お薬のルートを探るのだ
半日ほどかけて、バスタード側の校舎は虱潰しにした。
結構な数の売人と中毒者を検挙したのだが、本当にこれ大丈夫かこの学校。
「いけません。腐敗は大変な状況になっていますね……」
困った顔のシャクティー先生。
職員と俺とダライアスを集めた会議の後、早速動き始めた彼女は、大変な行動力を示した。
具体的には女子生徒に聞きこみをして周り、怪しい場所でラリっている生徒を片っ端からぶっ飛ばしたのだ。
そのたびに、
「ダライアスくん出番ですよ!」
「あっ、はい」
売人がぶっ飛ばされ、
「オドマくん出番ですよ! さもないと私が魔術であの子たちを塩の柱にします!」
「わーっ!? やるからその魔術は撃っちゃだめ!?」
中毒者たちをプロレス技で無力化し。
拝借した、化学準備室に彼らを放り込んでいるというわけだ。
………。
なんでよりによって化学準備室なんだ。
ここは麻薬どころじゃない劇薬が棚にずらりと揃っているだろうが。
いやな予感しかしねえ。
「他の教室は借りられなかったんですよ。まあ、彼らもまさか劇薬を服用しようとしたりはしないでしょう」
おっ、それってフラグじゃないのか。
まあ、彼らの尋問は他の教師陣にお任せすることになった。
教師としての職務外の仕事だが、学内は治外法権なんだそうで、外部から警察組織をおいそれと招き入れる事はしたくないようだ。
天使側のキャンパスからも教師たちがやってきて、化学実験室の周囲はちょっとした混雑である。
おお、これは劇薬なんかが爆発したら大変なことになるな……。
俺たちはそんな風景を見つつも、学園を後にした。
尋問という程ではないのだが、中毒者の一人が持っていたメモに、本日の取引場所が乗っていたのだ。
ということで、四人でもって待ち伏せすべく、該当の場所へと急ぐ。
……四人?
「ふっふっふ」
「あっ、ジブリール、なんでいるのさ」
「そりゃあもう。あんたたちが楽しそうなことをしてるって聞いたからよ。私も混ぜなさい!」
「……オドマくん。彼女はもしかして、やはり候補者のジブリールくんではないのか?」
「うん、やたらとフレンドリーだけど、僕らにとっては最強のライバルでもあるそのジブリールだよ」
「おかしな状況になってきたな……」
天を仰ぐダライアスの気持ちは大変よくわかる。
喜んでいるのは、探偵ごっこ気分ではしゃぐジブリールと、心強い仲間が出来たと言っているシャクティー先生の二人だ。
先生、これはあれだぞ。
大惨事に繋がるフラグがまた一つ立ったんだぞ。
ジブリールからろくでもない提案があり、ノリノリになったシャクティー先生。
俺たちに揃いの上着とサングラスを買ってきた。
南アビスの外では、そろそろ雨季になろうかという季節。そこまで暑くないから上着も耐えられはするが……。
これが大変目立つのだ。
「なんだろうなあ。俺はなんでこんなことをしているんだろう……」
「気持ちは分かるよダライアス」
奴の肩をぽむっと叩いてやった。
女性陣二人はやる気満々。何やらかっこよくポーズなんか決めている。
さて、ここはそんな事をやっても人目につかない、麻薬の取引が行われるはずの細い路地。
無駄に行動力があるジブリールは、新品の板を幾つか持ち込んでいる。
これを俺たちの周囲に貼って、ゴミ捨て場を演出しようと言うのだ。
「ねっ、私頭いいでしょ。こんなきったない路地にゴミ捨て場があっても、誰も気にしないから」
「でも、ちょっと板がきれいすぎない? 貸して」
「どうするのよ?」
「おりゃあ!」
俺は気合を入れて、板を地面に叩きつけた。
一気に板がひしゃげて泥だらけになる。
「うひゃー!? あ、あんたなにするのよー!!」
「うわあ、落ち着いてジブリール!? こうした方が表面が汚れてそれっぽくなるし、ちょっとくらい壊れている方が路地にあるぶんには不自然じゃないでしょ」
俺の説明を聞き、ジブリールははたと我に返ったようだ。
じっと板を見て、ふむふむと頷く。
「確かに」
「……オドマくん、君も苦労しているんだなあ」
自分の腕一本で、連合王国を渡り歩いてきたダライアスに言われてしまった。
夜である。
板で区切った小さいパーテンションに俺たちは篭もり、上から袋をかぶってじっとしている。
熱が篭って暑い。
誰だ、こんな計画を立てたのは。
「あづーい」
お前だろうジブリール。
胸元のボタンを外して、パタパタやっている。
その辺りの成長はてんでお子様なので、俺としては全然グッとこない。
「あれ、オドマじっと見ちゃって。どう? ちょっとセクシーだと思った? グッときた?」
こない。
……なんてことをしていたら、おいでなすったようだ。
学園内で大捕り物があったことは、外には知られていなかったようだ。
そりゃもう、速攻で虱潰しにしたからな。
一人だって逃げきれなかったに違いない。
……待てよ、逃げ出したイエローはどうなんだ? 奴らが報告をしたりはしていないのか?
「…………」
「…………」
何やらシルエットになって、詳しくは伺えない二人組。
片方が懐から袋を出して、もう片方が金を出して……。
「そこまでですっ……きゃー」
シャクティー先生がかっこよく登場しようとして、板に足を引っ掛けて転んだ。
なんとカッコがつかない人であろうか。
「そこまでよ!!」
かっこ良く登場したのはジブリールだった。
シャクティー先生のお株を奪った形である。
俺とダライアスは一瞬顔を見合わせ、仕方がないので出てきた。
「むうっ、な、何奴!」
芝居がかった口調の男は、麻薬の売人か。
なんだか、怪しい気がするぞ。思ったよりも慌てていない。
その横で、麻薬を買おうとしていた男らしき奴も、逃げる気配がない。
じっとこちらを見て、なんだ……? ニヤニヤと笑っている。
「麻薬取引の現行犯で捕まえるわ!」
そんな細かいことには気づかないし気にしないジブリール。
ババーンと効果音が上がりそうな仕草で、彼ら二人を指差した。
すると、男たちはたまらず声をあげて笑い出す。
「わはははは! イエローどもが逃げ帰ってくるから何事かと思えば。お前のような子供にやられたのか!」
「俺たちはな、マヌケな連中が捕まえに来るのを罠にはめてやろうと思ってたんだよ!」
一人が指を鳴らした。
すると、通路の裏側から、表から、上から、次々に黒装束の連中が姿を現す。
全員が京劇のような仮面をつけていて、物騒な光物を手にしているじゃないか。
「な、なぁんですってぇーっ!! こうなったら私の凄いところ見せてやろうじゃないの!!」
「ジブリール、下手に奇跡を使ったらみんな流されちゃうから!」
状況は完全に包囲されている。
シャクティー先生は転んだまま目を回している。
ジブリールの奇跡は高威力過ぎて、こんな細い路地で使うには少々危ない。
さて、この状況を突破するには、一工夫が必要そうだぞ。
そんなわけで、麻薬操作のつもりが大乱闘が始まるのである。




