仮面職人大いに語る
案内された若手職人の家にやってきたぞ。
ジャメナは仮面や装飾品のような、木工細工が盛んな村だ。
職人とは言えない一般の人々でも、ちょっとした細工物を作ってしまえる。
子供の頃から遊び半分でやっているらしいから、もう生来身についた技術になっているのだな。
無論刃物など無い。
磨製石器で作るのだ。
……ということで、職人の家は、南アビスを見てきた俺の目で見ても、しっかりとした木造のログハウスに見えた。
無論、気候的に風通しは大変よく出来ている。
だが、これだけしっかり作ってあれば雨漏りはしないのではないか。
「あ、アビスに文明的な建造物が……!? オーパーツでしょうか」
失敬な事をシャクティー先生が言った。
「すっげえよく出来てるよな……! 家のあちこちに仮面がくっついてるのが、不思議な感じだぜ」
「うん、でもどの仮面もしっかり作ってあるね。色もカラフルだし、きれいかも」
ボブとマンサは、この家の作りが気に入ったようだ。
確かに、仮面に彩られた職人宅は、人が居住している家というよりはそういう美術品のような雰囲気だ。
「これは仮面を作れますよって外に見せてるの?」
長老に聞くと、彼は首を横に振った。
「これは色を塗りたてでしてな。外にこうやって並べて乾かしておるのですぞ。より上で乾かしているものほど、出来が良いものになっております」
これらは職人が集落の人々の依頼を受けて作っているそうで、より出来がいいものはたくさんの食料を代金として必要とするのだそうだ。
「よーし、それじゃあ職人さんに会いに行ってみよう」
「おー!」
俺の宣言に、お供三名は異口同音で同意した。
「誰だお前」
入って早々、告げられた言葉はそれだった。
もっともである。
「神の子オドマじゃぞ。お主も聞いているだろう」
「は? 神の子? それが俺に何の用だって言うんだ? 俺には関係ないね。どうでもいい」
「こら、ウンバ! あのオドマがわざわざお前に会いに来たのだぞ!」
ほう、この男、ウンバと言うらしい。俺のネームバリューに何も感じ入らないところなんか、気難しい芸術家っぽいところがあるな。
「だから、知ったことじゃない。俺は今、猛烈に腹が立っているんだ。オニャンコポンは、俺の頭から仮面の絵をすっかり取り除いてしまった! 何も! 何も浮かんでこないんだ!」
「いや、だからウンバ。今はこのオドマを迎え入れてじゃな……」
「はあ!? 神の子を迎え入れてどうだと言うのだ! 俺の頭の中に、新たな仮面の絵が描けると言うのか! こいつがどうした? ただの子供じゃないか! もしもこいつが神の子だというなら、オニャンコポンの権能で俺の頭の中に、あの仮面の絵が舞い踊る風景を戻せるはずだ!」
「む、無理を言うでない、ウンバ……」
ウンバとは、この集落では創造という意味だ。
この男は、若くして天才的な腕とセンスを持った仮面職人だった。まさに名が体を現していたのだろう。
「いいか族長! 俺は仮面職人だ! 仮面職人が仮面を作れなくなったらおしまいなんだよ! 獲物をと狩ることが出来ないライオンが餓えて死ぬのと同じだ!」
「ええー、だってウンバさん、かっこいい仮面作れてたのに」
大げさに嘆くウンバに、臆することなくマンサが言葉をかけた。
こいつ何気に度胸あるよなあ。天使に人質にされた時も、そこまで怖がってなかったもんな。
ウンバは、何を言うんだこいつ、と言う目でマンサを見て、ちょっと目を丸くして、少し赤くなって目をそらした。
あっ、お前女の子に免疫無いな。
「あっ、あれは今までにも作られてきた意匠だ。俺が親父殿や、また親父殿から習った技を使っているに過ぎない。何もよくなどないのだ」
「ううん、凄いってば。私はどんなに勉強してもあんなの作れないし、それに、ちゃんと決まってるものをきちんと仕上げられるって凄いよ!」
「お、おう」
おっ、ウンバがちょっと揺らいできたぞ。
意固地な感じだったのが、マンサに褒められて気分良くなってきたみたいだ。
この世界、褒め殺し的な文化が無いからな。褒めまくられるということに、誰も慣れていない。
「それじゃあ、何が困った事なの? ああいう風に仮面を作れるのに、気に入らないの?」
「ええ、私もそこのところ気になります!」
シャクティー先生が入っていったー!
知的好奇心を刺激されると、色々な分別が消えるのがこの人らしいところだ。
集落にはいないタイプの知的な美女までやってきて、ウンバはたじたじだ。
「おっ、俺は、決まったものを作るばかりではない! 新しい仮面を考えて、作ることをやっていたのだ!」
仮面の創作活動ということか。
こいつは職人とか呼ばれているが、どちらかというと芸術家タイプなのだな。
で、どうやらこいつは……。
「お兄さん、それはスランプだね」
「スランプだと!?」
俺の突っ込みに、ウンバが食いついた。
「なんだ、それは」
「今まで出来ていた事が出来なくなったり、思いついていたアイディアが出てこなくなることだよ」
「そう、そう、それだ。まさにそれだ。俺は何も思い浮かばない。頭の中が真っ白なのだ! 何も、考え付かないのだ! 今までは、オニャンコポンが多彩な仮面の絵を俺の頭の中で描いてくれていたというのに!」
「ふーむ、なんでスランプになったんだろう……」
俺は考えた。
この男、芸術家タイプと言うのは面白い。
確かに、通常のアビス人とは異なった才能の持ち主だ。未開の大地の人々よりも、より南アビスのような文明圏に価値観が近いだろう。
そんな男がスランプになる。
思いつく限り、原因は一つだ。
「僕が思うに、ウンバは家から出てないでしょ」
「何故分かった!」
「それだ」
俺はびしっと指を突きつけた。
ウンバが目を白黒させる。
「刺激が無いから、アイディアが枯れちゃったんだよ」
「し、しかし、頼まれた仕事が多くてとても外出している余裕が……」
「そういう時こそあえて外出するんだ! よし、僕がウンバに刺激を与えてあげよう」
俺は、ウンバの腕を掴んだ。
「マンサと先生とボブも手伝って」
「はーい」
「任せてください!」
「よっしゃ!」
「う、うわー、何をするー!?」
さあ、職人を呼び出したファミリオンに詰め込んで、サバンナ一周にご案内だ。




