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唸れ、紳士の武術

「うっふっふー」


「どうしたのマンサ、朝からご機嫌じゃない? もしかして、もうドレス買っちゃった?」


「そそ! ダンスパーティにはみんなをあっと言わせるよー!」


「むむ……ちょっと、楽しみ」


 女子たちが騒いでいる。

 ここはバスタードのクラスである。

 この学校は、生徒がそれぞれ講義を取得し、講義室に移動して受講するスタイルだ。

 そして、授業を行う教室とは別に、それぞれの生徒が所属するクラスが存在する。この教室が、俺たちアビス人の血が混じった、混血児(バスタード)のクラスってわけだ。


「おいオドマ、あれってお前が買ってやったんだろ?」


「どこからそんな情報を得たんだい」


「マンサにプレゼントするなんて、お前しかいないだろ。ってか、俺だってマンサを誘ったのに断られたんだぞ」


 ボブはご愁傷様だ。

 ドレスを買ってあげれば、それはすなわちダンスパーティのパートナーを選んだことを意味する。

 ってことで、今のところ俺のパートナーはマンサで決定だ。

 ジブリールも買って欲しがっていたが、あの娘、おっそろしく高いドレスを選びやがった。

 実は、俺は俺でルーサーとアビス教化計画を進める途中、アビスで俺が発明した品をパテント登録していた。なかなか斬新な代物も多かったようで、ちょこちょことパテント料が入ってきているのだ。

 で、そのパテント料が一発で消し飛ぶようなドレスなんて買うつもりはない。

 ジブリールは大変むくれていたが、結局自腹でドレスを買ったようだ。

 金持ってるんじゃないか。


「ちぇっ、今年はオドマに譲ってやるぜ。だけど、来年は見てろよ」


「はいはい」


 ボブのやつは色々な女の子に粉をかけているくせに、相変わらずマンサが好きなのか。

 気が多いようで、実は一途……なようでやっぱり気が多いのかもしれない。


「よーアマラ! 俺のパートナーになってよー!」


「ボブって誰にでもそういうこと言ってるでしょ。あたしそういう男って嫌いなのよねー」


「そんなー」


 ほら。

 俺としちゃ、別にダンスに参加しても参加しなくてもいいんだが、参加しないとマンサとジブリールが物凄くうるさいことになる気がする。というかなる。

 後は、パーティで何かと人間関係のコネクションを広げることが出来れば万々歳である。

 むしろそちらが重要とも言えよう。

 そんなことを考えていたらば、だ。

 何やら外側がうるさくなってきた。

 窓から外に目をやると、バスタードの校舎と天使の校舎の間辺りだろうか。人だかりができているではないか。


「なんだろう、あれ」


 俺がそれに興味をいだいた瞬間だ。

 左手につけている決闘装置が、唸り声をあげた。

 龍頭が勝手にせり出してきて、回転を始める。


「おおっ……!? これって、近くで決闘が行われるってこと?」


 俺以外の七大天使候補者と言えば、この学園ではジブリール。

 あいつが誰かと戦うことになっているんだろうか。

 俺はちょっと見に行くことにした。


「あっ! オドマ、私も行くー!」


 マンサがひっついてくる。


「俺も俺も」


「私も私も」


「私も」


 ということで、いつものメンツで野次馬に出かけていった。




 さて、到着してみれば、だ。


「汚らわしいアビスの血が、七大天使に名を連ねるなどあってはならないのだよ」


 神経質そうな、銀髪の天使が天を仰いでいる。

 カソックに似た衣装を身に着けていて、そいつの左手にも決闘装置があった。

 それなりの美形だが、冷たそうな印象を受ける。


「本来オリフィエルとは、反射を操る概念の天使。高度な能力を持つ彼が、お前のような下等生物に敗れ去ったなどありえることではない」


 天使と向かい合っているのは、長身のバスタードだ。

 がっしりとした体つきで、無言のまま身につけた制服の上着を脱いでいく。

 シャツに覆われた肉体があらわになると、野次馬をしていた女子たちから歓声があがった。

 これは良い筋肉である。

 強く、しなやかに鍛えぬかれた実戦用の肉体。


「もう一度言う。お前は七大天使候補者に相応しくない。即刻、その決闘装置を捨てよ!」


「断る」


 聞き覚えがある声だった。

 そのバスタードも、左手に決闘装置を装着している。

 バスタードで七大天使候補。そしてバスタード。

 こうなれば、俺以外には一人しか存在しない。マリアのお兄ちゃんだ。


「大方、不意打ちや毒といった卑怯な手段でその地位を手に入れたのだろうが……良かろう。この私、ラグエルがじきじきにお前という異物を排除してやる。ありがたく思うがいい」


「どう君が判断しようと構わんが……」


 ごく自然な動きで、その男……ダライアスが身構える。

 アップライトスタイル。

 こいつは……ボクサーか!


「俺の戦いを穢す物言いは、先のオリフィエルをも貶める行為であると知れ。何より」


 向かい合う二人の決闘装置が、戦場を作り出し始める。


「男ならば、拳で語れ」


「野蛮人が!! ラグエル、悔い改めよ!!」


「オリフィエル、イグニッション……!」


 なぬ!?

 それぞれの七大天使候補者が、己の偉大なる分体を呼び出す言葉は違う。

 だが、ダライアスが分体に呼びかける言葉は、俺のそれと等しいのだ。

 ということは、だ。


「あの言葉、オドマと同じ……!」


 マンサとともに、頭上に展開された戦場を見上げる。

 それは、無数に張りめぐされた金属の(はり)が印象的な、教会。

 ラグエルを名乗った男の背後には、機械仕掛けの歪な十字架が出現していた。

 そして、教会の扉が打ち破られる。

 飛び込んできたのは、赤いスポーツカーだ。


 十字架が形を変える。

 それは、黄金と白銀にまばゆく彩られた巨人。イェグディエルと同じくらいの大きさだろう。

 向かい合うスポーツカーもまた、変形を開始する。

 赤いボンネットが展開し、真っ黒なボディが出現する。

 赤と黒。印象的な二色。

 真紅の装甲は、無骨なガントレットを構成し、全体的な巨人の印象はシャープ。

 これがオリフィエルか。


 教会の床を、リズミカルに踏むオリフィエル。

 対するラグエルは不動。


『俺は、魔術は苦手でな。拳一つで行かせてもらう』


 そして戦いが始まった。

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