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無線越しの挑戦状

「で、できたよ!」


「はやい!!」


 天使組のナード君ことグスタフが、俺用の無線機を組み上げて持って来てくれた。

 というか速すぎだろう。一日で仕上げるとか。

 パーティは明日だから、今日中にこいつを使って何とかできれば話が早い。


「ス、スリエルくんと連絡を取りたいんだよね。試合の約束?」


「まあそんなもの。お願いできる?」


「う、うん」


 それぞれの無線機は、扱う天使が持つ翼のユニットに応じ、様々な魔力周波数とでも呼ぶものが存在する。これを総じてアドレスと呼ぶ。

 広域送信ならば大規模な送信施設があるだけで良い。それぞれのユニットがラジオの魔力周波数を感知して、手にした端末から音声を発生させる。

 だが、ピンポイントで狙った相手に無線を送るには、相手のアドレスを知らなければならないわけだ。

 ちなみにこのアドレス、無線ラジオを通す事で劣化しているので、これを通じて相手の魔力を操るとかそういうことは出来ない。ただただ、無線で通話する程度の役割しか果たさないのだ。

 グスタフは無線に付いた無数のダイヤルをいじり、ふむ、とか、うん、とか言っている。

 対人時には挙動不審な彼が、随分と自信ありげな動作をするではないか。


「よし、できたよ。これで通話できるはず。最初は僕が通話してみるね。本当は、他人の無線を使って連絡するのはとっても難しいんだけど」


 それをサラッと調整する辺り、グスタフはさすがである。

 惜しむらくは、これが無線を愛する同好の士たちが会話する以外の役に立たない事であろう。


「ハロー。こちらはグスタフだよ。スリエルくんはお手すき?」


 無線からは、ピー、ガガガ、という雑音が聞こえた後、少ししてから聞き覚えのあるザラッとした男の声がした。


『おっ、珍しいねグスタフ。まだ学校の時間なんじゃないの』


「うん、実はパーティの準備でね。授業も昨日今日とちょっと短めに切り上げてくれるんだ」


 無線越しだとハキハキ喋るグスタフである。


『そうかい。学校ではもうそんな時期なんだね。僕は随分と通っていないから、季節の感覚だって怪しくなってきたよ』


「家の中ばっかりだと、気が滅入ったりしない? 僕も家の中が好きだけど……」


 お、なんか雑談になっている。

 俺はちょいちょいっとグスタフをつついた。

 彼はハッとして、


「あ、ご、ごめん。あのねスリエルくん。実は、君に紹介したい人がいるんだ」


『ああ、君の背後にいるんだろう? グスタフ以外の人の呼吸する音が聞こえていた。それに、声の聞こえ方がちょっと違う。グスタフが黙って新しい無線に変えるとも思えないし、これはその人物の無線なんだろう?』


「うん、その通りだよ」


 おっ、スリエルってやつ、結構(さと)いぞ。


『ふぅん……。グスタフ、もしかして君、僕を売った……?』


「そそ、そんなことないよ!」


「うん、そんなことはないね」


 思わず俺は口出しをしてしまった。

 すると、無線の向こう側では一瞬怯んだ空気があった。


「もしもーし」


「あ、お、オドマくん……!」


 俺は無線に顔を近づけて、声を出してみる。

 あちらさんは沈黙気味。

 このまま電波を切っちまうかな?


『大胆だね……。オドマ……と言えば、サンダルフォンの継承者、か』


「そうは言われてるね。それに、君とは多分初対面じゃない」


『僕はずっと家の中に篭ってるけど? ああ、この間の試合を見に来ていたとか?』


「そうじゃないそうじゃない。ちょっとさ、麻薬関連を僕は調査しててさ。それで、君の声を聞いた」


 再び、無線が沈黙した。


「もしもーし」


『そのもしもしって何さ。あのさ、ちょっと頼みたいんだけど』


「うんうん」


『僕はあくまで、バイトとして参加してるだけだから。それで誰か死んだり、薬にやられたりするのは関係ないって。物騒だからさ、グスタフには黙っといてよ』


 小声である。

 今は無線を俺が手にしているから、スリエルの詳しい言葉はグスタフには聞こえまい。


「随分グスタフを大事にしてるんだね。でも、君がやってることは褒められたことじゃないでしょ」


『借りがあるんだよ、彼には。ああ、分かった分かった。まさかあの現場に候補者がいるとは思わなかったよ。それに僕の奇跡から逃れられるレベルの実力者。それが例の仕事を追ってるなら、僕は手を退くよ』


「ほいほい、ご協力感謝するよ。それでさ、せっかくだから試合を片付けつつ、詳しい事情を聞きたいんだけど……」


『……まあ、候補者同士が接触するって言ったらそれだよね……』


 スリエルのため息が聞こえた。

 なんというか、麻薬に関わったことや、売人の口封じをしたことに罪悪感を持っていないようだ。

 末恐ろしい奴なのかもしれないな。ここは俺が大人として、ビシっと言ってやらんとな。

 何をビシっと言えばいいんだろうな。


「それと、雇い主のこと教えてよ」


『あのさあ……あまりそういう事はぺらぺら喋れないんだよね。信用なくすから、次の仕事に差し支えるじゃない?』


「大丈夫、今回のは僕が殲滅するからさ」


『物騒な……。それで、僕が得るものはあるわけ?』


「そうだね、グスタフの信頼と、僕も無線友達になるとか……?」


『後の方はそそられないね。まあ、仕方ない。あの現場に君がいたのは運が悪かったと思うことにするよ……』


「ありがとう、物分りがいい人で助かるよ」


 こうしている間にも、俺なんとなく、無線がどこに通じているのかを感じ取っていた。

 恐らく、決闘装置をつけている者同士の共感みたいなのが起こっているのだ。

 てなわけで、こうして一旦つながりが出来た候補者同士は、知らんぷりができないようになっている。

 その気になれば、俺はスリエルの元まで行くことができるだろう。

 向こうさんもそれがわかっているから、俺をただただ邪険にはできない。


「それじゃ、予定を詰めて行こうよ。あ、連中の殲滅は今夜中にやっちゃうんで」


『はいはい』


「? な、なんの話をしてるの? オドマくん、スリエルくんと仲良くなったの?」


 うーむ、こうも無邪気だと、グスタフはちょっと可愛いかもしれん……。

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