるわね」


 暗い中、魔力の灯りを用いて荷物の積み下ろし作業を行なっている。

 ルート的には、東方にある密林地帯から船がやってきているとか。そこにどうやら、麻薬の元になる草が生えているのだ。


「よーし、ちょっと行ってくる」


「俺も行こう」


「私も!」


「ジブリールは白くて目立つからだめ」


「えーっ」


 ブーイングされた。

 だって一人だけ天使だからなあ。特に髪の色も銀色で、抜けるように肌が白い彼女は大変目立つ。黒っぽい服を着ていても、髪や肌がチラッと見えると大変だ。

 その点、バスタードとアビス人である俺とダライアスは、髪も肌も衣類も黒いので完璧だ。しかもどちらも肉弾戦主体である。

 あ、いや、俺の肉弾戦は趣味なんだが。

 暗闇の中、互いの目だけが光って見える。


「よし、俺は右から」


「おっけー、じゃあ僕は左から行くね」


 そんな感じで分かれた。

 船を巡るように歩いていく。

 履いているのはスニーカーだから、音も立たない。

 荷物の積み下ろしが大層な物音だから、少々の音くらいなら紛れて聞こえもしないだろう。

 ほうほう、ざっと見た感じ、この荷卸しには異常な点がある。

 第一に、どこにもバスタードやアビス人がいない。

 作業に従事しているのは、全てイエローだ。

 生前の大陸の黄色人種を知る身としては、なんでこいつらがこんなに従順に天使に従っているのか不思議だった。だが、実際は数十代前から遺伝子改造を施され、イエローの半分は天使に奉仕する種族へと作りかえられているらしい。後半分は知らん。レジスタンスとかやってるのかもしれん。


「よーし、これで全部か? 明日には大通りでひと暴れさせんといかんからな。迅速に積み込めよ」


 船の脇には、大型の荷役用魔導車があった。車輪なんか馬車に毛が生えたような代物で、乗り心地なんか度外視。ただただでかくて、荷物を運ぶ能力だけを重視した車だ。

 で、イエローどもに指示を出している奴がいて……こいつが当然のように天使なのだ。

 俺は背後から近づいて、ダッシュした。


「ん?」


 さすがに、走る音に気付いて振り返る天使。中年の男だ。

 そこ目掛けて飛び上がる俺は、


「しゃあっ!」


 どてっ腹に跳び膝蹴りである。うぬ、この身長の低さが憎い。もっとでかければ、顔面を狙えたであろう。


「げぶう」


 だが、効果は抜群である。

 天使のおっさんは黄色いものを吐きながら、体をくの字に曲げて転がった。

 イエローたちの動きが止まる。

 そして、俺を取り巻き始める。

 おっ、侵入者はなんとかする命令でもかかってるのか、こいつら。

 というか、もう隠密での侵入も何も無くなってしまったな。

 仕方ない。


 ヒャッハー!!

 派手に暴れるぞ!!


「あーっ、オドマが暴れてる!!」


 ジブリールの声が聞こえた気がするが知らん。

 俺は、「イグニッション!!」ファミリオンを召喚すると、周囲に小型の稲妻を撒き散らしてイエローどもを吹き飛ばす。


「くせものー!」


「くそ、当局か!?」


「であえであえ!」


 おっ、時代劇かな?

 船から出て来た天使たちが、イエローを次々に立ち向かわせる。

 これをファミリオンで、文字通り千切っては投げ、千切っては投げ。あ、いや、殺してないぞ?


「私もやるー!! ガブリエル、オートローテーション!!」


 アッー!!

 ジブリールまで参戦したぞ!


「ぎゃーっ、増えたー!!」


「あいつを使え! ほら、南で捕まえてきたあいつ!」


「解き放てー!」


 イエローどもがジブリールの召喚した水の奔流に押し流されていく。

 これに焦ったのか、船に乗っている連中が何か騒ぎ出した。

 すると少しして、ばりっ、と音がした。


「ん?」


「ん?」


 俺とジブリールが船の方を見る。

 すると、船の横っ腹が破れて、そこからうねうねしたものが飛び出している。

 アレは何かね……。


 また、ばりばりっと音がした。


「うわー」


「沈むー」


「逃げろーもがっ」


 おっ、逃げ出そうとした天使たちが、後ろから近づいて来ていた男に次々気絶させられている。

 ダライアスであろう。いい仕事をする。

 そして、あいつもまたオリフィエルを召喚、船内にいたらしい天使どもをまとめて確保し、船から退避する。

 それがジャストタイミングだった。


『もがーっ!!』


 何やらとんでもない咆哮が轟いた。

 港全体に響き渡るようなそれは、人間や獣の声ではない。

 船のあちこちから、うねうねしたものが突き出し、ついにはボロい船を破壊しながら、ゆっくりと全貌を現した。

 おお、イカだ。

 馬鹿でかいイカだ。


「おいおい、あれはなんですか」


 膝蹴りで倒した天使を引き起こし、聞いてみる。


「ああ、あうあう、南洋で捕まえた怪物(クラーケン)だよ。魔術でいう事を聞かせて船を引っ張らせていたのに、あの束縛を解くなんて……」


 ははあ。

 こんなボロい船で、東のほうから南アビスまで航行できるのか疑問だったが、どうやら秘密はこの怪物(イカ)にありだ。

 こいつが船底に引っ付いて、船を背負って泳いでいたんだな。

 とにかくそれくらいの大きさがある。


『もがーっ』


 触手が振るわれる。

 石造りの港にそいつが炸裂すると、馬鹿にならない量の石片が飛び散る。


「ダイオウイカは、深海生物だから、水面に出てくると減圧で膨れて死んでしまうと思ったんだけどな……」


「へ? オドマあの怪物のこと知ってるの?」


「あ、いや、うん。多分別人……いや別イカだよ」


 地球の知識が通用しないな。さすが異世界だ。

 イカは俺たちの姿を、その馬鹿でかい目で確認。すぐに敵性体であると判断したらしい。


『もがーっ』


 おいおい!?

 地上に上がってきたぞ!

 あんなのが港から町に出たら、南アビスは大変な事になる。


「よーっし、オドマ、乗り込むよ!」


「おっけー!」


 俺たちは、偉大なる分体の中に搭乗する。

 でかいイカvsファミリオン・ガブリエルチームだ。


『俺も手を貸すぜ』


 おっと、オリフィエルもやってきた。

 で、三体で取り囲む……とはいかないくらい、イカの野郎は大きい。

 おう、これもう40mくらいあるんじゃねえかな。シロナガスクジラよりもでかいぞ。さらに、振り回す一対の触腕がさらに長い。これを合わせると100mくらいある。怪獣である。


『”打ち砕く大波タイダルウェーブブラスト”!!』


 宙に浮かんだガブリエルが、いきなりの大技だ。

 あの、学園全てを崩壊させかけた奇跡である。

 港湾を洗い流すのではないかという大波が発生し、イカを襲う。

 だが、イカはなんと、この波の中に潜り込む。

 恐るべき圧力がかかっているであろう波を潜り抜け、にゅっと顔を出して触腕を振り回す。


『もがーっ』


『ええーっ!? 私の奇跡が効かない!?』


「あ、いや、多分相性が悪いんだよ、その奇跡。収束して撃つとかじゃないと、こいつって深海の生物だから圧力では倒しづらい」


『詳しいなサンダルフォン。では、俺の番だっ!!』


 まだ残る波の上を、華麗なステップでオリフィエルが疾走する。

 水の上を走るとか凄いな!

 そして繰り出される、嵐のようなパンチ、パンチ、パンチ。


『くっ、この大きさに加えて、なんて弾力だ! しかも表面がぬめって、軽い打撃では通らんな……!』


 意外な強キャラである、イカ。


『もがーっ』


 イカが触腕を振り回す。

 オリフィエルはこいつをスウェーでかわし、ジブリールは真っ向から水の奇跡を叩き込んで、軌道を逸らす。

 水と打撃では相性が悪かろう。

 ここはあれだ。

 水の生き物には、雷ではないだろうか。

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