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学生とか学費の問題とか

 さて、校舎の建築にとりかかり始めると、次に気になるのはどういうスタイルの学校にするかだ。

 基本、貨幣経済が知れ渡っていない未開の大地。

 地面に置いてある建材を、落ちているものだと思って勝手に持って行ってしまう程度には未開である、アビスの民達。

 さて……。

 最初の学生は、ある程度頭のいい子供で無くてはならないだろう。

 学費などは最初は免除。

 ボランティアで運営する形になる。

 運兵費用もかかるな。ルーサーに頼り切りというわけにはいかないし……。


「むーん」


 俺が夕食時に唸っていると、ママンが心配そうな顔をした。


「大丈夫? オドマ、最近ずっと難しい顔をしてるわよ」


 近づいてきて俺の額に手を当てる。

 ふんわりいい匂いがする。


「うん、大丈夫みたいね。病気ではないわ」


 今は、ママンと俺、二人きりの食卓だ。

 味気ないアビスの食事にも慣れたものだ。最近はまたバーコたちが狩りに出かけていったようで、肉が取れれば食卓も賑やかになるだろう。


「オドマ、なにか悩んでるなら、私にも教えてね。私じゃ、頭も良くないし力になれないかもしれないけど、一人で抱え込んでるよりはずっといいと思うわよ」


 うちのママンは天使だなあ。

 断じて俺はマザコンではないが、このように綺麗で若々しく、そして優しいママンがいれば、男であれば誰もが敬愛してしまうのではなかろうか。


「うん、ありがとうママン。なんだかちょっと元気が出てきたよ」


「そう? いつでも相談して。だって私はオドマのママなんだから」


 細い腕で力こぶを作る仕草をするママン。うーむ、可愛い。




 さて、翌日である。

 俺はボブとマンサ、そして南アビスから呼び寄せたシャクティー先生を乗せて、ファミリオンにて周辺集落を行脚していた。

 これは生徒探しである。

 各部族には、それなりに頭の切れる奴がいるはずである。

 その中には子供だっているだろうし、場合によっては大人も学校に通って教養を身につけて欲しい。

 そんなわけで、将来のアビスを背負って立つ人材を探す道行でもあるわけである。


「なるほどお……! オドマくんはそんな壮大な構想を抱いていたのですね……!」


 シャクティー先生の目がキラキラしている。

 彼女は大変熱心な教育者だから、俺がアビスの未開な人々に教育を施したいと言う理想を支持してくれたのである。


「未開っていうか、文化が違う感じだよね」


 マンサが難しい顔をして言う。


「アビスってさ、確かに文字もお金も無いけど、南アビスみたいに海を埋めたりしないし、工場から臭い煙を出して空気を汚したりしないわ。自然の中から、必要なものを必要なだけ貰って、あとは返すの」


「うん、確かにそう言えばそうだね」


 俺は頷いた。

 少々動物に近く、少なからぬヒャッハーな人格をした人間がいるが、それはもしかすると、南アビスも同じ事かもしれない。違いは教育を受けたかどうか。

 例え教育を受けていても、ジョナサンやあの天使組みたいな人種差別大好きな連中が誕生するし。


「それでも、僕が南アビスで勉強してみていいことだと思ったし、シャクティー先生に教えてもらってた時期だって、刺激的なことばっかりだったよ。この喜びをみんなにも教えてあげたくてさ」


 どうなんだろうな。

 俺は口ではこう言っているが、マンサの言葉でちょっと揺らいだ。

 俺が上から目線で教育を与えてやる、なんてする資格があるもんなのか、どうか。

 うーむ。

 よし、悩んだ日は、帰った後でママンに甘えよう。そうしよう。

 この思考は棚上げだ。




 最初に到着したのはジャメナ部族の集落。

 この部族は、仮面を作る習慣がある。

 あまり体にペインティングはせず、装飾品や仮面で自分を飾り立てるのだ。

 出迎えてくれた連中を見て、ボブがギョッとしたようだ。


「うおおっ!? ば、化け物かっ!?」


 うむ、顔に馬鹿でかい木のお面をつけて、しかもそれを様々な染料で極彩色に染めているからな。

 この部族は、草花や土、金属や昆虫を使って、様々な染料を作る事にも長けている。

 反面、狩りや自給能力に関しては平均以下だ。

 うちのメクトもここから装飾品を手に入れており、食料と交換している。

 いわば、第二次産業の走りみたいなことをしている集落なのだ。


「おお、よくぞいらっしゃった」


 先頭にいたごてごてした仮面の男が、それを外した。

 あっ、この間集落に来た族長じゃないか。


「待っていましたぞ」


 アビス人には敬語と言うものは無い。

 だが、ニュアンスとしてそういうものが伝わる仕草をしてくる。

 俺もマンサもボブも、見た目は子供だ。

 シャクティー先生だって若い女だから、一見すると侮れてしまう。

 だが、族長はこの間の七大天使決定戦を間近で見ていたから、俺たちが年齢なりのただの子供などではない事を理解しているのだ。


「うん、この集落の優秀な人を探しに来たよ。学校が出来るのはまだまだ先だけど、優秀な人には是非学校に入って欲しいからね」


「ふーむ、優秀な人か……」


「族長、この子供はなんだ? 族長に対して直接物を言えるとは」


「おお、この子供が神の子オドマじゃよ」


「な、なんとー!!」


 どよめくジャメナの人々。

 あ、仮面の人々の中には女性もいるのか。

 本当に性別が分からんなこの集落は。


「オドマ、有名じゃん」


 マンサが何故か得意げになって、俺のわき腹をつんつん肘でつつく。


「うん、有名なのは今はありがたいかも。学校に来てもらいやすくなるかもしれないからね」


「オドマくんは大人ですねえ。自分の名声を利用する術を心得ているとは」


「くっそー、この集落、みんな仮面とか飾りで隠れてて、誰が可愛い女の子なのかちっとも分からない……!」


 ボブが悔しがっている。

 マンサが笑いながら、


「多分ね、ここの人たちは歩くマネキンみたいな感覚なんだよ。南アビスのブティックでも、人形に服を着せて展示してるでしょ。アビスだとあんなに精巧な人形を作る文化は無いんだよね。人間に似せた人形は、作った人間と入れ替わるって言われてるの。でさ、だからこの集落は、作った飾りを自分たちで着て歩くわけ」


「ほお……。ところ変わればやり方が変わるもんだなあ」


「それは僕も知らなかったなあ」


「マンサさんは口伝の巫女ですから、各地の文化や伝承にも詳しいのですよね」


「ミコ?」


 おお、シャクティー先生には巫女という概念があるのか。


「マンサさんの家系みたいに、神様を祀ったりする家柄の女性のことです」


「うちはオニャンコポン様を祀ってるわけじゃないんだけどなあ……」


 どっちかというとマンサの家は家業だよな。

 だが、歩くマネキンとは面白い。

 これって、観光資源にもなりうるんじゃないか?

 ルーサーの存在で、南アビスの外にも世界がある事が分かった。

 そこから来る連中って、南アビスに住んでいる天使よりもフットワークが軽いのだ。

 彼らをこの集落があるところまで呼んで、ジャメナ部族を見せて、それでお土産としてこの仮面や装飾品を買ってもらう……いけそうじゃないか?

 だとすると、学校も学び舎だけで完結していたらいけないな。

 こういう独特の文化を持った集落へ行く為の、中継地点になれたほうがいいだろう。

 文化的な人々の逗留地や、住まいとしての役割を持った学校周辺……。学園都市とか。



「お待たせしましたなオドマ殿」


 色々と思い悩んでいたら、族長が俺に声をかけてきた。


「案内しましょう。我が村きっての若手の仮面彫りです。ですが、こやつ、最近とんと仮面を作らなくなっておってですな……。ガッコウとやらで刺激を受けて、また作ってくれればいいのですが」


 ほうほう。

 いよいよ学生候補との対面だ。

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