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学校を作ろう! vs資材泥棒

 さてさて、俺のアビス教化プロジェクトがスタートした。

 教化って言っても宗教じゃない。

 教育一般化プロジェクトの略だ。

 例えば、俺が現代人だった頃の話。

 学生だった俺はやらねばならない勉強に飽き飽きしていた。

 さっさと学校を卒業して、この勉強とおさらばしたいと思っていたわけだ。

 で、あまり真面目にやってこなかった結果、名前を書けば入れるような大学に入学した。

 学費を支払ってくれる親の財力に今は感謝しているが、当時はどうして高校を出てまで、また勉強しなければ、なんて思っていたのだ。

 三流の理系学部を卒業して、なんとか潜り込んだのは中小企業のSE。

 ここでデスマーチな毎日に出会うことになるのだが、実は就職してからも、なんだかんだと勉強する事はたくさんあった。

 むしろ、仕事についてからが本番だったと言えるのではないだろうか。

 学生時代に勉強するのは、自分の可能性を切り開く一助となる、広く浅い教養。

 その中から興味があるジャンルを発見し、興味あるものを深く学び始めるのが大学。(高校から始める猛者もいるが)

 そして、結実するのが就職と。

 就職してからの勉強は、就いている仕事のレベルを上げていくための必然としての勉強だ。

 果てしなくジャンルは狭く、そして深い。

 俺がこの事に気付いた時、何もかも遅かった。

 別に好きでもない仕事のために生活の大部分の時間を費やし、たまの休日も資格試験の勉強に費やし……。


「どしたのオドマ。なんかすっごく暗い顔してたよ? アジョアさんがご飯だよって」


 マンサに声を掛けられて、ハッと我に返った俺である。

 いかんいかん。

 過去の記憶にトリップしてしまっていた。

 まあ、そんな訳で、俺はアビスの子供たちに、俺と同じような道を歩んで欲しくないわけである。

 今から勉強しておけば、将来的な選択肢も多くなることだろう。

 ヒャッハー化する人生を辿らずに済むかもしれない。


 さて、自宅に戻って飯を食う。

 うむ……。

 メクトの食事は質素だなあ。マヨネーズもケチャップも無い。

 塩とハーブのみの味付けである。


「やっぱりマロ芋のパンを食べてると、ホッとするよね。集落に帰ってきたんだなーって思う」


「そうだねえ。南アビスの食事は、味付けは多彩だけど、そのぶんちょっと味が濃いからねえ」


「うんうん、味がせわしないって言うのかな。すっごく忙しいところだし、みんな急いでるし、食べ物までこっちを急かして来るみたい」


「へえ……大変なのねえ」


 おっとりとした様子でママンが言う。

 生まれてからずっと集落の中で過ごしている彼女には、想像もつかないのだろう。

 俺とマンサは食事を終えて、ちょっとばかり塩の味がする水を飲んだあと、まったりとした。

 井戸水から取れる塩は、近場に生えている木の幹を使った濾過装置で濾すことができる。こっちに帰ってきた俺が発見したのだが、こうするとほどよい塩気がある水になる。水分補給にはいいかもしれない。


「おーい! オドマー! 大変だー!!」


 ボブが俺を呼びにきた。

 なんだなんだ。

 ちなみにジブリールは、試合の終了後に南アビスに呼び戻されている。

 彼女としても七大天使に文句を言いたいらしかったので、きっとあちらで舌戦をやりあっているに違いない。

 ボブは俺たちと残った。

 というか、集落の女の子の一人と結構いい感じの仲になっているようで、離れがたかったのだろう。

 今は学校建設を手伝っている。

 建築関係の知識は無いが、バスタードであるボブは、現地で雇った労働者であるアビス人との意思疎通がやりやすいのだ。

 設計はルーサーが連れてきた天使の建築家。

 今は土台を作っていくところで、あちこちで集めてきた建材が積まれているところなのだが……。


「け、建材泥棒だ!!」


「なんだってー!?」


 俺は驚き跳ね起きた。

 今から学校を作って集落を豊かにしようという計画を進めていくのに、何をとち狂って建材泥棒などするのか!?


「よし、行こう、マンサ、ボブ!」


「はーい!」


「ちょ、ちょっと水だけもらっていいか?」


 ボブがぐびぐび水を飲み干すのを確認してから、俺たちは建築現場へ急いだ。

 現場は集落の外にある。

 新たに囲いを作って、どの集落にも所属しない中立地帯が作られているのだ。

 走っていたのでは間に合わないかもしれない。

 俺はファミリオンを召喚し、二人を乗せて現場へ到着した。

 激しくクラクションを鳴らす。


「うわあ、神の子オドマがきやがった!!」


「やべえ!! 早過ぎる!」


 木材をかついだ連中が慌てて走り出す。

 どうやらそれなりの人数でやってきたらしく、木材を持った男たちが四方八方にいる。

 あまりにも数が多くて、現場にいた人間では対処し切れなかったのだろう。

 俺は、ファミリオンにいつの間にか備え付けられていた外部スピーカーを使用する。


『なんでこんなことをするんだ! 木材は学校を作るのに必要なんだぞ!』


「この木材があれば、俺の家をもっと立派にできるんだ!」


「隣のボザンが欲しがってたからな! これをやってあいつから肉を貰うんだ!」


『はあ!? 目の前のことしか考えてないのか! これは立派な窃盗だぞ!』


「せっとう?」


 男たち、きょとんとする。

 これはいかん。

 すっかり俺は南アビスに染まっていた。

 アビスは物凄く未開だったことを忘れていた……!

 それから、厳しい大地に住まう人々だが、メクト以外の人々は、やったもの勝ち的価値観を持っている者も多い。


「まあいいや! 逃げろ!!」


 わーっと散り散りになる彼ら。

 ええい、別々に逃げたら俺が捕まえられないと思うなよ!?

 盗みが割に合わないってことを教えてやる!


「ファミリオン、ダイレクトイグニッションだ!!」


「お、オドマ落ち着いてー!?」


「ぐわーっ!? お、俺が排出されぐわーっ!?」


 後部座席にいたボブが外にぺいっと吐き出された。

 ファミリオンは雷鳴とともにトラックを呼び出し、グレートサンダルフォンへと、いつものバンク映像を早回ししながら合体する。


「ひええーっ!? な、なになに!?」


 マンサが驚愕して、俺にしがみついてくる。

 あっ!!

 柔らかいものが腕に当たったぞ。

 むう、成長したな……。


 だが、今はそれどころではない。


「ひいーっ」


 泥棒どもは木材を放り捨て、逃げることに全力になったようだ。

 ええい、貴重な資材を粗末に扱いおって!

 俺の怒りに呼応して、カーナビ画面に新たな武器アイコンが登場する。

 なに、対人兵器?

 よし、殺さない程度に承認だ!


 グレートサンダルフォンの左腕が展開する。

 そこから登場したのは、いわゆるドローンの群れである。

 そいつらが散り散りになった泥棒を追跡する。


「な、何か追ってくるぞ!」


「ええい、あんな小さい奴ならこの石で壊してやれ!」


 石を投げようと振り返った男に向かって、ドローンは小さな投網のようなものを射出した。


「ん、なんだこれはばばばばばばばばばば」


 おっ、スタンネットか!

 対象を感電させて動きを止める装置がついているようだ。

 出力は低めに設定しているから、まあ、あまり死なないだろう。

 あちらこちらで、ドローンが泥棒たちを捕獲していく。

 繁みに隠れていた奴も、赤外線、紫外線、二酸化炭素量の探知を行なえるドローンから逃げ切る事はできない。

 すぐに、不届きな資材泥棒は全員が無力化された。


 さて、こいつら、どうしてやろうか……!

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