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学校スタイルか私塾スタイル

「ふむ、面白い事を考えているな」


 モーシェが顎を撫でながら言った。

 ここはザクサーン集落の族長邸宅。

 いや、このスケールは部族とか、邸宅とか言う次元ではない。

 ザクサーンは、近隣にネイト大河と言う大きな河があり、ここから取水することで膨大な人口を養っていた。

 ネイト大河は不思議な事に、ザクサーンの背後にある巨大なクレーターから発生し、登ってきて河となっているのだ。


「あの辺りは次元が歪んでいるね」


 とはルーサーの意見。

 パトロン兼、学校の協同運営者として、こいつを呼んでおいたのだ。

 ファミリオンから直接、イェグディエルに連絡が取れるのだな。何やら俺たちが学生集めで奔走している間に、ルーサーは他の七大天使候補者と戦って勝利していたらしい。なんだこれ勝ち抜き戦じゃなくて、総当たり戦か!

 さて、話は戻ってザクサーン。

 ここはこれまで見てきたアビスの部族とは、桁が違う人口を持つ部族……いや、国家だ。

 クレーターを囲むように展開した町は、南アビスにも劣らない。

 独自の通貨も存在し、この国だけで世界が完結している。

 大河を有しているため、畑作に牧畜なども盛んだ。家畜は主に山羊の一種らしい。

 そして、この邸宅。

 石造りでありながら、ところどころに土や木造りの構造が用いられている。

 内部に溜まる熱を外に逃がす工夫なのだそうだ。

 スケールは、完全に宮殿である。


「どうした、何を見回している?」


「いやー、物凄く大きいなあと思って。南アビスの学校も、これくらい大きかったよ」


「ははは。王たるもの、常に権威を示さねばならん。まあ、この屋敷は四代前の王が建てさせたもので、まだ新しいがな」


 王かー。

 ここは王国なんだなー。

 乾いた大地のアビスとは思えぬほど、ザクサーンの国土は肥沃な土を持っている。


「この大地はな。天空の王墓と共に昇天した、女神ネイトと今も繋がっているのだ。故に、恵みを享受している」


「ほほー」


「ほう」


 俺とルーサーが興味深く頷く。

 ちなみに、この国、過去の伝承から天使を割りと敵視しているんだが、ルーサーはサラッと中に入れてくれた。

 モーシェ曰く、「こやつは商人の目をしている。損得勘定で動く者は信用できる」とか。


「だが、多くの民がこの大河に集えば、例え多くの恵みをもたらすネイトの大河と言えど干上がってしまうだろう。故にこの国を外に知らしめるわけには行かなかった」


 何故、これほど文明的な国が知られていなかったのか。

 それは徹底的な秘密主義だった。

 入国を許さず、出国を許さず。

 例え南アビスの天使であっても、いや、天使であるからこそ生かしては返さない。

 一人か二人、生きて帰って南アビスに報告したようだが、ザクサーンの深部には入り込めなかったらしい。

 南アビスの政府は、聞きかじった感じ、それなりに腐敗している。

 情報の少なさと危険さから、ザクサーン捜索を断念したのはこの国にとって幸運だっただろう。


 ちなみにアビスの他の国々は、未開すぎてザクサーンが理解できなかっただけらしい。



「して、その学校というものの話だが」


「参加してくれるかい」


「うむ。余も貴様の考えに興味がある。我ら大地(ゲブ)に生きる者たちが、あの羽ありに抗するためには力のみではない。知恵も必要だ。さもなくば、共闘することもままならぬ」


「でしょうねえ。アビスの人たちがあのレベルだと」


「分かるか」


「ええ」


 ちょっとモーシェとの間に共感っぽいものが生まれる俺である。 


「だがなオドマよ。余は思うのだが、唐突に学校なるものを建造しても、効果は薄いのではないかな」


「と言いますと」


「うむ。民草に教養たるものを伝える意義は理解している。だがな。大地に生きる者たちは、日々を生存する事で精一杯だ。それが今日明日、すぐに糧とはならぬ教養に、どれほどの価値を見出すと思う?」


「そういえば……」


 なるほど、最もだ。

 衣食足りて礼節を知る。

 アビスの未開な人々はそもそも衣食が足りてないな。


「ということでだ。今貴様が行なっている、生徒を集めるやり方が良いと余は考える。つまりだ。優秀な各地の人材を集め、その者たちに教養を授けるのだ。そして現地に帰ったその者たちが、また各々の部族に知恵と教養を伝えていく」


「ビジネス的には、なかなか利益が回収できなさそうだねえ」


 ルーサーが苦笑した。


「だけど確かに。じっくり土台から改善していかないと、現地の人々の意識を進化させることはできないだろうね。さすがは王様だ」


「なに、商人。貴様が望む利益は、十年あれば学校を建てるだけの何倍にもなって返って来るであろうよ」


「大局的な視点が必要ですねえ」


「なるほどー」


 元々、一介のSEでしかなかった俺にとって、この辺りの話はちょいと難しい。

 だがまあ、なんか上手く行きそうであないか。

 任せておこう。

 で、後々この話をまとめて確認したところ、学校というか、私塾形式の少数精鋭型教育機関を作ろうと言う話なのだった。

 日本で言えば、吉田松陰がやった松下村塾だな。これで優秀な人間を選抜、育成して各地に帰すと。


「では、今回の会議はこれで終わりかな? オドマくん、君はそろそろ学校が再開するはずだが……」


「あっ、もうそんな時期かあ」


「アビス教化計画の主導者が、自分の学校生活を(おろそ)かにしていたのでは冗談にもならないからね。そろそろ南アビスに戻る頃合だよ」


「うむ、後は我々に任せておけ」


 おお、ルーサーとモーシェが頼もしい!

 ということで、俺は彼らに今後の展開を託しつつ、学校生活に戻っていくのである。



「あいつら一体何の話をしてるんだ……?」


「わかんなーい」


「オドマくんはやっぱり優秀ですねえ」


 外に出て、首をしきりにかしげるボブと、退屈そうなマンサ、ニコニコしているシャクティー先生と合流。


「それじゃあ、メクトに挨拶してから学校に戻ろうか」


「さんせーい! 私助手席ね!」


 勝手知ったる他人の家、とばかりに助手席に飛び込むマンサ。

 シャクティー先生とボブを後ろに搭載して、ファミリオンは走り出した。

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