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麻薬捜査官俺たち

 学内自治などは無いのだろうか。

 ダライアスとともにハイスクール校舎を練り歩きながら俺は思った、

 学園と言うのだから、自治組織である生徒会めいたものはあるのではないだろうか。

 だが、この学園にやってきて半年、まだそれらしいものを見かけてはいない。

 ということは、無いのではないか。

 しかし無いのではやっていけないではないか。

 ではあるのか。


「むむむ」


「どうしたんだい? 難しい顔をしているが」


「ああ、うん。麻薬みたいなのが蔓延してるっていうのに、誰もそれに気付かなかったのかなと思ってさ」


「そりゃ気付いているだろうね。何せ、薬物が流行っているのはバスタード校舎だけなんだ。それ以外では、灰色の町にも薬物が流通しているらしいが……」


「なんてあからさまな。っていうかこの薬物は麻薬(ドラッグ)だよね」


「そうだね。意図的に薬を流行らせて、俺たちの品位を貶めようとしているのかもしれない。現に、これほど重大な危機だと言うのに学生自治会は動いていない」


「学生自治会……! そんなのがあるのか」


 初耳である。

 と、ここで俺とダライアスの鼻が、先ほどのヒャッハー系生徒と同じ臭気を認識する。

 お薬をやってる奴がいるな……!

 そんなこんなで、


「ええい、校内で怪しい薬をやることはまかりならーん」


「げえっ、み、見つかった!! ちいっ、やっちまえ!」


 売人らしきアフロヘアが俺たちを指差す。

 すると、彼の背後から比較的小柄な影が幾つも飛び出してきた。


「アチョー!」


「うわっ!?」


 怪鳥音とともに振り回されたのは、短い三つの棍棒を細い鎖で繋いだ武器だ。

 えっ、三節棍?


「アチャ、アチャ、アチョー!」


「なんだこの武器は? 軌道が読みづらいな……っ、と!」


 ダライアスは振り回される三節棍を巧みに回避し、素早いジャブで相手を怯ませている。

 小柄な連中は、三節棍やら、明らかに青龍刀らしき長柄の武器やら、小ぶりな刀を手にしている。

 こんな物騒なのがどこに隠れていたんだろう。

 それに、みんな派手な仮面をしている。京劇みたいな。

 ……京劇みたいな?


「よっし」


「アチョ!?」


 俺は覚悟を決めて飛び込んだ。

 三節棍の半ばの棍棒が体に当たるが、遠心力が殺されていてさほど痛くない。

 そのまま駆け込みつつ、伸ばした腕を相手の喉下にぶち当てた。


「うぉらっ!!」


 俺の筋力や体重は、見た目以上にある。

 なので、一見して中学生くらいの腕にぶち当てられた敵は、俺の腕を起点にしてふわりと足が浮き上がった。


「ウィーッ!」


 俺の脳内でサンライズが流れる。

 腕を振り切った背後で、敵が後頭部から床に落ちた。

 仮面がパカッと割れる。

 そこに現れた顔は、天使でもバスタードでも、ましてやアビス人でもない。

 微妙に白くてちょっと黄色っぽくて、鼻が低くて目が細い……。

 モンゴロイドだなこれは……。


「イエローか……? だが、こんな辺境までイエローがやってきているとは……!」


 ダライアスもパンチで一人を片付けたらしい。正体を確かめて驚いている。


「やっ、やべえ、こいつらつええぞ!!」


 アフロが逃げ出した!

 アチョーアチョー言ってた連中の数も減っている。

 次々にこの場から逃走しているのだ。

 これはいかん。


「ダライアス、逃がしちゃったらダメだ」


「ああ、あの売人は色々詳しそうだからな……!」


 地を這うような姿勢で、ダライアスが加速した。

 今まさに窓から飛び出そうとするアフロを背後から抱える。

 そこに追いついたのは俺だ。


「行くぞ!」


 俺の言葉に、ダライアスは何やら察したらしい。


「は、離せー!?」


 もがくアフロを持ち上げて、俺は壁を駆け上がりながら、アフロ目掛けて飛び込んだ。

 形的に、トップロープ上からのツープラトン、雪崩式ラリアットである。


「ぐへえ」


 床にヒビが入るほどの轟音がして、売人は目を回した。

 うむ、さすがバスタード、天使の血が混じっているだけあって頑丈だな。これだけやっても死なない。

 うちのクラスメイトも、天使組の連中から魔術をぶち込まれてもピンピンしてるしな。

 そんな訳で、俺とダライアスは、売人とその護衛らしきイエロー二人を捕まえたのである。




「イエローというのは、東の大陸に住む連中だ」


 とはダライアスの説明。

 この場には、学園の教諭連中と俺、ダライアスが集まっている。

 学園の教諭たちは、麻薬が蔓延しているバスタードクラスの状態をよく把握していなかったようだ。


「ハイスクールはいつも荒れてるから、平常運転だと思っていたんですよ」


 ニコニコするシャクティー先生。

 彼女がハイスクールでは、鬼のシャクティーとして恐れられている事を、俺はこの時初めて知った。

 いう事を聞かない生徒に、容赦なく限りなく致死レベルに近い魔術をぶっぱするそうだ。

 学園でも武闘派で鳴らした不良生徒も、彼女には絶対に逆らわない。


「でも、最近ちょっぴり授業へ参加する生徒が減っていると思っていたんですけれど……まさか麻薬のせいだったなんて」


「シャクティー、これは君の責任問題ですぞ」


 肩を怒らせているのは、天使組の担当教諭だろう。

 高慢そうな顔をした、茶色い髪で口ひげの天使だ。


「やはりバスタードなどに高等教育など無意味だったのだ」


「そんなことはありません」


 シャクティー先生がむっとする。


「うむ。健全な肉体をしていなかったためだろう。筋肉が足りないのがいけないのだ」


 サハクイエル先生、あんたは黙っててくれないか。


「元々、イエローの大地は連合王国の植民地なんだ。だから、あいつらは、ここまで来る意味がない。麻薬は麻酔薬などに使われているものだが、中毒性があってね。本来なら厳密に管理されているんだが……」


 ダライアスが考え込んでいる。

 連合王国の植民地ということは、あのイエローたちがここに来たのは、間違いなくバックに天使がいると言えるんじゃないか。


「もう! そこまでおっしゃるのでしたら、私にも考えがあります!」


「ほう、お聞かせ願いたいものですな!」


「私がじきじきに、この事件を捜査します! オドマくんとダライアスくんを連れて!」


「えっ」


「えっ」


 俺とダライアスが唖然とした。

 い、一体何を仰るのだこの女教師は。


「二人とも七大天使候補なんですから、実力的にも申し分ないでしょう? 監督責任があるというなら、私、徹底的にやってやりますからね!!」


 シャクティー先生が、口ひげ天使教諭へ啖呵を切った。


「よろしい。シャクティー先生の成果にせいぜい期待しているとしましょう」


 ひげを撫でながら嫌味な口調で言うのだ。

 俺もちょいとカッチーンと来る。

 頭から人を馬鹿にするような物言いはよくない。


「ええ、期待しててよ。僕たちが麻薬を取り扱ってる連中を壊滅させてくるよ!」


「えっ」


 口ひげ教諭がちょっと真顔になる。


「荒事はちょっと……。ほら、軍の管轄やメンツがありますからな……」


「しーりーまーせーんー! さあ行きましょう、オドマくん、ダライアスくん」


 そういうことになった。

 なってしまった。

 俺たちはパーティーも程近いというのに、麻薬捜査をせねばならないのである。


「強引なお人だ……」


 しみじみと言うダライアス。

 あんたは苦労人かもしれないなあ。

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